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青森県大鰐町は、人口約8500人の中小規模自治体(※1)です。町役場の職員の数も多くなく、自治体DXが遅れていました。そこで内閣府が支援する「地方創生人材支援制度」(※2)を活用して、NTT東日本からデジタル専門人材の派遣を受け入れ、職員と共にさまざまなデジタル関連事業を進めています。要介護認定業務効率化のためのローコード開発や住民向けの情報発信プラットフォームの構築など具体的なこれまでの取り組みと成果、今後の展望などを大鰐町の山田町長とご担当者にうかがいました。
Index

Summary
――大鰐町では、現在さまざまなデジタル関連事業を推進していますが、きっかけや背景をお聞かせください。
山田町長:自治体DX推進計画に基づいて、全国の自治体でデジタル化が急速に進む中、大鰐町の取り組みは比較的遅れていました。高齢化が進み、職員数も減少傾向、さらに今後の2040年問題(※3)なども見据え、少ない職員でも住民サービスの向上を図っていくために、デジタルで解決できることがないか検討を進めていました。そんな中、内閣府が支援する地方創生人材支援制度を知り、デジタル推進アドバイザーとしてNTT東日本の長谷川さんを派遣してもらうことにしました。
長谷川さんは地方創生に関するICT分野の専門家として、職員とさまざまな施策に取り組んでくれました。おかげで、保健福祉課の要介護認定業務の効率化をはじめ、地域住民への情報発信プラットフォームとしてマーケティング機能を有した自治体公式LINE(※4)の構築、農林や建設分野における遠隔での現地確認環境整備など多方面でのデジタル化をスタートすることができました。

――今回、デジタル関連事業の一つとして要介護認定業務の効率化に取り組まれた理由は何でしょうか。
山中氏:デジタル推進アドバイザーから提案(※5)があったことがきっかけです。要介護認定関連業務は、人口8,500人程度の大鰐町でさえ年間700件ほど発生しており、訪問調査をはじめ申請案件の進捗管理、関連書類の保管など、負担は決して小さくありませんでした。
三浦氏:要介護認定業務の効率化に使えそうな既成(市販)ツールもありましたが、料金が高めで、大鰐町のような小さな自治体では費用対効果を考えると導入は難しそうでした。一方で、今回提案してもらったツールは開発費用やランニングコストを抑えられるうえ、ローコードの特性上、改修も比較的しやすく、大鰐町の業務に即したアプリを開発できそうだと考え、一緒に取り組ませてもらうことにしました。
――その他のデジタル化に関連する取り組みとして、住民への情報発信強化のため、マーケティング機能を有したLINE公式アカウント「わにLINE」(※4)を開設しています。こちらはどのような背景があったのでしょうか。
三浦氏:これまで大鰐町の情報発信の手段は、広報誌・回覧・ホームページ・防災無線が中心でしたが、住民へ情報が届いているかわかりにくく、住民の手元に情報が届くのに時間がかかって情報が古くなることもありました。イベントの告知などは早すぎても逆に忘れられてしまうため、企画観光課の職員からは「もっと鮮度の高い情報を届けたい」という声も届いていました。そこで即時性の高い情報発信の手段として自治体SNSの開設を検討することにしたのです。SNSなら町民だけでなく、観光客など町外に向けた魅力発信にも活用できると考えました。
※3第2次ベビーブーム期に生まれた団塊ジュニア世代が65歳以上になる2040年には、65歳以上が全人口の約35%となり、現役世代が減少する問題
※4大鰐町の自治体公式LINE。スマート公共ラボ with LINE GovTechプログラムで構築。
※52023年7月より実証


――要介護認定業務のローコード開発による効率化はスムーズでしたか。
小野氏:まずはNTT東日本(※6)による現業についてのヒアリングのうえ、業務フローを可視化してくれました。要介護認定業務そのものは前任者から引き継いだ業務ということもあり、そこまで課題感があると捉えていなかったのですが、可視化された業務を見ると業務を客観的に判断することができ、課題も浮き彫りになりました。たとえば要介護認定には認定調査票と主治医意見書が必要なのですが、いずれも紙ベースで運用されているため、棚から取り出すひと手間があります。また認定は承認者が多く、紙の書類ゆえに承認に時間がかかっていることもわかりました。そこからどういうツールが必要かを検討し、今回は訪問調査アプリと進捗管理ツールを活用しデジタル化を推進することにしました。
山中氏:開発(※7)にあたっては、模擬の認定調査なども実施しました。NTT東日本はヒアリング力や事象の整理スキルがすばらしく、最終的には業務を担当する私たちよりも業務を理解していると感じたほどです。
約9カ月の実証実験では、2カ月に1回程度ヒアリング・意見交換会を設けて、現場の声を聞きながら機能改修をしていました。既成のアプリだと改修を一つするのも大変で、場合によってはオプション費用もかかりますが、途中でどんどん改修できたのはローコード開発ならではで、早いものは即日対応でした。

小野氏:構築した訪問調査アプリは、これまで紙で行っていた訪問調査をタブレットで実施できるようにしたものです。現場の声を聞いて、手書きメモ欄を設け、特記事項に文例機能を付けて入力を容易にしました。また、要介護認定の二次判定は津軽広域連合(※8)の要介護認定審査会が行っているため、広域連合に提出するフォーマットでの出力も可能にしています。
もう一つの進捗管理ツールは、従来エクセルで行っていた進捗管理をクラウド経由で管理できるようにしたものです。こちらも担当者の意見を反映して、処理ステータスの選択肢を増やすなどしました。どちらも大鰐町の業務にあった使いやすい仕様になっています。
――LINE公式アカウントの開発でこだわったところはありますか。
三浦氏:デジタル事業は、主幹の1課だけでは推進できないと考えていたため、担当課に声をかけ、積極的に参加してもらうことを意識しました。その結果、LINE公式アカウントのゴミ分別チャットボット機能では、該当課である住民生活課が主導でブラッシュアップしてくれましたし、企画観光課からの提案でおすすめスポットの検索機能を追加することもできました。
※6株式会社エヌ・ティ・ティ エムイー青森エリア統括部
※7ローコードを活用したテンプレートの改修・開発
※8二次審査組織
――要介護認定業務のローコード開発で、どのような効果やメリットが生まれましたか。
小野氏:訪問調査アプリでは、特記事項に文例機能を付けたことで、調査員ごとの表現の違いを平準化でき、より正確な判定ができるものになっています。また、進捗管理ツールはもともと町独自のエクセルで管理していたので、検索性に乏しく、過去の開示請求に対応するのも大変でしたが容易になりました。要介護認定は申請から原則30日以内に結果を通知する必要がありますが、進捗のボトルネックが一目でわかるので、期限前に関連組織へ問い合わせることもでき、かなり効率化が図れそうで、業務を完遂しやすくなります。
山中氏:加えて、今回の取り組みにおける最大の効果だと思っているのが、実証実験に関わった職員のDXに対する意識醸成ができたことです。やはり実際に参加してみないとDXがどんなものか、どんなメリットがあるのかわかりません。それを肌で感じられた経験は大きく、今後も継続してDXを推進してくれるだろうと期待しています。

――LINE公式アカウントの開設に関してはいかがでしょうか。
三浦氏:LINE公式アカウントへの登録者数は、2024年度末までに大鰐町の人口の15%程である1,300登録を目標値に掲げていますが、開始2カ月で進捗率が約60%と好調な出だしです。また、職員の情報発信に対する意識も変わりました。たとえば「このイベントは1週間後だからLINEで通知しよう」「これは広報誌に掲載しよう」など、情報によって伝え方を変えるようになりました。LINEの導入という単純なデジタル化にとどまらず、組織文化や仕事のやり方を変えていく、本当の意味でのDXへと進化しつつあります。
――本案件に関して町民の方からお声を頂戴していますか。
山田町長:要介護認定業務の効率化やLINE公式アカウントの開設(※4)については、マスメディアでも広く報道され、他の市町村長から「大鰐町のデジタル化・DX、すごいですね」と声をかけていただいたり、同規模の自治体からDX戦略について問い合わせを受けたりする機会も増えました。

住民からも「わにLINE(※4)によってゴミの分別がわかりやすくなった」といった声も届いており、以前より情報周知がスムーズになったと感じます。今後ますます多くの人に活用してもらえるよう、引き続き取り組みを続けていきます。
――今後の大鰐町のDX推進に関して、予定や展望をお聞かせください。
山中氏:今後は要介護認定業務に似た業務フローである障害認定業務などの効率化も進められそうです。また、今回の実証実験の内容を津軽広域連合の構成市町村へ紹介してみたところ、「使ってみたい」という声も頂くなど、要介護認定業務は効率化への期待が大きい分野なのだと実感しました。今回の私たちの取り組みが、地域の業務効率化にもつながっていくかもしれません。
三浦氏:LINE公式アカウントについても、電子申請など機能拡張を検討し、より使いやすいものにしていく予定です。ローコード開発もいろいろな業務に広げていきたいです。大鰐町の規模ですと、職員自らが業務の片手間にノーコードでアプリを開発するのは難しく、今回のように専門的な知識を持った方にヒアリングしてもらいながらのローコード開発のほうがフィットしそうです。NTT東日本には今後もさまざまな提案を期待していますし、大鰐町としても職員減少にも対応できるデジタル化、さらにその先のDXを進めていきたいと考えています。


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