近年、IT技術の普及や政府による働き方改革推進法の施行により、ペーパーレス化(電子化により紙の使用をなくす取り組み)を進める会社が増えています。ペーパーレス化は、コストカット・業務効率化・CSR(企業の社会的責任)活動などに効果的な取り組みです。自社でもペーパーレス化を進めようと考えている方は、多いのではないでしょうか。
しかし、ペーパーレス化には業務プロセスの変更やツールの導入が必要です。そのため、ノウハウや専門知識がなければ、ペーパーレス化を効果的に進められません。そこで今回の記事では、ペーパーレス化の効果が高い承認ワークフローについて、紙ベースの問題点やおすすめのツールを解説します。業務効率化に悩んでいる方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次:
承認ワークフローは、経営判断の効率や正確性に大きな影響を与える仕組みです。本章で、承認ワークフローの重要性やタイプについて詳しく説明します。
ワークフローは、事業活動や業務の流れ(一連の作業)を指します。また、承認ワークフローとは、契約や申請に対して権限を持つ役職者が、許可や要否を判断する流れです。
承認ワークフローの流れ
承認ワークフローは、会社の意思決定に影響を及ぼします。承認ワークフローが正常に機能しなければ、市場や顧客ニーズの変化への対応が遅れたり、誤った経営判断を下したりしてしまいます。
承認ワークフローのタイプは、以下のとおり、直線・分岐・並列の3種類です。
直線タイプは、手続きを行う人物が決まっている流れです。また、申請内容によっては、役職者の判断でワークフローの途中で新たな承認者が指名・追加される場合があります。
分岐タイプは、申請内容や金額によって、手続きを行う人物が変化する流れです。多くの場合、申請の重要性(会社への影響度)や金額によって、承認者が増えたり手続きが複雑化したりします。
並列タイプは、同時に複数の経路で承認が進む流れです。承認がすべての経路で完了すると、最終的に合議(役職者による会議)や多数決などで決裁が行われます。なお、多くの場合、並列タイプは全社に跨るような大規模なプロジェクトに使用されます。
紙ベースの手続きには、進捗状況が不透明・非効率的・書類保管のコストがかかるといった問題点が存在します。本章では、紙ベースの手続きに存在するデメリットを詳しく解説します。
紙ベースの手続きは、当事者が書類の現在位置を把握できないという欠点があります。そのため、紙ベースの手続きは、事業規模が拡大し申請が複雑になった場合や部署をまたぐような大規模なプロジェクトの場合に、進捗が把握しづらくなってしまいます。進捗が把握できなければ、承認フローが停滞したり却下されたりした場合、即座に対応できません。結果、承認がスムーズに進まず、ほかの業務を圧迫・停滞させる可能性が高くなります。
紙ベースの手続きは、申請書を探したり担当者が誰か調べたり、書類を運送したりするため時間がかかります。加えて、書類紛失による遅延のリスクがあります。
また、紙ベースの手続きは、書類が回ってきたタイミングでしか、内容を確認したり承認・決裁したりできません。そのため、書類が回ってきたタイミングが忙しく斜め読みで承認されたり、書類が未確認のまま放置されたりするリスクがあります。
紙ベースの手続きは、用紙代やインク代・保管スペースの維持費用や増築コストなどがかかります。加えて、紙の書類整理や保管に社員を割り当てなければいけません。なお、紙ベースの手続きは、時間が経つにつれて大量の書類が蓄積されます。紙の情報検索は手作業で行うため、書類が増えるにつれて、保管や管理により多くの人員を割く必要があります。
申請・承認・決裁の業務効率化やコストカットに悩んでいる方は、ワークフローシステムの利用がおすすめです。ワークフローシステムは、電子データで一元管理された申請フォームから目的の書式を選び、内容によって自動的に承認・決裁の担当者が振り分けられます。
また、決裁後は書類データがシステム上に自動で保管されます。そのため、従来の業務プロセスに存在した以下の問題点が解消可能です。
なお、ワークフローシステムは、オンプレミス型(社内に環境を構築して運用する形態)とクラウド型(オンライン上に構築して運用する形態)があります。なかでもクラウド型であれば、スモールスタート(最初は小規模から導入し、需要に応じて利用を拡大する方法)が可能です。そのため、業務効率化に予算をあまり割けない方や、システムを試験的に導入したい方には、クラウド型のシステムをおすすめします。
ワークフローシステムは、紙ベースの業務プロセスに存在した問題点の解消に加えて、さまざまなメリットがあります。本章で、ワークフローを電子化するメリットを詳しく解説します。
ワークフローを電子化すると、書類の管理がオンライン上で完結するので、申請や承認の進捗を簡単に確認できます。加えて、進捗が可視化されることで、ボトルネック(承認・決裁がどこで停まっているか)が把握できるようになり、手続きの停滞を防げるようになります。
なお、ワークフローシステムは、手続きのスケジュールをオンライン上で確認可能です。そのため、将来的に自身へ依頼されるであろう作業を事前に把握できます。また、ワークフローの評価・分析が容易になり、改善に力を割けるようになります。
ワークフローの電子化によって、意思決定のスピードが向上します。なぜなら、ワークフローシステムは工程すべてが、手書きではなくデジタル入力で手続きを進められるからです。
そのため、書類紛失・書式間違いによる申請書の作り直しの手間が軽減され、書類運送にかかる時間が発生しません。また、承認・決裁はスマートフォンやタブレットで対応できます。そのため、担当者が出張先や外出先からでも手続きを進められます。
ワークフローシステムの利用によって、以下のようなコストを削減可能です。
また、ワークフローシステムはすべての書類が電子データ化されます。そのため、書類の保管量に応じて人員を増やす必要がありません。加えて、保管期限を過ぎた書類の破棄や書式変更の手間が軽減されます。書式の変更は過去の決裁書類にリアルタイムで反映され、期限切れのデータは自動で破棄されます。
ワークフローを電子化すると、申請・承認・決裁が自動処理で進められるため、第三者による不正を抑制できます。また、アクセス権限付与機能・作業のログ管理機能によって、手続きの透明性が確保可能です。そのようなワークフローシステムの機能により、以下のような事象を防止できます。
上記は、ガバナンス(公正な事業経営・判断のための監視や統制)の低さから起こり得るセキュリティリスクです。ワークフローシステムの導入は、セキュリティ強化にも内部統制の強化にもつながります。
ワークフローを電子化すると、オフィスから離れた場所で申請・承認・決裁を進められるため、働き方改革の推進に役立ちます。従来(紙)の手続きは、申請・承認・決裁がオフィス外で進められませんでした。
しかし、ワークフローシステムは、手続きがオンライン上で完結するので、承認・決裁の担当者が社内にいてもいなくても手続きを進められます。そのため、紙ベースの手続きのように、押印・書類提出・郵送のためだけに出社する必要がありません。
その結果、時間や場所にとらわれず手続きを進められるようになり、以下のような多様な働き方に対応しやすくなります。
多様な働き方への対応は従業員満足度につながり、生産性の向上や離職率の低下につながります。
ワークフローシステムは、メリットばかりではありません。デメリットを知らずに導入すると、現場の負担が増えたり情報漏洩を引き起こしたりする可能性があります。導入時のトラブルに備えるために、ぜひ本章の内容を参考にしてみてください。
利用を検討しているワークフローシステムが、既存の社内ツールやサービスと連動できないリスクがあります。また、ワークフローの電子化によって、手続きが複雑化し現場の負担が増える可能性があります。
近年、電子署名法や電子帳簿保存法が改正されましたが、いまだに原本保管が義務づけられた書類があります。そのため、すべての書類が電子化できるわけではありません。紙と電子データが入り混じる場合があるため、書類管理の負担が増えます。
ワークフローの電子化には、情報漏洩やデータ・システムの破損といったセキュリティリスクがあります。特に、インターネット上にシステムを構築する場合や、クラウド型のサービスを利用する場合は注意が必要です。また、電子化のセキュリティリスクは、外部からの攻撃だけではありません。内部からの攻撃(社員によるコンピューターウイルスの混入など)に、備える必要があります。
ワークフローシステムの利用を考えている方は、AI-OCRとの併用がおすすめです。AI-OCRとは、PDFや画像のテキスト部分を文字データに変換する文字認識技術に、人工知能を加えたシステムです。
AI-OCRは従来の製品と異なり、書類の読み取り位置や項目の詳細定義をする必要がありません。そのため、書式の異なる書類へ簡単に対応できます。ワークフローシステムとAI-OCRを併用することで、紙の決裁書類を電子データ化する作業に労力を割く必要がなくなります。
AI-OCRについて詳しく知りたい方は、以下の資料をぜひご覧ください。
「【よくある活用事例10選】AI-OCR導入ガイドブック」の資料ダウンロードはこちら
承認ワークフローは、申請から決裁までの流れを指します。紙ベースの手続きは、進捗把握が難しく、管理に時間と費用がかかるといった難点がありました。しかし、近年は申請・承認・決裁を電子化できるワークフローシステムが登場しました。
ワークフローシステムを利用すれば、紙ベースの手続きにあった問題点を解決できます。ただし、使い方によっては現場の負担が増えてしまったり、セキュリティリスクが発生したりするので注意が必要です。なお、ワークフローシステムを利用する場合は、AI-OCRとの併用をおすすめします。AI-OCRを利用することで、紙の決裁書類を電子データ化する作業の効率化ができます。
「【よくある活用事例10選】AI-OCR導入ガイドブック」の資料ダウンロードはこちら
NTT東日本 ビジネス開発本部 北森雅雄
NTT東日本に入社後、自治体向けのシステムエンジニアとして、庁内ネットワークや公共機関向けアプリケーションなどのコンサルティングからキャリアを開始。
2018年から現職にて、プロダクト(SaaS)開発、デジタルマーケティング全般のディレクションに従事。
2022年に業務のデジタル化を分かりやすく発信するオウンドメディア(ワークデジタルラボ)のプロジェクトを立ち上げ。
NTT東日本にかかわる、地域のみなさまに向けてデジタル化に役立つ情報発信を展開。