| Writer:NTT東日本 北森 雅雄(Masao Kitamori)
ペーパーレス化の方法や導入手順・システムや成功事例を紹介
今や仕事の多くはパソコン上で行われ、書類の作成・確認・管理なども紙を使う機会は減っている業種の方も多いのではないでしょうか。一方で、実際には紙を扱う必要がなくても、これまでの慣習や決まりから不便と思いながらも郵送や紙での書類保存などを行っている企業も多いと思います。
今回の記事では、ペーパーレス化を推進していきたいけどどのような手順で行うべきなのかわからない方向けに、具体的には何を変えていけば成功しやすいのかについて紹介していきます。
1.ペーパーレス化とはそもそも何か
そもそも、ペーパーレス化をする意義やメリット、またデメリットなどについて整理します。
1ペーパーレス化の必要性と意義
ペーパーレス化は、企業にとって「デジタル化の推進」「働き方改革の推進」といった意義を持ちます。今やビジネスにおいては電子取引が当たり前となり、紙を利用したワークフローから脱却し業務を効率化させることが求められています。
紙があることで物理的に働く場所を制限されることもあり、テレワークなどの働き方改革を進めるためにもペーパーレス化は大きな役割を担います。
地球環境にとっては紙を使い続けることは原料の木をずっと使い続けることになり、サステナビリティの観点からも紙を使わなくて済む仕組みや文化が求められています。
2ペーパーレス化のメリット
ペーパーレス化することで、紙を補完するためのオフィススペースの削減、また紙にまつわる費用の削減などが見込めます。紙を使ったワークフローから脱却できれば業務効率の向上やテレワーク推進など、時代に即した働き方ができ、セキュリティ面でも安全性が高められます。
3ペーパーレス化のデメリット
一方で、やはり従来のワークフローや慣習・決まりごとで紙を扱うことが一般的なことが多い場合、ペーパーレス化に難色を示す企業も多いでしょう。フローや規程などを導入のために整備することも多く、一時的には業務効率がむしろ下がったり、これまでとは違うデジタル上でのセキュリティリスクや業務上のトラブルなどが起こったりするデメリットもあります。
2.ペーパーレス化の導入手順
ペーパーレス化を進めるための6つのステップを紹介します。2022年に改正された電子帳簿保存法の内容についても触れます。
1ペーパーレス化の意義・目的の策定・明確化
まずはペーパーレス化を進める目的・意義を明確にしましょう。テレワークやオフィス移転などの全社的な取り組みと同様に、ペーパーレス化はこれまでの会社のルールを変更したり、関係する従業員の業務手順に変更が生じたりするなど、影響範囲が広いためです。
プロジェクトとして成功させるためには、その目的や意義を明確にして共有できる状態にしておく必要があります。なんとなくペーパーレス化したいというものではなく、できるだけ会社や関係者にとってのメリットなどを明確にしておくことが重要です。
具体的な目的の例としては以下が挙げられます。
- ●コストの削減
- ●テレワークの導入・将来的な導入に向けて
- ●業務効率上昇
- ●業務のデジタル化の促進
- ●セキュリティ強化
2ペーパーレス化する優先順位の決定
(1)対象となる文書
ペーパーレス化の対象となる文書は、免許証や許可証、手引き書などの一部の特殊な書類を除き、ほとんどの書類が該当します。
- ●国税関係書類・帳簿類
- ●請求書や契約書などの重要書類
- ●会議の資料や議事録
- ●顧客向けの説明書やパンフレット
- ●社内用のマニュアル
- ●取引記録
対象となる書類は非常に多いです。また、デジタル化しても最初のうちはある程度の期間、原本も保存する場合もあります。そのため、ペーパーレス化する範囲と順番、優先順位を決める必要があります。
(2)電子帳簿保存法の改正について
2022年1月から新しくなった改正電子帳簿保存法では、最初から電子データで作成する国税関係帳簿・書類、または紙のデータを電子化するスキャナ保存制度について大幅な要件緩和が行われています。
電子保存のための事前承認の制度が廃止になり、原本とスキャナとの同一性を担保する適正事務処理要件などが緩和されているため、まずはこれらの帳簿・書類からペーパーレス化を進めるのも良いでしょう。
また、2024年からはメールやWebなどの受け取った電子取引データを紙で出力して保存することによって電子データそのものを保存しないとすることはできず、受け取った電子データそのものの保存が義務付けられます。電子取引における請求書や領収書などは紙での保存から電子データとして保存できるように、要件を確認して徐々に対応を進めておくことが必要です。
3フロー・ルールの作成
ペーパーレス化を進める場合、電子データでの保存を行うための要件が電子帳簿保存法によってそれぞれ定められており、その要件を満たすための運用ルールや業務フロー・体制構築が必要です。
保存要件は書類の種類によっていくつか違いがありますが、以下のような点が挙げられます。
内容 | |
---|---|
電子データ | ● 改ざんの可能性があるため、真実性を確保するためのシステムを利用する ● システム上でデータを検索しやすいこと |
スキャンするデータの場合 | ● スキャナが一定以上のスペックを満たしている ● システム上でデータを検索しやすいこと |
これらの要件を理解し、実務上の効率を落とさずにフローに組み込むことが必要です。
電子帳簿保存法に関係しない範囲のペーパーレス化であれば、上記の要件を気にせずに業務効率を考えたルール・フローを作成可能です。例えば、取引に関連しない大量の紙データをエクセルやシステム等に手入力する業務の改善であれば、データの保存要件などは気にせずにツールの選定などを行えます。
4従業員などの関係者への啓蒙・浸透
ペーパーレス化・デジタル化を全社的に進めるために、関係部署や従業員への周知を行い、またフローの構築のために現場へのヒアリングなどを行う必要があります。現場の従業員への啓蒙や浸透も行いましょう。
実際に業務を行う従業員からすると、既存の慣れたフローが変更されることは一時的には作業効率を落とす可能性もあり、抵抗感を持つ方が多いのが実情です。なぜペーパーレス化を進めるのか、自分たちにどんなメリットがあるのかの部分を丁寧に啓蒙することが重要です。
自社内で完結せず社外との取引における書類・取引記録を電子化する場合は、利用するクラウドシステムの変更などのケースも生じるため、取引先にも忘れず周知を行いましょう。
5利用するシステムなどの選定
後述しますが、ペーパーレス化に役立つハードウェア・ソフトウェアもいくつか種類があります。
大量の紙の情報を手入力するような業務であれば、スキャンした文字情報を自動的に電子化してくれるAI-OCRが役立ちます。また電子化された文字情報を適切にシステムに記入する場合はRPAによる自動入力が役立ちます。
6運用の開始
ペーパーレス化する優先順位を決定し、フローやルールを決めてシステムを導入したら、実際に運用を開始しましょう。
最初のうちはこれまでの紙を使用した業務フローも並行して行う可能性もあり、一時的な作業効率の低下が見込まれますが、長い目でみた時のメリットや必要性を意識してそこで止まらずに電子化を進めていくのが大事です。
全社的にすべての部署でいきなり行うのが厳しい場合は、トライアルとして一部の部署で部分的に行い問題点・改善点を洗い出していき、その後全社的に展開していく方法も有効です。
3.ペーパーレス化で導入したいシステム・サービス
ペーパーレス化を円滑に行うために役立つハードウェアやソフトウェア、サービスなどを紹介します。ペーパーレス化は同時に企業のデジタル化を進めることにつながるため、その点でも役立つサービスについても併せて紹介します。
1紙データの電子化に関連するもの
これまで紙で管理していた情報は、一度電子化する必要があります。
(1)スキャナ
現状のオフィスに複合機がある場合、物理的には紙データをスキャンすることは可能です。しかし複合機まで書類を運ばなければならず、都度保存先を設定するため利便性が低いなどの問題があります。 デスク上における小型のスキャナであれば、スキャンの工数を減らすことが可能です。製品によっては保存先の設定を簡単に行うことができ、文字の読み取り機能(OCR)があるものも。
(2)AI-OCR
AI-OCRとは、OCR(Optical Character Recognition)という手書きや印刷された文字情報を認識してデジタル化してくれる技術に、人工知能を組み合わせたものです。これまでのOCRよりも高い精度で文字の読み取りが可能で、読み取るべき範囲の限定がしやすいなど利便性が向上しています。実際の導入事例も増加していて、紙の書類の手入力業務が多い業種や、保管している過去の大量の資料をデータ化する際などでは特に効率化が見込めます。
(3)RPA
RPA(Robotic Process Automation)とは、人がパソコン上で行っている入力業務などの作業を自動化して行う技術です。ペーパーレス化においては、AI-OCRで読み取った情報をRPAに登録されたプロセスによって自動で適切なシステムや場所に自動入力するなどの活用法があります。
大量の紙の情報を手入力している場合、この2つを組み合わせると人間が行っている業務を大幅に減らすことが可能です。
(4)電子化代行サービス
デジタル化したい書類などのデータの入力を代行してくれるサービスです。アウトソーシングとして代行してもらうため、セキュリティの観点から信頼できる業者を選ぶ必要がありますが、過去の資料として残っている大量の書類を電子化したい時などに役立ちます。
2クラウドサービス
電子化したデータは、クラウドサービス上で活用しましょう。(1)オンラインストレージ
電子化したデータの保存場所として、オンライン上でデータを保存できるオンライン(クラウド)ストレージが活用しやすいです。IDとパスワードがあればいつでもどこでもデータにアクセスでき、セキュリティの設定や閲覧・編集の権限の設定なども可能です。デジタル化だけでなく、テレワークでの利用もされます。
(2)ビジネスチャット
チーム・部署・会社単位で利用できるビジネスチャットツールはテレワークで便利なだけでなく、ペーパーレス化した書類データのやり取りなどにも便利です。オンラインストレージ上に保存してあるデータを共有する場合はそのリンク先をチャット上で簡単に共有できます。
(3)各専門業務のクラウドサービス
経理や労務などの専門業務をオンライン上で行える各種サービスや、エンジニアやデザイナー、営業部門向けのクラウドサービスなどが多く登場しています。
ハンコが不要で電子上で捺印できる電子契約サービスや、請求書や経費計算など紙で処理している業務を電子化できるサービスを組み合わせれば、大幅な業務効率化が実現できます。また営業プロセス中の議事録や見積もり書などは、ワークフローを管理できるツールが有効です。ペーパーレス化と営業業務の効率化が見込めます。
(4)校正ツール
オンライン上に文章をアップロードすることで、AIが自動で文章を校正・校閲してくれるツールもあります。
3その他
(1)タブレットやノートPC
営業先や外出先で紙の資料を使って業務を行っている場合、ペーパーレス化してもこれまで通りプリントアウトした紙を持ち運ばなくてはなりません。解像度の高いタブレットを利用すれば、プリントアウトする手間が省けて荷物も減らせます。ノートPCがあれば商談の直前・直後などで資料を最新版に変更することも可能です。
クラウドストレージと連携すれば社内で変更された最新資料をすぐにダウンロードすることもでき、営業効率の向上が期待できます。
(2)VPN
VPN(Virtual Private Network)とは、仮想専用線と呼ばれる技術です。テレワークなどで社内LAN以外でもセキュアな通信を行いたい場合、導入されることが多いです。
導入することで基本的にはセキュリティ性が高まりますが、オンラインでやり取りするために不正アクセスの可能性もゼロではありません。ペーパーレス化とテレワークを組み合わせる場合、重要な情報が不正アクセスされないように対策もしましょう。
4.ペーパーレス化の成功事例
紙を使用した業務からペーパーレスへと見事に転身した、3つの成功事例をご紹介します。
1辻・本郷 税理士法人
約270名の公認会計士・税理士が所属している辻・本郷税理士法人様では、上場企業から中小企業までさまざまな業種の顧客を抱え、帳票類などのデータの入力作業とデータのチェックにコストがかかっていました。
そこで、NTT東日本の「AIよみと〜る」を導入。帳票データを自動で読み取り、処理作業が効率化されました。領収書などの手書き文字でも読み取ることができ、通帳をハンディスキャナで読み取りクラウドで保存も可能です。通帳を預かる必要がなくなり、さらなる業務効率化や紛失リスクの低減なども期待できるそうです。
参考・出典:人工知能を活用したOCRソリューションによって帳票を自動で読み取り、税務業務を効率化
2株式会社メディカル・プリンシプル
医師のキャリアサポートや医学生・研修医のサポート、医療機関向けの職業紹介などを行う株式会社メディカル・プリンシプル様では、求人シートなど書類のデータ化を手作業で行い、手書き情報のチェックにも時間がかかっていました。
働き方改革の一環として、NTT東日本の「AIよみと〜る」を導入。書類の自動読み取りや、手書きデータでも高精度で読み取ることができ、作業時間の効率化を実現できたそうです。
3岩手県久慈市
岩手県久慈市様では、少ない職員でも効率的に業務を行うために、LGWAN(総合行政ネットワーク、行政専用の閉域ネットワーク)に対応したタイミングでNTT東日本のAI-OCR「AIよみと~る」とRPA「おまかせRPA」を導入。
年間約2万件の給付申請がある、ふるさと納税の申請書をシステムに投入するための処理業務や、約4,000枚のアンケートのデータ化や集計業務を自動化しました。
ふるさと納税の業務では、作業に要する時間が月あたり約78%削減され、アンケート集計業務は約83%の時間削減につながったとのことです。RPAで入力を自動化するためには、そもそものスキャンの段階で紙帳票を自動でデジタル化することを組み合わせるとより効率的になります。
5.まとめ
今回の記事ではペーパーレス化を進める方法について、まずは社内で目的を明確化して優先順位をつけ、社内での理解を得るために啓蒙活動を行うべきという話や、実際に導入するべきシステムやサービスなどを紹介していきました。
紙を扱うのが不便だと思いながらもなかなかデジタル化を進められない企業の方も、また実際に紙を扱うことが業務上で必要な業種の方も、現在のITの技術を利用すればもっと効率よく業務を行うことが可能です。
ペーパーレス化を進める第一歩として、ぜひNTT東日本の「AIよみと〜る」の資料や無料デモを体験してみてください。
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この記事を書いた人
NTT東日本 ビジネス開発本部 北森雅雄
NTT東日本に入社後、自治体向けのシステムエンジニアとして、庁内ネットワークや公共機関向けアプリケーションなどのコンサルティングからキャリアを開始。
2018年から現職にて、プロダクト(SaaS)開発、デジタルマーケティング全般のディレクションに従事。
2022年に業務のデジタル化を分かりやすく発信するオウンドメディア(ワークデジタルラボ)のプロジェクトを立ち上げ。
NTT東日本にかかわる、地域のみなさまに向けてデジタル化に役立つ情報発信を展開。