COLUMN
対応のスピード、新人の戦力化といったコールセンターの課題をデジタルで解決。Amazon Chime SDKを活用した、リモートアシストツール 開発インタビュー
バックオフィスや販促活動などに比べ、まだまだクラウド活用が進んでいないコールセンター業務。今後さらにお客さまの課題解決のスピードを上げ、顧客満足度を向上させていくにはツールの開発や導入が必要不可欠です。
NTT東日本では、パブリッククラウドのサービスを活用したDX(Digital Transformation / デジタルトランスフォーメーション)を推進しており、さまざまな業務の改善の試みや開発人材の育成が日々行われています。
その一環として、Amazon Chime SDK(Amazon Chimeの開発基盤)を利用したDXを実施しており、遠隔サポートツール「リモートアシストツール」を開発しました。
今回は「リモートアシストツール」の開発に携わった社員に、開発までの流れや開発によって得られた成果について、お話を伺いました。
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目次:
- 1. 遠隔サポートツール「リモートアシストツール」の開発背景やきっかけ
- 1-1. コールセンター視点では、お客さま対応のスピードと新人の戦力化が課題
- 1-2. 通話だけで課題を特定し、解決まで導くのは難しい
- 1-3. 大規模なシステム導入にはコストがかかるため、アナログなままのコールセンター
- 2. Amazon Chime SDKを活用したリモートアシストツールの開発
- 2-1. お客さまのスマホで撮影した映像をオペレーターに共有し、スムーズな問題解決を実現
- 2-2. 開発当初より外販を視野に開発をスタート
- 2-3. Amazon Chime SDKを活用し、比較的簡単にWebRTCを構築
- 3. リモートアシストツールのカスタマイズ性と機能の拡張
- 3-1. Webアプリ形式で、インストール不要で使用開始できる
- 3-2. ポインター機能で精度の高い案内を実現
- 3-3. レポート機能で組織ごとにツール使用量が明確に
- 4. リモートアシストツールリリース後の優位性や成果
- 4-1. 他社サービスとの優位性は、ライセンス数と従量課金による運用の柔軟性
- 4-2. 導入によって解決率が向上し、技術者の現地派遣が減少。事前情報で現場での作業もスムーズに
- 5. まとめ
- 5-1. コンタクトセンターの要望を受け、今後もカスタマイズを続けていきたい
- 6. NTT東日本はクラウド活用を進めるお客さまを支援いたします
1. 遠隔サポートツール「リモートアシストツール」の開発背景やきっかけ
1-1. コールセンター視点では、お客さま対応のスピードと新人の戦力化が課題
私自身、過去に数年間コールセンターでの業務経験がありまして、そこで最も強く感じたのが、お客さま対応には“スピード”が重要であるということです。コールセンターの現場では、AHT(Average Handing Time)と呼ばれる、オペレーターがお客さま一人の対応に要した平均時間や、CPH(Call Per Hour)と呼ばれる、オペレーターが一時間あたりに対応できたコール数といった、素早く問題を解決することに関する指標が常にチェックされています。
これは単に対応件数を増やすことが目的ではなく、応対時間を短くすることがお客さまの顧客満足度(CS)の向上に直結するからです。たとえば、お客さま一人あたりの応対時間が長くなってしまうと、それだけ応対中のお客さまの貴重なお時間を奪ってしまうだけでなく、電話回線が埋まることで他のお客さまをお待たせしてしまう「待ち呼」が発生します。待ち呼の状態が長く続けば電話を切られてしまい、応対できなかったお客さまの満足度(CS)を下げることにつながるのです。
また、コールセンターの管理者側の視点では、新人オペレーターを教育し、いかに戦力化にかかる期間を短くするかも重要です。コールセンターは繁忙期や閑散期にあわせてオペレーターの配置を調整しますが、昨今の人材不足が影響し、簡単に採用ができなくなりました。マニュアルや応対方法は確立されているものの、新人オペレーターへの教育やロールプレイングができるオペレーターが少なくなり、新人オペレーターの戦力化にかかる時間を短縮することは依然として難しい課題のままなのです。(中村)
1-2. 通話だけで課題を特定し、解決まで導くのは難しい
コールセンターの現場で働くオペレーター視点では、そもそも通話だけのコミュニケーションでお客さまの課題を特定し、解決まで導くことが難しいという課題があります。対面のご案内であれば、実際の商品やパソコンの画面をお客さまとオペレーターが一緒に確認しながらコミュニケーションできます。しかし、電話ではお客さまの言葉だけでトラブルの詳細をお伝えいただき、オペレーターも言葉だけで解決方法をお伝えしなければなりません。意思疎通がうまく取れなかった場合、お客さまもオペレーターも互いに疲れてしまい、顧客満足度の定価や離職率の向上といった結果につながることも。
なお、弊社のインターネット回線の障害応対を担うコールセンターでは、数回のお電話で問題を解決出来なかった場合、お客さまの住所へ技術者を派遣しています。そうなると、スケジュールの調整や技術者の派遣コストがかかってしまいます。
さらにコールセンターのデジタル化はどうしても遅れがちであるという課題もあります。最近では、CTI(Computer Telephony Integration)というパソコンから発着信ができるシステムは一般的になりましたが、トークスクリプトや応対マニュアル、過去ナレッジの検索、問い合わせ内容の記録などは、まだまだアナログな紙で対応している現場も多いのです。(中村)
1-3. 大規模なシステム導入にはコストがかかるため、アナログなままのコールセンター
コールセンターの管理者側、オペレーター側の課題が解決されてこなかった背景には、まずお客さま応対すること自体はアナログでも可能だったことが挙げられます。じっくり時間をかければコミュニケーション自体は何とかできるので、コールセンターでの顧客満足度の優先度を下げるという経営判断がされれば、後回しにされがちです。
コールセンターへのシステム導入はコストがかかりすぎることも、デジタルによる課題解決が進まなかった大きな要因です。業種やサービス内容によっては、大規模なコールセンターが必要な企業も多く、一斉にシステムを導入するとなると既存のマニュアルごと変更する必要があります。特にSaaSは、契約するアカウント数やプランによっては高額なライセンス料が発生することも。
そして、せっかく新しいシステムを導入しても、現場のオペレーターは必ずしもITに強いわけではないため、デジタル化をしても応対の効率が落ちてしまうのではという懸念や、現場からの反発もあります。
こうしたコールセンターの状況から、ITに疎いオペレーターでも使用でき、かつ低コストなオペレーター支援ツールが求められていました。(中村)
2. Amazon Chime SDKを活用したリモートアシストツールの開発
2-1. お客さまのスマホで撮影した映像をオペレーターに共有し、スムーズな問題解決を実現
コールセンターの課題を解決するため、弊社が開発したツールがリモートアシストツールです。コールセンターの応対中、お客さまのスマートフォンで撮影している映像をリアルタイムで受信し、オペレーターが問題箇所を目視で判断することができます。そのため、たとえばルーターやモデムといった機器の障害や不具合の応対など、物理的なサポート対象があるサービスとの相性がよいのではないでしょうか。
ツールの特徴のひとつに、お客さまとオペレーター双方にとって操作がシンプルで分かりやすいことが挙げられます。お客さまに映像を配信していただくにはまず、リモートアシストツールのURLをお客さまの電話番号宛にSMSで送信します。お客さまは手元のスマートフォンに届いたURLをクリックするだけで映像を配信できるようになり、数秒間だけ問題の箇所を撮影。再び電話に戻り、映像を確認したオペレーターが正しいご案内をする、という流れです。
その他の特徴として、200人以上のオペレーターが同時に使うことが可能な仕組みになっていること、使用しただけ課金される従量課金の仕組みになっていることが挙げられます。また、BtoC向けのアプリであるため、オペレーターもお客さまも使いやすいようなUIを目指して開発しました。(中村)
2-2. 開発当初より外販を視野に開発をスタート
リモートアシストツールの開発に着手したきっかけは、通信機器に関するお客さまからの問い合わせに応対する、弊社のコンタクトセンターからツールの要望を受けたことです。お客さまへのヒアリングでどのような障害が起きているのかを特定するのは骨が折れるため、リアルタイムで映像を確認できるツールを内製できないかとのことでした。
既存の他社ツールを導入することでは、柔軟な機能追加を実現することができず、導入・運用コストが抑えられないため、新しいサービスを開発することを決定しました。結果として、社内で開発することにより「NTT東日本」として開発力の底上げにつながりました。
基本的にシステム自体は3ヶ月で構築し、その後の内部審査やチェックを経て、2021年4月にリモートアシストツールをリリースしています。リリース時は必要最低限の機能に留め、その後に便利だと判断した機能を追加していきました。
内部のシステムには、AWSとAmazon Chime SDK、Webブラウザ間でリアルタイムに音声や動画のデータをやり取りできるWebRTC(Web Real-Time Communication)を使用しています。
今回のツールに限ったことではありませんが、社内での活用次第によってはお客さまへの外販も視野に入っているため、当初からお客さまが使用することを念頭に置いたUIやシステムを構築しています。(中村)
2-3. Amazon Chime SDKを活用し、比較的簡単にWebRTCを構築
WebRTCという規格をゼロから構築するのは本来、とても大変な開発になります。サーバーを経由して映像や音声を伝送するために、自社とお客さまのサーバー部分を構築しなければならないからです。
しかし今回、Amazon Chime SDKを活用したことでWebRTCの細かい部分まで掘り下げずとも構築することができました。一方で、Amazon Chime SDKの仕様を理解し、その他のさまざまな技術を組み合わせて開発していくのは簡単なことではありません。幸い、Amazon社よりAmazon Chimeのデモサンプルのプログラムやドキュメントがいくつか用意されていたため、参考にすることができました。(中村)
3. リモートアシストツールのカスタマイズ性と機能の拡張
3-1. Webアプリ形式で、インストール不要で使用開始できる
リモートアシストツールは基本的に、お客さまにとってお問い合わせ時に一度しか使用しないアプリケーションです。そのため、たった一度の利用のためだけにシステムをインストールしていただくのは、お客さまにとって無駄ですので、Webアプリ形式で提供しています。そのためにアプリケーションサイズを軽量化し、ブラウザですぐに使えるよう工夫されています。(吉川)
3-2. ポインター機能で精度の高い案内を実現
弊社のコンタクトセンターからの要望を受けて開発したのが、お客さまの映像上にポインターを表示し、オペレーターが指している場所をお客さまも確認できる機能です。開発にあたって、Amazon Chime SDKのデータメッセージ機能を使用しており、お客さまのカメラの映像にマウスでポインターを被せると、映像上のポイントの座標を取得して表示する、といった技術です。これによって、より精度の高いご案内ができ、円滑にコミュニケーションすることができます。(吉川)
3-3. レポート機能で組織ごとにツール使用量が明確に
どの部署の誰が、どのくらいリモートアシストツールを使用したかをレポートとしてまとめる機能も後日追加で開発、実装しました。弊社のコンタクトセンターは規模が大きく、複数の組織に分かれているため、組織ごとに使用量を明確にしないと、経費精算で問題になるのです。具体的なシステムとして、Amazon Chimeでは映像配信した時間ごと料金が決まる従量課金であるため、バックグエンド側のシステムで動画配信時間を記録し、料金を計上できる仕組みにしました。(吉川)
4. リモートアシストツールリリース後の優位性や成果
4-1. 他社サービスとの優位性は、ライセンス数と従量課金による運用の柔軟性
今回、コールセンターではSaaSの映像伝送サービスをいくつか検討していたのですが、他社のSaaSのサービスはユーザー1人あたりのライセンス課金となっており、数千のオペレーターが在籍している弊社では、非常に重いコストになるのです。
一方のリモートアシストツールは、ユーザー管理にAmazon Cognito、映像基盤にAmazon Chimeを使用しており、サーバーレスなアーキテクチャを採用しています。この組み合わせがとても強力で、Amazon Cognitoは1アカウントあたり大体50,000ユーザーまで無料利用枠に収まっており、自由に利用できるのです。
ライセンスのサービスを導入したコールセンターの場合、たとえば100人のコールセンターだと10ライセンスしか契約せず、その10ライセンスを100人で共有することも珍しくありません。
しかし、オペレーターがサービスを使用する際に、一度ライセンスの使用状況を確認する手間が発生し、場合によってはすぐに応対できないことも。これは応対品質的に良くないでしょう。弊社では、リモートアシストツールに全オペレーターを気兼ねなく登録しています。もちろん、従量課金なので使わないユーザーがいたとしても、コストに影響はありません。
4-2. 導入によって解決率が向上し、技術者の現地派遣が減少。事前情報で現場での作業もスムーズに
実際に弊社のコンタクトセンターにリモートアシストツールを導入したところ、電話口での応対では解決できず、現地に技術者を派遣して解決していた案件数が減りました。それだけでなく、技術者が事前に映像を確認することによって、現場での作業がスムーズになったという変化もあります。技術者派遣の減少、現場修理の効率化によって、大きな成果が得られました。(中村)
特に時間を削減できたお問い合わせが、通信機器障害の問い合わせです。トラブルのケースはさまざまですが、ルーターに線を差す位置を間違えていたという初歩的なミスに対して、わざわざ現場に技術者を派遣する必要がありました。しかし、リモートアシストツールの導入によって、不必要な技術者の派遣を減らすことできたのは、大きな成果です。(吉川)
5. まとめ
5-1. コンタクトセンターの要望を受け、今後もカスタマイズを続けていきたい
現在も弊社のコンタクトセンターの方から改善要望を受けることもありますので、今後も継続してAWSとAmazon Chimeへの理解を深め、機能の開発を積み重ねていきたいですね。リモートアシストツール自体はシンプルな機能にまとまっていますので、Amazon Chime SDKによるカスタマイズ自体は容易です。また、ユーザーが使いやすいことを第一に開発、機能を実装しており、その結果、お客さまからも良いレビューを頂いています。
今後もお客さまのご要望に応じてカスタマイズ、修正を続けていき、より多くの方に活用いただけるツールを目指したいですね。(中村)
6. NTT東日本はクラウド活用を進めるお客さまを支援いたします
今回は、NTT東日本におけるAmazon Chime を活用したアプリ開発事例をご紹介しました。「Amazon Chimeを活用したことがない」「Amazon Chimeの活用したアプリの開発事例を知りたい」といった悩みを抱える開発に携わる皆さま、コールセンター業務の効率化に課題を感じている皆さまの参考になれば幸いです。
NTT東日本にはリモートアシストツール開発案件以外にも、内製による多数のアプリ開発実績がございます。お客さまとの取り組みにおける開発に加え、内製による開発で社内の開発力、技術力を高めてまいりました。クラウド活用や開発に関するご相談、お問い合わせを随時受け付けておりますので、お気軽にご相談ください。
文中記載の組織名・所属・肩書き・取材内容などは、すべて2023年9月時点(インタビュー時点)のものです。
Amazon Web Services(AWS)および記載するすべてのAmazonのサービス名は、米国その他の諸国における、Amazon.com, Inc.またはその関連会社の商標です。
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