COLUMN
Amazon Connectと生成AIの活用パターンについて
こんにちは、洲崎(スザキ)です。普段はクラスメソッド株式会社でソリューションアーキテクトとして活動しています。縁あってこちらのコラムに寄稿することになりました。 |
昨今、生成AIの話題が尽きないと思いますが、コンタクトセンターと生成AIの親和性はとても高いです。
コンタクトセンターサービスであるAmazon Connectには、生成AIを活用した機能が搭載されています。
また、AWSが提供している生成AIサービス「Amazon Bedrock」を組み合わせると、より活用の幅が広がります。
今回はAmazon Connectと生成AIの活用パターンについてまとめてみました。
目次:
- 1.コンタクトセンターのよくある課題
- 2.Amazon Connectと生成AI
- 3.Amazon Connectにある生成AIを活用した機能
- 3-1.Amazon Connect Contact Lensの生成AIを活用した問い合わせ内容の要約
- 3-2.Amazon Q in Connect(オペレーターのAIアシスタント)
- 4.Amazon ConnectとAmazon Bedrockを活用した機能
- 4-1.コンタクトセンターの問い合わせをBedrockで種別判定し、最適な担当者に振り分け
- 4-2.顧客の問い合わせをAmazon Bedrockで対応し、回答が難しい場合に担当者にエスカレーション
- 4-3.Amazon Bedrock、Amazon Kendraを利用したFAQチャットボット
- 5.まとめ
1.コンタクトセンターのよくある課題
Amazon Connectと生成AIの話の前に、コンタクトセンターのよくある課題について触れます。
コンタクトセンターとは、電話やそれ以外(チャット、ビデオ通話など)のマルチチャネル対応を行う拠点・窓口のことです。
コンタクトセンターでよくある課題として、「顧客体験の課題」と「従業員体験の課題」があげられます。
「顧客体験の課題」としては、以下のようなものがあげられます。
- 電話が繋がらない
- 電話が繋がっても、待たされる
- 聞きたいことはシンプルなので、早く回答が欲しい
皆さんも問い合わせ窓口に電話をかけようとして、上記のような経験があったことは一度や二度はあるのではないでしょうか。
電話をかけた時に顧客側の体験が良くないと、顧客満足度が低下し、その会社やサービスにとってマイナスな影響を与える可能性があります。
また、顧客体験だけでなく、「従業員の課題」も大切です。
例えば、以下のような内容です。
- 通話をしている際にオペレーターに役立つ情報がすぐに出てこない
- オペレーターの教育にコストがかかる
- オペレーター含めて人手不足な状態である
コンタクトセンターで働く従業員の課題を解決することで、結果的に顧客満足度の向上に繋がるケースもあります。
前置きが長くなりましたが、「Amazon Connect」と「生成AI」で何ができる、というよりも、生成AIを活用することでコンタクトセンターの課題をどのように解決できるか、というところに注目することが重要です。
2.Amazon Connectと生成AI
Amazon ConnectはAWSが提供しているクラウド型コンタクトセンターサービスです。
https://aws.amazon.com/jp/connect/
サービスの特徴として、セルフサービスで構築が可能で、専門知識のないユーザーでも簡単なGUI操作で、問い合わせフローの設計ができます。
Amazon Connectが提供する範囲は以下の通りです。
- 電話番号(050,03,0800,0120から始まる電話番号)
- 問い合わせフロー
- ソフトフォン(ブラウザベース)
Amazon Connectにはコンタクトセンターで最低限必要だと言われる機能は揃っており、クラウドベースのサービスになる為、インターネット、PC、ヘッドセットがあればどこでも利用ができます。
生成AIについては、OpenAI社のChatGPTを始めとして、さまざまなクラウドサービスがあります。
AWSは生成AIサービスとして、Amazon Bedrockを提供しています。
https://aws.amazon.com/jp/bedrock/
Amazon BedrockはAI21 Labs、Anthropic、Cohere、Meta、Stability AI、Amazonなどの主要の企業の生成AIモデルを選択して、APIを通して生成AIを利用できるサービスです。
Amazon ConnectからシンプルにAmazon Bedrockを利用するには、間にAWS Lambdaを挟んで、APIを通して連係します。
AWS LambdaはPythonやNode.jsなどのプログラミングコードを記載することで実行できるサービスです。ユースケースとして、他のサービスとAPIを通して連係する際に利用されます。
https://aws.amazon.com/jp/lambda/
シンプルにAmazon ConnectからAmazon Bedrockまでの連係の図を表現するのであれば、以下のイメージです。
AWSはコンタクトセンターサービスのAmazon Connect、APIを通じてプログラミング言語を元に連係できるAWS Lambda、生成AIサービスのAmazon Bedrockを提供しているため、他のサービスなどを調達することなく、AWSのアカウント1つあれば気軽にコンタクトセンターのサービスと生成AIを組み合わせた実装を試すことができます。
3.Amazon Connectにある生成AIを活用した機能
Amazon ConnectとAmazon Bedrockを利用する手段もありますが、そもそもAmazon Connectには生成AI(Amazon Bedrock)が組み込まれている機能もあります。
Amazon Connect自体に生成AIの機能があることで、Lambdaなどを使わずにシンプルに生成AIを体験することができます。
Amazon Connectに生成AIが含まれている機能を2つご紹介します。
3-1.Amazon Connect Contact Lensの生成AIを活用した問い合わせ内容の要約
AWS re:Invent 2023 で「Amazon Connect Contact Lensで生成AIを活用した問い合わせ後の要約」が発表されました。
2024/3/25に正式にリリースされています。
実際に生成AIを活用した要約の機能を試してみた記事はこちらです。
[プレビュー]Amazon Connect Contact Lensの「生成AIを利用した問い合わせ内容の要約」を試してみた
※上の記事を投稿した時はAWSに申請した方のみが利用できるプレビュー版でしたが、今は正式にリリースされていますので、誰でも利用ができます。
この機能は一言で言うと、「Amazon Connectで会話した内容に対して、生成AI(Bedrock)を活用して自動で要約してくれる」機能です。
コンタクトセンターでは、通話内容の分析や後処理(対応履歴の入力作業など)で、通話の内容を確認する際、1件1件、通話を聞き起こすのは時間がかかります。
会話した内容を自動で文字起こしができると、聞き起こす分の工数が大幅に削減されるので、文字起こしの導入や検証をしているコンタクトセンターは多いと思います。
一方、全ての音声をテキスト化しても、長い通話があると「どういった通話なのか?」を把握するのに時間がかかります。
また、「こんにちは」といった挨拶や、「ええと〜」や「あー」等といった特に意味を設けない言葉(俗にいうフィラー)などもすべてテキスト化されます。
通話のテキスト化と内容の要約までできると、コンタクトセンターでかなりの業務・分析の効率化につながります。
Amazon Connectは、Amazon Connect Contact Lensの機能で、会話した内容の文字起こしが可能ですが、今回それに加えて生成AIによる要約機能が使えるようになっています。
ただ、2024/4/17現在、米国西部 (オレゴン) および米国東部 (バージニア北部) リージョンのみで利用できるのと、英語のみ対応です。
もし、通話の要約を日本語で試してみたいという方がいましたら、AWS LambdaとAmazon Bedrockを使った仕組みであれば、日本語で試すことができますので、以下の記事も合わせてご参照ください。
Amazon Connectで通話・テキスト化した内容をAmazon Bedrockで要約してみた
3-2.Amazon Q in Connect(オペレーターのAIアシスタント)
2つ目は、re:Invent 2023で発表された「Amazon Q in Connect」です。
Amazon Q in Connectは生成AIを活用したオペレーターのAIアシスタント機能です。
https://aws.amazon.com/jp/connect/q/
機能としては、2つあります。
機能 | 概要 |
---|---|
コンテンツの検索 | 通話前・通話中・通話後に限らず、設定したデータソースからAmazon Q(生成AI)を利用して自然言語で検索・回答を得ることが可能 |
リアルタイムの推奨事項 | 通話中・チャット中の会話をリアルタイムで文字起こしして、その内容をAmazon Q(生成AI)で自動検索して回答を得ることが可能 |
「コンテンツの検索」は、あらかじめ設定したデータベースから、エージェント画面で通話前・通話中・通話後限らず、設定したデータソースのコンテンツからAmazon Q(生成AI)を利用して自然言語で検索することができます。
お客さまと通話しながら、同じ画面で生成AIを利用した自然言語で検索できるので、特に入社したばかりなど教育を受けているオペレーターの方などには、得たい情報をすぐに検索することができ、業務の効率化に繋がります。
また、回答の内容は設定したデータベースから検索をかけて、リファレンス(参照した記事)を、高いで正しい回答を出すことが可能です。
下の図では、あらかじめクラスメソッドの会社概要ページを設定したデータベースに保存しているのですが、「Where is Hibiya Office」(日比谷オフィスはどこですか?)と検索をしたら、クラスメソッドの日比谷オフィスの場所とともに、リファレンス(クラスメソッドの会社概要のページ)を回答してくれました。
(画像で想像がつくと思いますが、2024/04/17時点で、英語のみ対応です)
「リアルタイムの推奨事項」は、オペレーター・顧客が会話している内容をリアルタイムで文字起こしをし、その内容から生成AIで自動検索して回答を得ることができる機能です。
会話を始めると、右側の「Amazon Q」のところが動作をして、話している単語をベースに設定しているデータベースから生成AIを活用して自動で検索してくれます。
オペレーターが検索する手間も省けてしまう、とてもありがたい機能です。
こちらも2024/4/17時点で、英語のみ対応となりますので、日本語対応が期待されるサービスです。
4.Amazon ConnectとAmazon Bedrockを活用した機能
Amazon Connectにある機能以外に、Amazon Bedrockを活用したパターンをあげます。
Amazon Bedrockも活用することで、生成AIの活用の幅が広がります。
4-1.コンタクトセンターの問い合わせをBedrockで種別判定し、最適な担当者に振り分け
みなさんは問い合わせ窓口に電話をかけた際に、「〜〜の場合は1を、〜〜の場合は2を・・・」といったメッセージを聞いたことはありませんか?
あれは、IVR(Interactive Voice Response)というもので、アナウンスと電話ボタンのプッシュによる振り分けの機能ですが、「アナウンスが長くて待つのが辛い」、「結局どれを押したらいいか分からない」といったお声をいただくことがあります。
その振り分けについて、Amazon Bedrockを活用することで、お客さまはアナウンスを聞く時間やボタンプッシュの振り分けの判断をせずに、適切な担当窓口に繋ぐことができます。
方法としては、以下の流れです。
- 電話でユーザーがお問い合わせ内容を伝えます。
- ユーザーからお問い合わせ内容をAmazon Lexで受け取ります。
-
受け取った内容をAmazon Bedrockに渡し、種別判定を実行します。
- 事前にお問い合わせの種別内容をプロンプトにインプットさせておきます。
- お問い合わせの種別によって、適切な担当者に振り分けを行います。
詳細については、こちらのブログをご参照ください。
Amazon Bedrockで電話での問い合わせ内容の種別を判定し、担当者に振り分けてみた[AIチャットボット]
4-2.顧客の問い合わせをAmazon Bedrockで対応し、回答が難しい場合に担当者にエスカレーション
顧客からの問い合わせに対して、簡単な対応であればAmazon Bedrock(生成AI)に対応してもらい、対応が難しい場合に担当者にエスカレーションするといった方法です。
顧客体験、従業員体験の双方の課題となる「問い合わせ時にオペレーターに繋がるまでの待ち時間」ですが、問い合わせの量と対応できる従業員の数が割合ってない時に発生します。
コンタクトセンターの対応者を物理的に増やし続けることは限界があるため、AIチャットボットを活用して、自動応答で対応できるものはAIに対応してもらおう、というものです。
一方、生成AIで解決できなかったりしたものについては、その場でクローズせず、担当者に繋ぐことで、解決できないケースも対処することができます。
実装方法の詳細については、こちらのブログをご参照ください。
AIチャットボットで問い合わせに対応し、回答が難しい内容に限り担当者にエスカレーション[Amazon Connect + Lex + Bedrock]
4-3.Amazon Bedrock、Amazon Kendraを利用したFAQチャットボット
Amazon Kendraとは、様々なデータソースから特定の情報を迅速に見つけ出すことができるエンタープライズ向けの検索サービスです。
https://aws.amazon.com/jp/kendra/
Amazon Kendraに社内情報をインポートし、ユーザーからの問い合わせに対して、Amazon Kendraで検索し、その結果をもとにAmazon Bedrock(生成AI)が回答を生成することでFAQチャットボットを実現できます。
4-2と近い部分になりますが、4-2の実装ですと、生成AIの言語モデル(Large Language Model:以下、LLM)が学習している内容以外に関する質問には回答ができません。
RAG(Retrieval Augmented Generation)と呼ばれる手法で、FAQデータやドキュメントデータを、今回のケースだとAmazon Kendraに取り込むことで、より精度の高い回答を自動応答で返すことができます。
LLMとRAGの違いや目的については、こちらの画像が分かりやすいです。
RAGの手法を活用したAmazon Connect、Amazon Bedrock、Amazon Kendraを利用したFAQチャットボットの実装方法については、こちらのブログをご参照ください。
【RAG】Amazon BedrockとConnect、Kendraを利用し、社内情報や社外の最新情報などの取り込んだデータをもとに回答するコールセンター向けAIチャットボットを構築してみた
5.まとめ
Amazon Connectと、生成AIを活用した方法についてまとめました。
2023年に生成AIが現れてから、コンタクトセンターで生成AIを活用できないかと注目されている方は多いと思います。
Amazon Connectには生成AIの機能が搭載されているのと、同じAWSサービスのAmazon Bedrockを利用することでより機能を広げた形で活用することができます。
Amazon Connectや生成AIに興味はあるけど何ができるのかが分からない、という方向けに、参考になれば幸いです。
また、生成AIを活用する際は、想定通りの回答を行うかや、レスポンス時間など問題ないかなど、充分に検証(PoC)を行うことを推奨します。
以上、クラスメソッドの洲崎(スザキ)がお届けしました。
著者
クラスメソッド株式会社はアマゾン ウェブ サービスをはじめ、データ分析、モバイル、IoT、AI/機械学習等の分野で企業向け技術支援を行っています。2023年にはアジア最優秀SIパートナーとして「SI Partner of the Year – APJ」を受賞。現在までの技術支援実績は3,000社以上、AWS環境については25,000アカウント以上となりました。社員による技術情報発信にも注力し、オウンドメディア「DevelopersIO」では4万本以上の記事を公開中です。
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