| Writer:NTT東日本 北森 雅雄(Masao Kitamori)
電子帳簿保存法の目的とは?要件、改正の歴史を簡単解説!
働き方改革や新型コロナウイルス感染症の影響で、テレワークの導入やペーパーレス化を推進する企業も増加しつつあります。また政府もデジタル庁を発足し、脱ハンコを推進するなど、世の中全体が電子化に動きつつあります。
そこで重要になるのが電子帳簿保存法への対応です。2022年1月1日から改正電子帳簿保存法が施行されたものの、対応しきれていない企業は少なくありません。今回は電子帳簿保存法の目的や要件、改正の歴史や2022年の改正の要点などの概要を、わかりやすく解説します。
この記事の監修者:法律事務所アルシエン 河野冬樹(弁護士)
監修日:2022年12月27日
弁護士として、主にクリエイターの方をメイン顧客とし、著作権、フリーランス法務、エンターテイメント法務などを取り扱っております。
1.電子帳簿保存法とはそもそも何か
電子帳簿保存法の正式名称は「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」です。さらに省略し電帳法と呼ばれることも多いです。
国税に関わる帳簿や書類は7年間保存する義務があります。しかし紙での書類保管には場所もコストがかかるため、円滑に税務手続きを行うために電子データでの保存が認められています。電子帳簿保存法はこれらの帳簿や取引関係書類について、データで保存する際の保存要件を定めた法律です。
国内の電子化をさらに推進するために2022年1月に要件緩和を主とした改正が行われました。具体的な改正内容については後述します。
1なぜ対応する必要があるのか
なぜ電子帳簿保存法への対応が求められているのでしょうか?下記のような背景があります。
(1)電子化、ペーパーレス化による生産性向上
日本は諸外国に比べ官民ともにペーパーレス化、
(2)テレワークなど新しい働き方への対応
コロナ禍で急速に普及したテレワークですが、一方で書類にハンコ
(3)電子取引(※後述)における紙保存の禁止
2022年の改正の中で大きな話題をさらったのが「
23種類のデータ方式の保存要件がある
電子帳簿保存法には大きく3つの保存方式があります。それぞれの保存方式によって、保存要件が異なります。
(1)電子帳簿等(電子的に作成した帳簿・書類をデータのまま保存)
電子帳簿等とは自ら電子的に作成した帳簿・書類等です。具体的には下記などが該当します。
- ・仕訳帳
- ・総勘定元帳
- ・現金出納帳
②取引関係書類(自ら紙で発行した取引のエビデンスの控え)
- ・領収証(控え)
- ・請求書(控え)
- ・発注書(控え)
これらのデータを保存する際には電子帳簿保存法の「電子帳簿等」の要件を満たす必要があります。
(2)スキャナ保存(紙で受領・作成した書類を画像等のデータで保存)
スキャナ保存とは「相手が作成した」請求書などを受領し、 スキャナー(またはスマートフォンなど)などで読み取りデータ化したものを指します。具体的には下記です。
相手から紙で受け取った取引のエビデンスの控え
- ・領収証
- ・請求書
- ・発注書
(3)電子取引(電子的に授受した取引情報をデータで保存)
電子取引とは紙を用いず電子データでの授受で完結する取引を指します。具体的な例としては下記が挙げられます。
- ・電子決済
- ・メールデータ
- ・EDI取引(Electronic Data Interchange)
※EDI取引とは:Electronic Data Interchangeの頭文字を取ったもので、日本では「電子データ交換」といいます。専用線あるいはインターネット等で電子的に受発注を行う仕組みのことです。
3これまでの電子帳簿保存法改正の流れ
電子帳簿保存法は2022年の改正以前から、度々改正されてきました。その変遷を解説します。
電子帳簿保存法の変遷
電子帳簿保存法制定
納税の円滑かつ正確な履行と書類管理の負担軽減などを目的に制定。当初は「電子帳簿」のみが対象だった。
スキャナ保存が認められる
電子帳簿だけでなく、紙の国税関係書類をスキャンして電子保存することが認められる。ただし領収証や請求書は3万円未満という上限があった。また電子データは改ざんが容易なため、電子署名が義務付けられた。
3万円と電子署名の要件が緩和、適正事務処理要件が追加
3万円の上限が撤廃され、電子署名も不要になった。一方で入力時のダブルチェックなどのルールなどを定めた「適正事務処理要件」が追加され、タイムスタンプが義務化される。
デジカメやスマホで撮影したデータ保存も認められる
デジカメやスマホで撮影した画像も認められるようになる。一方で、書類受領後3日以内の署名とタイムスタンプが義務化される。
システム要件を満たせばタイムスタンプも不要に
受け取り側がデータを改変できない「クラウドシステムなど」を利用することで、タイムスタンプ要件が不要になる。
税務署長の事前承認制度廃止、適正事務処理要件廃止等の大幅緩和(後述)
電子保存には改ざんなどの不正リスクもあります。そのため電子帳簿保存法は、電子化を推進する一方で適切な要件を定めることで、そのリスクを抑制してきました。技術の進歩に合わせて、改正を重ねることで利便性と正確性の両方を担保してきたのです。
2.電子保存ができる書類の区分
ここからは電子帳簿保存法の具体的な要件について解説していきます。まずは書類の区分についてです。大きくはスキャナ保存が認められていない書類と、認められている書類の2種類です。
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電子データ保存は認められているがスキャナ保存は認められていない書類
電子データでの保存は認められているけれど、スキャナ保存が認められていない書類は下記です。
●国税関係の帳簿
帳簿関連:現金出納帳、経費帳、仕訳帳、売掛帳、買掛帳、総勘定元帳、固定資産台帳など
●国税関係の書類
決算関係書類:貸借対照表、損益計算書、棚卸表など
取引関係書類:自社が発行した見積書、発注書、納品書などの控え
2電子データ保存もスキャナ保存も認められている書類
電子データでの保存もスキャナ保存も認められている書類は下記です。端的にいうと、相手から受け取った取引書類が該当します。
●取引関係書類:
相手から受け取った領収書、レシート、見積書、契約書、納品書、請求書、約束手形、小切手など
3.データの保存要件について
電子帳簿保存法の保存要件はやや複雑です。ポイントとしては下記の2つです。それぞれ解説します。
- ①真実性の確保:記録が改ざんされていないと確認できること
- ②可視性の確保:誰もが確認できる状態であること
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真実性の確保
真実性の確保とは電子データが改ざんされていないことを確認するための要件です。大きく下記の4つが該当します。
- ●記録事項の訂正・削除を行った場合の事実内容を確認できること
- ●通常の業務処理時間を経過した後の入力履歴を確認できること
- ●他の帳簿の記録事項との間において相互にその関連性を確認できること
- ●システム関係書類等(システム概要書、システム仕様書、 操作説明書、事務処理マニュアル等)を備え付けること
上記は電子帳簿保存の要件ですが、スキャナ保存の場合は他に入出力機器に関する要件が加わります。また電子取引の場合はタイムスタンプの付与についての要件が加わります。
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可視性の確保
可視性の確保とは保存した情報を速やかに確認できるようにしておくことです。大きく下記の4つがあります。
- ●保存場所に、電子計算機、プログラム、ディスプレイ、プリンタ およびこれらの操作マニュアルを備え付け、記録事項を 画面・書面に整然とした形式および明瞭な状態で速やかに 出力できること
- ●取引年月日、取引金額、取引先により検索できること(※2022年改正で左記3つに限定された)
- ●日付または金額の範囲指定により検索できること
- ●ふたつ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件により検索できること
電子帳簿保存法に対応するには、これらの要件を満たした機器、またはサービスを利用する必要があります。
4.電子帳簿保存法の申請について
2022年の大幅改正で、電子帳簿保存法適用のための、税務署長への事前申請は撤廃されました。改正前までは電子保存をはじめる3か月前までに所轄の税務署長へ届け出を行い、承認を受ける必要がありました。具体的な手順は下記のとおりです。
- ●電子化に必要な社内規程等を整備する
- ●電子化に必要なシステムを導入する
- ●国税庁の所定の書類に必要事項を記入する(承認を受けたい帳簿の名称や根拠税法、開始日等)
- ●操作マニュアル等の必要な添付書類を用意する
- ●税務署に届け出る
こうした手続きは煩雑で手間もかかるため、電子化をより加速度的に推進するために、廃止となりました。法改正により、電子帳簿保存法対応のハードルはぐっと下がることになります。
5.2022年施行の電子帳簿保存法改正について
これまで解説してきたように、電子帳簿保存法は度々改正されてきました。2022年にはさらに踏み込んだ改正がなされています。大きなポイントは下記の5つです。これらの改正は電子化をよりいっそう進める狙いがあります。
・事前承認制度の廃止
それまで必要だった税務署長への事前申請が不要になります。
・罰則規定の強化
スキャナ保存や電子取引データの改ざん等による不正の場合、重加算税を10%加重にするなど、適正な運用がなされていないことに対する場則が強化されています。
・国税関係帳簿の保存要件の緩和
検索要件の緩和や優良電子帳簿制度の導入による優遇措置などが追加されました。電子帳簿保存法を適正に運用する企業を優遇する措置といえます。
・スキャナ保存の要件の緩和
タイムスタンプの付与期間などが緩和され、入力時のダブルチェックなどの「適正事務処理要件」も撤廃されました。
・電子取引データの紙保存の禁止
電子取引データを紙で保存することが禁止されました。やむを得ない場合に限り、2024年まで猶予されますが、基本的には禁止となります。
6.まとめ
今回は電子帳簿保存法の概要について解説しました。2022年の法改正によって電子化・ペーパーレス化はますます加速するでしょう。しかし紙の書類がすべてなくなるという訳ではありません。取引先によっては引き続き紙でやり取りするケースも想定されます。
とはいえ、紙の書類と電子データを別々に管理するのではかえって手間です。紙の書類はスキャナ保存し電子データとして一元管理する必要があります。
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この記事を書いた人
NTT東日本 ビジネス開発本部 北森雅雄
NTT東日本に入社後、自治体向けのシステムエンジニアとして、庁内ネットワークや公共機関向けアプリケーションなどのコンサルティングからキャリアを開始。
2018年から現職にて、プロダクト(SaaS)開発、デジタルマーケティング全般のディレクションに従事。
2022年に業務のデジタル化を分かりやすく発信するオウンドメディア(ワークデジタルラボ)のプロジェクトを立ち上げ。
NTT東日本にかかわる、地域のみなさまに向けてデジタル化に役立つ情報発信を展開。