RAGとは?生成AIの精度を高める「検索拡張生成」の基本と導入のポイント

近年、生成AIの導入が企業や自治体で急速に進む一方、「精度が不安定」「社内ナレッジを活かせない」といった課題も多く聞かれるようになりました。こうした中で注目を集めているのが、「RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)」という技術です。RAGは、生成AIと外部の情報検索機能を組み合わせることで、より正確で信頼性の高い回答を可能にします。本記事では、「RAGとは何か?」という基本的な内容から、従来の生成AIとの違い、導入メリット、社内ナレッジとの連携による活用方法まで、実務に即した視点で解説します。
目次:
- 1. RAGとは?
- 2. RAG導入が注目される背景
- 3. RAGの仕組み
- 3-1. 検索フェーズ
- 3-2. 拡張フェーズ
- 3-3. 生成フェーズ
- 4. 回答精度を向上させるファインチューニング、プロンプトエンジニアリングとの違い
- 4-1. ファインチューニングとは
- 4-2. プロンプトエンジニアリングとは
- 5. RAGのユースケース|社内ナレッジを活かす業務別の活用例
- 5-1. カスタマーサポート
- 5-2. 社内システムのヘルプデスク
- 6. RAGを活用する際のポイント
- 6-1. 導入目的の明確化、対象業務を選定する
- 6-2. データ整備と活用ルールを策定する
- 6-3. 情報セキュリティ対策を行う
- 6-4. 回答精度向上の施策を実施する
- 7. RAG環境の構築でお悩みならNTT東日本の「生成AIサービス」
- 8. まとめ
1. RAGとは?
RAGとは、日本語で「検索拡張生成」と訳される、生成AIに外部情報の検索機能を組み合わせた技術です。RAGは、ユーザーからの問いに対して、まず関連する情報を外部のデータベースや社内文書などから検索し、その検索結果をもとに生成AIが回答を出力するという二段構えの仕組みを持っています。従来の生成AIは、あらかじめ学習したデータセットをもとに回答を生成するため、情報が古くなっていたり、訓練データに含まれない内容に対してはハルシネーションを起こす可能性がありました。一方、RAGでは、検索によってリアルタイムに必要な情報を取得し、それを根拠として生成を行うため、より正確で信頼性の高い応答が期待できるのが特長です。
2. RAG導入が注目される背景
生成AIの活用が進む中で、企業や自治体では「生成AIが出力する内容の正確性」や「社内ナレッジの有効活用」が大きな課題となっています。特に、社内に蓄積された膨大な文書やFAQ、業務マニュアルなどを有効に使いこなせていないという声は多く、これらを生成AIを活用して再活性化させたいというニーズが高まっています。
そのような状況で注目を集めているのが、検索機能を併用することで生成内容の精度と信頼性を高めるRAG(検索拡張生成)です。RAGはユーザーの質問に対して関連する情報を検索し、その情報をもとに生成処理を行うため、「文脈に合った、正確な回答」が得られやすくなります。また、社内の独自情報を検索対象にすることも可能であり、従業員向けの社内ポータルや問い合わせ対応、カスタマーサポートなど、日常業務に密着した領域での活用に適しています。属人化していた業務ナレッジを誰もが活用できる状態に変え、業務効率化や人材育成にもつながる点が評価されています。
生成AIの“ブラックボックス性”に課題を感じていた担当者にとっても、回答の根拠(検索元データ)を明示できるRAGは、説明責任の観点からも有効な手段といえるでしょう。このように、RAGは「精度」「信頼性」「業務への実装性」の3点を満たす技術として、企業・自治体を問わず幅広い現場で注目を集めています。
3. RAGの仕組み
RAGは、「検索」と「生成」を組み合わせたアーキテクチャです。その仕組みは大きく3つのフェーズに分かれており、それぞれが役割を果たすことで、信頼性の高い回答生成を可能にしています。
3-1. 検索フェーズ
ユーザーの質問や入力に対して、外部のデータベースから関連性の高い情報を検索します。RAGの検索方式には、単語の意味から関連する情報を検索する「キーワード検索」や、単語や文字列のパターンの類似度で情報を検索する「ベクトル検索」が使われることが一般的ですが、近年はそれぞれの“良いとこ取り”が可能な「ハイブリッド検索」の実装が推奨されています。
3-2. 拡張フェーズ
検索で得られた関連情報を、生成AIが理解しやすい形式に整形・統合し、プロンプト(指示文)として活用します。このフェーズでは、検索結果のうち上位数件を選定し、ノイズを除いたうえで、質問文と合わせてLLM(大規模言語モデル)に入力されます。
3-3. 生成フェーズ
前段で整形された情報をもとに、生成AIが自然な文章として回答を出力します。重要なのは、この生成が単に学習済みモデルに依存するのではなく、検索フェーズの結果を根拠として行われているという点です。そのため、生成された回答には事実ベースの裏付けがあり、ユーザーが「なぜこの回答になったのか」を確認しやすくなります。
4. 回答精度を向上させるファインチューニング、プロンプトエンジニアリングとの違い
生成AIを業務に導入する際、回答の精度や一貫性をいかに高めるかは重要なポイントです。RAGとあわせて注目される技術として、「ファインチューニング」と「プロンプトエンジニアリング」があります。これらはそれぞれ異なるアプローチで生成AIの性能を高める方法ですが、RAGとは目的や仕組みが異なります。本節では、それぞれの特徴とRAGとの違いを整理します。
4-1. ファインチューニングとは
ファインチューニングとは、あらかじめ学習されたLLMに対し、特定領域の追加データを使って再学習させる手法です。例えば、自社の業務データや業界固有の用語・文脈を含む文章を学習させることで、その領域に特化した応答を得やすくなります。
【特徴】
- モデル自体に知識を内包させるため、外部データベースに接続せずとも出力が可能
- 特定業務に適した生成AIを構築できる
【注意点】
- 再学習には一定の技術的ノウハウや学習環境が必要
- 定期的な更新が難しく、古い情報を保持したままになるリスクもある
RAGとの違いは、ファインチューニングがモデルそのものを強化するのに対し、RAGは外部情報を都度参照することで精度を補うという点にあります。導入・運用のハードルや柔軟性の面で、RAGの方が現場導入しやすいケースも多く見られます。
4-2. プロンプトエンジニアリングとは
プロンプトエンジニアリングとは、生成AIへのプロンプトの設計を工夫することで、出力される回答の品質や方向性を調整する手法です。「〜の立場で答えてください」「以下の情報を参考に要約してください」など、指示を明確化することで意図通りの出力を引き出すことが可能になります。
【特徴】
- コード不要で即座に改善できるため、手軽に試行錯誤できる
- 質問や用途ごとに適切なプロンプトを設計できる柔軟性がある
【注意点】
- 複雑な指示が必要になると可読性が下がる
- 回答の安定性がプロンプトの質に大きく依存する
RAGとプロンプトエンジニアリングと組み合わせることで、検索情報に基づいた生成AIの回答の質を、より意図した形に高めることができます。
5. RAGのユースケース|社内ナレッジを活かす業務別の活用例
業務で頻出する問い合わせ対応や情報参照業務において、RAGは大きな効果を発揮します。
5-1. カスタマーサポート
カスタマーサポート業務では、製品情報、マニュアル、FAQ、過去の問い合わせ履歴など、多様な情報を迅速かつ正確に参照することが求められます。RAGを活用することで、こうした社内ナレッジを検索対象とし、生成AIが適切な回答を出力する仕組みを構築できます。例えば、ユーザーからの「製品の設定手順」や「エラー対応方法」といった質問に対し、RAGはマニュアル文書や対応履歴から該当する情報を抽出し、それに基づいた自然な言い回しで回答を提示することが可能です。これにより、オペレーターの負担を軽減するとともに、応対品質の均質化と対応スピードの向上が期待できます。また、生成AIが回答の根拠となる情報ソースを示すことで、ユーザーや管理者にとっての信頼性も高まります。
5-2. 社内システムのヘルプデスク
社内で利用されている業務システムやツールについての問い合わせに対応するヘルプデスク業務にも、RAGは有用です。特に、複数の部署で異なる運用ルールやシステム設定が存在する環境では、情報の断片化や属人化が課題です。RAGは、システムの操作マニュアル、設定ガイド、過去の対応履歴、社内ルールなどを検索対象とし、それらに基づいて生成AIが適切な回答を提供します。「経費精算システムでエラーが出たときの対処法」や「勤怠打刻の修正方法」といった、従業員からのよくある質問に対し、迅速かつ正確な情報提供が可能です。また、RAGを通じて得られた質問・回答の履歴を蓄積・分析することで、ナレッジの整備や業務プロセスの改善にもつなげることができます。これにより、単なる問い合わせ対応にとどまらず、組織全体の情報活用力の向上に寄与することができます。
6. RAGを活用する際のポイント
RAGは、業務の精度と効率を高める有望な技術ですが、導入すればすぐに成果が出るというわけではありません。効果的に運用するためには、目的の明確化やデータ整備、情報セキュリティ対策など、事前の準備と運用設計が重要です。
6-1. 導入目的の明確化、対象業務を選定する
最初に行うべきは、RAG導入の目的を明確にすることです。「問い合わせ対応の効率化」「業務マニュアルの検索性向上」など、何を達成したいのかを具体的に設定することで、導入範囲や運用設計が明確になります。あわせて、RAGを適用する業務領域も選定しましょう。頻繁な質問が発生する部署や、文書量が多く属人化しやすい領域が導入効果の高い候補です。PoC(概念実証)で効果を確認しながら段階的に対象業務を広げていくことも有効です。
6-2. データ整備と活用ルールを策定する
RAGの回答精度は、検索対象となるデータの質に大きく左右されます。そのため、社内文書、マニュアル、FAQ、議事録などを体系的に整備することが欠かせません。特に以下の点を意識したデータ整備が推奨されます。
- 最新性:古い情報や重複データを排除し、常に最新の状態を保つ
- 構造化:文書に見出しや分類タグを付与し、検索性を高める
- 権限管理:公開範囲を明確にし、機密情報の漏えいを防ぐ
また、参照する外部データベースの更新頻度や管理責任者、分類ルールなどを定めたルールを設けておくことで、運用の属人化を防ぎ、長期的な活用が可能になります。
6-3. 情報セキュリティ対策を行う
生成AIの導入においては、情報漏えいや誤回答によるリスクへの対処が不可欠です。RAGでは社内外の情報を検索・参照するため、検索対象データの中に機密情報や個人情報が含まれる場合は、厳格な情報セキュリティ対策が求められます。具体的には、「機密情報をフィルタリングする仕組みの導入」や「ログ管理と操作履歴の監査」といった対策が推奨されます。出力結果にも注意を払い、回答内容が業務に与える影響を評価する体制づくりも重要です。
6-4. 回答精度向上の施策を実施する
RAGの回答精度を高めるためには、以下のようなアプローチを通じて継続的に改善を行う必要があります。
- ユーザーからのフィードバックを収集し、誤回答の原因を分析する
- 頻出質問や重要文書を優先的に整備する
- 検索対象とする文書の追加・更新を定期的に実施する
- 適切なプロンプトの設計(プロンプトエンジニアリング)を行う
また、生成結果に対する根拠情報の表示や、「この回答は参考情報であり最終確認が必要」といった補足文を加えることで、ユーザーの誤解を防ぎ、信頼性の高い運用が可能になります。
7. RAG環境の構築でお悩みならNTT東日本の「生成AIサービス」
SaaS型で提供するNTT東日本の「生成AIサービス」では、社内データを活用できるチャット型のAIアシスタントとして日々の業務を強力に支援します。今回解説したRAGの構築や精度向上施策の実施も可能です。また、情報セキュリティに配慮し、生成AIを安全に利用するためのサポートや知識・技術習得のための研修などもできます。適切な生成AI環境のカスタマイズをトータルでサポートいたしますので、RAGの構築をご検討中の方は、NTT東日本にご相談ください。
8. まとめ
RAGは、生成AIに検索機能を組み合わせることで、社内ナレッジを活用しながら精度と信頼性の高い回答を可能にします。業務効率化や属人化の解消に貢献し、企業・自治体での活用が広がっています。生成AIやRAGの導入をお考えの方は、ぜひNTT東日本にお任せください!
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