税務課主導のRPAプロジェクトで16業務の効率化に成功
職員の“当事者意識”で自治体のDX推進は加速する!
時間外労働が多く、業務の効率化に迫られていた恵庭市税務課。2019年に「税務課RPA(※1)検討プロジェクト」を発足させ、業務効率化を進めてきました。2020年4月にはNTT東日本よりRPAソフト「WinActor」(※2)のライセンスを購入し、導入サポート業務を依頼。同11月には、さらなる業務効率化のためにNTT東日本のAI-OCR(※3)サービス「AIよみと~る(LGWAN接続タイプ)」も導入し、税務課の業務を中心に16業務の効率化を実現しています。導入の経緯や効果、今後のDX(デジタルトランスフォーメーション/デジタルによる変革) 推進について、恵庭市のご担当者にうかがいました。
※1 RPA(Robotic Process Automation)とは、コンピュータ上で行われる業務プロセスや作業を人に代わり自動化する技術です。
※2 WinActorは、NTTアクセスサービスシステム研究所で研究開発された技術をベースに、NTTアドバンステクノロジ株式会社が商品化した純国産RPAです。WinActorは、エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社の商標です。
※3 AI-OCR(Artificial Intelligence- Optical Character Recognition/Reader)とは、手書き書類や帳票の文字読み取りを行い、データ化するAI技術を使ったOCRサービスです。
【目次】
北海道恵庭市
ソリューション導入効果
- RPA/AI-OCRの導入で16業務を効率化、最大65%の業務削減を図ることができた
- RPA化の前に、業務手順を見直し、課題を洗い出すことでBPR(業務改革)が推進された
- 庁内や北海道内のRPAおよびAI-OCRの導入推進の一助とすることができた
NTT東日本選定のポイント
- シナリオ作成支援や初心者向け研修など、サポート体制が充実していたこと
- WinActorという使い勝手の良いRPAソフト取り扱っていたこと
- グループ会社が開発元のRPAソフトなので対応がスムーズかつスピーディーだったこと
15年前から変わらない業務のやり方にメス!
税務課内に「RPA検討プロジェクト」を発足
――税務課のみなさんでRPAの検討を始めたのは何がきっかけでしたか。
山野辺氏:私は過去にも税務課にいて、約15年ぶりに課長として戻ってきました。すると業務の進め方が以前とほとんど変わっていなかったのです。時間外労働が多く、抜本的に仕事のやり方を変える必要がありました。
2019年4月の赴任当時、税務課の平均年齢は約31歳と若く、新しいことを推進しやすい環境でした。「まずはできることからやってみよう」と提案すると職員も好反応。ちょうど基幹システムの更新があり、RPAソフトのライセンスを1台分取得していたので、「RPAによる業務検討プロジェクト」を立ち上げました。私自身、20代のころにWindows95が導入され、WordやExcelを使った業務効率化を進めた経験がありますが、RPAもいずれは使うのが当たり前になるだろうと思っていました。
――RPA化は一般的に情報システム担当が先導することも多いと思いますが、税務課主導で進めた理由はありますか。
山野辺氏:RPAを動かすシナリオ(作業手順)を作成するには、業務を理解していなければなりませんから、担当課が動いたほうが早くて効率的です。税務課の業務には、毎月同じ書類の処理をするルーティンワークも多いので、早く行動を始めれば、それだけ早く業務負担を削減できるとも考えました。
浅見氏:まずはRPAソフトでどんなことができるのか他社のITベンダーに依頼し、デモ体験で確認しました。ただ、RPAソフトの開発元ではなかったので、質問しても一度持ち帰ってから回答ということが多く、スピード感に課題がありました。また設定画面がプログラマー目線で作られており、初心者が使うには少し難しい印象でした。
そんなとき、庁内の先進地視察制度を利用して、RPAの活用に積極的な茨城県つくば市に視察へ行きました。そこで感じたのは、職員が主体的に動き、自分たちでシナリオを作れるようになることが大事だということ。そのためには人事異動なども考慮して、初心者でも扱いやすいRPAソフトを選ぶ必要があると考えました。
――最終的にNTT東日本へ依頼したのは何が決め手になりましたか?
山野辺氏:公募型プロポーザルで事業者を募集し、さまざまな項目から総合的に判断しました。NTT東日本の提案でとくに評価したのは、NTTグループが開発元であるRPAソフト「WinActor」を選定し、問い合わせや要望にもスムーズに対応できる体制があったこと。またシナリオ作成への積極的な支援や定期的な職員向けの研修など、万全のサポートをしてくれることも決め手になりました。
浅見氏:WinActorはつくば市が使っており、私たちもデモ体験で使い勝手の良さを実感していました。シナリオ作成をフローチャートで直観的に書けるのは、いい意味でカルチャーショックですらありました。またRPA活用の発展形として、AI-OCRと組み合わせたさらなる業務効率化の提案にも魅力を感じました。2020年4月にRPAを導入し、同11月には「AIよみと~る(LGWAN接続タイプ)」も導入しています。
「この業務はRPA化できる?」の視点が当たり前に
業務整理に時間をかけて職員の当事者意識を醸成
――これまでに全16業務、税務課だけでも10以上の業務効率化をしています。職員の協力を得るのも大変だったのではないですか。
浅見氏:システムを入れて終わりではなく、職員がちゃんと使えるものにしていくには、実際にその業務を担当している職員が“自分事”として捉えることが大事。上からの「やりなさい」と押し付けではうまくいかないと感じていたため、実務を担当している各係の若手職員にワーキンググループに参加してもらい、ボトムアップ的に進めていきました。事前に各係の主査に話を通しておいたので、係内でも有機的な話し合いができていたようです。
大瀬戸氏:ワーキンググループの参加者は半年ほどかけて自分の業務を洗い出し、手順をフローチャートに書き起こして、自動化できる工程がないかをチェックしていきました。これは本当に時間がかかって大変でしたが、「これまでのやり方で本当にいいのか」と深く考える機会になりました。次第に係内の職員同士で「これはRPAやAI-OCRで実現できそうじゃない?」という会話も日常的になっていきました。
――RPAのシナリオ作成はスムーズに進みましたか。
大瀬戸氏:シナリオ作成はNTT東日本の支援もあり、スムーズでした。担当者が見逃しがちなポイントも、第三者の目線で指摘してもらえて助かりました。WinActorは操作も直観的で、NTT東日本による職員向けの研修に参加すれば、ある程度の骨組みはすぐに作れるようになります。AI-OCRもCSV出力の設定は簡単。データの加工設定は多少難しいところがありますが、NTT東日本のサポート体制が手厚いので問題ありません。問い合わせにすぐに答えてくれるだけでなく、NTT東日本側から「先日の件はどうなりましたか?」と逐一連絡もしてくれるので、非常に頼りにしています。
浅見氏:2年目は初年度の担当の約半数が異動になりましたが、NTT東日本が毎年初心者向けの講習をしてくれるので新任者もスムーズに業務を始められています。今後、製品のアップデートの際のフォローなどもぜひお願いしたいと思っています。
WinActorでのシナリオ作成画面。フローチャートで視覚的に表現され、プログラム知識は不要
最大65%の業務削減率を実現
RPAとAI-OCRを庁内のDX推進の第一歩に
――RPAとAI-OCRの導入による具体的な業務効率化の成果を教えてください。
浅見氏:税務課では約10の業務に導入しました。特に効果があったのは「家屋滅失処理」や「町名変更」(国土調査または住居表示にかかる住居変更処理)といった固定資産税関係で、年間66時間の業務削減を実現しています。繁忙期にあたる確定申告時期の市民税にまつわる業務はちょうど別のシステムを入れたところなので、もう少し業務に慣れてきたら着手する予定です。
削減率が最も高かったのは債権管理課の業務です。滞納時の銀行とのやりとり(預金全行調査共通経過入力処理等)をRPAとAI-OCRを組み合わせて効率化し、年間232時間を削減しました。削減率は65%に上ります。
子ども家庭課の「学童クラブ入会希望者リスト作成」にも取り組みました。たまたま決裁が総務部長の目に留まり、RPA化できないかとNTT東日本へ相談して実現しました。学童への入会可否を判断する複雑な分岐が多かったので時間はかかりましたが、最終的にはRPA化でき、年間32.5時間、7%の削減率を達成。削減率はそれほど大きくありませんが、外部委託していた作業なので、その費用がゼロになったのは大きなメリットです。
そのほか、AI-OCRの導入によって入力ミスがなくなりました。また、BPRで業務内容がきちんと整理されたのも良かった点です。恵庭市は就職氷河期に入庁した40歳前後の職員が少ないため、本来なら経験が少ない若手職員に仕事を教える立場である中間層が不足しています。若手職員の業務理解が不足していたところも、この取り組みを通して補うことができました。
大瀬戸氏:効率化で空いた時間で、担当以外の税目の勉強に充てたり、繁忙期の業務を手伝ったりできるようになり、幅広い見識や経験を身に付けやすくなりました。
(左から)NTT東日本 北海道支店 第一ビジネスイノベーション部 マーケティング担当(SE) 主査 秋山 香織、VCグループ VC担当 営業担当課長代理 古坐 岳志、マーケティング担当 泉 雄介
――RPAやAI-OCRのさらなる活用やDX推進など、今後の展開についてお聞かせください。
浅見氏:現在、恵庭市のRPAは基幹システムのネットワークのみで動いていますが、ほかの自治体では総合行政ネットワーク(Local Government Wide Area Network 以下「LGWAN」という)内での内部事務、たとえば職員の給与関係や通勤届などの処理にも導入されており、恵庭市でも検討を始めています。ただ、これも一方的に上から「やります」というのではなく、現場にニーズがあるかヒアリングしている段階です。一方、AI-OCRサービス「AIよみと~る(LGWAN接続タイプ)」はLGWANでも動くので、内部事務に使う準備はすでにできています。
北海道内でもRPAやAI-OCR導入への気運は高まっており、恵庭市の導入事例を道内の市町村へも共有しました。今後、同じRPAソフトを使い、類似業務に導入する自治体があれば、お互いのやり方を参考にできることもあるでしょう。地元の民間企業が「自治体がRPAを導入しているなら、ちょっと話を聞いてみよう」と前向きに検討するきっかけになるかもしれません。私たちの取り組みが地域全体のRPAやAI-OCRの導入、ひいてはDX推進の後押しになればと思います。
Withコロナの時代においては、接触の機会をなるべく減らすことが重要であり、データを活用してあらゆる手続きや業務をデジタル化することは急務の課題です。ここまでのRPAとAI-OCRの導入は税務課主導で進めてきましたが、今後はより強固にDXを推進していくために、市役所全体として組織や体制の構築が必要になってくるかもしれません。
NTT東日本のホームページで導入事例をみると、多様なIT技術を駆使してさまざまな課題を解決していて、とても参考になります。我々も先進事例に学びながらDX化を進めていくために、今後もNTT東日本からのさまざまな提案やサポートを期待しています。
*上記ソリューション導入時期は2020年4月です。
*文中に記載の組織名・所属・肩書き・取材内容などは、全て2021年9月時点(インタビュー時点)のものです。
*上記事例はあくまでも一例であり、すべてのお客さまについて同様の効果があることを保証するものではありません。
組織名 | 北海道恵庭市 |
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組織概要 | 新千歳空港と札幌のあいだに位置する恵庭市。約7万人が暮らす道央圏の中核都市でありながら、土地の約半分を山林が占め、水資源にも恵まれた自然豊かな地域です。夏は梅雨がなく爽やかで、冬の積雪も北海道の他地域より少なめで過ごしやすいのが特徴です。北海道では数少ない、人口が増加している市でもあります。 また、「花のまち」として全国的にも知られており、令和4年6月25日~7月24日の日程で、道と川の駅にある花の拠点「はなふる」をメイン会場とし、花と緑の祭典「ガーデンフェスタ北海道2022」が開催される予定です。 「恵庭市公式HP https://www.city.eniwa.hokkaido.jp/」 |