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世田谷区はNTT東日本とともに総合防災情報システムを構築。被害情報の一元管理、電話での確認に頼っていた避難所の開設や各拠点での体制の確立状況の情報共有・区内の情報発信もシステム化を実現。
Index
東京都世田谷区

(左から)NTT東日本 ビジネスイノベーション本部 地域基盤ビジネス部 公共ビジネス推進グループ 防災インフラDX推進担当 伊藤 想、小竹 徹也、世田谷区 危機管理部 災害対策課 係長 野澤 悠氏、
江田 朱里氏、橘 伸明氏、NTT東日本 東京南支店 第二ビジネスイノベーション部 地域基盤ビジネスグループ 地域基盤ビジネス担当 三須 理史、
デジタルガバメント推進グループ 第二ソリューションコンサルティング担当 原 力斗
Summary

――今回、総合防災情報システムを導入されましたが、導入前の課題や導入を決めた背景などをお聞かせください。
野澤氏:新庁舎建設と合わせて区の防災機能を強化したいと考え、2018年頃から災害対応のシステム化を検討し始めました。世田谷区では、災害時は災対各部と呼ばれる組織に分かれて災害対応にあたりますが、それぞれが紙ベースで情報を管理していたので、一元管理には苦慮していました。警察や消防からの情報や住民からの通報が入ると、紙の伝票に記載して担当へ渡していたので追跡も大変でしたし、本部へ上がってきた情報はホワイトボードに記載し、さらにエクセルにも転記するなど非効率な運用でした。災害対策の拠点は本庁だけではなく総合支所にもあります。加えて、各拠点における避難所開設や体制確立は逐一電話で確認していたので、災害時は電話が鳴りっぱなしでした。
2019年の台風19号の時も、部署間での横連携には苦労したと聞いています。こうした課題を踏まえ、災害対応を今以上に迅速かつ円滑に行うために総合防災情報システムの導入を決めました。
――今回、NTT東日本がシステムを構築していますが、評価のポイントは何でしょうか。
野澤氏:システムは導入して終わりではなく、どう運用していくかが大事です。NTT東日本は、自治体への総合防災情報システムの導入数が最も多く、スキルやノウハウを十分に有していたことを評価しました。西日本豪雨をはじめ、実災害で稼働した実績も多く、その経験をもとにした実用性の高い提案でした。また、実災害の運用時に自治体から寄せられた声をベースに、ソフトウェアのアップデートも頻繁に行われており、最新技術の導入など将来性も期待できました。サポート体制についても「災害時に〇時間以内にサポート職員を派遣する」といった具体的な提案があり、NTTグループとしての体制の手厚さにも安心感がありました。

――実際の導入はどのように進めていきましたか。
江田氏:要件定義の際は、実際のシステム画面を用いながら仕様を提示してくれました。多い時は毎週のように打ち合わせの機会を設けてくれたので、齟齬なく進められました。世田谷区側からは多くの要望を伝えましたが、プラスアルファの提案をしてくれるので心強かったです。
細かな仕様はディスカッションで詰めていきました。クロノロジーの検索タブへの項目追加や災害ごとの組織のグループピングなど、かなり細かいリクエストにも応えてもらっています。パッケージ製品なのでカスタマイズには限界がありますが、できる限り柔軟に対応してくれたおかげで、世田谷区の実情に即した運用しやすいシステムになりました。
災害情報配信や雨量計システムなど外部システムとの連携のために、関連事業者との打ち合わせが発生しましたが、NTT東日本も同席してくれました。必要があれば直接やりとりして調整を進めてくれたので、職員の負担も少なく済み、システム連携もスムーズに完了しました。
野澤氏:構築フェーズにおいては、区役所の視点に立った運用への理解や提案に感謝しています。時にはNTT東日本の担当者がプロダクト開発側へ「世田谷区の体制で運用することを考えると、こうしたほうがいいのではないか」と意見を投げかけてくれることもあり、懸念点を先に潰してくれたので助かりました。

――現時点で何か導入の効果を感じていますか。
江田氏:幸い、システム導入後に大規模災害は起きていませんが、区内における大雨警報発表時や大規模停電時などの小規模災害には活用しています。2024年8月末に土砂災害に関する高齢者等避難を発令し、避難所を開設した際にも活用しました。
大きな変化として実感するのは、各部署の体制や避難所の開設状況が一目で確認できるようになったことです。これまでは各避難所から「今、準備中です」「今、開設が終わりました」と都度、電話で連絡を受けていました。避難所の数は水害時で20カ所、震災の場合は100ヶ所近くに上り、電話対応だけでも大変です。それが今回、各避難所でシステムへ入力すれば全体へ共有されるようになり、電話確認が不要になりました。災害時は情報が錯綜し、伝言ゲームのようになって「言った、言わない」の議論も起こりがちですから、正確な情報の共有が容易にできるようになったメリットは大きいと感じます。また、電話対応の人員が不要になったので、人員の最適化も可能になりました。災害時は限られた人員をどこに割くかが重要です。職員が少ない拠点では、人員最適化の効果もさらに大きくなるはずです。
住民への情報配信も、メール、X(旧Twitter)、Yahoo!防災速報などさまざまな情報媒体へボタン一つで一斉配信が可能になりました。これまでは各システムに個別にログインして配信する必要があったため、大幅に稼働削減が見込めます。このほか、町会や自治会の避難所運営訓練でも使われており、GIS地図上で給水拠点が一目でわかる点などが好評です。
一方で、運用を開始してみると、構築時には見えなかった新たな課題も出てきました。たとえば防災ポータルサイトの避難所開設情報の見せ方など細かな点です。運用開始後も月1回程度の打ち合わせの場があり、そうした課題も検討できています。
橘氏:私は今年度から今の部署に異動してきましたが、システムは直観的で使いやすいと感じます。今後、職員の習熟度を上げ、いざという時にスムーズに使えるよう定着させていきたいと考えています。
そのための取り組みの一つとして、年に2回、システム操作研修を行っています。システム操作の習熟に加え、職員が異動した場合、部署に応じて入力画面が変わるためフォローアップする意味合いもあります。システムのマニュアルはありますが、区独自の運用ルールもあるため、区でもマニュアルを作成し、研修に活用しています。研修ではNTT東日本がクロノロジー機能の演習をしてくれるのですが、単に入力方法を教えるだけでなく、災害を想定した仮の条件下で入力する実践的な内容で、わかりやすいと好評です。終了後はアンケート結果を分析し、次回研修に反映するなど、定着に伴走してくれています。
――今後どのように総合防災情報システムを活用していきたいと考えていますか。
野澤氏:現在、世田谷区では在宅避難の推進に注力しています。在宅避難とは、自宅が安全であれば、避難所へ行かずに自宅で避難生活を送ってもらうことで、プライバシーの確保や衛生面においてメリットがあると考えられています。今はまだ「なにかあれば避難所へ行く」という意識が根強く、在宅避難を推進する上で、自宅であっても避難所と同等の支援をもらえるなど、住民の方々に安心感をもってもらうことが課題です。このような場面においても、総合防災情報システムを活用し、速やかな在宅避難者の情報の把握や備蓄物資の情報を迅速に情報共有、意思決定、伝達を行い、在宅避難の推進につなげていきたいと考えています。
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