CASE STUDY

核融合炉の開発に必要不可欠なシミュレーションを支えるクラウドの計算資源。世界初に挑むスタートアップとAWS活用

クラウド移行で失敗しないためのお役立ち導入事例8選

~150以上の導入を支援したNTT東日本が紹介!~

資料はこちらよりダウンロードできますので、併せてご確認ください。

株式会社Helical Fusion
業種 電気業
従業員数 非公開
本社所在地 東京都中央区
主な事業内容 商用核融合炉および関連技術の開発
ホームページ https://www.helicalfusion.com別ウィンドウで開きます
導入サービス クラウド導入・運用サービス別ウィンドウで開きます
クラウド利用サービス Amazon Web Services(AWS)別ウィンドウで開きます
サービス導入時期 2024年9月
ご担当者さま

チーフリサーチャー
中村 誠さま

<担当AWSエンジニア>

NTT東日本 シニアスペシャリスト
白鳥 翔太

クラウド導入前の課題
  • 研究開発に必要不可欠な計算資源であるコンピューターリソースを内製化したい
  • より柔軟に計算資源を活用し、シミュレーションの試行回数を増やしたい
  • AWS環境の構築に携わったことがある社員が一人もいなかった
NTT東日本を選んだ理由
  • AWS Japan社との連携や情報共有がなされていること
  • 担当者から易しく、わかりやすい説明を受けられた
  • AWS環境のセキュリティ構築に対する技術力の高さと過去の実績
クラウド・AWSを選んだ理由
  • 在宅勤務かつ業務のほとんどがクラウドベースで構築されていた
  • スタートアップ企業の支援プログラムによるAWS利用料金のサポートがあった
  • 毎年のように新しく、高性能なインスタンスが公開されること
クラウド導入後の効果
  • 計算に丸1日から数日はかかっていたが、現在はたった2〜3時間ほどで完了するように
  • 安心できるセキュリティ・ガバナンスを構築できたことで、AWSを操作する時間とリソースを短縮
  • AWSに関していつでも相談できるパートナーが得られた

こちらの事例はPDFでもご覧いただけます。

PDF版の閲覧はこちらから

「人類は核融合で進化する」をビジョンに掲げ、世界初の定常核融合炉を2030年代に実現することを目指すスタートアップ企業、株式会社Helical Fusion(ヘリカルフュージョン)。持続可能なエネルギー源の開発を目指し、2024年11月現在、世界中で40社以上の核融合開発スタートアップが研究、開発を進める「核融合エネルギー」の実用化に向けて、同社ではヘリカル型核融合炉の開発、実用化に取り組んでいます。

このヘリカル型核融合炉は三次元性が強い形状のため、設計には膨大なシミュレーションとそれによって得られるデータ、そしてシミュレーションを実現する計算資源が必要になります。そこで選ばれたのが、AWS環境とクラウド上の並列計算システムであるAWS ParallelClusterでした。今回の取り組みの背景にあった課題やAWS環境、NTT東日本を選定いただいた理由と得られた成果について、チーフリサーチャーとして自ら核融合炉の研究、開発に取り組む中村さまにお話を伺いました。

NTT東日本のクラウド導入・運用サービスはこちらよりダウンロードできます。併せてご確認ください。

1. ご相談前の課題と背景

研究開発に必要不可欠な計算資源であるコンピューターリソースを内製化したい

中村:弊社は岐阜県にある研究スペース以外は基本的に全員が在宅勤務しており、専用の社内ネットワークや社内イントラネットは所有していません。もちろん、物理的なメールサーバーやデータストレージサーバーも一切なく、すべてクラウドベースで管理、運用しています。

その一方で弊社にとって重要な存在が、研究開発に必要不可欠な計算資源であるコンピューターリソースです。大規模な計算が必要な場合、これまでは弊社との共同研究先に委託させていただいていたのですが、以前より内製化すべきとの意見が社内から出ていました。

内製化すべきという意見の理由として、より柔軟に計算資源を活用し、シミュレーションの試行回数を増やすことで核融合炉の設計スピードを上げたいとの考えがあります。たとえば機器の寸法を微調整したり、機器の材質を変更したりと、核融合炉の設計には膨大な試行錯誤が必要です。しかし共同研究先の皆さまもお忙しく、気軽に何度も計算をお願いすべきではないと考えました。

もうひとつの理由は、スーパーコンピューター級の計算環境がどうしても必要だったことです。私が研究を担当している中性子核融合反応では中性子の動きをシミュレーションする必要があり、計算には膨大な時間がかかるのです。大学教授の方が所有している高性能な計算機クラスのノード数であっても、計算に丸1日、場合によっては数日かかってしまいます。

「2030年代の定常核融合炉を実現」を目指す私たちにとって、さらに事業スピードを上げていくためにも、柔軟に運用できるスーパーコンピューター級の計算環境は必要不可欠でした。(中村さま)

2. AWSを選んだ理由

きっかけは海外の成功事例。スタートアップ向け支援プログラムと高性能なインスタンスが魅力

在宅勤務かつ業務のほとんどがクラウドベースで構築されていたため、計算環境もクラウド上で構築できないかと考えていた頃に偶然発見したのが、同じく核融合技術に取り組む海外の大手スタートアップ企業がクラウド上の並列計算システムであるAWS ParallelClusterを使って大規模なシミュレーションを行っているとの事例記事でした。Amazon社が一般的によく知られるEC事業ではなく、BtoB領域のAWSで成功しているとのニュースは耳にしたことがあったのですが、それ以上のことは当時まったく知りませんでした。

海外の企業で成功事例を参考に自社にも導入したら、ますます研究開発は捗るだろうと考えて社内やステークホルダーの方々に相談してみたところ、出資いただいている方からDeepTech(研究開発型スタートアップ)支援のAWS Activateをご紹介いただきました。最大でAWSクレジットが100,000 USD提供されるもので、まだまだ経営資源が潤沢とは言えない、アーリーステージのスタートアップにとっては魅力的に感じられたのです。

また月に一度、定期的にAWS ParallelClusterなどに関する困りごとをヒアリングしていただけるサポート体制もありがたく感じました。AWSの担当の方からも、今後ディープテック領域の成功事例を増やしていきたいとの考えをお伺いし、両者にとってメリットがあるのだと感じました。

機能面のポイントでは、毎年のように新しく、高性能なインスタンスが公開されることです。オンプレミス環境の場合は、一度構築してしまうと乗り換えるには古い機材を廃棄し、新しい機材を調達する必要があります。しかしAWSであれば、使わなくなれば画面上から停止ボタンをクリックするだけ、新しいインスタンスを使いたかったら開始ボタンをクリックするだけですので、この柔軟性は大きな魅力でした。

その一方で不安だったのが、AWS環境の構築に携わったことがある社員が一人もいなかったことです。当初は私がAWS環境の構築を主導したのですが、本来は本業である研究開発の時間を削ってしまうことに危機感を抱いていました。

こうした課題をAWSの担当の方にご相談したところ、NTT東日本さんをご紹介いただきました。(中村さま)

3. NTT東日本を選んだ理由

決め手は、費用やAWS Japan社との連携や情報共有、そして担当者の人柄と専門性の高さ

NTT東日本 シニアスペシャリスト 白鳥

中村:AWSの担当の方にご紹介いただいたのはNTT東日本さんのみだったのですが、私自身でも類似サービスや競合他社の情報は調べました。正式にご依頼させていただくにあたっては、取り組みの費用やAWS Japan社との連携や情報共有、そしてNTT東日本の担当の方のお人柄と専門性の高さが決め手となりました。

NTT東日本の担当の方は、AWSに触れたばかりの私でも易しく、わかりやすいように説明していただき、にじみ出る優しさを感じました。また、すべてを説明せずとも、過去のログから私がどのような操作を試みて、どこで苦戦したのかを汲み取っていただき、改めて技術力の高さを感じました。

また、将来的には自走してAWS環境を運用し、必要に応じてNTT東日本さまにご相談できる体制を目指したいという意思も汲み取っていただき、私たちにノウハウを残していただけるような方向でサポートいただいています。

実際の取り組みはまず、セキュリティを強化する必要があったアカウント管理体制を見直し、マルチアカウントの体制構築をお手伝いいただきました。そこで使用したサービスがAWS Control Towerでして、これはAWSにおけるマルチアカウント環境を簡単にセットアップ、管理できるサービスです。

AWS Control Towerを使用してマルチアカウント設定を行う場合、用途に応じてアカウントを作成し、そのアカウントごとにリソースの境界線などを設定することができます。その用途がもし不要になれば、アカウントごと削除するだけなので、分かりやすい運用が可能です。また、その用途ごとのコストを可視化できるのも、柔軟にAWS環境を運用したい私たちにとっては最適でした。

セキュリティ面の設定については、スピード感と柔軟性が求められる運用を邪魔しないようにしつつ、充分なセキュリティレベルが担保できるようなバランスを意識していただきました。たとえば、Amazon S3のバケットの閲覧を適切に制限する設定や、リスクが高い設定変更に対しては通知が飛ぶ設定などが挙げられます。

加えて、管理アカウント、監査アカウント、ログアカウントなどにシングルサインオンでログインでき、私以外の研究員は自身の研究環境にのみログインできるようなセキュリティ環境をAWS IAM Identity Centerで構築していただきました。

自社の事業ならではの特徴として、いくつかの海外リージョンにもAWSアカウントを開設しています。特に重要なのが米国東部 (オハイオ) リージョンで、AWS ParallelClusterによるさまざまなシミュレーションを行っています。この米国東部リージョンは、ハイパーコンピューティングに向いている最新のインスタンスが優先して公開されてきたリージョンとのことで、最も充実した環境でシミュレーションを実行することができるようになりました。

その他にも、担当者が増えた場合の設定の流れや運用上の注意事項はドキュメントにまとめていただき、将来的な自走化の支援までいただいています。(中村さま)

4. クラウド・AWS導入後の成果

AWS活用で数日はかかっていたシミュレーションが2〜3時間に。より精度の高い設計にも貢献

今回の取り組みによる最も大きな成果は核融合炉の設計シミュレーションにおける計算時間の短縮です。大学教授の方が所有している高性能な計算機であっても、計算に丸1日から数日はかかっていたところ、AWS ParallelClusterを用いることでたった2〜3時間ほどで完了するようになりました。実質的にノード数は青天井ですので、コストを度外視すればさらに計算時間を短縮することができます。

この時間短縮の成果は、核融合炉の研究スケジュールの短縮にも貢献できると確信しています。さらには核融合炉の設計の正確性も大きく向上するはずです。核融合炉は非常に三次元性が強い形状をしており、紙と鉛筆による二次元の設計では限界があるのです。三次元のリアリスティックなシミュレーションと設計は、コンピュータ上の計算でしか難しく、さらに膨大な計算資源が必要になります。AWS ParallelClusterによるハイパフォーマンスコンピューティング環境のおかげで、正確かつ優位な設計が可能になりました。

また、私自身がAWSを操作する時間とリソースの短縮にも繋がりました。以前はつい熱中してしまい、1日中AWSの設定を触ってしまうこともあったのですが、現在は平均して1日1時間ほどしか触っていません。どちらかと言えば、AWSの勉強を兼ねての管理作業ですので、以前のような負担はまったくありません。ただ、私の本業は研究開発なので、今後の採用活動次第では、AWS活用に長けたコーポレートITの専門家にお任せしていきたいですね。

そして、NTT東日本さまとの取り組みによって、AWSに関していつでも相談できるパートナーが得られたことも大きな成果だと感じています。取り組み終了後、現状はトラブルもなく運用できているのですが、今後AWSアカウントが増えた際にどうすべきか、トラブルにどう対応すべきか、気軽にアドバイスを仰げる方がいることは、日々の業務の安心感につながっています。(中村さま)

5. クラウドを導入し、今後挑戦していきたいこと

AWSのクラウドコンピューティングサービスが、世界初の定常核融合炉を実現する鍵に

弊社は引き続き、世界初の定常核融合炉を2030年代に実現するため、技術開発に取り組んでいきます。社名の一部にもなっているヘリカル型核融合炉とは、ねじれた超電導コイルで作った磁場でプラズマを閉じ込める方式を採用した核融合炉のことで非常に複雑な三次元形状をしています。だからこそ、これまでも今後も膨大なシミュレーション結果に基づく定量的かつ正確な設計こそが実用化の要であり、そしてAWSのクラウドコンピューティングサービスが成功の鍵だと言えます。

現在、AWS ParallelClusterで計算しているのは、核融合反応で出てきた中性子の挙動のシミュレーションや核融合特有の高周波を発振する機械ですが、今後はそれだけではありません。他にもまだまだシミュレーションを重ねなければならない課題が山積みですので、クラウドを活用することで一つひとつ解決していき、研究を前に進めていきます。(中村さま)

6. これから取り組む方へのアドバイス

アーリーステージのスタートアップこそ、クラウドソリューションを検討すべき

NTT東日本さまのクラウドソリューションは、弊社のように立ち上げから日が浅く、大掛かりなサーバーなどの環境にリソースを割きづらいスタートアップにこそおすすめできます。まずはクラウド環境構築の第一歩を踏み出すことが、スタートアップが事業を前に進めていくために大事だと思いますので、ぜひNTT東日本さまへのご相談、そしてAWS導入の検討をしてみてはいかがでしょうか。(中村さま)

7. おわりに

クラウド導入を検討されている方は、NTT東日本へご相談ください

Helical Fusionさまでは、自社で構築していたAWS環境を整理し、クラウドの用途や求められるセキュリティ基準に合わせたAWS環境へと移行されました。

今回のお取り組みの背景として、

  • 研究開発に必要不可欠なシミュレーションを内製化したかった
  • ビジネスモデルに最適なAWS環境を構築するノウハウがなかった

という状況がありました。

Helical Fusionさまと同じように、特にスタートアップ企業でAWS運用にお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか?

NTT東日本なら、どのようなAWS環境を構築すべきかといったご相談や、ネットワークの構築から保守・管理まで対応できるため、企業ごとの状況や課題に最適なクラウド環境をワンストップでご提供することも可能です。まずはNTT東日本に一度ご相談ください。

  • 文中記載の組織名・所属・肩書き・取材内容などは、すべて2024年11月時点(インタビュー時点)のものです。
  • 事例はあくまでも一例であり、すべてのお客さまについて同様の効果があることを保証するものではありません。
  • Amazon Web Services(AWS)、AWS ParallelCluster、Amazon EC2、AWS IAM Identity Center、AWS Control Tower は、米国その他の諸国における、Amazon.com, Inc.またはその関連会社の商標です。

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