不動産会社が狙われる?管理会社に問われる、社員とオーナーの安心安全
-
2023.4.24 (月)Posted by
■もし、不動産会社に犯罪集団が強盗に入ったら
闇バイトと称して、ネットで犯罪者を募り、高額所得者や貴金属店を狙った強盗犯罪が起きています。前号では、オーナーがそうした被害に遭わないよう、しっかり防犯対策し、かつ個人情報を隠しましょうと提言しました。
しかし、もし不動産会社にこうした犯罪集団が強盗に入ってしまったらどうでしょう?
まずは、金品を強奪されて、経営不振に陥るというリスクがあります。収益物件オーナーの多くは家賃収納を管理会社に委託しており、家賃は一旦、管理会社に振り込まれます。これが強奪されると、オーナーに一か月分の家賃を振り込みできなくなる可能性もあります。
また、敷金などの預り金も不動産会社の口座にあるケースは多く、仮に強盗が法人預金のキャッシュカードとその暗証番号を奪い、引き出されてしまったりすると、オーナーとしては収益リスクが発生します。
■「鍵の盗難」もとても心配
実は、不動産会社が収益物件の鍵を金庫などで預かっているというケースもあります。こうした不動産会社に泥棒が入って、鍵を盗まれたりすると大変なことになります。そう、入居中の物件の鍵をすべて交換しなければ、怖くて住民が住んでいられないのです。
おそらくは、この鍵交換代の負担は、管理会社が負担するものの、戸数によっては、経営が成り立たなくなる可能性もあります。実際にこうした事件が起こったことがあり、管理会社は、周辺を夜間も含めて警備会社にパトロールをさせて、鍵交換がすべての物件で終わるまで対応したという事例もあります。そうなると損害は億単位になるかもしれません。
■オーナーの個人情報が犯罪集団にわたるリスク
あるいは、金品は店舗にはなく、パソコンなどが盗まれただけ、というケースもあるでしょう。しかし、パソコンにはオーナーの個人情報が入っています。犯罪集団に、収益物件のオーナーのリストが渡るということは次のターゲットになりかねないという事です。
なかには、「〇〇オーナーは高齢でひとり暮らし。ご子息は都会にいてなかなか連絡が取れない」といった家族情報や「家賃〇万円の高級賃貸物件を2棟所有」といった収益情報、あるいは過去の分譲履歴や売買履歴など、どのくらいお金を持っているかといった情報があるかもしれません。
■実際に犯罪集団が不動産会社に押し入る事件も
2021年2月、大阪市の不動産会社に侵入して金庫を盗もうとしたとして男女7人が逮捕されました。あとでわかったことですが、彼らは覚せい剤の密売グループだったのです。
この不動産会社は2019年6月にも空き巣被害にあい、現金約2500万円の入った金庫が盗まれていました。その事件をきっかけに、防犯カメラを設置していました。その防犯カメラに映っていた今回の犯行。金庫は固定されていて動かず結局、何も持ち出さずに事務所を後にしました。
これが証拠となって逮捕された犯人は17歳から47歳までの男女7人。窃盗未遂と建造物侵入などの容疑で逮捕されました。
■地方も危険。むしろ都会の犯罪者が地方を狙っています。
2020年5月には、群馬県太田市の不動産会社店舗から現金500万円以上が入った金庫などが盗まれました。店舗のドアをバールのようなものでこじあけ、社長室から高さ約80センチの耐火金庫と手提げ金庫、ビジネスバッグを盗難したのです。「うちのような田舎では、強盗とか盗難とか起きないから」という話も昔はよく聞きました。しかし、むしろこうした地方が今狙われています。犯罪は広域化しているのです。
2021年8月には、長崎県佐世保市の不動産会社で現金約2900万円や高級腕時計やバッグなど76点1億2100万円相当が盗まれました。犯人は4人。東京の人間が、山口県内で盗んだナンバープレートをレンタカーに取りつけた車で長崎に入っていたのです。4人はバールを使って入口をこじ開け中に侵入していました。犯人は、別件の捜査をきっかけに逮捕されました。2019年9月、東京・目黒区のマンションで総額10億円以上のダイヤなどが盗まれた事件の捜査を進める中で、今回の事件への関与が浮上したのです。
■不動産会社は、お金を持っていると思われるのです。
なぜ、不動産会社を狙った犯罪が発生しているのか。それは、一般に、「不動産会社は金を持っているのではないか」と思われているからなのです。当然、不動産の売買取引は、商談単価が高く、投機的要素があり、犯罪者から見れば、「お金を持っていそう」と思われる業種です。
すると、「当社は賃貸が主だ」という不動産会社もいらっしゃいますが、「犯罪集団はそんなことは知りません」。建築も賃貸も売買仲介も注文住宅もなんでも「不動産会社」と認識されがちです。
しかも、銀行や貴金属店より警備が手薄であり、犯罪集団として「狙いやすい」と思われています。なにしろ繁忙期には「今、案内中でしばらく留守にしています」という看板をさげて出かけてしまうくらい。今や、犯罪は先鋭化しており、狙われないようにすべきなのです。
■強盗や盗難をさせない、防犯体制のしっかりした不動産会社と つきあう
このように不動産会社は、オーナーに渡す賃料や敷金、会社によっては収益物件のマスターキーなど、そしてオーナー自身の個人情報を保管しています。オーナーとしては、この防犯体制のしっかりした会社を選んで付き合うべきなのです。そして、昨今の犯罪の広域化を考えると、いち早くこうしたセキュリティ強化に対応している不動産会社かどうかは極めて重要な要件となります。
たとえば、つきあっている不動産会社には防犯カメラはついているのだろうか。だれかが押し入った時にコンビニや銀行などで投げるような、カラーボールはあるのか。また、警備会社のサービスには入っているのか。そして個人情報は仮にパソコンが奪われても、閲覧できないよう、パスワードロックなどがされているのかといったポイントです。なかにはそのパスワードが端末に貼ってあるというセキュリティ意識では、大切な収益物件の管理は任せられない。そういう時代になったのです。
-
執筆:上野 典行(うえの のりゆき)
【プロフィール】
プリンシプル住まい総研 所長1988年慶應義塾大学法学部卒・リクルート入社。リクルートナビを開発後、住宅情報タウンズ・住宅情報マンションズ編集長を歴任。現スーモも含めた商品・事業開発責任者・ディビジョンオフィサー・賃貸営業部長に従事。2012年1月プリンシプル住まい総研を設立。All Aboutガイド「賃貸」「土地活用」。日管協・研修副委員長。全国賃貸住宅新聞連載。全国で、講演・執筆・企業コンサルティングを行っている。