記事をPDFでご覧いただけます
本記事をPDFでもご用意しています。ダウンロードの上、社内回覧などでご活用ください。

県土が広く、専門医が岩手医科大学附属病院に集中している岩手県では、医療的ケア児の通院負担は小さくありませんでした。そこで県では、岩手医科大学附属病院へのオンライン診療システム「YaDoc(ヤードック)」の導入を決定し、NTT東日本へ構築を依頼。オンライン診療を実現し、医療的ケア児の通院負担やコロナ禍での感染リスクを軽減するとともに、YaDocの機能を活用してNICU(新生児集中治療管理室)に長期入院している赤ちゃんとご家族とのオンライン面会も実現しました。導入の経緯や成果について、岩手県と岩手医科大学附属病院のご担当者にうかがいました。
Index

Summary
――今回、オンライン診療システムを導入した背景をお聞かせください。
赤坂氏:医療的ケア児は定期的な診療が欠かせません。しかし、岩手県は県土が広いうえに、専門医が岩手医科大学附属病院に集中しており、医療的ケア児や慢性疾患を抱える子どものご家族は通院に大変な負担をしていました。なかには悪路や悪天候で片道2時間以上かかるような遠方から人工呼吸器や吸引機を装着して通院する方もいます。
山﨑氏:そうした現場の声を踏まえ、医療的ケア児のオンライン診療を検討していました。とくにコロナ禍では通院時の移動や院内での接触で感染リスクにさらされますから、患者とご家族を不安から守る必要もありました。そこで国の補助金を活用してオンライン診療を実現し、感染症に強い医療体制を整備することにしたのです。導入後のコロナ禍では、医療的ケア児に加えて、コロナに感染し、宿泊療養施設に入る子どもたちの見守り診療に活用することができました。
――NTT東日本に相談・依頼いただいた決め手は何だったのでしょうか。
山﨑氏:すでにNTT東日本には、岩手医科大学附属病院と岩手県内の県立病院を結ぶ遠隔医療システムを構築してもらっていたので、技術力の高さはわかっていました。さらに、NTT東日本の営業担当は、病気や障がいのある子どもを支援する「いわてチルドレンズヘルスケア連絡会議」にも参加してくれていたので、県の医療の状況をよく理解していました。そこでまずは、NTT東日本へ相談することにしたのです。

――導入まではスムーズでしたか?
赤坂氏:医局のメンバーは日々の診療で忙しく、新しいことを始めるにはハードルがあります。私自身もICTには詳しくないのでハードルは高かったのですが、逆にそんな私から使ってみせることで、医局に積極的に使う雰囲気を醸成できると考えました。
まずは、患者さま数人の協力を得て、試験的にオンライン診療を実施しました。あらかじめNTT東日本とインテグリティ・ヘルスケアが設定を済ませてくれていたので、システムはすぐに使える状態。操作方法や患者さま側でのアプリの入れ方なども丁寧に教えてくれました。
本格運用に入る前には、医師向けに説明会を開催してくれましたし、アプリをインストールするご家族のための操作説明書や、医師向けの使用書も非常にわかりやすいものでした。医療的ケア児のご家族は日々忙しく、難しい操作説明書を読む時間がないので、わかりやすさは重要です。
質問への回答も丁寧で、たとえば一部の患者さまがご自宅のWi-Fi環境が不安定でうまくつながらなかったときも、NTT東日本へ問い合わせると「Wi-Fiをオフにして再試行しては?」と的確な回答をスピーディにいただけたので、とても助かりました。

――今回、YaDocの機能を活用して、NICUでのオンライン面会体制も整えました。この背景を教えてください。
外舘氏:新型コロナ感染拡大防止のため、当院ではご家族の面会を禁止にしています。NICUの新生児は入院が長期に及ぶこともあり、ご家族が長期間赤ちゃんの顔を見ることができない状況が続いていました。新生児医療において、面会は一つの治療といえます。母子関係の確立や愛着形成のためにも、その機会が失われることを危惧していました。
YaDocの機能を活用してNICUでオンライン面会ができる体制を整えたのはそうした背景からです。オンライン面会を担当する看護師はデジタル世代なので、すぐに操作に慣れましたし、患者さまのご家族もスマホにアプリを入れるだけなのでスムーズに使ってくれています。
オンライン面会の実施に当たっては、医療情報や周囲の入院児の個人情報が映りこまないよう配慮しました。パソコンの内蔵カメラだと位置の調整が難しいため、外付けのWebカメラを用意しています。また、運用を簡易にするため、オンライン面会はオンライン診療とは切り離して考え、純粋にお子さまの様子をお伝えする時間にしています。オンライン面会の様子を診療の判断にはしていません。

今では入院する赤ちゃんのご家族の多くがオンライン面会を希望しており、ご家族の不安解消や愛着形成につながっています。また、NICU以外に小児科病棟でも重症児や小児がんなどの慢性疾患の子どもたちがオンライン面会を利用してご家族からの励ましをいただき、治療を乗り越えています。
――導入後の感想や反響はいかがでしょうか?
赤坂氏:オンライン診療は使いやすいシステムで、医師もすぐに慣れました。使い始めた頃、岩手県でコロナ感染が急拡大し、数百名の感染児の見守り診療にも使い、重症化の早期発見やご家族への安心の提供、院内感染予防などに役立てることもできました。
当初の主目的である医療的ケア児とご家族の通院負担を減らし、感染の危険から守ることもできています。とくに呼吸器を使用するご家族からは通院頻度が減って大変楽になったという声をいただいています。
コロナ禍の今は電話診療も認められていますが、オンライン診療のほうが映像を通して自宅での様子もわかり、得られる情報量は通院より多いほどです。場合によっては訪問看護師の補助を入れ、より有効なオンライン診療をめざしています。電話診療だと都合で出られない方もいるのですが、オンライン診療はシステム上でスケジュールを入れるため、時間通りに実施しやすく、また複数人で話しやすいメリットもあります。ただ、なかには電話を好まれる方もいますので、オンライン診療をいかに広げていくかは今後の課題です。ほかに年に一度の主治医と学校の先生の面談にも利用しており、学校での過ごし方も見られて有用です。
外舘氏:NICUでのオンライン面会は、1日に2~3件、1回につき5分程度にしています。アンケート結果も好評で、「安心できた」といわれます。対面の面会が難しかった祖父母や兄姉も面会に参加できるようになり、画面越しに「わあ、かわいい」と笑顔になる様子を見ると、導入してよかったと心から思います。
赤坂氏:赤ちゃんの成長の記録は写真や動画に残す方も多いと思いますが、NICUにいる赤ちゃんのご家族はそれが難しい状況でした。そこでオンライン面会の様子を動画として残し、ご家族に渡せるよう院内で調整しました。新生児期の記録がかたちとして残ると大変喜ばれています。
山﨑氏:県としても医療政策室だけでなく、庁内の他の部署、病院のケースワーカー経験者など、組織の枠を超えて取り組むことができ、さらに病院やNTT東日本とも連携して成果を出せたことが評価され、庁内で「いいね!アワード2021」を受賞しました。意義のある取り組みになったと思っています。

――今後の展開についてお聞かせください。
赤坂氏:ICTは日進月歩で、これまで考えられなかったようなことが実現しつつあります。NTT東日本はほかにも、入院治療中の子どもたちとバスケットボールの選手をオンラインで結び、画面越しのハイタッチで振動を伝える「モバイルハイタッチ」の実証実験などに参画してくれています。今後も入院治療中の子どもたちに多様な経験や学びを届ける取り組みに期待するのと同時に、私たちにも最新の情報を共有いただき、患者さまに何ができるか一緒に考えていきたいです。
山﨑氏:岩手県は医師不足も深刻です。県土が広く、高齢化も進むなか、通院が大変な高齢者の方も少なくありません。今回のオンライン診療システムは医療的ケア児が対象ですが、今後はより多くの人と医療を、ICTを活用して結び付け、岩手県のどこに住んでも安心できる暮らしを実現していきたいと考えています。グループ企業が多いNTT東日本には、これまでも岩手県の医療分野のさまざまなニーズに対応してもらってきました。今後も地域の課題解決に向けて共に取り組んでいきたいと思います。



記事をPDFでご覧いただけます
本記事をPDFでもご用意しています。ダウンロードの上、社内回覧などでご活用ください。
