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【特別企画】スペシャルインタビュー「あの有名人が語る!」(第6回)

ジャパネットの高田明前社長が会長職に就かない真意

posted by 片岡 義明

 年商1,500億を超える日本有数の通販会社である株式会社ジャパネットたかた。その創業者である高田明氏は、2015年にジャパネットたかたの代表取締役を退任し、後進に道を譲った。

 会長職にも就かず、一線から身を引いた高田氏は今、自身を振り返って何を思うのだろうか。高田氏のサクセスストーリーとともに、現在の通販業界への思い、そして経営哲学を聞いた。

 自社で番組制作を行う狙いとは

──ラジオショッピングを全国展開した後テレビショッピングへも進出しましたが、ジャパネットでは今も“自前主義”を掲げて、番組制作を自社で行っています。その理由を聞かせてください。

 テレビショッピングに進出したのは 1994年です。当時は、パソコンなども扱うようになってきて、モデルチェンジのサイクルが早くなってきた頃で、新しい商品が登場するたびにいちいち制作会社に依頼していたら、とても間に合わない。それなら「スタジオが会社にあれば面白いな」と思って実行し、 2001年にCS で専門チャンネルを開局しました。

 もしそのときにスタジオを作っていなかったら、おそらく今のジャパネットたかたはなかったでしょうね。スタジオを作ったことで、商品が入荷してからすぐに放送できるようになったので、それが大きな強みとなりました。

──スタジオを作るにあたり、どのような苦労がありましたか?

 周りからは、「スタジオを作っても人がいなければ放送できない」と言われましたが、「なんとかなるだろう」と思っていました。私はとにかく、できない理由は決して言わないことにしています。「できる」と思えば、その方法を考えることで必ず実現できると信じているからです。

 このときも、社員の中から 10人くらいを選んで東京に行かせて修行させたり、派遣会社に頼んでスタッフを揃えたりして、なんとかスタジオを運用できるようになりました。今では番組の編集スタッフはすべて社員で、一番多い時で100名のテレビスタッフがいました。

 私がよく言う言葉に、「現実は受け入れる」というのがあります。リーマンショックや消費税の増税など、現実に起こってしまったことは決して変えることができないのだから、とにかく受け入れて、その中からできることを考えれば、きっと乗り越えていけると考えています。

失敗とは、一所懸命にやらずに悔いを残すこと

──テレビショッピングに成功した次は、どのようにビジネスを展開していったのでしょうか?

 テレビショッピングの次に取り組むことはなにか、と考えたときに、ちょうど私は 50代だったのですが、自分くらいの年代はテレビを見てもあまり買わないかな、と思って、カタログショッピングを思いつきました。そのときも、社内にカタログを作る人は 1人もいなかったのですが、印刷会社から協力を得て社内に「カタログ室」を立ち上げて、紙媒体の制作をスタートしました。その次はインターネットの通販で、こちらについてもシステム会社に協力をお願いして、自社でホームページを開設しました。

 さらに、通販に対してお客様が抱いているアフターケアへの不安を解消するために、コールセンターを設立したのですが、こちらもすべて自社スタッフです。もしコールセンターをアウトソーシングしたら、テレビを見て問い合わせてきたお客様に、「質問にはお答えできません、注文しか受け付けていません」で終わってしまいます。それなら自社の社員を教育して、少しでもお客様の要望に応えられるようにしたほうがいいと考えました。

──そのようなさまざまな戦略が次々に成功した理由はどこにあるのでしょうか?

 「お客様目線で考えたら、それをやらないと競争に勝てない」と思ったことを愚直にやり続けた点にあると思います。いつでも「やろう」と考えたらすぐに行動に移すようにしていましたし、その結果、「失敗した」と思ったことは 1回もありません。

 “失敗”というのは、「なにかができなかったこと」ではなく、一所懸命にやらずに悔いを残すことこそが失敗だと思っています。企業の業績というのは、いつも右肩上がりというわけにはいきません。上がるときもあれば下がるときもあるのが当たり前で、大事なのはそのときそのときのプロセスの中で、いかに自分が集中して取り組むかです。

業績を回復させたのに辞任した理由

──2013年にジャパネットたかたの業績が下がったときに、“覚悟の年”として、「もし今年過去最高益を達成しなければ社長を辞める」と宣言しました。このときはどのような心境だったのですか?

 危機感はほとんどありませんでした。このときは、2010年までのエコポイント制度と地デジ化の好況の反動で業界全体が苦戦していましたが、「液晶テレビの売上が下がっているのなら、テレビ以外があるだろう」と考えて、白物家電に再度注力するなど原点に戻ったつもりで取り組みました。社員はリストラせずに、逆に採用を増やして、新たな投資ということで東京オフィスも新設しました。そして現社長を東京に行かせた上で、私は佐世保に残り、東京と佐世保で競争しました。

 結果的には、それで目標を達成したわけですが、達成していく中で、若手が育っていることを知り、それから 2年で社長を辞めると宣言しました。

──社長を退くにあたって、不安はなかったのでしょうか?

 100%安心したわけではありませんが、不安よりも期待のほうが上回っていれば、それでいいと思いました。私は、経営者というのは、創業者のやり方を 100%引き継ぐ必要はないと考えていますし、「なんのために企業は存続していくのか」という企業のミッションをきちんと持っている人に引き継ぐことが大事だと考えて、現社長に託しました。

 私は会長職にも就きませんでしたし、 2015年の1 月15日に社長を退いてから、もうすぐ 1年半経ちますが、ジャパネットたかたの会議にはその後、 1回も出ていません。

経営者は夢を持ち、社員にその夢を語ることが大切

──インターネットやスマートフォンの普及により、通販業界は今後もさらなる変化が予想されます。高田さんはどのように変化していくと予測していますか?

 時代はものすごい勢いで変わっているので、今までの考え方では対応できない場面が増えてくると思います。今年の9月にジャパネットたかたは福岡に直営店を出しましたが、この店舗は売るための店というよりも、ジャパネットで紹介するものを実際に触ってもらうための店舗で、そこで売上を 2倍にしようという考えではありません。

 通販業界は今、 Amazonや楽天の勢いが強いですが、今の若い人も、年を重ねれば、「商品をじっくり見たい」「人とのつながりの中でものを買いたい」と思うはずです。人間が本質的に持っているそのような姿勢は変わらないと思いますし、だからこそ、そういうものをジャパネットは大事にしようとしているのではないかと思います。

──そのような状況の中、これからの経営者にふさわしい条件とは、どのようなことだと思いますか?

 急激な変化にすばやく対応して経営判断を下す能力が必要だと思います。私は、経営はトライ&エラーの繰り返しでいいと考えています。とにかく試してみて、ダメだったらやり方を変えてみて、スピード感と判断力を保つことが大事だと思います。

 あとは、これからは 1社ですべてを握るという考え方ではなく、事業の共存共栄を考える必要があると思います。通販業界も、業界全体の品質や安心をもっとお客様に伝えていく必要があるし、それぞれの個性を出していくことが大事だと思います。

──最後に、経営者へのメッセージをお願いします。

 とにかく、好きなことを一所懸命やっていくことですね。好きなものはひとつにこだわる必要はなく、色々なものに興味を持って考え方を拡げていくことが大事です。ビジネスでピンチに陥ったときも、畑違いのことをやるのではなく、ベースのものに少し加えれば新しいモノに生まれ変わる可能性があります。

 そして、経営者には夢を持ってほしいと思います。ただ夢を持つだけでなく、社員に夢を語り、言葉と行動で伝えていくことが大事だと思います。それによって社員の夢も膨らんでいき、いい世の中になっていくのではないかと思います。
 あとは、人を感じる心を持つことも大事ですね。自分の会社に人はなにを求めているのか、というのを客観的に考える謙虚さを持つのが大事だと思います。

 

高田明(たかた あきら)

1948年、長崎県平戸市生まれ。1971年に大阪経済大学経済学部を卒業、「株式会社阪村機械製作所」に入社。1974年に帰郷し、「有限会社カメラのたかた」に入社。1986年に同社から分離独立し、株式会社たかたを設立。1999年、社名を「株式会社ジャパネットたかた」に変更。2015年、同社の代表取締役を退任し、「株式会社A and Live」を設立。

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