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SLMとは?~LLMとの違いと環境構築の方法~
生成AI技術の進化に伴い、大規模言語モデル(LLM: Large Language Model)の重要性がますます高まっています。しかし、LLMはその高い性能を発揮するために膨大な計算リソースが必要であり、必ずしもすべての用途に適しているわけではありません。特にエッジデバイスやローカル環境での利用を考慮すると、SLM(Small Language Model、小規模言語モデル)の活用が注目されています。本コラムでは、SLMとLLMの違い、そしてSLMの環境構築方法について詳しく解説します。SLMの基本概念や代表的なモデルの紹介を通じて、リーズナブルな運用やリアルタイム処理が求められるシーンでのSLMの有用性を紹介します。
1. SLM(小規模言語モデル)とは
近年、生成AIの進化が目覚ましく、その中心にあるのが大規模言語モデル(LLM: Large Language Model)です。しかし、LLMは膨大な計算リソースを必要とし、運用コストも高いため、すべての用途に適しているわけではありません。そこで注目されているのが、SLM(Small Language Model、小規模言語モデル)です。SLMはLLMと比べてモデルのサイズが小さく、エッジデバイス(クラウドを介さずにデータ処理を行う端末)やローカル環境でも動作可能なため、リーズナブルに導入できることが期待されています。
1-1. SLMの基本概念
SLMとは、数億から数十億(10B以下)のパラメータを持つ比較的小規模な言語モデルのことを指します。LLMが数千億から数兆パラメータを有するのに対し、SLMはより軽量で、少ない計算資源でも動作可能なように設計されています。
この小型化は、知識蒸留(Knowledge Distillation)や量子化(Quantization)、剪定(Pruning)といった技術によって実現されます。知識蒸留では、大規模モデルの学習成果を小規模モデルに転写し、性能を維持しつつサイズを縮小します。量子化では、モデル内部の数値表現を低精度化することで計算量を削減し、剪定では不要なパラメータを削除することで軽量化を図ります。
SLMの特徴として、リーズナブルに運用が可能であること、リアルタイム処理が求められるエッジデバイスでも動作できること、またプライバシー保護の観点からデータをクラウドに送らずにローカルで処理できることが挙げられます。
1-2. 代表的なSLMの紹介
現在、多くのSLMが開発・公開されており、それぞれ特徴的な設計思想を持っています。
まず、Microsoftが開発した「Phiシリーズ」は、優れた性能を持つSLMとして知られています。Phi-3 Mini(約38億パラメータ)は、同規模の他のモデルと比較しても高い精度を誇り、エッジデバイスでの動作も考慮されています。
また、Stability AIの「Stable LM 2 1.6B」は、日本語にも対応した小規模モデルであり、多言語対応が求められる環境での活用が期待されています。さらに、「Mistral 7B」は、70億パラメータというコンパクトな設計ながら、大規模モデルと比較しても遜色ない精度を持つモデルとして注目されています。
このほか、Googleの「Gemma 7B」なども、SLMの代表例として広く利用されています。
2. LLMとSLMの比較
2-1. 性能と用途の違い
LLMとSLMは、それぞれ異なる用途に適しています。LLMは膨大なパラメータを持つため、幅広い知識を持ち、創造的な文章生成や高度な推論が可能です。一方、SLMは特定のタスクに最適化されることが多く、リソースの制約がある環境での利用に向いています。
例えば、クラウド上で大規模なAIサービスを提供する場合、LLMが適しています。ChatGPTなどのサービスは、その巨大なモデルによってユーザーの質問に対し、多様な知識を活用して回答を生成します。
一方で、企業内の機密情報を扱うチャットボットや、オフライン環境での利用を想定する場合、SLMが有力な選択肢となります。SLMはローカル環境での運用が可能なため、クラウドにデータを送ることなく、プライバシーを確保しながらAIを活用できます。
3. SLMのローカル環境構築方法を紹介
SLMの大きな利点のひとつは、ローカル環境でも動作が期待できることです。ここでは、実際にSLMをローカルで運用するための手順を紹介します。
3-1. 事前準備
SLMをローカル環境で動作させるためには、いくつかの事前準備が必要です。
本コラムでは、ローカルPC環境で手軽に構築できるSLMの実行環境例を紹介します。具体的には、Windows上でWSLを利用してPython仮想環境を構築します。その上で、OSSであるOllamaという手軽にオープンソースLLMが利用できるソフトウェアを導入し、Pythonで実際にLLMに対して問い合わせを行うコードを実行してみます。事前にWSLでUbuntuのディストリビューションを利用できる状態にしておきます。
※先進のオープンソースモデルを簡単にダウンロードして使用することができます。
まず、ハードウェアとしては、最低でも8GB以上のRAMを持つPCが推奨されます。SLMはLLMほど大きなリソースを必要としませんが、それでもある程度の計算能力は必要です。
環境構築を行うローカルPCの情報は以下になります。
- OS:Windows 11
- メモリ:32GB
- GPU:NVIDIA GeForce RTX 4070
- CUDA Version: 12.8
- WSL:Python 3.12.3 (Ubuntu)
3-2. SLMの動作環境の構築手順
次にWSL(bash)での手順を紹介します。
ライブラリのアップデート・アップグレードを行います。
sudo apt update
sudo apt upgrade -y
仮想環境を作成します。
python3 -m venv venv
仮想環境を開始します。
source venv/bin/activate
Ollamaをinstallします。
curl -fsSL https://ollama.com/install.sh | sh
インストールが完了したことを確認します。
ollama -v
バージョン情報が表示されれば完了です。
次に利用するモデルをダウンロードします。今回はマイクロソフトの公開しているPhi-3を利用します。
※利用できるモデルはこちらhttps://github.com/ollama/ollama/blob/main/README.md#quickstart
モデルをダウンロードして起動します。
ollama run phi3
最後にPythonのライブラリをインストールしてノートブックからの実行環境などを整えます。
pip install ollama
3-3. 動作の評価
実際にSLMを動作させた後、適切な応答が得られるか評価することが重要です。
レスポンスタイムの計測では、モデルの応答速度を確認し、実用に耐えうるかを判断します。さらに、回答の正確性についても、人間の評価を交えながら、モデルが適切な回答を生成しているかをチェックします。加えて、メモリ使用量を監視し、システムの負荷を把握することで、安定した運用が可能かを検討します。
from ollama import chat
from ollama import ChatResponse
response: ChatResponse = chat(model='phi3', messages=[
{
'role': 'user',
'content': 'Azureについて100字で教えてください!',
},
])
print(response.message.content)
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5. まとめ
本コラムではSLM(小規模言語モデル)の紹介と、実際の動作環境の構築例を紹介しました。SLMは、LLMと比較して軽量かつリーズナブルに運用できる点が魅力であり、エッジデバイスやローカル環境での利用に適しています。また、オープンソースのモデルを活用することで、さまざまな用途に応じたカスタマイズが可能です。ローカル環境での運用を考える場合、OllamaやPyTorchを活用することで、簡単にSLMを動作させることができます。これからのAI活用の場面では、LLMとSLMを適材適所で使い分けることが重要となるでしょう。
生成AIの活用についてお悩みならNTT東日本にお気軽にご相談ください。
- Phi-3,Phi-3 miniは、Microsoft Corporationの米国及びその他の国における登録商標または商標です。
- Mistral 7B はMistral AI SASの商標または登録商標です。
- Gemmaは、Google LLC の商標または登録商標です。
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