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Writer:北森 雅雄

事業再構築補助金とはコロナ禍の影響を受けた中小企業等への支援策丨申請枠や流れを解説

    現在、国は政策や分野に応じて、企業を対象にしたさまざまな補助金制度を設けています。中でも「事業再構築補助金」は創設が2021年と比較的新しく、中小企業に勤務の方は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

    今回の記事では、事業再構築補助金の概要を詳しく解説します。申請枠や応募できる事業者の条件、補助金額などを紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

    この記事の目次

    ①事業再構築補助金とはコロナ禍の影響を受けた中小企業等への支援策

    事業再構築補助金とは、思い切った事業再構築に挑戦しようとする中小企業などを支援するための補助金です。新型コロナウイルス感染症の流行によって、消費者の需要の変化や企業の売り上げ減少など、さまざまな影響が生じている中で日本社会の未来を切り拓くことを目的に創設されました。

     

    新分野展開や事業・業種転換、事業再編などの大規模な事業再構築に意欲的に取り組もうとしている中小企業への支援として、経済産業省が実施している補助金です。事業再構築補助金は、2021年3月に第1回の公募がスタートしました。それ以降、定期的に公募が実施され、2023年6月30日に第10回の公募が終了しています。

     

    次回の公募の詳細は2023年7月時点では発表されていませんが、今までのスケジュールを考えると、2023年中に第11回の詳細が明らかになると予測されています。

     

    ②事業再構築補助金の6つの申請枠

    事業再構築補助金には以下の6つの申請枠があります。

     

    • ・最低賃金枠
    • ・物価高騰対策・回復再生応援枠
    • ・産業構造転換枠
    • ・成長枠
    • ・グリーン成長枠/エントリー・スタンダード
    • ・サプライチェーン強靭化枠

     

    さらにグリーン成長枠には「エントリー」と「スタンダード」の2つが存在するため、全部で7種類に分けられます。補助上限額や補助率はそれぞれの枠によって異なるため、自社がどこに該当するのかを事前に確認する必要があります。また、応募要件は枠によって異なりますが、すべての枠に共通する条件が以下の2点です。

    • ・事業計画について認定経営革新等支援機関の確認を受けること
    • ・付加価値額を向上させること

     

    ここでは、6つの申請枠の対象となる事業者や、補助上限額・補助率や応募要件などを紹介します。

     

    参照:https://www.meti.go.jp/covid-19/jigyo_saikoutiku/pdf/summary.pdf

    1.最低賃金枠

    最低賃金枠は、最低賃金の引上げの影響によって必要資金の確保が難しくなった業績が厳しい事業者を対象としています。応募事業者には、全枠共通の応募条件(付加価値額は、年率平均3.0%以上の増加)のほかに、以下の2点が必須要件として求められています。

    • ・2022年1月以降の連続する6ヶ月間のうち、任意の3ヶ月の合計売上高が、2019年~2021年の同3ヶ月の合計売上高と比較して10%以上減少していること
    • ・2021年10月から2022年8月までの間で、3ヶ月以上最低賃金+30円以内で雇用している従業員が全従業員の10%以上いること

    最低賃金枠での補助上限額と補助率は以下のとおりです。

    従業員規模

    補助上限額

    補助率

    5人以下

    500万円

    中小企業:3/4

    中堅企業:2/3

    6〜20人

    1,000万円

    21人以上

    1,500万円

     

    事業者が抱える従業員数によって補助上限額が異なるため、注意が必要です。

    2.物価高騰対策・回復再生応援枠

    新型コロナウイルス感染症や物価高騰の影響によって、業績が厳しい事業者を支援するための枠です。第9回までの「回復・再生応援枠」と「緊急対策枠」を統合して、第10回から新しく創設されました。応募条件は、全枠共通条件(付加価値額は、年率平均3.0%以上の増加)のほかに、以下の2点が設定されています。

     

    • ・2022年1月以降の連続する6ヶ月間のうち、任意の3ヶ月の合計売上高が、2019年~2021年の同3ヶ月の合計売上高と比較して10%以上減少していること ※付加価値額(売上高×1.5)減少で代替可能
    • ・中小企業活性化協議会から支援を受け、再生計画等を策定していること

     

    補助上限額と補助率は、以下のとおりです。

    従業員規模

    補助上限額

    補助率

    5人以下

    1,000万円

    中小企業:2/3

    (従業員数5人以下の場合400万円、従業員数6~20人の場合600万円、従業員数21~50人の場合は800万円、従業員数51人以上の場合は1,200万円までは3/4)

    中堅企業:1/2

    (従業員数5人以下の場合400万円、従業員数6~20人の場合600万円、従業員数21~50人の場合は800万円、従業員数51人以上の場合は1,200万円までは2/3)

    6〜20人

    1,500万円

    21人〜50人

    2,000万円

    51人以上

    3,000万円

     

    補助上限額も補助率も、従業員数によって異なります。特に、補助率は細かい条件があるので、事前に確認しておきましょう。

    3.産業構造転換枠

    営む事業分野の市場縮小といった産業構造の変化による影響を受け、事業の再構築が必要な事業者を対象にした枠です。ほかの枠と異なるのが、対象経費に廃業費が追加されている点です。事業再構築補助金として支給される金額とは別に、廃業時には廃業費として最大2,000万円が上乗せされます。

     

    必須要件は全枠共通条件(付加価値額は、年率平均3.0%以上の増加)のほかに、以下の2点があります。

     

    • 現在の主たる事業が過去~今後のいずれか10年間で、市場規模が10%以上縮小する業種・業態に属しており、当該業種・業態とは別の業種・業態の新規事業を実施すること
    • ・地域における基幹大企業が撤退することにより、市町村内総生産の10%以上が失われると見込まれる地域で事業を実施しており、当該基幹大企業との直接取引額が売上高の10%以上を占めること

     

    1つ目の条件である、市場規模が10%以上縮小する業種・業界は「産業構造転換枠の対象となる業種・業態の一覧」から確認できます。一覧にない業種・業界の場合も、市場規模が10%以上縮小することを客観的に証明できるデータを提出できれば、認められる場合があります。

     

    2つ目の条件の対象となる地域は「産業構造転換枠の対象となる地域の一覧」から確認可能です。事前に市区町村の担当部署へ提出して認められた「市場縮小要件を満たすことの説明書(基幹大企業撤退)」を添付して、応募する必要があります。

    産業構造転換枠の補助上限額と補助率は以下のとおりです。

    従業員規模

    補助上限額

    補助率

    20人以下

    2,000万円

    中小企業:2/3

    中堅企業:1/2

    21〜50人

    4,000万円

    51人〜100人

    5,000万円

    101人以上

    7,000万円

     

    申請には、データの作成や、市区町村への書類提出などが必要なケースがあるため、余裕を持った申請準備を行いましょう。

     

    4.成長枠

    今後成長の見込みがある分野に向けた大胆な事業再構築を目指す事業者に対して、補助金が支給される枠です。必須要件は全枠共通条件(付加価値額は、年率平均4.0%以上の増加)に加えて、以下の2点を満たす必要があります。

     

    • 取り組む事業が、過去~今後のいずれか10年間で、市場規模が10%以上拡大する業種・業態に属していること
    • ・事業終了後3〜5年で給与支給総額を年率平均2%以上増加させること

     

    1つ目の条件を満たす業種・業態は事務局によって選定され「成長枠の対象となる業種・業態の一覧」で公開されています。一覧にない業種・業態であっても、応募時に客観的なデータを示せる場合は認められる可能性があります。

     

    成長枠の補助上限額と補助率は、以下のとおりです。

    従業員規模

    補助上限額

    補助率

    20人以下

    2,000万円

    中小企業:1/2

    中堅企業:1/3

    ※事業場内最低賃金+45円、給与支給総額+6%を達成した場合、中小企業は2/3、中堅企業は1/2

    21〜50人

    4,000万円

    51〜100人

    5,000万円

    101人以上

    7,000万円

     

    成長枠は、中小企業から中堅企業への成長を試みる事業者に対して補助金を支給する「卒業促進枠」または、賃金の大幅引き上げに取り組む事業者に対して補助金を支給する「大規模賃金引上促進枠」の、いずれかとの同時応募が可能です。

    5.グリーン成長枠/エントリー・スタンダード

    グリーン分野での事業再構築に取り組み、成長を目指す事業者を対象にした枠です。グリーン分野とは、成長が期待されている以下の14の分野を指します。

     

    • ・洋上風力・太陽光・地熱
    • ・水素・燃料アンモニア
    • ・次世代熱エネルギー
    • ・原子力
    • ・自動車・蓄電池
    • ・半導体・情報通信
    • ・船舶
    • ・物流・人流・土木インフラ
    • ・食料・農林水産業
    • ・航空機
    • ・カーボンリサイクル・マテリアル
    • ・住宅・建築物・次世代電力マネジメント
    • ・資源循環関連
    • ・ライフスタイル関連

     

    また、グリーン成長枠には「エントリー」と「スタンダード」の2種類があります。エントリーよりもスタンダードの方が補助上限額が大きく設定されていますが、要件が少し狭まるので注意しましょう。

     

    エントリーの必須要件は、全枠共通条件(付加価値額は、年率平均4.0%以上の増加)のほかに、以下の2点を満たす必要があります。

    • ・グリーン成長戦略「実行計画」14分野に掲げられた課題の解決に資する取り組みとして記載があるものに該当し、その取り組みに関連する1年以上の研究開発・技術開発または従業員の5%以上に対する年間20時間以上の人材育成(外部研修または専門家によるOJT研修の受講が必須)をあわせて行うこと
    • ・事業終了後3〜5年で給与支給総額を年率平均2%以上増加させること

     

    スタンダードの必須要件は「2年以上の研究開発・技術開発または従業員の10%以上に対する年間20時間以上の人材育成」が必要な点以外は、エントリーと同様です。

    成長枠/エントリー・スタンダードの補助上限額と補助率は以下のとおりです。

    種類

    企業区分

    従業員規模

    補助上限額

    補助率

    エントリー

    中小企業

    20人以下

    4,000万円

    1/2

    ※事業場内最低賃金+45円、給与支給総額+6%を達成した場合は2/3

    21〜50人

    6,000万円

    51人以上

    8,000万円

    中堅企業

    なし

    1億円

    1/3

    ※事業場内最低賃金+45円、給与支給総額+6%を達成した場合は1/2

    スタンダード

    中小企業

    なし

    1億円

    1/2

    ※事業場内最低賃金+45円、給与支給総額+6%を達成した場合は2/3

    中堅企業

    なし

    1.5億円

    1/3

    ※事業場内最低賃金+45円、給与支給総額+6%を達成した場合は1/2

     

    エントリーに申請する中小企業の場合は、従業員規模によって補助上限額が異なります。一方、スタンダードに申請する場合や、中堅企業の場合は従業員規模に制限はありません。また、成長枠と同様に、卒業促進枠または大規模賃金引上促進枠への同時応募が可能です。

     

    6.サプライチェーン強靭化枠

    海外で製造している部品や製品を、国内製造に変更するために整備を進めている事業者を対象にした枠です。この取り組みにより、国内のサプライチェーンの強靱化と、地域産業の活性化を目指しています。補助上限額が大きく、最大5億円までの支給を受けられるのが特徴です。

     

    応募要件として「取引先から国内での生産(増産)要請があること」や「取り組む事業が過去~今後のいずれか10年間で市場規模が10%以上拡大する業種・業態に属していること」など、複数の条件が設定されているため、事前に確認する必要があります。

     

    補助上限額と補助率は、以下のとおりです。

     

    補助上限額

    補助率

    5億円
    ※建物費を含まない場合は3億円

    中小企業:1/2

    中堅企業:1/3

     

    ほかの枠に比べて補助上限額が大きいのが特徴ですが、厳しい応募要件がいくつも設けられています。したがって申請時には、応募要項の条件をしっかりと確認し、余裕を持って準備を行いましょう。

    ③事業再構築補助金を申請するまでの流れ4ステップ

    事業再構築補助金の申請には、以下の4つの手順を踏みます。

    • ・GビズIDプライムを取得する
    • ・必要書類を作成する
    • ・電子申請システムで申請する
    • ・審査結果の通知・交付申請手続き

     

    ここでは、各手順を詳しく解説します。

    1.GビズIDプライムを取得する

    まず、事業再構築補助金を申請するためには、GビズIDプライムの取得が必須です。GビズIDプライムとは、さまざまな行政サービスを利用できる、事業者用の認証システムのアカウントです。

    GビズIDプライムの取得には2〜3週間かかるケースがあるため、事業再構築補助金の申請を決めたらできる限り早めに登録を行いましょう。登録は以下のリンク先から可能です。

    GビズID

    2.必要書類を作成する

    次に申請時に必要な書類の取得や、事業計画書の作成などを行います。応募時に必要な書類は、申請枠によって異なります。公募要領を確認し、それぞれの枠に合った書類を作成しましょう。

     

    事業再構築補助金 公募要領丨中小機構

     

    提出書類が不足していたり、記入内容に不備があったりした場合は、不採択になる可能性があります。そのため、必要書類や記載内容は提出前に必ず確認してください。

     

    3.電子申請システムで申請する

    事業再構築補助金の申請は、電子申請システムのみで受け付けています。GビズIDプライムアカウントで専用のページにログインし、電子申請システムの操作マニュアルに従って必要事項を入力しましょう。事前に準備した必要書類を添付し、送信したら申請が完了です。

     

    申請する際には、必ず申請締め切りを確認しておきましょう。アクセスが集中してサイトにつながらないといった事情で申請期限を超えてしまった場合も、救済措置はないため注意が必要です。

    4.審査結果の通知を受けて交付申請手続きを行う

    審査が終わると、事務局から採択・不採択の結果が通知されます。採択された場合、補助金の交付申請手続きが必要です。手続き方法は「補助金交付候補者の採択後の流れ・資料」で公開されています。

     

    交付申請内容の審査によって、計上経費への補助金の活用が不可能だと判断された場合、交付決定額が減額する場合があります。また、交付額が補助金交付候補者採択時の申請額を上回ることはない点にも注意しましょう。

     

    ④まとめ

    事業再構築補助金とは、中小企業などが思い切った事業再構築に取り組む場合に、支給される補助金です。日本経済の構造転換の促進を目的に、創設されました。

     

    補助金は6枠7種類に分かれ、それぞれ対象となる事業者や補助上限額・補助率が異なるため、自社が該当する枠を選んで申請しましょう。また、枠に応じて申請時に必要な書類が異なり、準備に時間を要する場合があるため、余裕を持った対応が大切です。

     

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