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2020年4月20日に「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」が閣議決定され、特別定額給付金事業の実施が決定すると、各自治体では一律10万円の給付が急務となりました。武蔵野市の申請対象は約7万8000世帯に上り、膨大な申請書情報のシステムへの入力作業を限られた人員でいかに効率的に進めるかが課題でした。そこで、武蔵野市ではAI-OCRとRPAを活用して申請情報入力業務を自動化させ、効率向上を図りました。具体的にはスキャンした申請書をAI-OCRへアップロードしてデータ化し、読み取り結果を目視検査・手補正したのち、RPAで特別定額給付金システムへ自動入力するという業務フローを確立しました。導入の経緯や成果について、武蔵野市のご担当者にうかがいました。
Index

Summary

武蔵野市 総合政策部 企画調整課
特別定額給付金事業担当
担当課長 真柳 雄飛氏
――今回の特別定額給付金事業にはどのように取り組まれましたか。
真柳氏:新型コロナウイルスの流行は100年に一度といわれる危機であり、武蔵野市としてはかなり力を入れて取り組みました。4月20日に特別定額給付金事業が閣議決定すると、翌日には担当者を決めて内示を出し、2日後には新たに担当チームを発足させています。多摩地区では一番の給付のスピードをめざすつもりで計画的に準備を進めました。ただ、特別定額給付金は全世帯、約7万8000世帯が給付対象です。それだけ膨大な申請書情報をシステムへ入力するには時間と人手が必要ですから、限られた人員でいかに効率的に作業を進めるかが課題でした。
古藤氏:やるべき作業は、市民から届いた給付金申請書に不備がないかを確認して、申請書に記載された項目の内容を特別定額給付金システムへ入力するという比較的シンプルなものです。問題は膨大な情報量をいかに速く正確に処理できるかということでした。従来は紙帳票からシステムへのデータ入力は職員の手入力でしたので、時間がかかるだけでなく、単純作業が続くと集中力が低下し、チェック漏れや誤入力といったミスも想定されます。

武蔵野市 総合政策部 企画調整課特
別定額給付金事業担当
担当係長 古藤 亮氏
半田氏:ちょうど2019年度から武蔵野市では、民間企業や自治体の先進的な事例にならって、RPAの試行をはじめていました。市役所の仕事は定型化された事務作業が多いため、自動化によって業務改善を図るのが目的です。
今回の急な事態にRPAを活用できないかとNTT東日本に相談したところ、特別定額給付金事業では大量の紙の申請書の受付およびデータ入力が発生することから、AI-OCRとのセット利用がより効率的だと提案をいただきました。そこで庁内で初の試みとして、AI-OCRとRPAを組み合わせて導入し、申請情報入力の業務フローを自動化・効率化することで方針が固まりました。
――限られた時間の中で、どのように準備を進めたのでしょうか。
半田氏:RPAの導入に向けて、武蔵野市として最も時間をかけたのが業務フローの整理です。スキャナーで読み取った申請書画像をAI-OCRへアップロードしてデータ化し、そのデータを目視確認・補正したあと、RPAで特別定額給付金システムへ自動入力する、というのが大きなフローです。その中で、大量に届く紙の申請書を紛失しないようにどう取り扱うか、AI-OCRに読み込ませる書類とそれ以外をどう仕分けるかなど、細かな運用を入念に検討しました。また今回、庁内で初めてAI-OCRを導入したので、申請書の形式やAI-OCRで読み取る項目の設定も熟考しました。
事前にNTT東日本から「RPA化するなら業務フローが大事」と言われていたので、業務フローの検討にはすぐ着手できました。RPAのシナリオの作り込みにはある程度スキルが必要なので、今回は全面的にNTT東日本にお願いしました。
――AI-OCR/RPAの運用開始まではスムーズでしたか。
半田氏:NTT東日本に相談したときは、まだこちらでも特別定額給付金システムの準備ができていない段階でした。実際にデータを投入する先のシステムがないのでRPAのシナリオも作りようがなかったのですが、まずは口頭でイメージを伝えていきました。

武蔵野市 総合政策部 企画調整課
特別定額給付金事業担当
主査 半田 直利氏
結局、特別定額給付金システムが完成したのが5月半ば。そこからシナリオ作成のための要件ヒアリングがあり、その1週間後にはシナリオが完成。NTT東日本に相談してから、AI-OCR/RPAの運用開始まで約2週間というスピード感です。
自動化によってミスが発生してはいけないので、シナリオ作成ではかなり細かな条件を設定してもらっています。たとえば、金融機関名が旧名や省略名で書かれたときの表記ゆらぎをカバーできるよう調整したり、RPAで入力できなかった情報をCSVファイル内で可視化できる仕組みを作ったり。時間がない中でも安全な運用のために、かなり無理な要望にも対応してもらいました。
仮運用では多少エラーも出ましたが、その場ですぐに条件分岐を追加するなど、シナリオ修正も迅速に対応してくれ、仮運用開始からわずか2日後には本格運用へ移行。申請情報入力を手入力からRPA入力メインへ切り替えました。コロナ禍でしたが、現場やリモートでのNTT東日本のきめ細やかなサポートがあったことがスムーズな運用開始につながったと思っています。

武蔵野市 総合政策部 企画調整課
特別定額給付金事業担当
主任 尾身 裕太郎氏
――導入による具体的な効果を教えてください。
尾身氏:最繁忙期はRPA用にパソコンを3台使い、1日最大6000件の入力処理をしていました。職員が手入力した場合のおよそ4倍のスピードです。仮に郵送申請数の約7万4000件を職員3人が手入力を実施した場合(1日7時間※休憩除く)と、AI-OCR/RPAを利用し、RPA用パソコン3台(1日12時間※休憩なし)で入力した場合を比較すると、約75%(約43.8日分)の稼働削減効果があったといえます。
AI-OCRとRPAはいずれもツールとしての使い勝手がよく、マニュアルをじっくり読み込まなくても直観的に操作できました。AI-OCRの読取精度が高いことにも驚いています。
水野氏:入力業務を自動化できたことで、人による確認や判断が必要な業務、たとえば書類の仕分けや電話対応などに集中的に人員を割くことができたのも大きなメリットです。申請書を送付した直後は、想定以上に大量の申請書が返送されてきたので、AI-OCR/RPAが導入されていなければ、かなり大変だったのではないかと思います。
古藤氏:正直にいうと、当初はRPAを入力業務のメインに使えるとは期待しておらず、手入力の補助になればいいくらいに思っていたのです。まさかここまで効率化できるとは思っていなかったので、まるで魔法のツールを使っているような感覚でした。ほかの自治体が2~3割の給付率のときに、武蔵野市は5~7割を達成していたこともあります。

武蔵野市 総合政策部 企画調整課
特別定額給付金事業担当
主事 水野 義之氏
本件はとにかくスピード重視で、市民に郵送する郵送申請書類の準備もかなり急ぎました。実は当時、全国的に封筒が品薄で、A4 三つ折りが入るサイズの封筒が手に入らなかったのです。封筒のサイズに関して市民からご指摘があるのは覚悟のうえで、申請書・添付書類を封入する返信用封筒は小さなものを使用し、給付金をいかに早く届けるかを最優先にしました。
受付開始直後の申請数は多いだろうと予想していましたが見込み以上で、「この10万円を待っている人が大勢いる」ということをあらためて実感し、そこからまた担当が一丸となって取り組みました。結果的に近隣の自治体の中でもトップレベルの迅速な給付ができたので、市民の期待にも応えられたのではないかと思っています。
もしAI-OCR/RPAを導入していなければ、他部署からヘルプの人員を追加で投入してもらっていたかもしれません。他部署が通常どおり業務を続けられたことは、間接的に庁内全体にとってもプラスだったと感じています。
また処理スピードの向上だけでなく、入力ミス防止や作業負担の軽減ができ、必要最小限の人員で三密を避けながら安心して業務を進められたことで、職員の心に余裕が生まれたのも大きな効果です。ストレスがたまりやすいコロナ禍でチームメンバーをマネジメントする立場だったので、この点も非常にありがたかったです。

武蔵野市の郵送申請書類。郵送準備もスピード重視。
――今後の展開・展望についてお聞かせください。
半田氏:庁内への波及効果も大きく、本事例での成果を見て、他部署でのAI-OCR/RPA活用の検討が加速しています。2020年度中に12の業務をAI-OCR/RPAで効率化・自動化することを目標に掲げており、対象業務の見極めや帳票の最適化、業務フローの見直しを進めています。たとえば、市税や軽自動車税の振替口座情報の登録や各種給付業務には、今回の特別定額給付金事業のノウハウを生かせそうです。
ICTは進化のスピードが速い分野なので、今後もNTT東日本からのさまざまな提案やサポートを期待しています。武蔵野市ではICT技術を活用しながら定型化された事務作業の自動化や業務効率化を推進することにより生み出した時間で市民の方々の暮らしをよりきめ細やかにサポートしていきたいと考えています。

市役所内の食堂や廊下では、緑豊かな景観を眺められる。

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