COLUMN

使いなれた「電話」と最新の「クラウド」の組み合わせによる防災・防犯・みまもり 〜 シン・オートコール 〜 セミナーレポート

デジタル社会実現ツアー2022

開催期間:2022年9月14日 ~ 9月30日

講演者:NTT東日本 ビジネス開発本部 特殊局

担当課長 鈴木 巧

2022年9月14日から9月30日に渡って開催されましたAWS主催の「デジタル社会実現ツアー2022」の「ブレークアウトセッション」内の「パートナー実践事例を確認したい」のコーナーにて「Case Study - 陸前高田市、埼玉県上里町 : 使い慣れた「電話」と最新の「クラウド」の組み合わせによる防災・防犯・みまもり ~シン・オートコール~」というテーマで参加いたしました。そのセミナーの模様をレポートさせて頂きます。

セミナーをお聞きいただけなかった方のご参考となれば幸いです。また、レポートをご覧になっての疑問点や質問事項などございましたら、お問い合わせを頂ければと思います。

1.取り組み・開発の背景

先ずは今回のテーマであるシン・オートコールの開発に至った背景について紹介しました。

2.シン・オートコールとは

次にシン・オートコールについて、詳細な説明をおこないました。

2-1. シン・オートコールの開発コンセプト

「使い慣れた電話と最新のクラウドの組み合わせ」で、いろいろ便利なことを実現していこう!

そういう意味をこめて、雲と電話の掛け算で表現

電話というのは、固定電話機に限らずスマートフォン、アプリなど、さまざまな手段でできるようになったが、特に電話での連絡が中心となる高齢者の方にも受け入れもらえるよう”黒電話でもつかえる”をコンセプトに開発

2-2. シン・オートコールの概要

自動で電話をかけたり、SMSを送ることはもちろんの事、その結果を活用したり、既存で利用しているサービスとの連携も含めて迅速に進化していくことを重視したものとなっている

自動架電にとどまらず、結果の活用・他サービス連携等、地域と共に『進化』をめざします

シン・オートコールはAmazon ConnectやLambda、DynamoDBといったAWSの諸機能を組み合わせ、①から④までの流れを実現

有事を想定し、日頃から訓練しておくことで、習熟度を高めるだけでなく、以下のように一旦納品したら、それでお終いとしないソリューションを目指している

  • 手の届き難い部分の改善
  • 次回のアップデートへの反映

2-3. シン・オートコールの“3つのポイント”

❶ 電話=”声”をつかったやりとりのDX [UI/UX]
『デジタル化するもの』 『人手で実施すべきもの』を仕分け・フィッティング “声”という手段を大切に

全てをデジタル化するのではなく、本当にFace To Faceでやるべきところは残しつつも、自動化していいところはどこなのか、結果はどこまで掘り下げて収集すればよいのか、ちょうどよいところを探すべく「フィッティング」をしていく

❷ 実際に使う方と”一緒に”つくる [結果の収集・活用]
情報の発信する側・受け取る側、どちらも『欲しい情報』や『うれしいしくみ』を一緒に考える

情報の発信側だけでなく受けとり手側にとって、どちらにも嬉しい仕組みとなるよう実際に使う方と一緒に考える

❸ 常に”シン化(進化・深化)”すること [拡張性]
人がシステムに合わせるのではなく、人にシステムが合わせる、最新機能をわかりやすく提供

クラウドは常にアップデートが行われている

それを使いこなして分り易くしたものをお客さまにお届けしていく

2-3-1. 電話=”声”をつかったやりとりのDX [UI/UX]

電話番号を地域・役割・属性・優先度に応じてグルーピング

~ワンクリックで、きめこまかく・タイムリーな情報の伝達~

電話をかけるオートコールでは、電話番号毎にきめ細かく、タイムリーな情報配信を事前に設定した内容に基づきワンクリックで一斉発報することを可能に

ダイヤル操作だけでなく、声をつかった応答、一方通行ではなく双方向

~はい、いいえ、相談したい、自由発話、多言語対応~

1や2などボタンを押して情報を取得する再配達受付システムのような仕組みのダイヤル操作だけではなく、「はい」「いいえ」「もう一度」「他にも」「たとえば相談したい」等と言えば実際に有人オペレータにつなげることも可能

最近実装したものに自由発話がある

「私はだれだれと一緒に避難しています」といったような防災上極めて重要な情報について人手を介さず収集

その音声をテキスト化し、後で目視にて補正できるような画面も用意

また、日本語だけでなく海外の言語にも予め設定しておくことで対応可能

専用装置やアプリは不要、使いなれた「電話」を活用

~追加投資・在庫管理や習熟稼働の軽減へ~

住民は、これらを実現するために専用の装置やアプリケーションの習熟をすることなどは不要であり、ただ使い慣れた電話機のみ

そのため費用面や稼働面の軽減につなげられる

2-3-2. 実際に使う方と”一緒に”つくる [結果の収集・活用]

情報を”発信する側”も“受け取る側”も、どちらも『欲しい情報』や『うれしいしくみ』を一緒に考える

未応答・応答だけでなく、能動的に切ったか、放置したか、折り返したか等いつ・どこまで聞いたかを詳細に ⇨ 安否確認をする上で重要情報

シン・オートコールは、電話の会社のこだわりを大切にしており「電話に出た」「出ていない」だけでなく「能動的に電話を切った」「放置してしまった」はたまた「留守番電話」「折り返した」等、詳細に結果を残せるようにしている

これは防災や見守りなどにおいて、重要な情報と考えている

結果はWebで閲覧可能、自治会長等地域のリーダーは電話で結果(避難状況等)を確認可能

これらの結果はインターネットに接続されたパソコンやスマートフォンのブラウザで閲覧することができるのはもちろん、自治会長など地域のリーダーが、電話でその地区の避難状況を音声で確認することができる

上記機能のほとんどが、住民や自治体との対話の中でアドバイスや意見として提示された内容・アイデアを元にしている

2-3-3. 常に”シン化(進化・深化)”すること [拡張性]

『人がシステムに合わせる』<『人にシステムが合わせる』

 常に進化するクラウドの最新機能をわかりやすく

API連携(ビジネスチャット、地図情報、メッセージアプリ/SNS等)

電話にフォーカスしたソリューションではあるが、クラウドならではのAPI連携により他サービスとの連携を実現

ビジネスチャットや地図情報との連携実績やTwitterとの連携も実装

録音装置等で情報配信している場合、音源をシン・オートコールと連携することでハードウェア → クラウドベースへ

防災情報などを録音装置などのハードウェアを用いて行っている地域に対し、音源をクラウドに連携することでクラウドベースに移行することを可能に

音声認識、Speech To Text、いずれは感情分析も…

音声認識やテキストToスピーチについて、将来構想として感情分析や声紋認証などへのチャレンジを考えている

3.地域のみなさまとの具体的なとりくみ

ここからは、地域の方々との具体的な取り組みを2つ紹介しました。

3-1. ■上里町■ 災害対策基本法改正をふまえた取り組み

3-1-1. 防災無線の補完、避難所受付、要支援者/支援者の情報連携をデジタル化

上里町で実施された避難所開設訓練に合わせ、オートコールの仕組みを訓練に取り入れ、その有効性や課題などを検証。

2021年9月に訓練を実施したこの年は5月に災害対策基本法改正があり、個別避難計画の努力義務化が始まった年でもあった。

この訓練では、「防災無線が聞こえ辛い」という課題に始まり、図のような「避難所への避難完了までの流れをどのようにデジタル化できるか」という課題解決をテーマとした。

コロナ禍ということもあり、職員を中心とした参加となったが、次のような仕組みを確立できた。

  • シン・オートコールによる情報配信
  • それを聞いた参加者が避難所に到着
  • 避難所では予め渡しておいたセンサーで入室受付を実施
  • その結果をチャットやSMSで関係者に共有
3-1-2. 自治体の方と避難訓練を通じて必要なしくみを共創

防災訓練に取り込んだことで、これから紹介する課題解決の糸口を発見。

上里町より例えば以下のような、さまざまな意見を頂き、現在それらを反映すべく機能実装を進行。

  • みまもりや健康確認など、有事の際だけでなく平時でも利用できるようにして欲しい
3-1-3. 地図情報連携による応答状況可視化

地図情報との連携では以下を実施

避難者名簿等を意識し、電話番号と住所に紐付いた避難者の住所にピン打ち

避難所からの応答結果より避難状況を可視化(実際に避難が完了すると避難所アイコン避難人数としてカウントされる)

3-1-4. ビジネスチャットでの状況確認・情報共有(発報も可能)

ビジネスチャットとの連携では以下を実施

今回の訓練では実験的に当社グループのビジネスチャット:elganaを使用

共有された結果はスマートフォンアプリでも確認可能なため、メールなどでいちいち共有する手間を解消

応答結果を表示するだけでなく、チャットボットに「発信して」と頼めば、一斉発報することも可能に

3-2. ■陸前高田市■ 自治体・自主防災組織との取り組み

3-2-1. 一斉同報の輪を地域・住民へと広げ、自助・共助・公助のデジタル化をめざす

東日本大震災での津波により甚大な被害を受けた陸前高田市では、津波だけでなく土砂災害や河川の氾濫などの災害も発生し、地域防災のあり方が課題となっていた。

特に深い山間では防災無線が届かないため、未だ電話が連絡手段の中心とならざるを得ない状況にある。

そのため、安否確認の際には自主防災組織や自治会の担当者が次のような対応に追われているとのこと。

  • 相手が電話に出ない場合、電話をかけ続ける
  • 場合によっては住宅を回っての安否確認を行う

自助・共助とは言われるものの、どのような仕組みがあれば、少しでも前に進み、誰一人取り残さない防災が実現できるか、自治体・自治会の方々と議論を行った。

そこで、2022年3月に陸前高田市の下矢作地区のみなさまのご協力の元、シン・オートコールの実用性について検証を行った。

ここでのポイントは、地域防災目的にシン・オートコールを地域の方に体感いただき、一斉に連絡するだけでなく、各地域の実情を踏まえ、この仕組みが有効なのか確認することにあり、得られた意見を元にした開発をスタートした。

3-2-1. 地域のみなさまにプロトタイプを体感いただく

下矢作地区の各区7区の自治会長、参加頂いた住民の方々から次のようなシン・オートコールのプロトタイプを体感した感想や意見を頂いた

  • 電話での情報伝達は有効だが、最近はスマートフォンユーザが多く、呼出しに応えて、ダイヤルパッドを出すのは結構難しい。また、耳から離してダイヤルしている内に聞き逃してしまうこともある
  • 固定電話の場合、詐欺対策で留守電にしているため、「緊急電話だ!」と分からないと放置してしまいそうだ

頂いた意見を踏まえ、次の対策を実施

プロトタイピングした結果を再度体感して頂きながらイメージをすり合わせ、訓練までの2ヶ月程度のアップデートを重ねていった。

  • 最新の対話AIを活用した「はい/いいえ」による安否登録
  • 一見アナログ的手法だが、警戒レベルに応じたサイレン音を鳴らす
3-2-2. 出来上がったしくみを地域の防災訓練に

アップデートを重ね出来上がった仕組みを実際に下矢作地区での防災訓練に取り入れて頂いた。

使う方の声をしっかりと聞き、素早く、必要なものを必要なだけ作るアプローチ

自治会や住民の方もプロトタイプの進化の過程をご覧頂き、しかも自分自身の意見が反映されたこともあり、警戒レベル3、4、解除の通知電話では、その成果を実感して頂いた。

自治体の方と「どのような画面」、「どのようなインターフェースで発信」して結果を見たいのか、議論を重ね、要望通りの作りになっているかを確認して頂いた。

周辺自治体や大学関係者の方にもご参加いただく ⇨ 自助・共助を考える”輪”

今回の訓練を通じ、防災意識を高めるだけでなく、デジタル化などICTを活用した地域課題解決に取り組み、その模様を周辺自治体や大学の防災関係者に紹介することで、さまざまな課題を乗り越え、被災地「陸前高田市」としての取り組みを発信している

NTT東日本として、今後もこのような取り組みの一助となるべく、シン・オートコールを進化させていく考えです。

3-2-3. 住民の方の意見を反映した「はい/いいえ」による安否確認

使い慣れた電話に、最新の対話AIを組み合わせ

電話が唯一の情報取得手段という方でも、デジタル化の効果・効用を

上記はダイヤル操作ではなく、音声認識により、安否登録を行う仕組みの概略図となっている。

Amazon Lexを活用することで「はい」「いいえ」だけでなく「もう一度」なども認識が可能であり、調整次第では、方言にもある程度対応できるのではないかと考えている。

プッシュ信号が送れない機種や回線を利用している、いわゆる“黒電話でも使えるようなサービスをめざしたい“というコンセプトは、住民の方々の要望から発して、より具体的なものとなって実現に至っている。

4. ご提供のながれ

シン・オートコールを提供するまでの流れについて説明します。

4-1. シン・オートコールのご提供のながれ

[提供までのながれ]

  • 訓練や体験会などでプロトタイピング、住民意見や職員意見をもとにブラッシュアップ

    これまで紹介したように先ずは、防災訓練などで実際に体感して頂き、そこで挙がった要望や意見をしっかり反映させたものを製作し、提供する。

  • お客さまAWSに必要な機能を構築 … 小さく始めて、大きく育てる

    アプリケーションを一式入れるのではなく、まずは使うものだけ、必要なものだけを製作し「小さく初めて、大きく育てる」を一緒に実現していく

[提供方法・費用等]

  • 構築等費用は個別見積もり(受託/クラウド導入・運用サービスどちらも個別に積算)

    まず、お客さまのご要件を伺い、訓練等のプロトタイピングもふまえて個別の見積を出していく

    初期構築費用については、最初に作成する機能の新規開発度合い、規模により変動

  • 月々の運用費はリセール+AWS利用料(Amazon Connect、Lambda、DynamoDB等)

イメージとして以上のように、タスタマイズ重視か、スピード重視かによって、契約の形態、方向性など2パターンを用意

5. シン・オートコールの取り組みの広がりについて

最後に、シン・オートコールの取り組みの広がりについて解説します。

5-1. シン・オートコールのひろがり 〜”声”を使う業務領域のデジタル化〜

シン・オートコールは、Amazon Connectのように音声を扱うクラウドサービスを中心に作成している。

これは、電話機よりも「声」を使う業務領域が非常に多岐に渡ることから、まずは「声」を使う業務領域からデジタル化を進めていくのが分り易いと考えたためである。

今回、紹介した2つの事例の他にも、特殊詐欺対策訓練や標的型SMS訓練など、シン・オートコールの仕組みを活用した事例・実績が多数存在している。

例えば、「注意喚起」という側面から、デジタル化や可視化をすることにより、対策を具体化していく可能性への追求。

防災利用の際の河川監視や入退室管理などの連携をはじめ、日々の健康確認、また最近ではワクチン接種のリマインドや各種問い合わせ対応等、さまざまな引き合いや相談事項が存在している。

このようにシン・オートコールにより、声を使う分野のデジタル化を進め、そのデータを上手く活用することで、地域の方々が求めるデジタルトランスフォーメーション実現の一助となれればと考えております。

6. おわりに

本レポートでは「Case Study - 陸前高田市、埼玉県上里町 : 使い慣れた「電話」と最新の「クラウド」の組み合わせによる防災・防犯・みまもり ~シン・オートコール~」を紹介しました。「声」を使う業務領域の可能性について検討中の方の参考になれば幸いです。

NTT東日本では、今回紹介しました「シン・オートコール」はじめ、さまざまなクラウドソリューションを提供しております。

特にシン・オートコールにつきましては、実際にデモをご体感いただき、どのようなシーンにフィッティング可能なのか、お話させて頂きたいと考えておりますので、是非一度お問い合わせください。

  • シン・オートコールはNTT東日本の登録商標です。機能または仕様の一部は特許出願中です。
  • Amazon Web Services(AWS)は、米国その他の諸国における、Amazon.com, Inc.またはその関連会社の商標です。

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