• 2025.8.08 (金)
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世の中インフレで物価が上がっている。
では、「賃料更新」のタイミングで、現入居者さんの家賃をあげるにはどうしたらいいのでしょう?
そのノウハウを公開します。

■関東を中心に家賃をあげる動き

家賃更新時に「物価高の折、家賃を上げさせていただきます」という告知文章が来て憤慨したといったニュース報道が増えてきました。一方でオーナーにすれば、電気代や修繕費も上がっており、収支は悪化。オーナー自身の生活費もインフレで、可処分所得は減っています。

業界紙でも話題となっていますが、関東を中心に家賃を上げる傾向は強くなっていますが、地方ではまだまだ。実際に、入居者から「給料も上がっていないのに、一方的に家賃を上げるとは何事か」とクレームが上がったり、「それならこれを機会に引っ越そう」と退去が増えてしまったりするかもと、心配にもなります。

(全国賃貸住宅新聞 2025年6月9日号 巻頭より)


今の入居者様に、次回の更新時に家賃改定をご理解いただくためには、どのような対応が望ましいでしょうか?

■家賃の値上げ、 値下げは法律で認められている正当な権利

ニュース報道では、「オーナーが外国人に変わった途端に、『来月から民泊にするから家賃を〇万円値上げする。嫌なら退去してほしい』と一方的に告げられた」という事例が取り上げられていました。
報道の中には、「これだから外国人は…」といった差別的なコメントをするコメンテーターも見受けられましたが、海外では割と普通なのです。おそらく物件を購入した海外の投資家は、悪意があるというより、日本の法律を知らなかったのでしょう。海外では民泊も積極的で、一方的に家賃を賃主が変えられます。

しかし、日本では「合意が必要」なのです。

■基本は「家賃変更合意書」の締結が必要

インターネットで、「家賃改定 値上げ 通知書」などと検索すると、「〇月〇日より諸物価高騰の折、千円家賃を値上げします」といった告知文書のひな形が出てきます。
しかし、あれでは一方的で、契約改定としては十分ではありません。

国土交通省作成の「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(再改訂版) 」によると、基本は「家賃変更合意書」の締結が必要なのです。
国土交通省作成の「賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版)」では、
(賃料) 第4条 (略)
3 甲及び乙は、次の各号の一に該当する場合には、協議の上、賃料を改定することができる。
一 土地又は建物に対する租税その他の負担の増減により賃料が不相当となった場合
二 土地又は建物の価格の上昇又は低下その他の経済事情の変動により賃料が不相当となった場合
三 近傍同種の建物の賃料に比較して賃料が不相当となった場合
とあり、「相場の賃料変化」や「近隣の相場の変化」あるいは、社会情勢の変化の裏付け資料を提示して、「合意」を形成し、合意の証拠となる「家賃変更合意書」に捺印をもらうというフローが万全です。

今まではデフレだったから「古くなったら下げて入れる」という戦略だった■これからは「家賃を上げても満室に」したい

「合意書が必要」で「入居者が怒って退去してしまうかも」となると、収益物件オーナーとしてはかなり心配です。なにしろ、これまでは仲介会社を中心に「築古になって人気もなくなってきたので、家賃を下げないと入居者を獲得できませんよ」と言われていたのですから。
しかし、世の中はインフレ。オーナー自身が購入する米やガソリン、車などの生活必需品も値上がりしており、物価全体が上昇しています。 修繕費やエアコン・TVインターフォンなどの設備費用も高騰しており、オーナーとしては家賃を引き上げなければ採算が合わなくなってきています。

すなわち、収益物件オーナーは「家賃を上げながらも満室経営を維持する」という新たなパラダイムに対応する必要があり、その実現にはこうした方針に共感し、実行できる管理会社をパートナーとして選ぶ時代に入っているのです。

■誠意を持った文面で、説明を行う

たとえば、こんな文例となります。

近年公共料金を始めとする諸物価が高騰しており、固定資産税などの租税も上昇しています。また、修繕費や人件費、燃料費の高騰により、負担が増加しております。これまで、〇〇ハイツは極力家賃の値上げを行わず、維持管理に努めてまいりましたが、やむを得ず、次回の更新時に家賃改定をさせていただきます。

まことに恐縮ではございますが、借地借家法第32条に定められた「借賃増減請求権」に基づき、近隣賃料も参考にした上で、ご入居いただいている410号室の家賃を、次回の更新時より下記の通り改定させていただきます。
つきましては同封の「賃料改定同意書」にご捺印の上、ご返送ください。

【対象物件】

物件名:○○ハイツ

部屋番号:410号室

所在地:××県××市××町1-1-1

【契約条件】

現在

更新後

契約期間

〇年〇月〇日~〇年〇月〇日

〇年〇月〇日~〇年〇月〇日

賃料

月額 50,000

月額 55,000

共益費

月額 3,000

月額 3,300

更新事務手数料

25,000

27,500

家賃保証料

25,000

27,500

■「家賃を上げる」際、 修繕や設備強化を行っているならば、そこもアピール

この際、経費が増えたといっているのですから、別途・修繕履歴などがあれば、入れてはいかがでしょうか。

〇〇ハイツのこれまでの設備改修工事内容

〇〇年〇月 エントランス改修

〇〇年〇月 外壁塗装

〇〇年〇月 植栽の植え替え

〇〇年〇月 インターネット光回線方式の無償設置

※この間、家賃をずっと据え置きさせていただいておりました。

といった具合です。
特にインターネットの無料化は、入居者が自分で光回線を引いていれば、3,000円~5,000円かかる設備ですから、家賃を数千円あげても納得の設備投資です。

これまでは、「空室の募集強化」のために行っていたネット無料化が、「家賃アップの際の納得のいく先行投資」として入居者にアピール材料となります。

「一方的な家賃の値上げには納得できない」とお考えの方には、賃料改定同意書へのご捺印をいただけない場合もございます。その際は、電話などで直接ご説明を差し上げ、できる限りご理解を賜るよう努めることになります。
どうしてもご納得いただけない場合、一般的には裁判などで争うことはせず、当面は従前の賃料で契約を継続するケースが多いかと思われます。ただし、その際にも「次回の更新時には改定をお願いしたい」とお伝えし、少しずつ合意形成を進めていくことが現実的な対応となります。

デフレの時代からインフレの時代へと移り変わり、賃貸経営の戦略も大きく変化しています。新しい時代の流れに乗り遅れず、より強固な賃貸経営を目指していきましょう。

  • 執筆:上野 典行(うえの のりゆき)

    【プロフィール】プリンシプル住まい総研 所長

    1988年慶應義塾大学法学部卒・リクルート入社。リクルートナビを開発後、住宅情報タウンズ・住宅情報マンションズ編集長を歴任。現スーモも含めた商品・事業開発責任者・ディビジョンオフィサー・賃貸営業部長に従事。20121月プリンシプル住まい総研を設立。All Aboutガイド「賃貸」「土地活用」。日管協・研修副委員長・中国ブロック副ブロック長。全国賃貸住宅新聞連載。全国で、講演・執筆・企業コンサルティングを行っている。

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