進む分業化と効率化。DXによる不動産会社のイノベーション
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2023.2.27 (月)Posted by
■多店舗展開している不動産会社で進む センターオペレーション
不動産会社における役割分担がかなり変わってきており、特にその変化は大手企業ほど顕著になっています。いわゆる「売買部門」「賃貸仲介部門」「賃貸管理部門」といった、事業分野での役割分担はこれまでも大手企業では進んでいましたが、「掲載センター」「反響センター」「契約センター」といった、これまであまり聞きなれていなかった部門の設立が相次いでいます。オーナーにとって身近な不動産会社の組織は、どう変化しているのでしょうか?
■土日は接客に集中し、重説は平日限定とした革命
発端となった取り組みは、神奈川県のユーミーネットという賃貸仲介管理会社で始まりました。同社では、2015年に国がIT重説の社会実験を開始したタイミングからIT重説に参加しましたが、「札幌からの転勤のため藤沢周辺で部屋を探しにきたが、今日は札幌に帰らなければならない。重要事項説明のために、またわざわざ飛行機に乗って藤沢まで来るのは難しい…」といった遠隔地ニーズでのIT重説ではなく、"生産性をIT重説によって変えられないか"という発想です。
繁忙期には、不動産会社では通常の1.5倍~3倍と言われるほど、接客・案内・商談などが増えます。しかも来店のほとんどは、土日。ところが、優秀な営業マンほど重要事項説明に追われ、肝心の接客件数が頭打ちになります。
そこで、土日の商談件数・案内件数を拡大するために、重要事項説明を平日に限定するようにしました。
半年後にはIT重説は月100件に到達。社会実験期間中に617件のIT重説を実施し、仲介件数も伸ばしました。
■出来る人材ほど、仕事に追われる
対面の重説は顧客にとって便利な土日にどうしても集中します。
同社では取引士資格を持つ社員も契約業務時以外は物件案内に回りますが、土日は各店舗に常駐し、多くの重要事項説明をさばかなければならず、特に営業のエースである店長ほど、重説などの仕事で過重労働になります。「13時からは重説のお客さんが来るから、接客は新人の〇〇くん頼むよ」となれば当然、業績はその分厳しくなります。
そこで、IT重説専任の取引士を一店舗に待機させ、他店舗の重説の多くもその取引士に集中することで業績をあげたのです。
おかげで他の取引士が土日に時間を確保でき、案内に回れるようになりました。
店舗スペース面でも実店舗への重説での来客数が減り、不動産会社にとってゴールデンタイムである土日に店舗空間を有効活用できるようになりました。この姿を全国各地の不動産会社が見学に訪れ、「仲介店舗の業務をIT技術で巻き取れば業績が拡大する」と業界全体が学んだのです。
■ITにより分業化し、ピュアセールスタイムが増えると業績が上がる
こうした取り組みは、全国に広がっています。掲載センターを設立して、物件広告の掲載や写真撮影を本社で取りまとめる会社も出てきました。各店舗に掲載を任せてしまうと、どうしても接客に時間を取られる繁忙期の物件情報の更新に手が回らなくなったり、A店舗とB店舗で、同じ物件の写真撮影に行ってしまったり、同じ物件の間取り図をせっせと作成しているといったロスもありました。
また、ポータルサイトやホームページでの反響から店舗来店への誘導についても、専任チームを設置する会社が出てきます。2018年1月には広島の良和ハウスが、反響対応をする専任チームを作り、来店率を飛躍的にあげることに成功しています。
どうしても繁忙期は目の前のお客様対応が優先され、ネットでの反響に迅速に対応することができなくなります。そこで反響対応の専任チームを作り、来店率をあげるとともに、各店舗は来店されたお客様の対応に集中するというわけです。
■部署を創るだけでなく、IT技術も活用する
この際、単純に部署だけ創っても、その部署の分だけ人件費は増えますから、実は生産性は思ったほど上がりません。ユーミーネットでのIT重説専任チームの設立には、IT重説専用のソフトが投入されました。また、良和ハウスの反響対応チームは、反響対応の管理ソフトを投入しています。
「DX(デジタルトランスフォーメーション)」とは、企業がAI・IoT・ビッグデータなどのデジタル技術を用い、かつ、業務フローの改善や新たなビジネスモデルの創出を行い、レガシーシステムからの脱却や企業風土の変革を実現させることを意味します。
いずれのケースでも、単なるIT化ではなく「組織変革も行っている」という点や、基幹システムやメール反響などの「データ連動も行っている」という点が注目です。このようにアナログをデジタルにするという「IT化」だけでなく、「働き方や人事戦略も変更」し「データ連動」を行うといったことが、まさにDXです。
■データ連動時に活躍する、RPA
仕事の分業化は、いい点ばかりではありません。ひとりで完結していた仕事を沢山の人間で分けて行うので、その作業結果をデータベースでつないでいく必要があります。
物件の写真を撮影し、募集広告を掲載し、反響が来たら対応し、接客や案内を行い、気にいってくれたらクロージングし、家賃保証会社に審査依頼し、審査OKが出たら重要事項説明を行い、契約し、基幹システムに格納する。この作業を分業化するのですから、そのデータをひとりひとりが各々打ち込んでいたら、かえって生産性が悪化します。
そこで、それぞれのデータを連動したい。出来れば同時にAPI連携などの技術でまとめたいところですが、それも実はデータが重くなるため、掲載・反響・接客・申込・契約などのデータをうまく一気通貫していくには、コピー&ペーストを自動で行う必要があります。 こうした際に活用されているのが、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)といわれる技術です。
■産業革命に匹敵する、RPAによる変化
かつて、クルマの製造などの工業が、オートメーション技術により工場での生産にロボットが活躍することで産業革命が起こり、飛躍的に労働生産性があがりました。不動産業界も同様です。RPAにより、単なるデータの打ち込み作業やコピー&ペーストするといった作業がパソコン上のロボットによって行われる。それによって不動産会社の生産性が向上し、お部屋探しの接客やオーナー対応や空室対策など、人間がなすべき知的労働に集中できるようになります。
収益物件を所有するオーナーにおいてもこの社会の潮流を理解し、パートナーである不動産会社の組織体制の変化などにも目を配りましょう。より進んでいる会社ほど、より丁寧なオーナー対応に割ける時間を増やしているのです。
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執筆:上野 典行(うえの のりゆき) 【プロフィール】プリンシプル住まい総研 所長
1988年慶應義塾大学法学部卒・リクルート入社。リクルートナビを開発後、住宅情報タウンズ・住宅情報マンションズ編集長を歴任。現スーモも含めた商品・事業開発責任者・ディビジョンオフィサー・賃貸営業部長に従事。2012年1月プリンシプル住まい総研を設立。All Aboutガイド「賃貸」「土地活用」。日管協・研修副委員長。全国賃貸住宅新聞連載。全国で、講演・執筆・企業コンサルティングを行っている。