【生成AI×金融業】金融機関における生成AIの活用動向と導入のポイント

生成AIの活用が進む中、金融機関でも業務効率化やナレッジ活用の高度化を目的とした導入が活発化しています。しかし極めて高い正確性・信頼性が求められる金融機関業務においては、適切な運用体制、ガバナンス、人材育成が伴ってこそ、業務への定着と持続的な活用が可能になります。
本記事では、生成AIと金融機関業務との現在の導入状況や代表的なユースケース、導入におけるリスクとその対応策などについて解説します。
目次:
- 1. 金融機関で生成AIが注目される理由
- 1-1. 文書作成業務の効率化
- 1-2. 膨大な「テキスト情報」の活用
- 1-3. 顧客コミュニケーションの質の向上
- 1-4. リスク管理業務の高度化
- 2. 金融機関における生成AIの導入状況
- 3. 金融機関における生成AI活用ユースケース5選
- 3-1. 内部FAQ・社内ヘルプデスクの自動化
- 3-2. 法務・リスク管理部門でのレギュレーション検索支援
- 3-3. 顧客対応における営業活動支援
- 3-4. 教育・ナレッジ継承の標準化
- 3-5. 議事録・報告書作成支援
- 4. 金融機関における生成AIのリスクと対応策
- 5. 金融機関での生成AI活用をご検討中ならNTT東日本の「生成AIサービス」
- 6.まとめ
1. 金融機関で生成AIが注目される理由
これまでも金融機関では、大量の学習データを元に結果を予測したり、あらかじめ決められた作業を自動的に行ったりする「従来型AI」の活用が進められており、クレジットカードの不正検知や与信審査などで成果をあげてきました。
その上で登場した生成AIは、自ら学習を重ね、柔軟な言語処理や非定型な情報への対応が可能であるため、金融機関が抱える課題解決の手段として注目されています。
1-1. 文書作成業務の効率化
金融機関では、稟議書、報告書、顧客への説明資料、議事録など、膨大な量の文書作成が業務の多くを占めています。生成AIは、これらの文書のドラフト作成、要約、校正を行うことができます。これにより、社員が情報検索や資料作成にかけていた時間が大幅に軽減され、企画立案や顧客対応に集中できると期待されています。
1-2. 膨大な「テキスト情報」の活用
契約書、規制文書、市場レポート、顧客との対話記録など、形式の定まっていない膨大な「非構造化データ」を取り扱う金融機関業務において、従来はその量と複雑さから十分に情報を活用しきれていないという課題がありました。生成AIは、これらのテキストを瞬時に読み解き、要点の抽出や、複数の文書を横断した分析が可能です。これにより、分析作業を支援し、データに基づいた意思決定に役立てることができます。
1-3. 顧客コミュニケーションの質の向上
デジタル化の進展に伴い、顧客はより迅速で、個々の状況に合わせた対応を求める傾向にあります。生成AIの自然な対話能力は、こうしたニーズに応える手段として注目されています。画一的な自動応答とは異なり、一人ひとりの顧客との対話の文脈を理解し、個別に対応することで、顧客満足度の向上が期待できます。
1-4. リスク管理業務の高度化
規制の厳格化やサイバー攻撃の巧妙化により、金融機関のリスク・コンプライアンス管理は、より精緻な対応が求められています。生成AIは、膨大なデータの中に含まれる、僅かな異常やリスクの兆候を発見することに優れており、過去のパターン分析に加えて新たな脅威を早期に分析・特定することで、より高度なリスク管理体制の構築に役立ちます。
2. 金融機関における生成AIの導入状況
金融庁が金融機関などを対象に行ったアンケートやヒアリングを元にまとめ、2025年3月に発表した「AIディスカッションペーパー(第1.0版)」※によると、生成AIの活用を一般社員向けに認めているのは約7割、導入直後から継続的に利用され、活用が広がっているのは約4割となっており、生成AIと金融機関との親和性の高さがうかがえます。
また、汎用の生成AI導入にとどまらず、RAG(検索拡張生成)やファインチューニングなどの手法を取り入れ、社内データベースと外部の大規模言語モデル(LLM)を連携させることで、生成AIのさらなる活用をめざしたカスタマイズを行っている、または検討しているという回答も多く、より正確で実務に即した生成AI利用が求められています。
このような生成AIの利活用が進む一方で、そのリスクを適切に管理・制御するためのガバナンスへの関心も高まってきています。誤情報やバイアス、不正利用への懸念がある中で、いかにして安全かつ信頼性の高い形で生成AIを活用していくか。多くの金融機関が、リスクと価値のバランスを取りながら、次なる導入フェーズに進もうとしている状況です。
出典:「AIディスカッションペーパー(第1.0版) ~金融分野におけるAIの健全な利活用の促進に向けた初期的な論点整理~」(金融庁)
RAGとは?仕組みと導入メリット、使用の注意点をわかりやすく解説
3. 金融機関における生成AI活用ユースケース5選
生成AIは金融機関における多くの業務領域で活用の可能性が模索されており、社内利用はもちろん、対顧客サービスへの間接的な活用へも段階的な導入が進んでいます。以下では、代表的なユースケースを5つご紹介します。
3-1. 内部FAQ・社内ヘルプデスクの自動化
金融機関では、人事・経理・総務といった管理部門を中心に、業務手順や社内ルールに関する問い合わせが日常的に発生します。社内の各種マニュアル、規定集、過去の問い合わせ履歴(FAQ)などを生成AIに学習させることで、「〇〇の申請に必要な稟議書のフォーマットはどこにありますか?」のような自然な文章で質問するだけで、関連情報を探し出して回答を生成します。問い合わせ内容が多岐にわたる現場において、対応の質とスピードを両立します。
3-2. 法務・リスク管理部門でのレギュレーション検索支援
金融業界特有の厳格な法令や頻繁な変更に対応するため、法務・リスク管理部門では膨大な関連文書を日々扱っています。「〇〇法改正に伴い、当行の△△業務規程で変更が必要な箇所をリストアップして」のような自然文での問いかけに対して、これらの文書を横断的に検索・要約し、改正の差分を抽出したり、必要な情報を瞬時に提示したりすることが可能です。規制変更に伴う影響調査の迅速化や、コンプライアンスチェック業務の精度向上と効率化などが期待されます。
3-3. 顧客対応における営業活動支援
営業担当者が顧客訪問前に、顧客情報や市場動向を調べて提案内容を準備するには時間がかかります。また、担当者の経験やスキルによって提案の質にばらつきが生じることもありました。生成AIを活用することで、顧客情報や提案履歴、各種ナレッジを横断的に分析し、市場ニュースなどの外部データを組み合わせて、パーソナライズされた提案内容やアプローチ方法を導き出すことが可能になります。
また、個々が蓄積してきたノウハウを生成AIに学習させることで、暗黙知を明文化し、組織全体で共有・活用する仕組みも構築できます。ロールプレイ研修などにも応用でき、新人の早期戦力化や組織全体の営業力を高める支援ツールとして期待できます。
3-4. 教育・ナレッジ継承の標準化
ベテラン社員の退職や異動によって、業務知識が失われることは金融機関にとって大きなリスクです。生成AIは、過去の資料や実績から業務ノウハウを抽出・整理し、教育用コンテンツやOJT支援ツールとして提供することが可能です。知識の断絶を防ぎ、誰でも再利用可能なナレッジとして共有できます。組織全体の知識レベルの底上げと標準化が期待できます。
3-5. 議事録・報告書作成支援
会議や面談の音声データをただ文字起こしするだけでなく、議事の要点を抽出し、文書として構成します。会話の文脈を把握しながら論点を整理し、文書化まで行うため、単なる記録から「活用できるドキュメント」へと変換可能です。会議内容や活動報告の迅速な共有ができるほか、定型の業務日報や報告書類のドラフト作成にも応用でき、文書作成にかかる時間の軽減に大きく貢献します。
なお、対顧客サービスへの直接的な生成AI活用(対話型チャットボットによる契約手続きなど)は、現時点ではリスク管理やガバナンスの観点から導入が限定的です。一方で、上記のような社内利用や対顧客サービスへの間接的な活用は広がりを見せており、今後の段階的な拡張が期待されます。生成AIは、金融機関の現場に寄り添う形での導入が重要であり、ユースケースごとのリスクと効果を見極めながら進めていく必要があります。
4. 金融機関における生成AIのリスクと対応策
金融機関における生成AIの活用は、業務効率化やサービス高度化といった多くの可能性をもたらす一方で、その業務特性や社会的責任の大きさから、慎重な対応と多面的なリスク管理が求められます。生成AI活用における主なリスクには以下のようなものがあります。
| ハルシネーション | もっともらしく見える誤った内容を生成する現象が起こる。 ⇒法令や商品説明、投資アドバイスなどに誤りがあると、法的責任や顧客トラブルに発展。 |
|---|---|
| ブラックボックス化 | 出力の根拠が不明瞭になりやすい。 ⇒説明責任が果たせず、金融商品や投資判断の根拠としては不適切であり、顧客からの信頼を損なう恐れ。 |
| 機密情報や個人情報の漏えい | 社内の非公開情報や顧客が入力した情報、学習データに含まれる個人情報などが、意図せず出力される。 ⇒個人情報保護法違反や信用失墜に直結。 |
| バイアスや差別的な出力 | 性別・人種・年齢などに基づく偏った情報を生成する可能性がある。 ⇒企業の信頼性を損なったり、特定属性を排除・優遇したりする可能性。 |
| フィルターバブル・エコーチェンバー現象 | 利用者の好みや過去の選択に基づいて、偏った情報だけを提示する。 ⇒多角的な判断が難しくなる。投資判断でリスク分散を阻害する可能性。 |
| 著作権侵害の懸念 | 生成AIが既存の著作物(チャート、レポートなど)に類似した表現を出力。 ⇒権利侵害につながる可能性。 |
こうしたリスクへの対応として、金融機関では「AIガバナンスポリシー」の整備が急務となっています。まず、企業としてのスタンスを明確にするために、倫理指針や原則を策定し、社内外に公表する動きが進められています。あわせて、データ管理やセキュリティを含む社内ルールの整備も不可欠であり、ガイドラインや運用マニュアルの整備が求められます。
体制面では、部門横断的にAI活用を監督する専門委員会の設置や、責任者の明確化といった組織づくりも必要になります。米国と欧州の金融業界においては、AI専門のリーダー(Head of AI)や、AI CoE(Center of Excellence)と呼ばれるAI専門組織を設置する動きがあります。日本でもこれからこのような役職や組織の設置は広がっていくと思われます。
実際の運用では、生成結果に含まれるバイアスや誤情報、ハルシネーションを継続的に評価・モニタリングする仕組みが重要です。ツールやフレームワークを活用し、モデルの品質や挙動の変化(ドリフト)を常時監視することも効果的です。
さらに、外部からの信頼性確保を目的に、第三者機関によるAIモデルの認定・認証を受ける取り組みも増えています。
AIガバナンスには標準的な手法がまだ確立されていないため、先行事例を参考にしながら、柔軟な対策を講じていく姿勢が求められます。特に、社内での適用範囲の明確化や、出力結果の業務反映ルールの策定といった「運用レベルの方針設計」は、日常的な活用の質を左右する要素であり、ガバナンス強化に直結する重要なポイントです。
5. 金融機関での生成AI活用をご検討中ならNTT東日本の「生成AIサービス」
生成AIの活用には、そのリスクや課題を解決するための人材や対策、継続的な運用管理などが不可欠です。NTT東日本の生成AIサービスは、こうした課題を包括的にサポートするAIチャットツールです。
検索や文章作成、アイデア出しなどの日々の業務を柔軟にサポートするのはもちろん、外部データベースを使った検索・回答生成を行うRAG(検索拡張生成)を用いることで、より信頼性の高い情報を、根拠を確認しながら活用することができます。
また、生成AIへのプロンプト(指示)や参照する情報をテンプレート化する機能も特長の一つです。精度の高い回答を効率良く出力させ、作成したテンプレートを組織内で共有することもできます。専門知識がなくても感覚的な利用が可能なため、活用スキルの偏在を解消し、組織全体での活用浸透を促進します。
さらにオプションとして、生成AIサービスの導入から定着までをしっかりとサポートする、さまざまなメニューを提供しています。例えば、情報セキュリティなどのガイドライン策定のサポートを実施する「生成AIガイドライン策定支援」や、RAGテンプレート作成のテクニックや精度改善スキルなどの習得を支援して生成AI活用人材育成を促進する「RAG伴走サポート」などがあります。生成AIを「導入だけで終わらせない」ことを重視し、教育・ルール策定・活用テンプレートの整備までを一貫して支援できるのが、NTT東日本の生成AIサービスの強みです。
セキュリティ、説明責任、制度対応など、金融機関に求められる高度な要件を満たした上で生成AIを業務に活かすためには、専門的な知見と実績ある支援パートナーの存在が不可欠です。NTT東日本の生成AIサービスは、金融機関特有の要件にも対応しながら、業務プロセスへの生成AI活用を支援します。初期導入のご相談からPoC設計、本番環境への展開まで、ぜひお気軽にご相談ください。
6. まとめ
金融機関における生成AIの活用は、業務効率化だけでなく、ナレッジの標準化や人材育成、リスク対応力の強化など、企業の成長に必要なさまざまな価値をもたらします。一方で、導入には慎重な検討と体制整備が求められます。NTT東日本では、こうしたニーズに応える安全・安心な生成AIソリューションを提供しています。今後の生成AI活用に向けた第一歩として、ぜひ活用をご検討ください。
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