「人は沿線で動く」。ライバルは近隣の同築年物件ではなく、隣駅の築浅物件かも

イメージ:「人は沿線で動く」。ライバルは近隣の同築年物件ではなく、隣駅の築浅物件かも
  • 不動産業・物品賃貸業
  • フレッツ光・Wi-Fi・通信回線
  • 話題・トレンド
公開日
2026-07-13

著者 上野 典行(プリンシプル住まい総研 所長)

前回のコラム「案内できる物件がない!都心で進む空室不足で、仲介売上も修繕売上も伸び悩む」でも論じたように、
都心回帰が進む首都圏では、家賃高騰も相まって「家賃が高いので、郊外で物件を探す」という入居希望者も増えているようです。
こうした動きで、「他の駅の築浅」も部屋探しの候補になりえるため、空室対策も変わってきました。
今回は、近隣だけではない、沿線の他の駅にあるライバル物件も意識した空室対策について論じます。

Summary

この記事でわかること
同一沿線での、条件による家賃相場の変化
希望物件を探すための、お部屋探しの広域化
比較検討された際に、ライバル物件に「設備で負けない」ために

沿線で、家賃相場は変動する

当たり前と言えば当たり前ですが、電車での通勤通学の多い首都圏では、より都心に近づくと家賃が高くなり、より郊外に行くと家賃が安くなります。
お部屋を探すのに、たとえばSUUMOでは、「家賃相場で探す」というコーナーがあります。
左図にある「家賃相場で探す」のボタンを押して、たとえば沿線で東武東上線を選んでみると、右図のように、都心(池袋)に近いほど高く、郊外に行くほど安くなっていることが分かります。

イメージ:SUUMO・東武東上線

SUUMO 東武東上線・マンション・ワンルームで検索(2026年7月7日時点)


同様に東急東横線で調べてみると、下の左側の図で、やはり同じ傾向になります。
埼玉では北へ行くほど安くなり、神奈川では南へ行くほど安くなりますが、下の右側の図のように、JR中央線沿線の都下では西へ行くほど安くなります。
千葉では、東へ行くほど安くなります。

イメージ:SUUMO・東急東横線、中央線

SUUMO (左)東武東上線・マンション・ワンルームで検索  (右)中央線・マンション・ワンルームで検索(いずれも2026年7月7日時点)


特に都心でこの傾向は顕著ですが、都心以外でも、最寄り駅が繁華街から離れるほど平均賃料は下がる傾向にあります。(ただし、郊外になるほどクルマ社会となり、最寄り駅によってそこまで家賃に差が出ないこともあります。)

同心円で、家賃が変化する

下の図は、SUUMOに掲載されている1K1LDKのアパート物件の平均賃料をプロットしたものです。
すべての市町村をプロットできているわけではありませんが、ほぼ同心円で平均賃料が変わっていることがわかります。
県庁所在地である「さいたま市」がちょっと高めなのも、「さもありなん」と理解できるのではないでしょうか。

イメージ:同心円で家賃が変化する

SUUMOの平均賃料をもとに、プリンシプル住まい総研株式会社がプロットし作成

最寄り駅を変えれば、希望物件が見つかることも

こうした傾向は以前からありました。
私自身が、フリーペーパーの配本計画を立てる際に読者の反響データを分析すると、同一沿線で中心部から郊外へと人が移動する傾向があることをつきとめ、その分析に従って配本をしました。
かなりアナログに分析しましたが、当時は東京大学での学術研究の題材としても呼ばれ、「人は沿線で動く」ことは、県境を越えての部屋探しも多い首都圏では話題になりました。

さて、昨今では、都心回帰で家賃が上がり、物件の在庫は都心部や人気エリアほどなくなっています。
家賃が高くて手が出ないとなれば、ちょっと通勤通学時間がかかっても仕方がないかと、より郊外の駅で部屋探しをすることになります。
テレビの部屋探しのバラエティ番組などでも、はじめは近くを探すものの予算オーバーで、少し郊外で探してみるといったシーンは見かけます。
都心部から少し離れて通勤通学時間を長くすれば、予算以内の物件を探すことも可能になってくるのです。

「間取りタイプ」などの条件を変えれば、 希望物件が見つかることも

さて、今回活用したSUUMOの「家賃相場で探す」は、なかなかよくできています。条件を変えて、相場がどう変わるかも確認ができます。

例えば埼玉県富士見市で、下図のように、「間取りタイプ」でどう家賃が変わっているのかも確認が可能です。
こう見ると、なるほど、「広くなれば高くなる」「狭くなれば安くなる」のは自明の理というわけです。加えて、1LDK2K、2LDK3Kと、広いリビングが家賃を高く設定できていることもわかります。
また、部屋数が倍に増えても、家賃は倍になるほどは上がらないといったことも理解できます。

さらに、マンションタイプのほうが、アパートタイプよりも家賃が高いことも一目瞭然。

イメージ:マンションとアパートの家賃差


駅からの距離で比べると、駅近のほうが高くなり、駅から離れると安くなることもよくわかります。

イメージ:駅からの距離での家賃差


築年数を変えてみると、築浅のほうが築古より高い、ということもよくわかります。

イメージ:築年数による家賃差

どうしても「新築」となると、都心に近いほうが明らかに高くなる

入居者の視点で考えると、例えば「絶対に新築がいい」と考える人もいます。
そうした時に、たとえば東武東上線の沿線で見てみると、ワンルーム・1K1DKの賃料は築年別では下のようになります。

イメージ:沿線の駅と築年数による家賃差

SUUMOデータをもとに、プリンシプル住まい総研株式会社で分析

都心に近い和光駅近隣では、新築はなんと10.4万円。
「うわー高いなあ」となった際に、「では築浅にしますか」となれば、築1-5年で9.9万円、築5-10年で7.8万円となります。
しかし、「絶対、新築がいい」となれば、朝霞・朝霞台なら、7.9万円、ふじみ野で6.3万円、川越で6.1万円、鶴ヶ島で5.9万円となります。
通勤通学時間を妥協すれば、予算内で新築物件を見つけることができるのです。

これから建築しようとする収益物件オーナーは、建築費と利回りだけで考えず、こうしたエリアの相場を意識すべきです。
この表で「全体」と書いてある全築年での平均賃料は、川越は、ふじみ野や鶴ヶ島よりも高い相場ですが、これは、川越で新築物件供給が多かったため平均が高くなっているだけです。新築の相場だけを比較すると見事に北へ行くほど安く、「全築年平均で見ず、新築だけの相場で見るべきだ」ということもわかります。

こだわりの設備付きも、郊外で探せば安くなる

次は、設備別で比較してみましょう。すると下図のように、同じ設備がついていも、郊外に行くと家賃相場が下がることがわかります。

イメージ:沿線の駅と設備状況による家賃差

SUUMOデータをもとに、プリンシプル住まい総研株式会社で分析

和光で、バストイレ別で探す入居希望者が、予算が6万円だとするとなかなか物件に巡り合えませんが、ふじみ野・川越まで行けば、予算内で部屋が見つかることになります。通勤通学時間が長くなってもよしとするか、それともバストイレ別でなくてもよしとするか。こんなふうに、入居希望者は、家賃と通勤時間を天秤にかけているのです。

仮に、「子供の初めての一人暮らしで、防犯対策だけは大事にしたい」と考える親御さんの立場で考えてみると、TVモニタフォンや防犯カメラ付きの物件が、和光ではなかなか予算内で見つからなかったとしても、駅を変えれば「ある」というわけです。

賃貸住宅新聞社の人気の設備ランキングで10年連続一位だった「インターネット無料物件」についても同様で、都心に近いほど家賃は高く、郊外ほど安くなります。

同一沿線の物件に「設備で負けない」工夫を

では最後に、築年数と設備の状況による家賃差を、ふたつのエリアで比較してみましょう。

築年別の平均賃料で比較すると、和光では、新築・築浅は10万円前後で、7割ぐらいがインターネット無料物件。図①のような状況です。

仮に、もう少し家賃をおさえたいので築5年以上でもよいかと探すと、7万円前後まで相場は下がりますが、ネット無料の物件は3割~4割と希少になります。図の②の状況です。

では、もう少し北で探そうとすると、朝霞・朝霞台では8万円前後。ほとんどの物件がインターネット無料となります。図③の状況です。

イメージ:築年数と設備状況、最寄り駅による家賃の比較

SUUMOデータをもとに、プリンシプル住まい総研株式会社で分析

こう見ると、和光に物件をもつオーナーは「周辺の築5年以上の物件もまだまだネット無料でないので、設備強化しなくてもいいさ」と考えてしまうかもしれませんが、入居希望者の視点で見れば「なら、朝霞・朝霞台で暮らせば、新築や築5年以内に住め、インターネットも無料でついている」ことになります。ネットをよく使う人であれば、朝霞・朝霞台に住んだほうが、全体の生活費をお得に抑えることが出来るかもしれません。

このように、「近隣の同じころ建てたライバル物件も、〇〇設備はついていない」というときに、「ほんの数駅先では、その家賃で〇〇設備がついている」という闘いをしているともいえるのです。少し希望駅を広げた場合には、築年の浅い物件と比較検討されることがある、というわけです。

ここまでの分析はしなくとも、「もう何駅か広げてどんな物件があるか見てみよう」と収益物件オーナーはポータルサイトで検索してみてください。築年や立地は変えられませんので、比較される物件に「設備で負けない」という工夫が、必要です。

都心回帰や都心の家賃アップが続く今、自分の周囲の物件との闘いだけを意識せず、同一沿線で少し遠くの築浅物件のついている設備に注目して対策をしていくことが、有効な空室対策でもあり、物件価値向上につながっていくのです。


イメージ:プリンシプル住まい総研 上野氏

執筆:上野 典行(うえの のりゆき)

【プロフィール】プリンシプル住まい総研 所長
1988年慶應義塾大学法学部卒・リクルート入社。リクルートナビを開発後、住宅情報タウンズ・住宅情報マンションズ編集長を歴任。現スーモも含めた商品・事業開発責任者・ディビジョンオフィサー・賃貸営業部長に従事。2012年1月プリンシプル住まい総研を設立。All Aboutガイド「賃貸」「土地活用」。日管協・研修副委員長・中国ブロック副ブロック長。全国賃貸住宅新聞連載。全国で講演・企業コンサルティングを行っている。

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