eスポーツをきっかけに“働く”を学ぶ——イベント企画から運営までワンストップで体験するeスポーツ探究学習
人口約4,200人の長野県小海町(こうみまち)。この町で、高校生によって企画・運営されたeスポーツイベントが、世代を超えた交流と新たな賑わいを生み出しました。町の課題解決を目指す小海町役場と、実践的な探究学習を求める長野県小海高等学校、そして地域創生のノウハウを持つNTTe-Sportsが手を取り合った「eスポーツを軸とした、教育や部活動推進などの地域の課題解決に向けた取り組み」の挑戦は、生徒たちに、そして地域に、どのような変化をもたらしたのでしょうか。高校の「総合的な学習の時間」を活用し、生徒たちの手で町の賑わいを創出することを目的とした「小海町eスポーツ探究プロジェクト」。このプロジェクトでは、5回の事前授業を経て、生徒たちが主体となってJR小海駅の施設内でeスポーツイベントを企画・運営しました。
プロジェクトの中心となったのは、地域に根差した探究学習に力を入れる長野県小海高等学校の生徒たち。約50名の生徒が授業に参加し、その中から約20名の有志が、当日のイベント運営を担いました。
彼らはこの挑戦から何を感じ、どのように成長したのでしょうか。プロジェクトを支えた町役場の遠藤さんと、指導にあたった小海高等学校の野中先生、そして生徒の岩﨑さんにお話を伺います。
町の未来への願いと、学校の想いが重なった探究プロジェクト
JR小海線の利用者減少、駅前の賑わいの低下——。多くの地方都市と同じく、小海町もまた、人口減少という課題に直面する地域のひとつです。町として、未来を担う子どもたちのために何ができるだろうか。町役場の遠藤さんは、課題解決の糸口を模索していました。
「以前、中学生へのアンケートで『駅の近くに集まれる場所がほしい』という声がありました。その想いに応え、駅周辺の環境整備を進める中で、賑わい創出の核となる企画を考えていたのです」(遠藤さん)
一方、小海高等学校で「総合的な学習の時間」を担当する野中先生は、教育的な課題を感じていました。
「探究学習を通して生徒たちが町の課題を見つけることはできても、そこから『自分たちで何ができるか』といった主体的なアクションにつなげるのは、決して簡単なことではありません。そのような中、これからの授業をどのようなものにしていくか、内容を考えるのに苦戦していました」(野中先生)町の「賑わいをつくりたい」という願いと、学校の「生徒に主体的なアクションを経験させたい」という想い。それらをつないだのが、eスポーツを通じた地域創生のノウハウを持つNTTe-Sportsでした。町と学校、そして企業。三者が手を取り合うこの挑戦は、生徒たちが主体となりeスポーツイベントを開催するプロジェクトとして動き始めました。
「これまでの探究学習では、生徒は地域の大人から話を聞く、言わば『お客様』の立場でした。でも今回は、生徒が町の人々を招いて『もてなす側』になる。その働く側の立場を体験できるのが何より大きいと感じました」(野中先生)
その一方で、このプロジェクトの概要を聞いた生徒の岩﨑さんは、期待と不安が入り混じった気持ちだったと言います。
「自分たちで考えたイベントを実際に開催できると聞いて、すごく楽しそうだと感じました。でも、1日の来場者数100名という目標を達成できるか、やっぱり不安な気持ちも大きかったです」(岩﨑さん)
こうして、先生と生徒たちはそれぞれの想いを抱えながら、全5回の事前授業に挑みました。
生徒の主体性を育む、NTTe-Sportsの伴走型授業支援
事前授業で生徒たちに課された最も重要な課題。それは「生徒自身がイベントを企画・運営しきること」でした。
生徒たちは6つのグループに分かれてアイデアを出し合いましたが、驚くべきは、その合意形成のプロセスです。最終案を1つに絞る投票では、「自分のグループには投票せず、ほかのグループの案から良いと思うものに投票する」という独自のルールを生徒たちが自主的に採用し、全員が納得する形で企画を決定できたと言います。
「とくに対立みたいなものはなくて『これもいいね』『あれもいいね』って、みんな前向きな雰囲気でした」(岩﨑さん)
このような空気感や意思決定をサポートしたのが、NTTe-Sportsのメンターたちでした。事前授業では、各グループにNTTe-Sportsの社員が一人ずつメンターとして付き、生徒たちのアイデアを具体的な形にできるように支援しました。
「NTTe-Sportsの方々は、初めて会う生徒たちのことを深く理解し、『どうすれば分かりやすく伝わるか』を私たち以上に一生懸命考えてくださいました。そのおかげで、生徒たちは主体的に挑戦でき、『自分たちがやり遂げた』という達成感を得ることができました」(野中先生)
野中先生の言葉の背景には、NTTe-Sportsの徹底した改善サイクルがありました。授業が終わるたびに教師も交えてフィードバックを重ね、次の授業内容を常にアップデートしていく。まさに高速でPDCAサイクルを回すような伴走スタイルで、生徒たちの挑戦を支えていたのです。
「一言で言えば、まるで『もう一人の先生』のようでした」(野中先生)
こうして生徒たちは当初の不安を自信に変え、いくつかのeスポーツや縁日での遊びを携えて、イベント当日へと臨みました。
eスポーツを通じた「おもてなし」の場で得られた、リアルな学び
プロジェクトの集大成となったイベント当日。生徒たちが企画した「おもてなし」は、小海町に温かい交流を生み出しました。岩﨑さんは「音ゲー」と呼ばれる音楽ゲームのブースを担当し、参加者の案内やスコア記録を行いました。
「ブースには、保育園くらいの子からご年配の方まで、本当にたくさんの人たちが訪れてくれました。みんなに楽しんでほしかったので、恥ずかしがっている小さい子には、しゃがんで目線を合わせて『一緒にやろう!』と声をかけたり、ご年配の方には丁寧な言葉遣いを心がけたりと、いろんな工夫をしてみました」(岩﨑さん)
実践を通して得た学びは、彼女の内面にも確かな変化を刻んでいました。
「町に出て、普段お会いすることのないような方々をもてなすのは、すごく貴重な体験でした。もともと人と話すのは好きでしたが、『どうすれば相手に楽しんでもらえるか』を考えながら声をかける経験を通して、コミュニケーションをもっと楽しいと思えるようになりました」(岩﨑さん)
このような生徒の実感こそが、野中先生が最も期待していた成果だったと言えるでしょう。
「イベントを盛り上げる大人の気持ちや、企画・運営の大変さを、生徒たちが自分ごととして理解してくれたことが伝わりました。『主体的にもてなす』といったリアルな経験を通じて、学びが血肉になっているのを感じます」(野中先生)
また、生徒たちのひたむきな姿は、町の人々の心も動かしました。「高校生が一生懸命やっている姿からパワーをもらったよ」と、多くの住民から温かい声が寄せられたと遠藤さんは語ります。
この世代を超えた盛り上がりの背景には、多くの人が抱くイメージを覆す、eスポーツの意外な「親しみやすさ」がありました。
「正直、eスポーツってもっと難しいものだと思っていました。でも、今回使った『音ゲー』みたいな、みんなが知っているゲームもeスポーツなんだと知って、『そうなんだ!』って」(岩﨑さん)
「実は私も、最初はeスポーツと聞いてもピンとこなかったんです。でも、多くの家庭で親しまれているテレビゲームもeスポーツとして捉えていいのかと、イメージが大きく変わりました」(遠藤さん)
町や学校だけでは生まれなかったかもしれない「eスポーツ」という今回のテーマ。eスポーツは、生徒たちが探究学習のテーマとして楽しみながら取り組みやすい、そのハードルの低さも大きな魅力です。そして今回の成果は、世代を超えて共に熱狂できるというeスポーツの特性を最大限に活かした、NTTe-Sportsの企画ならではと言えるでしょう。
「やってみたい」が育んだ、未来へ続く「人と人とのつながり」
「小海町って、意外と大きい規模のイベントもできるんだ」。
イベントを終えた岩﨑さんのそのつぶやきは、小さな町だと思っていた故郷が、自分たちの手で未来を変えられるかもしれない「舞台」に変わった瞬間を捉えた、象徴的な言葉でした。これまで「お客様」だった自分たちが、町を盛り上げる「もてなす側」になった。その経験が、町の未来に対する当事者意識を芽生えさせたのです。
「この経験を活かして、将来、町に貢献できることがあれば嬉しいです」(岩﨑さん)
この言葉に、野中先生は確かな手応えを感じています。そして、生徒たちの心の成長の裏には、伴走者の存在が不可欠だったと振り返ります。
「私たちがこのプロジェクトで何より大切にしたかったのは、『人と人とのつながり』です。NTTe-Sportsの方は、その想いを深く理解し、生徒一人ひとりと丁寧に向き合ってくれました。ただ企画を進めるのではなく、心で伴走してくださったからこそ、生徒たちの心にも火が灯ったのだと思います」(野中先生)
最後に、遠藤さんがこのプロジェクト全体の意義を語ってくれました。
「この町の人口減少は、避けては通れない時代の潮流かもしれません。でも、こうした人のつながりが、その流れを緩やかにしてくれるはずです。今回のプロジェクトは、子どもたちが将来、小海町を誇れるようになるための、素晴らしいきっかけ作りになりました」(遠藤さん)
高校生の「やってみたい」という純粋な想いが、町の多くの人々を巻き込み、新たな希望へと育っていったeスポーツ探究プロジェクト。小海町の未来を創る挑戦は、まだ始まったばかりです。