インターネットを利用したり、社内ネットワークを通じて作業する場合に、回線の速度が遅くて作業が効率よく進められない事態に遭遇することがあります。ネットワークを増速させるためには、ネットワークの性能をチェックすることが必要不可欠です。そこでこの記事では、ネットワークの性能チェックの基本となる用語の意味や速度低下の要因について解説します。さらに、ネットワーク性能をチェックするためによく使われる「ping」コマンドの使い方も紹介します。
ネットワーク性能に関する用語
ネットワークの性能をチェックするためには、関連する用語を理解する必要があります。ここではネットワークの通信速度に関わる用語である「転送速度」「伝送効率」「帯域」「レイテンシ」について解説します。
転送速度
転送速度とは、通信に用いている回線が一定の時間あたりに送受信できるデータ量を数値で表したものです。例えば、1秒間に100メガビット分のデータを転送できる場合、転送速度は「100Mbps(Mega bits per second)」と表現されます。転送速度は「通信速度」や「リンク速度」とも呼ばれます。転送速度は「転送したデータ量」を「転送にかかった時間」で割ることで算出することが可能です。同じ時間の間により多くのデータを転送できるほど、転送速度が大きいと表現できます。
転送速度の表し方は、主にコンピュータ間の通信に用いるか、コンピュータ内部の通信に用いるかによって異なります。コンピュータ間の通信に用いる場合は、1秒間に伝送可能なビット数を表す「ビット毎秒」を用います。コンピュータ内部の通信に用いる場合は、1秒間に伝送可能なバイト数を表す「バイト毎秒」を用いることが一般的です。
伝送効率
伝送効率とは、データ通信の効率の良さを表現したものです。データ通信の速度を意味する転送速度には理論値と実効値があります。通信では接続用のケーブルを用いた有線接続や、デジタルデータを用いた無線接続によって通信対象とのデータ通信を行いますが、必ず何らかの損失が生じます。したがって実際の通信速度である実効値は、性能を表す理論値に対して小さくなります。損失が少ない場合に伝送効率が良いと表現します。
帯域
帯域は「周波数帯域」や「バンド幅」とも呼ばれ、ネットワーク通信で利用する周波数の範囲を表す用語です。ネットワークの分野では、帯域幅が広いほど高速通信が可能となることから、帯域が広いことを転送速度が速いと表現することがあります。本来は周波数と速度とは関係ありませんが、一般的な表現となっています。転送速度が遅いことを「帯域不足」や「回線が細い」などと表現することもあります。
帯域幅は、転送速度によって大まかに呼び方が分類されています。アナログ電話回線やISDN回線などを代表とする転送速度500kbps程度以下の場合を「狭帯域」や「ナローバンド」と呼びます。光ファイバーなどを代表とする高速通信の場合を「広帯域」や「ブロードバンド」と呼びます。
レイテンシ
レイテンシは、データ転送にどの程度の時間を要するかを表す指標です。「遅延」「遅延時間」と表現されることもあります。具体的には、通信する機器間において信号の伝送要求を出してから信号が届き始めるまでの時間として計算され、オンラインゲームなどにおける「ラグ」がレイテンシに該当します。レイテンシが小さいほど、信号の伝送要求に対する応答が速いため、伝送速度が速いことになります。
通信における伝送路の性能は一定時間に伝送できるデータ量によって評価されることが一般的です。単位時間あたりのデータ伝送量が多くても、レイテンシが大きい場合は通信の体感性能悪化が懸念されます。
転送速度を下げる要因
転送速度が低下する要因はさまざまあり、それらが重なり合うことで生じます。通信における問題は、「コンピュータなどの端末」「回線に接続するネットワーク機器」「通信を行う回線」のいずれかで生じている場合がほとんどです。ここでは、代表的な転送速度低下要因について解説します。
使用しているコンピュータによるもの
使用しているコンピュータなどの端末に原因があり転送速度が低くなってしまう場合があります。具体的には、コンピュータの老朽化やOS更新の未実施、ウイルス感染などが挙げられます。
コンピュータなどの端末は年々進化し続けており、通信技術も端末の進化とともに向上しています。通信技術の向上に伴い、ひと昔前に比べると多くのデータを転送することが一般的になってきています。こうした技術の進化に対してコンピュータなどの端末が極端に古いと、端末のスペック不足によって転送速度が低下してしまう場合があります。
OSが最新バージョンになっていない場合に転送速度が低下する場合があります。OSの更新内容によってはデータ通信に関連する部分の更新や設定変更が行われる場合もあり、更新が遅れると転送速度低下の原因になります。
コンピュータウイルスへの感染が転送速度低下を引き起こす場合があります。ウイルス感染によるコンピュータへの影響は多種多様なので、転送速度を低下させる要因はさまざまですが、ウイルス対策は必須です。
ネットワーク機器によるもの
ネットワーク接続のために使用しているルーターやLANケーブルが原因で転送速度が低下してしまう場合があります。具体的には、ルーターやLANケーブルなどのネットワーク機器のスペックが回線に対して足りていない場合、転送速度が低下します。
Wi-Fiルーターなどの無線ルーターは種類によって転送速度などの性能に差があります。例えば回線が高速な光回線である場合、無線ルーターは回線速度に足る性能である必要があります。無線ルーターの性能が回線速度に劣る場合、転送速度が低下してしまいます。
LANケーブルも無線ルーターと同様、規格によって転送速度などの性能が異なります。接続に利用する回線の性能に対応した規格のものを選ばなければ、十分な転送速度での通信が困難です。
利用する時間帯によるもの
インターネットは、1つの回線を複数の加入者で共有しているものが一般的です。夜間などインターネットの利用が集中するような時間帯では、「輻輳(ふくそう)」と呼ばれる転送速度低下が発生しやすくなります。
「輻輳」が起きる原因は、インターネットにアクセスできるようにする装置である終端装置(ONU)と呼ばれるポイントに多くの利用者からの通信が集中し、渋滞が起きることです。プロバイダ(回線を提供している業者)側の装置なので、転送速度低下の要因である疑いがある場合は、業者へ問い合わせる必要があります。
通信する距離によるもの
接続先のサーバーとの距離が転送速度に影響する場合があります。例えば海外のサーバーと通信を行う際、物理的な距離が遠くなることでレイテンシが発生し通信に要する時間が長くなります。
pingでネットワーク性能を測定
ネットワークの性能を測定する方法はさまざまですが、最も手軽な方法として「ping」コマンドを用いる方法が挙げられます。pingは多くのシステムに標準装備されており、インターネットのようなTCP/IPネットワークにおいて、特定のIPアドレスの機器からの応答有無を検証するプログラムです。ここでは、pingコマンドの概要と使い方について解説します。
pingコマンドの概要
pingは、Windows・macOS・Linuxなどで利用できます。通信対象との疎通可否・転送速度をチェックするために利用します。
検証対象とする機器のIPアドレスやホスト名を指定し、ICMP(Internet control Message Protocol)と呼ばれるプロトコルを使って応答要請を送信します。応答要請に対して応答があるかどうか、ならびに応答要請を送信した時点から応答を受信完了する時点までの所要時間を検証します。
pingコマンドの使い方
Windowsの場合はコマンドプロンプト(PowerShell)、macOS・Linuxの場合はターミナルを開いてください。その後、「ping 192.168.0.3」のように入力・実行してください。IPアドレスは通信相手のものを指定してください。IPアドレス以外にも「www.example.com」のようにドメイン名で指定することも可能です。
指定した通信対象との通信ができた場合は応答が表示されます。表示された結果から転送速度を算出することができます。指定した通信対象との通信ができなかった場合は、「要求がタイムアウトしました」というメッセージが表示されます。
転送速度の確認方法
pingにおいて、通信対象の情報を入力してコマンドを実行すると、通信対象へ4回のデータ通信(32バイト/回)が行われたのち、対象にデータが届いたかどうかを示す回数と応答時間が表示されます。転送速度は「(データサイズ×2)÷平均応答時間」より算出することができます。
実際には、通信中に経由するルーターでの待ち時間や、通信対象の応答ラグなどの影響から、実効値との誤差は発生します。算出した転送速度は参考値であることを理解しておく必要があります。
ネットワーク性能の用語の意味を知ることがチェックの基本
ネットワーク性能の検証のためには、関連する用語の意味を正しく理解することが重要です。ネットワーク性能を低下させる要因が複数あることを理解し、転送速度低下などの問題が生じた際に、どの部分が原因なのかを見極めることが大切です。性能低下の要因となりうるポイントを理解することで、ネットワーク性能を適切にチェックすることができるようになります。
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