医療現場に広がる生成AIの可能性とは?業務支援・情報活用の最新動向を紹介

医療現場における生成AIの活用が急速に進み、診療記録やレセプトの作成、画像診断や手術支援など従来はヒトの手に頼っていた業務が生成AIによって効率化されつつあります。一方で、医療分野特有のリスクやガバナンスへの配慮も不可欠です。本記事では、医療機関や関連部門で導入を検討する方に向けて、医療業界で生成AIが注目される背景から具体的なユースケース、導入時の注意点などを説明します。
目次:
- 1. 医療業界で生成AIが注目される背景
- 2. 生成AIを医療現場で活用するメリットと導入の現状
- 2-1. 医療データ処理の効率化と業務負担の軽減
- 2-2. 医療の質向上と知識活用
- 2-3. 患者利便性の向上と地域医療格差の解消
- 2-4. 導入の現状と今後の期待
- 3. 生成AIの医療現場での活用ユースケース
- 3-1. 医師の業務支援
- 3-2. 看護・医療スタッフの業務支援
- 3-3. 患者対策・遠隔医療支援
- 3-4. 教育・研修支援
- 3-5. 研究・創薬支援
- 4. 医療分野特有のリスクと対策
- 4-1. 正確性・信頼性に欠ける情報の生成
- 4-2. 個人情報・機密情報の漏えい
- 4-3. 法令違反のおそれ
- 4-4. 判断根拠のブラックボックス化
- 4-5. 組織的な利用ガバナンスの欠如
- 5. 医療機関での生成AI活用をご検討中ならNTT東日本の「生成AIサービス」
- 6. まとめ
1. 医療業界で生成AIが注目される背景
現在、医療業界が直面しているさまざまな課題とその背景について説明します。
-
人手不足と働き方改革による業務効率化の必要性
「医師の働き方改革」による労働時間の上限設定や、看護師や医療事務など幅広い職種における深刻な人材不足により、限られた人員で質の高い医療を維持するための業務効率化が求められています。 -
非構造データの集中と文書業務の負担
電子カルテや診療記録など、医療現場には自由記述形式の非構造データが多く、文書作成・読解・整理の負担が現場に集中しています。 -
高齢化社会における医療ニーズの多様化
高齢者の増加により、慢性疾患の長期管理、複数診療科の連携、介護や生活支援との接続など、多面的な対応が求められています。 -
多職種連携・チーム医療における情報の断片化
医師・看護師・薬剤師・リハビリ職など、各職種での記録の書き方や視点が異なるため情報が断片化しやすく、診療効率への影響が懸念されています。
2. 生成AIを医療現場で活用するメリットと導入の現状
このような医療業界で抱えている多くの課題を解決する手段の一つとして注目されているのが、生成AIです。
2-1. 医療データ処理の効率化と業務負担の軽減
生成AIを導入することで膨大で非構造な医療データを要約・整理し、文書業務の負担を軽減できます。それにより医療従事者だけでなく、診察の待ち時間の解消など、患者への負担を改善につながります。
2-2. 医療の質向上と知識活用
生成AIが最新のガイドラインや治療法を学習することで、より安全で質の高い医療の提供に役立てることができます。
2-3. 患者利便性の向上と地域医療格差の解消
生成AIによる音声入力のデータ化や円滑なチャットボットでの応答は、遠隔地への適切な情報提供や診断を可能にします。患者の利便性の向上と、高齢化社会や地域の医療格差の問題を解決するものとして、生成AIの活用が期待されているメリットの一つです。
2-4. 導入の現状と今後の期待
2024年には、医療AIプラットフォーム技術研究組合による「医療・ヘルスケア分野における生成AI利用ガイドライン(第2版)」※1が発表され、導入のための環境整備が着々と進められています。
しかしながら、全国の医療機関を対象に調査が行われた、既存のAI製品の医療機関への認知と導入実態の調査結果(2025年6月発表)によると、翻訳などの医療サポート的な機能については導入が始まっているものの、「ケアプラン・リハ計画」「薬歴・退院サマリ作成」については他と比べて導入比率が低いなどが見られ、今後生成AIなどを利用した製品の活用が期待されるとしています。※2
3. 生成AIの医療現場での活用ユースケース
「医療・ヘルスケア分野における生成AI利用ガイドライン(第2版)」では、医療現場への生成AIの導入について、さまざまなユースケースを想定しています。そのいくつかを紹介します。
3-1. 医師の業務支援
- 医師が診察情報を音声入力し、生成AIがカルテ、処方箋、主治医意見書などを作成します。
- 問診表、カルテ、検査結果などのデータを生成AIが取り込み、可能性の高い複数の病名をサジェストします。また、治療方針(医薬品・検査など)のレコメンドを行います。
3-2. 看護・医療スタッフの業務支援
- 医療事務における診療情報などを音声入力し、生成AIがレセプト(診療報酬明細)を作成します。
- カルテ、看護記録、検査結果などのデータを生成AIが取り込み、医師・看護師・薬剤師・医療事務職員が患者や患者家族へ行う説明や声かけなどについて、情報の質や共感度の高い文章を作成します。また、患者説明における難解な医療用語の分かりやすい変換や、外国人患者向けの翻訳をサポートします。
3-3. 患者対策・遠隔医療支援
- 問診内容を音声入力や、筆記した文字の認識により、生成AIが問診票を作成します。
- 患者のバイタルデータや臨床メモなどのデータを生成AIが取り込み、患者の生活習慣改善促進や服薬確認などを行うメッセージや音声を作成して送信し、治療をフォローアップします。
- 自宅などから患者が入力した症状データを生成AIが取り込み、適切な受診先・診療科を提案して早期受診を促進し、連携医療機関への情報送信を行います。
- 患者の問診フォームへの入力データを生成AIが取り込み、入力内容から感染疑いのある患者を判別、アラートを発信して個室などへの案内対策を行い、院内感染リスクを低減します。
3-4. 教育・研修支援
- 検査画像などの医療データを生成AIが取り込み、研修に活用可能な読影用X線画像などを作成し、指導医・研修医などが活用します。また、研修用ケーススタディ(症例教材)の自動作成や試験問題の作成を行います。
3-5. 研究・創薬支援
- 臨床試験データを生成AIが取り込み、研究データを処理・分析し、論文の草稿や集計表などを作成します。また、関連する研究論文の検索、サマリ文章の作成、臨床試験の目的に合わせた合成データの作成などを行います。
上記にあげたユースケースは、研究段階や実証・構想段階のものも含まれますが、ドキュメントワークや患者トリアージなどは、すでに導入が開始されているところもあり、作業効率化・患者や医療従事者の負担軽減を実現しています。
その他にも、例えば創薬支援の分野では、富士通株式会社と国立研究開発法人理化学研究所では、生成AIを活用して大量の電子顕微鏡画像からタンパク質の構造変化を広範囲に予測できる創薬技術を2023年に開発しています。※1
また広島大学では、「生成AIを活用して、治療前のMRI画像から治療予後の画像を作成する」という研究において高い予測精度を確認※2するなどの成果をあげており、医療の生成AIユースケースは今後もさまざまな角度から研究や導入が進んでいくと思われます。
4. 医療分野特有のリスクと対策
医療現場での生成AI活用にあたって重要なのは、患者の命や健康に直結する重大な業務であるという点を踏まえたリスク管理です。生成AIの使い方によっては、医師法や医療法、健康増進法などの法令に違反する場合もあるということを念頭におき、導入や導入後の環境整備を進めていくことが大切です。ここでは、医療分野で特に注意すべきリスクと対策を整理します。
4-1. 正確性・信頼性に欠ける情報の生成
【リスク】
生成AIは、事実と異なる情報を生成してしまう「ハルシネーション」の問題を抱えています。医療分野でこれが発生すると、診断名や治療法、投薬量など医学的に誤った内容が提示される可能性があり、患者の安全に深刻な影響を及ぼすリスクがあります。また、出力内容が学術的根拠や最新の診療ガイドラインに基づいていない場合、誤診や不適切な治療につながる恐れもあります。
【対策】
生成AIの出力内容は必ず医師などの専門職によるレビューを前提とし、「診断や治療の最終判断は必ず医師などの専門家が行う」という運用ルールを徹底する必要があります。根拠となる出典や根拠を明示させるプロンプト設計を行い、出力内容を必ず二重チェックして継続的な評価・改善を行うことが、安全に活用するための重要なポイントです。
4-2. 個人情報・機密情報の漏えい
【リスク】
患者情報などのセンシティブデータを扱う医療分野では、個人情報保護法への違反や漏えいリスクが大きな懸念事項です。生成AIをクラウド環境で運用する場合、外部通信を通じた情報漏えいの不安もあり、法令順守と情報セキュリティ対策の両面で高いリスク管理が求められます。
【対策】
「データを外に出さない工夫」として、入力段階での匿名化やマスキング、さらには閉域ネットワークの利用など、外部への不要な流出を防ぐ仕組みを整える必要があります。また、「クラウドベンダーとの契約管理」において、個人情報の取り扱いに関する安全管理措置や責任範囲を明確にし、越境移転(海外サーバー経由)の有無やデータ再利用の禁止といった条項をしっかりと確認・締結することが求められます。
4-3. 法令違反のおそれ
【リスク】
生成AIを医療分野で利用する際には、医師法や医薬品医療機器等法などの法令に抵触していないか、チェックが必要です。例えば、診断書や処方箋は医師のみが作成可能であり、生成AIが作成した文書を医師が確認せずに使用すれば違反となります。また、服薬指導は薬剤師が行うべき業務であり、生成AIが直接患者に提示した場合も違反に該当します。
【対策】
生成AIの利用範囲を「補助的な支援」に限定し、最終的な判断や文書の承認は必ず医師・薬剤師などの専門職が行う体制を徹底することが不可欠です。加えて、医療関係の法令を遵守するためのガイドラインや内部ルールを策定し、AIの出力結果は必ず人間がレビューするプロセスを組み込む必要があります。
4-4. 判断根拠のブラックボックス化
【リスク】
生成AIは膨大なデータから統計的に推論を行う仕組みであるため、その回答がどのような根拠に基づいて導かれたのかを利用者が理解しにくいという問題があります。特に医療分野では、診断や治療方針の決定に際して「なぜその結論に至ったのか」を説明する責任(アカウンタビリティ)が求められますが、AIの出力をそのまま利用すると判断過程が不透明なまま業務に反映され、患者や第三者への説明責任を果たせないリスクがあります。
【対策】
生成AIの回答を業務に活用するには、出力内容の「根拠」を確認できる仕組みが不可欠です。特に医療のように説明責任が求められる分野では、RAG(Retrieval-Augmented Generation)を導入し、出典を明示するプロンプト設計を取り入れつつ、AIが外部データベースから取得した情報から回答を提示する方式が有効です。これにより、生成AIの回答の根拠が分かり、判断の透明性や判断プロセスの説明責任を担保できます。
4-5. 組織的な利用ガバナンスの欠如
【リスク】
個人の判断に任せた利用では、例えば、入力データが再学習に使われて情報が外部に流出したり、薬事承認を受けていないAIを医学的判断に利用したりといった事例が発生し、情報セキュリティリスクや法令違反の恐れなどが高まります。また、利用ルールが不十分な場合、職員による誤用や過信、あるいは使い方が分からないことによる導入効果の低下も懸念されます。
【対策】
組織として利用可能な生成AIサービスを適切に選定し、情報セキュリティ・データ利用設定・薬事承認の有無などの観点から利用基準を明確にする必要があります。組織全体での利用ルール、禁止事項、利用状況の定期的チェックを含めたガバナンス体制を確立することが重要です。院内で生成AIのメリットとリスクを理解させる研修を実施し、過信や誤用を防止するとともに、安心して活用できるスキルを習得させることが求められます。
5. 医療機関での生成AI活用をご検討中ならNTT東日本の「生成AIサービス」
生成AIを診断や処方などの医療行為に直接用いることは、まだ研究や実証が進められている段階といえますが、日々業務で発生する膨大な文書の作成や専門資料の検索といった業務支援の領域では、生成AIの導入による大きなメリットが期待できます。
NTT東日本が提供する「生成AIサービス」では、RAG(検索拡張生成)を活用することで、蓄積されたガイドラインやマニュアルを参照しながら信頼度の高い回答を提示し、情報検索の効率化を実現します。その他にも文章要約、文書作成、添削、アイデア出しなど、日々の業務を強力にサポート。組織内で共有できるユースケースごとのテンプレート機能を提供しているので、効率良く活用を促進します。
また、クローズドな環境構築や情報セキュリティ対策、ログ監視により、センシティブな医療データを安全に取り扱える体制を提供。加えて、生成AIの概論やプロンプト技術を学ぶ「生成AI研修」や「生成AIガイドライン策定支援」などの伴走支援を通じて、導入後の定着をサポートします。
6. まとめ
医療機関での現場において、文書作成や情報検索などの業務支援領域では着実に活用の幅が広がりつつあります。しかし、安全に導入して効果を定着させるためには、個人情報保護や法令順守、説明責任といったリスクを正しく認識し、回避策を策定するとともに、院内で十分に周知・徹底することが不可欠です。しかし、日々の業務で多忙を極める医療現場において、これらを自力で整えるのは容易ではありません。
NTT東日本は、こうした課題を踏まえた環境構築から導入支援、運用研修までを包括的にサポートし、医療現場における生成AI活用の定着を後押しします。医療現場における生成AIの導入をお考えの方は、ぜひNTT東日本にお任せください!
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