カーボンニュートラルを実現するために(第12回)

環境省が推進「ネイチャーポジティブ」はどんな取り組みなのか?

公開日
2026-03-27
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「ネイチャーポジティブ(Nature Positive)」とは、生物多様性の損失を止め、自然を回復軌道に乗せる考え方です。気候変動対策であるカーボンニュートラルとは異なり、自然そのものを再生し、豊かな生態系を取り戻すことを目的としています。日本でも2030年までにネイチャーポジティブの実現を掲げ、環境省は企業や自治体による「自然共生サイト」登録を推進。サントリーグループの水源涵養活動や名古屋市のネイチャーポジティブ宣言など、実践事例も増えています。

失われた生物多様性を回復する「ネイチャーポジティブ」の効果

 「ネイチャーポジティブ(Nature Positive)」という言葉をご存じでしょうか。これは、生物多様性の損失を止め、自然を回復軌道に乗せることを指す考え方です。

 環境省が2025年8月に公開した「ネイチャーポジティブポータル」というサイトによると、生物多様性は損失し続けており、地球上の種の絶滅速度は、過去1,000万年の平均と比べ数十倍~数百倍の速度で進んでおり、恐竜が絶滅したときよりも、はるかに速いスピードで進行しているといいます。

 ネイチャーポジティブは、こうした生物多様性の負(損失)の流れを止めて、正(回復)に反転させる考え方のことです。言い換えれば、人間の活動によって失われた自然環境を、かつてのような豊かな状態に戻すことを目指すものです。

 生物の多様性は、人類の営みにも大きく関係しており、環境省のネイチャーポジティブのサイトでも、我々の日々の暮らしは「大気・水・気候の安定、安全の保証、文化の源といった生物多様性からの様々な恵み(生態系サービス)によって支えられている」としています。同サイトでは、たとえば野菜や果物の生育には、ミツバチやチョウのような昆虫や鳥が受粉を助けており、もしこれらの生き物がいなくなったら、私たちの食卓にも大きな影響が出る恐れがあるとしています。

 このように生物多様性は社会・経済を支える重要な基盤であることから、空気や水、鉱物とともに「自然資本」とも呼ばれています。世界経済フォーラムが2020年に発表した試算では、自然資本の劣化は世界のGDPの半分(約44兆ドル)以上に影響を与えるとしています。

 まとめると、ネイチャーポジティブを実現することは、我々の社会や経済システムの持続可能性を確保するための重要な要素といえるでしょう。

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ネイチャーポジティブはカーボンニュートラル・持続可能性と何が違うのか?

 地球環境を改善するための取り組みとしては、「カーボンニュートラル」や「サステナビリティ」といったものも存在します。しかし、ネイチャーポジティブとは意味合いが異なります。

 カーボンニュートラルは温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを目的としており、主に気候変動の緩和を目指します。一方、ネイチャーポジティブは自然そのものの回復を重視しており、森林など環境を含めた生態系を、健全な状態に戻すことを目指しています。

 サステナビリティ(持続可能性)も、ネイチャーポジティブと同様、経済と環境のバランスを取り、社会の発展を目指す包括的な考え方です。ネイチャーポジティブはその中でも特に「生物多様性の再興」にフォーカスしています。

 たとえば再生可能エネルギーの導入や省エネ技術の普及も、環境に配慮した取り組みですが、直接的には自然の再生につながらないため、サステナビリティではありますが、ネイチャーポジティブとは異なります。

 まとめると、ネイチャーポジティブは「自然」に特化し、かつ “負の影響を減らす”ではなく “正の影響を生み出す”ことを目指した取り組みといえます。

日本各地に「自然共生サイト」が誕生している

 日本でも、ネイチャーポジティブに対する取り組みは進みつつあります。

 たとえば2023年に閣議決定された「生物多様性国家戦略2023–2030」では、国として2030年までにネイチャーポジティブの実現を目指す方針が示されました。この戦略では、陸と海の30%以上を効果的に保全する「30by30目標」や、生物多様性の保全に資する地域「OECM」の拡大などが柱となっています。

 さらに環境省は、企業や自治体が自らの活動を通じ、自然再興に貢献する「自然共生サイト」の登録制度を推進しています。これは企業が所有する森や水源地、工場の緑地など、民間の取り組みによって生物多様性の保全が図られている区域を、生物多様性の保全に活かすというものです。2025年9月には、新たに201か所が自然共生サイトとして認定されました(農林水産省・地域生物多様性増進法に基づく「自然共生サイト」の認定[令和7年度第1回]について)。これまでに認定されたサイトについては、30by30のページにて公開されている「見える化マップ」にて確認できます。

 このほか、企業の自然資本に対する依存や影響を可視化し、その内容を投資家などのステークホルダーに対し、透明性をもって開示する「TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース:Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)」という取り組みも進みつつあります。TNFDは企業のネイチャーポジティブに対する取り組みを示す指標となるため、環境省もTNFD開示を促す支援やイベントを度々実施しています。

企業も自治体もネイチャーポジティブの取り組みをスタート

 いくつかの企業や自治体では、ネイチャーポジティブの具体的な取り組みを実施しています。

 たとえばサントリーグループでは、2025年8月に「ネイチャー・ポジティブ宣言」を発表。同社は水や農作物に依存する企業として、その価値の源泉である水源や原料産地などの生態系を守るため、水源かん養※活動や持続可能な農業への移行を通じ、生物多様性の保全と再生に努めることを掲げています。

※かん養…森林や水田が雨水を土壌に浸透・貯蓄し、時間をかけて少しずつ川へ供給することで洪水を防ぎ、水をろ過し、豊かな水を保つ働きのこと

 具体的には、自社工場の水源エリアの森において、地域社会や専門家と協力し、森林と生物多様性を保全・再生する取り組みや、土壌の生物多様性に貢献する再生農業など、原料農作物における生物多様性の保全を進めることを挙げています。

 自治体でもネイチャーポジティブに取り組む例が見られます。たとえば愛知県名古屋市では2025年6月、政令指定都市としては初となるネイチャーポジティブ宣言を発表。現在までに市内2カ所の市有地を自然共生サイトに認定し、2030年までに5カ所以上の認定を目指しています。

 生物多様性は、一見すると関係ないように見えて、実は我々の社会や経済を支える重要な基盤です。そのため、多くの企業や自治体が、それぞれの立場でネイチャーポジティブに取り組むことが可能です。自社のビジネスの中で、少しでも自然に関係することがあれば、ネイチャーポジティブに取り組む好機かもしれません。

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