LGWAN対応のAI-OCRで入力業務を自動化
16の課へ利用拡大、庁内業務の内製化と自治体DXを加速
川口市では庁内業務の効率化を推進するため、2019年にOCRやRPAを使った業務自動化の実証実験に着手しました。しかし、当初採用したOCR製品は操作性や読み取り精度に課題があり、翌2020年にLGWAN対応、かつAI技術を活用したNTT東日本のAI-OCRサービス「AIよみと~る(LGWAN接続タイプ)」を導入しました。これによりコロナ禍における支援金給付やワクチン接種記録登録といった突発的な業務にもスピーディな対応が可能に。現在は16課まで活用が広がり、外部委託ではなく内製化を推進することで、庁内業務のコスト削減や情報漏洩防止にもつながっています。庁内への展開の経緯や効果、今後の取り組みについて、川口市のご担当者にうかがいました。
【目次】
川口市
ソリューション導入効果
- データ入力業務を自動化し、業務効率化を図ることができた
- 庁内業務の内製化を推進でき、急な業務も迅速かつコストを抑えて対応できた
- 人口減少や新しい生活様式に対応する行政サービス実現に向けたBPR(業務改革)の足場固めができた
NTT東日本選定のポイント
- 導入前にトライアル版で読み取り精度や使いやすさを確認できたこと
- 情報セキュリティに優れたLGWAN対応、かつAI技術を利用したAI-OCRを良心的な価格で提供していたこと
- 年中無休のヘルプデスクがあり、迅速なサポートが期待できたこと
LGWAN対応かつAI技術を活用した理想のAI-OCR
トライアル版で読み取り精度や使いやすさを実感
――AI-OCRの導入に至った背景を教えてください。
小形氏:市役所の定型かつ膨大な業務の効率化を図るべく、2019年にOCRとRPAを組み合わせた自動化の実証実験に取り組み始めたのがきっかけです。
当初、OCRは他社の製品を試用していました。実証実験段階だったため、情報政策課と担当課が協力しながら読み取り位置や項目の定義を設定していたのですが、操作がなかなか難しく、今後本格運用となっても設定を各担当課に任せるのは厳しそうだという感触でした。またAI技術を搭載していないOCRだったので、読み取り精度に課題もありました。そこで翌2020年に新しいOCRを導入しようということになったのです。
――NTT東日本の「AIよみと~る」を採用いただいた決め手は何だったのでしょうか。
仲田氏:事前にトライアル版を試用でき、使いやすさや読み取り精度の高さがわかっていたことが大きかったです。一般的にシステムの検討段階では、システムベンダから紙の資料で説明されるだけということが多いのですが、正直、システムは実際に使ってみないと良し悪しの判断が難しい面があります。「AIよみと~る」はあらかじめトライアル版で使い勝手を把握できていたことが導入の後押しになりました。2020年8月より本格運用をスタートしています。
約100万枚の新型コロナワクチン接種記録の入力にも活用
導入時の負担が少なく、16課まで利用を拡大
――まずはどのような業務に使い始めたのでしょうか。
小形氏:2020年はちょうどコロナ禍が始まったタイミングで関連対応に追われていました。2020年5月に開始した緊急経済対策「小規模事業者等事業継続緊急支援金」もその一つです。申請書が紙で提出されるので、従来のOCRと並行して「AIよみと~る」を使ったところ、大幅に作業を効率化させることができました。「AIよみと~る」はLGWANに対応しているので、読み取り後のデータを移行の手間なくそのままシステムに取り込めるため、作業がよりスムーズになり、担当課からは「AIよみと~るの方が利用しやすい」という声も届いていました。
非常に操作性に優れたシステムですので、導入の手間もほぼありませんでした。情報政策課の準備としては、ログイン方法や基本の手順をまとめた簡易マニュアルを作成し、製品概要と共にイントラネットに掲載した程度で、担当課はマニュアルを見ながら設定し、不明点があれば聞いてもらうようにしたのですが、ほとんど質問もありませんでした。
――その後の庁内での利用状況を教えてください。
小形氏:もっとも利用が多いのは、新型コロナウイルスワクチン接種推進室におけるワクチン接種記録システム(VRS)への接種記録の登録業務です。登録は、医療機関あてに国から貸し出されるタブレットで「新型コロナワクチン接種予診票」のバーコードを読み取ることで可能ですが、現場の医療機関の負担を少しでも軽減するために、川口市では予診票を市に集めて一元的に読み取り対応をすることにしました。
ワクチン接種開始以降、1年間で約100万枚の予診票を読み取りました。川口市の人口は約60万人ですが、ワクチンは一人が複数回接種するため、このような膨大な枚数になっています。「AIよみと~る」の導入による作業時間の削減は1カ月あたり約40時間、年間約480時間と試算しています。
もう一つ、戸塚環境センターの「廃棄物処理届出書」も件数が多いため、処理が職員の負担になっており、「AIよみと~る」の導入で月20時間程度の業務時間削減を図ることができました。導入時は処理が追い付かずに溜まっていた届出書も、その後処理できました。浮いた時間は電話受付業務や別の書類整理などに有効活用できています。
仲田氏:それ以外にも医療費に関する業務や、市営自転車置き場の利用申請など、さまざまな書類の読み取り業務に使っています。「AIよみと~る」を活用している担当課は16課まで広がっており、1カ月あたり各課とも平均20時間程度の業務時間を削減できています。
――各担当課が使い始めるときは、情報政策課はどのようにサポートしているのですか。
仲田氏:設定は基本的に各課に任せています。実証実験中に使っていた以前のOCRは操作が難しく、各担当課に任せるのは困難でしたが、「AIよみと~る」は非常に使いやすく、直感的に操作できます。使い始める前に遠隔でパソコンの画面を操作しながら、電話で簡単な説明をすることもありますが、サポートなしで設定する担当課も多く、「マニュアルをそれほど読み込まなくても、感覚的に操作ができる」という声はよく聞きます。問い合わせも少なく、また情報政策課で回答できるものがほとんど。使い始めて約2年が経ちますが、NTT東日本のヘルプデスクに問い合わせたのは6件のみです。
利用頻度は少ないものの、迅速なヘルプデスクのサポートは非常に心強く感じています。以前、年度始めに急に帳票の設定が見られなくなったことがありました。年度始めは膨大な作業をしているので、どの操作がトラブルの直接の原因になったかわかりません。そんな状況でしたが、ヘルプデスクに連絡すると、すぐにいくつかの可能性を示してくれ、それに沿って対処をすると解決し、非常に助かりました。トラブル時以外にも、ログイン方法や接続先の変更といった重要な連絡についてはメールだけでなく電話で連絡をくれるので設定漏れなども防げており、手厚いサポートに満足しています。
内製化で急な業務にもスピーディかつコストを抑えて対応
AI-OCRの活用を情報政策課から各担当課へ呼びかけ
――各種入力業務についてBPO(Business Process Outsourcing/外部委託)ではなく、庁内でAI-OCRやRPAの内製化を推し進めている理由は何でしょうか。
仲田氏:コロナ禍以降、各種支援金の給付やワクチン接種など、急に決まってすぐ対応しなければならない業務が増えました。こうした業務は予算に計上されていないことがほとんどですので、もし外部委託をするなら予算の調整や委託先の検討・契約などの手続きに一定の時間がかかってしまいます。一方、AI-OCRやRPAで自動化できれば、すぐに対応を始められますし、業務によっては外部委託よりコストを抑えられます。市役所の業務には個人情報を取り扱うものが多いですが、内製化なら外部とデータのやりとりが発生せず、情報漏洩のリスクを軽減できるメリットもあります。
――現在「AIよみと~る」を16の担当課で活用されているとのことですが、庁内での活用をどのように広げてきたのでしょうか。
仲田氏:庁内のイントラネットに「AI-OCRを導入しました」「こういう使い方ができるので、使ってみませんか」といった情報を掲載して活用を呼びかけました。それを見て「使ってみたい」と手を挙げてくれた担当課が多いです。また、各課の業務にはシステム回りのサポートなどで情報政策課の職員が関わっているため、AI-OCRが使えそうな業務があれば「この業務に使ってみませんか」と声をかけ、導入までフォローしています。
――最後に今後のAI-OCRの活用や市としてのDX推進などへの展望をお聞かせください。
仲田氏:すでに「AIよみと~る」が業務効率化に大いに役立つツールであることは確認できていますので、今後も庁内全体で活用を促進していきたいと考えています。各課からの相談や要望を受けた際にもAI-OCRで解決できそうなことがあれば積極的に提案し、活用をサポートしていきます。
今後、人口減少や担い手不足などが懸念されるなか、庁内業務は単純なコスト削減だけではなく、業務そのものの見直しや、場合によっては組織の変革にも取り組まなければなりません。市民と共に新たな価値を創出していくために、今後もデジタル技術を活用しながら新しい生活様式にふさわしい行政サービスの非接触化や迅速化、効率化を図り、DXを着実に推し進めていきたいと考えています。そのために必要なLGWANに対応したソリューションや新しい技術は、我々だけでは調べきれない部分も多いので、NTT東日本からはそうした提案も含めて今後も継続的なサポートを期待しています。
*上記ソリューション導入時期は2020年8月です。
*文中に記載の組織名・所属・肩書き・取材内容などは、全て2022年8月時点(インタビュー時点)のものです。
*上記事例はあくまでも一例であり、すべてのお客さまについて同様の効果があることを保証するものではありません。
組織名 | 川口市 |
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概要 | 川口市は埼玉県の南端に位置し、荒川を隔てて東京に接し、市の大部分が都心から10~20キロ圏内に含まれます。江戸時代から鋳物や植木などの産業が発展し、その後、住宅都市化が進みました。現在も首都と隣接する利便性を活かしながら、固有の伝統ある“ものづくりのまち”として、活力あるまちづくり・人づくりに取り組んでいます。 |
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