• 2023.5.24 (水)
    Posted by 北森 雅雄

【わかりやすく】電子契約にタイムスタンプは不要?付与が実務上推奨される4つの理由を解説

電子契約について、少し理解が深まっている方は、タイムスタンプという言葉が気になっている方も多いと思います。

 ●電子契約にタイムスタンプの付与は必要?
 ●タイムスタンプの付与が必要な理由を知りたい


などといった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか?

電子契約に対して、タイムスタンプの付与は必ずしも必要ありません。しかし、電子文書が潜在的に抱えるリスクや電子帳簿保存法などの法対応の観点からすると、タイムスタンプの付与がおすすめです。

当記事では、電子契約にタイムスタンプが法的に必須ではない理由、タイムスタンプの付与が実務上推奨される4つの理由を解説します。

実務上タイムスタンプを付与すべきか判断できる内容になっていますので、ぜひ最後までお読みください。

また、電子契約の基本を知りたい方は、こちらの記事を読む前に以下の記事もあわせてごらんください。

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1.タイムスタンプを付与しなくても法的には問題ない

電子契約にタイムスタンプを付与しなくても、法的には問題なく電子契約を利用できます。タイムスタンプを付与しなくても法的に問題ない理由を解説します。

1契約はどのような形式でも成立する

民法522条2項により契約はどのような形式であったとしても成立します。

2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

出所:民法522条2項

つまり、口頭のような目に見えず、証跡の残らない形式であったとしても、契約は成立するのです。したがって、契約の形式は書面契約に限られず、電子契約や口頭での口約束でも有効に成立します。

ただし、契約が成立することと、契約を係争時の証拠として利用できることは別論点である点に留意ください。

係争時に契約書を証拠として利用するためには真正性を満たす必要があります。この旨が以下の民事訴訟法228条1項に記載がありますので参照ください。

1 文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。

出所:民事訴訟法228条1項

2電子署名付の電子契約であれば、真正性を確保できる

書面契約では記名押印することで、二段の推定により、真正性を確保していました。一方で電子契約は電子署名を付与することで真正性を確保するのです。

電子契約に電子署名を付与することで真正性を確保できる旨が、電子署名法3条に記載があります。

電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。

出所:電子署名法3条

以上から、電子契約を利用する時にタイムスタンプの付与が必須ではないことがわかるでしょう。

2.タイムスタンプを付与する4つの理由

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法的に電子契約にタイムスタンプが必須ではないとはいえ、実務上、タイムスタンプは付与すべきであると考えています。タイムスタンプを付与すべき理由は以下の4点です。

  • 理由①:電子契約の完全性を高めるため
  • 理由②:電子帳簿保存法対応のため
  • 理由③:電子契約の長期署名のため
  • 理由④:バックデートのリスクに対応するため

理由①
電子契約の完全性を高めるため

電子契約が改ざんされておらず、正確なデータであることを証明するためにタイムスタンプの付与が必要です。

電子文書は潜在的に3つのリスクを抱えている

電子契約に限らず、電子文書には潜在的に以下の3つのリスクがあります。

  • ●改ざんが容易である
  • ●ファイルの複製が容易である
  • ●ファイルの作成日時を変更可能

以上のリスクに対応するため、経済産業省から以下の4つの要件を満たした電子文書の保管が推奨されています。

  • ●見読性
  • ●完全性
  • 機密性
  • ●検索性

この一要素である完全性とは、電子文書が改ざんされておらず、正確な状態にあることを証明する要素です。完全性を証明するためには以下の3つの要素が必要とされています。

  • ●本人証明・・契約の当事者が確認・合意していることの証明
  • ●非改ざん証明・・契約書が改ざんされていないことの証明
  • ●存在証明・・特定の日時に契約が存在していたことの証明

タイムスタンプは電子文書が「いつ」作成されたかを証明できる

上述した「存在証明」をするのがタイムスタンプです。

電子契約の真正性を満たすために付与される電子署名は、「本人証明」や「非改ざん証明」は可能ですが、「存在証明」は難しい特徴があります。

一方で、タイムスタンプは以下の流れで成り立つ仕組みですので、「存在証明」が可能なのです。

  1. 1.タイムスタンプの付与要求
     タイムスタンプの利用者が電子文書のハッシュ値を生成し、時刻認証局に送付する。

  2. 2.タイムスタンプの付与
     時刻認証局がハッシュ値および時刻情報を結合したタイムスタンプを利用者に返送する。

  3. 3.タイムスタンプの付与検証
     利用者は自身で生成したハッシュ値と時刻認証局が生成したタイムスタンプに含まれるハッシュ値を比較検証することで、電子文書の改ざんがされているかを検証可能になる。

以上から、電子文書の「完全性」を証明するためにタイムスタンプの付与が推奨されます。

理由②
電子帳簿保存法対応のため

電子契約は電子とはいえ、契約書ですので、各種税法に基づいた保存が必要です。この時、遵守すべき法律の1つとして電子帳簿保存法があります。この電子帳簿保存法への対応を容易にする手段として、タイムスタンプの付与があるのです。

電子契約は電子帳簿保存法の要件を満たした保存が必要

電子帳簿保存法とは、読んで字のごとく電子的に帳簿や書類を保存することを認めた法律です。1998年に施行されて以降、世の中のペーパーレス需要を後押しする形で改正が繰り返されてきました。

電子帳簿保存法は以下の4つの区分から成り立ちます。

  • ●国税関係帳簿の区分
  • ●国税関係書類の区分
  • ●スキャナ保存の区分
  • ●電子取引の区分

電子契約は相手方とデータのやり取りを行う電子取引に該当しますので、上記の中の電子取引の区分の要件を満たした保存が必要です。

電子帳簿保存法電子取引要件とは

電子帳簿保存法電子取引要件は以下の通りです。

  • ●電子計算機処理システムの概要を記載した書類の備付け
  • ●見読可能装置の備付け等
  • ●検索機能の確保
  • ●真実性の確保

この中で真実性の要件を満たす手段は以下の3つがあります。以下3つのいずれかの手段の中から、自社に都合のよい手段を選択して実施できるのです。

  • ●タイムスタンプを付与する
  • ●訂正削除ができないシステム または 訂正削除履歴が確認できるシステム上に保存する
  • ●訂正削除の事務処理規程を作成する

真実性を簡単に満たすにはタイムスタンプの付与が手っ取り早い

上述の真実性を満たす選択肢の中で、真実性の要件を満たすために最も簡単な手段はタイムスタンプの付与です。なぜなら、他の手段は法対応を実施する企業に時間と手間をかけるからです。

訂正削除ができないシステム(または訂正削除履歴が確認できるシステム)による真実性の確保をする場合、利用ができる電子契約の幅に制限があります。

例えば、メールに添付された電子契約など、一度ダウンロードしてから、電子契約サービス上にアップロードするような場合、この手段による真実性の確保が法的にできません。

また、訂正削除の事務処理規定を作成する場合、電子文書を訂正削除する場合の業務フローおよび承認フローの整備が必要になりますので、手間が非常にかかります。

したがって、最も簡単に真実性の要件を満たす手段はタイムスタンプの付与と言えるのです。

要件を満たした保存をしていない場合、ペナルティが課されることがある

電子帳簿保存法は2022/1に改正法が施行され、電子取引した電子文書は必ず、電子上で保存が必要になりました。もし、電子取引要件を満たした保存をしていない旨が国税調査時に指摘された場合、青色申告の承認取り消しなどリスクがありますので注意が必要です。

令和6年1月1日以後に行う電子取引の取引情報に係る電磁的記録については、その電磁的記録を出力した書面等による保存をもって、当該電磁的記録の保存に代えることはできません。したがって、災害等による事情がなく、その電磁的記録が保存要件に従って保存されていない場合は、青色申告の承認の取消対象となり得ます。

出所:電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】問56

したがって、確実に法対応をするためにも、タイムスタンプ付与が必要といえます。

理由③
電子契約の長期署名のため

電子契約を長期保存する場合、長期署名をするためにタイムスタンプの付与が必要です。

電子署名の有効期限は法令上最大5年間

電子署名に利用される電子証明書に対して、電子署名法6条4項に電子証明書の有効期限を5年間とすると規定されています。

四 電子証明書の有効期間は、五年を超えないものであること。

出所:電子署名法6条

この規定により、一般的に電子署名は1~3年の有効期限を定めて付与される場合が多いようです。

一方で、法人税法上では、国税関係書類である電子契約は最低7年(繰越欠損金がある場合は10年)の保存が必要ですので、一般的な電子署名の有効期限では、電子署名の効力を発揮しながら、法人税法の要件を満たすのは難しい点に課題があります。

タイムスタンプを付与すると有効期限を10年まで延長できる

ここで利用する技術が長期署名です。長期署名とは電子署名の有効期限が訪れる前に、電子署名に対してタイムスタンプを付与することで、電子署名の有効期限を10年間に延長する技術です。

長期署名に対して、更にタイムスタンプを付与することも可能ですので、正しい規格の長期署名を利用すれば、電子署名の有効期限を10年、20年、30年と延長することができます。

システム上で法人税法上、求められる長期保存をする場合には、タイムスタンプ(長期署名)の利用が必要になるでしょう。

理由④
バックデートのリスクに対応するため

不正なバックデートを見分けるためにタイムスタンプの付与が有効です。不正なバックデートを許容した場合、刑法上の文書偽造に該当する可能性がありますので、企業として厳格な対応が求められます。

バックデートとは契約締結日が契約開始日より後にくる状況

そもそも、バックデートとは契約締結日が契約開始日より後にくる状況を指します。ただし、バックデートだからといって、全ての取引が不正ではない点に注意が必要です。実務上では、不正なバックデートを見極め、事前に防ぐ必要があります。

よいバックデートとは

バックデートが不正でない場合とは、契約締結日が契約開始日以降である旨で、事前に相手方と合意が取れているケースです。

例えば、以下のケースは不正でないと判断されるバックデートです。

  • 相手方から3/30に3/31の製品納入を求められたため、3/31に納入した。しかし、相手方が決算処理で忙しいため、内部承認が間に合わなかったことから、3/30を契約締結日とすることを合意したうえで、4/2に契約書を作成した。

このケースの場合、契約締結日が契約開始日以降になっているので、わかりやすくバックデートです。しかし、以下の理由から不正の意図がないと判断できます。

  • ●事前に契約締結日を3/30にすると合意をしている。
  • ●契約締結日が契約開始日後になる理由が正当

不正なバックデートとは

バックデートが不正であると判断されるケースはいくつかあります。例えば、以下のケースが不正と判断されるバックデートです。

  • ●不正を意図して実際の契約日をずらしているケース
  • ●契約締結日に契約権限を持たない人間によって契約締結されているケース
  • ●暦上、存在しない日付を契約締結日とするケース

この中で最もよくあり、監査上もチェックされるケースが以下です。

●不正を意図して実際の契約日をずらしているケース

このケースをもう少し具体的に例を説明すると以下のようになります。

●決算期の売上を大きく見せることを意図して、本来であれば翌期に計上すべき売上を当期に計上すべく、契約書上の契約締結日を当期に変更した。

経理や監査上で相手方の承認日付がわかる証跡の提示を求められるのは、このような不正を事前に防ぐ意図があるのです。

●タイムスタンプを付与すると正しいバックデートを証明しやすい

不正なバックデートは電子文書がかかえる以下のリスクのために発生しています。

  • ●文書作成日時の客観性が乏しい
  • ●作成日時の改ざんが容易

このリスクへの対応にタイムスタンプの付与が有効です。タイムスタンプを付与することで、電子契約がいつ作成されたか客観的に証明がしやすくなります。

タイムスタンプ付与は事実を客観的に証明できる手段であるため、正しいバックデートと不正なバックデートの切り分けを容易にする効果を期待できるのです。

3.電子契約サービスを選ぶ時の注意点

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タイムスタンプの付与は法的に必須ではありませんが、実務上の運用を考えると付与が推奨されます。したがって、多くの企業ではタイムスタンプの付与が可能な電子契約サービス選びを検討されるようです。

しかし、一部の電子契約サービスではタイムスタンプの付与ができない点に注意が必要です。国内ベンダーによる電子契約サービスの場合、多くの電子契約サービスで各種税法に対応するため、タイムスタンプの付与ができます。

一方で、外資ベンダーによる電子契約サービスの場合、一部の製品ではタイムスタンプの付与が難しいようですので、製品選定時には確認が必要となるでしょう。

とはいえ、必ずしも電子契約サービス上でタイムスタンプを付与する必要はなく、電子契約を発行または受領後に、他システム上でタイムスタンプを付与する手法も考えられますので、自社の運用に適した方法をご検討ください。

4.まとめ 電子契約にはタイムスタンプの付与がおすすめ


電子契約を利用する際にはタイムスタンプの付与がおすすめです。タイムスタンプを付与することで電子文書の完全性を確かにできるだけでなく、電子帳簿保存法などの法対応などにも活用ができるメリットがあります。

しかし、タイムスタンプの導入には少なからずコスト負担が発生しますので、メリットとコストの兼合いを考えて導入を検討いただくとよいです。

NTT東日本ではタイムスタンプの付与が可能な「クラウドサイン for おまかせ はたラクサポート」を提供しています。ぜひ検討の1つの選択肢としていただければ幸いです。

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この記事を書いた人

NTT東日本 ビジネス開発本部 北森雅雄

NTT東日本に入社後、自治体向けのシステムエンジニアとして、庁内ネットワークや公共機関向けアプリケーションなどのコンサルティングからキャリアを開始。

2018年から現職にて、プロダクト(SaaS)開発、デジタルマーケティング全般のディレクションに従事。

2022年に業務のデジタル化を分かりやすく発信するオウンドメディア(ワークデジタルラボ)のプロジェクトを立ち上げ。
NTT東日本にかかわる、地域のみなさまに向けてデジタル化に役立つ情報発信を展開。

北森雅雄 masao kitamori

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    電子契約に対する全般的な理解を深められる内容になっていますので、基本を押さえたい方必見です!

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