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綾瀬市では、職員の働き方改革や住民サービス向上に向けて、自治体DX(※1)を具体的に進めるため、DX人材育成とBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)(※2)の実践をNTT東日本へ委託しました。取り組みにより庁内にDX推進の意識を醸成し、業務プロセス再構築の手法を習得することに成功。次年度には研修での検討を元に実際の予算化につなげ、電子申請システムなどを導入しました。その後も、行財政のさらなる業務効率化や地域課題をデジタルで解決することをめざし、自治体業務改革を加速させています。取り組みの背景や成果について、綾瀬市のご担当者にうかがいました。
Index

Summary

――今回、DX人材育成とBPRの実践をNTT東日本へ依頼いただきました。背景や理由をお聞かせください。
石渡氏:まず、職員不足という大きな課題がありました。コロナ禍における給付金やワクチンの受付手続きは人を動員して乗り切ったものの、かなり疲弊しましたし、マンパワーの限界を感じていました。この課題を解決するには、BPRやBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)(※3)を推進・活用して職員の働き方改革を進め、人にしかできない業務へ人的資源を集中させ、職員負担の軽減や住民サービスの向上を図る必要があると考えました。
松本氏:国はスマート自治体への転換を推し進め、「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」等を定めています。本市でも「スマート自治体推進指針」を策定し、DXの取り組みに着手しようとしました。しかし、職員は目の前の仕事で手一杯で、DXのための新しい知識を習得する時間や機会がなく、何から手をつけてよいかわからない状況。外部の力を借りて自治体DXを加速させたいと考え、公募型プロポーザルを実施しました。

――最終的に何が決め手となり、NTT東日本へ依頼くださったのでしょうか?
石渡氏:最大のポイントは、本市の規模に合ったスモールスタートの提案だったことです。新しい取り組みには、どうしても拒否反応が起こりがちです。全庁一気に進めるよりは、少しでも意欲的な課から始めて、その効果を見た他の課が「うちもやってみよう」と徐々に広がる流れが一番よさそうだと思えました。
当時、庁内向けのところはありましたが、デジタル化に順次取り組んでいたところ、市民の利便性向上に向けて、DX推進の自立・自走化までの共創・伴走支援(※4)をしてくれる内容と体制も高く評価した点です。他の自治体でのDX推進等の実施実績も豊富で、本市も安心して任せられると思いました。またリーダーの桟敷さんはデジタル人材派遣(※5)制度で他県のICT推進アドバイザーを務めた経験があり、自治体の業務をよく理解していました。
BPRに関しても「ローコードやノーコード(※6)ツールを活用」という具体的な提案があり、進め方のイメージが持てました。
※3BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)とは、定型化しやすい総務や経理、人事などのノンコア業務、あるいは運用ノウハウのない業務を、高度な専門領域を持つ外部業者に委託すること。
※4共創・伴走支援とは、異なる関係者や組織が協力し、共同で新たな価値を創り出し、共に成長・発展するための支援方法。
※5デジタル人材派遣とは、企業や組織がデジタル技術やITに関する専門知識やスキルを持つ人材を一時的に雇用すること。自治体DXのためのデジタル人材派遣は、デジタル化や技術導入のスキルやリソースが不足している自治体にとって有効な手段とされている。
※6ローコード(Low-Code)とノーコード(No-Code)とは、ソフトウェア開発やアプリケーション構築の手法を指す用語。プログラミングの知識やスキルが限定されている人でも、比較的容易にアプリケーションを開発できるようにすることが目的。
――NTT東日本とNTT DXパートナー
*が企画・実施したDXの職員研修としては、座学研修とハンズオン(※7)のワークショップを実施しました。内容や進め方はいかがでしたか?
*DXコンサルティングを中心とした事業変革支援、クラウドを活用したデジタルプラットフォームの構築・提供、及びお客さまが保有する業務や顧客データの分析等を実施するNTT東日本グループ会社
松本氏:座学研修は係長及び課長級職員を対象に実施し、100人以上が受講しました。実施内容は、事前に相談しながら進めてくれ、非常にわかりやすい内容だったと思います。本市の規模で大都市の先進事例をそのまま当てはめるのは難しいので、比較的簡単にできる事例を紹介したり、動画や図を多用してイメージを湧きやすくしたり、いろいろ工夫してくれました。研修内容は全職員にも展開しています。
現状、業務に課題を感じている総括副主幹級以下の担当職員向けにはハンズオンワークショップを実施し、約20名が参加して具体的な業務改善について議論しました。NTT東日本のメンバーがファシリテーターとして入ってくれたことで議論が活発化し、様子を見にきた人事担当者が「こんなに盛り上がっている研修は見たことがない」と驚いたほどでした。

石井氏:普段は業務に追われていても、実は業務効率化への課題感を抱いている職員は意外にいます。当時私は財政課におり、庁内のさまざまな部署の人と話す機会があったので、そうした職員などにも声をかけてワークショップを受講してもらいました。
ワークショップは架空の題材ではなく、実際に職場で今困っていることを話し合う実践的な内容にするよう、業務アンケートを元に、集約したテーマとして、NTT DXパートナー
が設計したことも成功要因の一つだと思います。当事者意識をもって取り組んでもらえましたし、ワークショップでの検討内容をベースに次年度の予算化にもつなげることができました。

ワークショップだけでなく、業務改善へ向けた日々の伴走支援もありました。やりとりにチャットツールを使ったことがデジタルエクスペリエンスとなり、その後、庁内でチャットツールの利用が促進されるきっかけにもなりました。当初は各グループにおける検討の進み具合に差がありましたが、事務局での週一回の定例会の中で、意識や方向性を揃えました。
――BPRの内容や進め方はいかがでしたか?
松本氏:単にシステムを導入するだけでなく、業務プロセスをどう再構築していくかの手法を学べて、それを使えるようになったのが大きな成果です。業務フロー・プロセスの可視化やアセスメント(※8)に基づく課題抽出、改善案検討ができるようになりました。

今は私たちがNTT東日本の方にされた質問と同様の問いをいろいろな場面で投げかけて、業務のヒアリングをしています。たとえば紙で出力している書類について、「なぜ紙でないといけないのか?」を深掘りし、ボトルネックになっている内容や組織を明確化します。それらを整理して、必要な組織との調整により、データのやりとりでOKとなり、デジタル化を進めることができたというような事例もありました。
ローコード・ノーコードによる開発の提案もあり、自治体DXの自走化には職員がメンテナンスできるシステムにすることが重要だという考え方への理解が根付いたのはよかった点です。
※7ハンズオンとは、実際に手を動かして実践的な経験をすることを指す。主に教育やトレーニングの文脈で使用され、理論や概念を学ぶだけでなく、実際に自分で行動することに重点を置いた学習方法。
※8アセスメントとは、評価や判断を行うためのプロセスや手法のことで、特定の目的や基準に基づいて情報を収集し、評価対象の現状を把握し、適切な判断や意思決定を行うことが目的。自治体業務へのアセスメントの場合、業務の効果や効率性、品質などを評価することで、適切な政策決定や改善策の立案に役立つ。
――研修実施後の効果や反響などはありましたか。
宝泉氏:ワークショップでの検討内容をベースに次年度に予算化し、実際に綾瀬市公式LINEと職員自ら作成やメンテナンスができる電子申請システムを導入することができました。
これまでの電子申請はシステム担当に作成を依頼していたため、調整に時間を要し、申請フォームの公開までに約1カ月かかっていたところ、担当課で簡単に入力フォームを作れるようになり、2日程度に短縮できました。また、以前は電話受付のみだったがん検診の予約に電子申請を導入したところ、5月から開始して、7月時点で約180時間を要していた対応時間が43時間となり、約137時間が削減されました。その話が庁内で広まり、他の課からも「行政手続きをオンライン化(※9)したい」という相談がくるようになりました。
高齢者は電子申請の利用が難しいというイメージがあるかもしれませんが、実際は多くの高齢者が利用しており、その事実を伝えると、「それなら検討してみたい」という課も多いのです。今後は検診以外にも、アンケートやイベント講座など、さまざまな行政手続きのオンライン化に取り組んでいきたいと考えています。

渡辺氏:研修後のアンケート結果も、DXの基礎的理解が進み、BPRの必要性や現状の課題発見につながったという声が多く、高い満足度を示していました。やはり綾瀬市の規模にはスモールスタートが合っていたのでしょう。NTT東日本が最後まで本市の状況に寄り添ってくれたことで、自治体DXへの意識醸成や自走化への第一歩を踏み出すことに成功し、意義のある取り組みになったと思います。
松本氏:自治体DXというと、システムを導入することに走りがちですが、本質的に重要なのは意識改革です。意識改革のためには、概念を言語化する必要があります。ここが難しいのですが、NTT東日本と話す中で、「自立・自走化」や「地域接点のデジタル化」といったわかりやすいキーワードを掲げられたのも意識醸成の促進に役立ちました。今回、その意識改革に重点を置いた研修を実施できたほか、ワークショップでの取り組みもあり、市長も「よい取り組みだった」と話しています。
――今後の自治体DXや自治体業務改革について、予定や展望をお聞かせください。
松本氏:今回の取り組みを通して、自治体DXの推進に向けて体制を整える重要性にも気づくことができました。DX推進は、昨年は財政課や企画課の職員が兼務していましたが、今年から情報政策課に専任を置きました。今後、新体制でさらなるDXの推進、デジタルによる業務効率化を進めていきます。

政府はデジタル社会の実現(※10)をめざし、自治体の情報システムの標準化・共通化(※11)に向けたGov-Cloud(ガバメントクラウド)(※12)の導入やEBPM(※13)を推進しています。また、その先のステップとして、地域課題をデジタルで解決するデジタル田園都市(※14)をめざしていく必要があります。本市としてはまだこれからですが、NTT東日本が今回ここまで伴走支援してくれたことを活かしながら、取り組んでいきたいと考えています。
このような検討にあたっては、地域のDXパートナーとしてのNTT東日本のサポートは大いに期待できる存在だと強く感じています。

※9行政手続きのオンライン化とは、行政機関が従来の紙ベースや対面で行われていた手続きを電子化し、インターネットやコンピュータシステムを利用してオンライン上で行うこと。これにより、市民や事業者は自宅やオフィスからインターネット経由で必要な手続きを行えるようになる。
※10デジタル社会の実現とは、情報通信技術(ICT)やデジタルテクノロジーを活用して、社会全体の持続的な発展や効率化、包摂性、イノベーションの促進をめざすこと。デジタル社会では、人々や組織がデジタル技術を活用して情報の共有やアクセス、コミュニケーション、サービス提供などを行い、より便利で持続可能な社会を創造することが目標とされる。
※11自治体の情報システムの標準化・共通化とは、異なる自治体間で使用されている情報システム(ICTシステム)の仕様や基盤を共通の基準や規格に統一する取り組み。これにより、自治体間での情報共有やデータの連携がスムーズに行われ、相互の業務やサービスの効率化が図られる。
※12Gov-Cloud(ガバメントクラウド)とは、政府がAWSなどの対象サービスで構成されたマルチクラウド基盤を用意し、政府だけでなく地方自治体も一緒に使うことができるようにしたもので、各省庁のWebサービスやシステム、自治体システムの提供基盤として活用する取り組み。
※13EBPM(Evidence-Based Policy Making/エビデンスに基づく政策立案)とは、政策の策定や実施において科学的な根拠や証拠データを活用し、客観的な情報に基づいて意思決定を行う手法やアプローチを指す。
※14デジタル田園都市とは、農村地域や田園地帯においてデジタルテクノロジーを活用し、持続可能な開発や生活の質の向上を図る取り組みを指す。

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