インボイス制度の簡易課税への2つの影響!メリット・デメリット4選と2割特例を解説
2023年秋から導入されるインボイス制度に向け、対応策に追われている企業が多いのではないでしょうか。制度が導入されると、個人事業主や小規模事業主など免税事業者に大きく影響します。
インボイス制度に対応するため、免税事業者から課税事業者への転向を検討する企業も多いでしょう。なかには、課税事業者へ転向したあと簡易課税適用の届出を提出することをお考えの担当者の方がいらっしゃるかもしれません。
今回の記事では、インボイス制度が簡易課税事業者にどのように影響するのかについて詳しく解説します。簡易事業者を選ぶメリット・デメリットや新規課税事業者が選択できる「2割特例」についても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
1.簡易課税とは?概要と一般課税との違いを解説
消費税の計算方法には、簡易課税・一般課税の2種類の方法があります。この章では、簡易課税の概要と一般課税との違いについて解説します。
1-1.簡易課税の概要
消費税の計算は、税率ごとの税額の算出など事務手続きが煩雑になります。「簡易課税制度」は、消費税計算による経理・事務業務の負担を軽くするための制度です。簡易課税事業者になれるのは「消費税簡易課税制度届出」を管轄の税務署に提出した課税事業者で、前の前の年における課税売上額が5,000万円以下の事業者です。
簡易課税事業者になると、一般的な消費税納税額の計算を「みなし仕入率」という決められた割合で算出できます。消費税の納税額を税率ごとに分けて算出する手間が省けるため、経理・事務業務の負担を軽減できます。
1-2.一般課税との違い
一般課税では売上で「受け取った消費税額」から、仕入れなどで「支払った消費税」を引いて納税します。このことは仕入税額控除と呼ばれ、税率ごとの消費税額を明確にすることで受けられます。仕入税額控除を受けるには、課税されたすべての仕入について計算する必要があるため、経理業務に負担がかかるのが課題です。
一方で、簡易課税の納税額は「売り上げにかかる消費税額」から「業種ごとのみなし仕入率あたりの消費税額」を引くことで求められます。一般課税の消費税額を計算する方法よりも手間がかからないため、経理業務の負担を軽くできるでしょう。
2.事業区分におけるみなし税率
簡易課税制度では、事業の区分ごとに「みなし仕入率」が定められています。事業別のみなし仕入率は、以下の表を参考にしてください。
事業区分 |
該当する事業 |
みなし仕入率 |
第1種事業 |
卸売業 |
90% |
第2種事業 |
小売業、飲食料品の譲渡に関係する農業・林業・漁業の事業 |
80% |
第3種事業 |
飲食料品の譲渡に関係する事業を除いた農業・林業・漁業、鉱業、建設業、製造業など。第1種事業、第2種に当てはまり、加工賃などの料金が発生する業務を除く |
70% |
第4種事業 |
飲食業など、第1種、第2種、第3種、第5種、第6種以外の事業。 |
60% |
第5種事業 |
運輸通信業、金融業・保険業、飲食店を除くサービス業 |
50% |
第6種事業 |
不動産業 |
40% |
3.インボイス制度における簡易課税業者への2つの影響
簡易課税事業者に登録することで、複雑な消費税納税額の計算の手間を減らせる簡易課税制度ですが、インボイス制度が始まることで以下のような影響があります。
- ・適格請求書発行事業者への登録が必要になる
- ・経理・事務業務の負担が増える
それぞれの影響について詳しく解説するので、簡易課税事業者への登録を検討している企業の担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
3-1.適格請求書発行事業者への登録が必要になる
一般課税を選択する課税事業者が発注側で取引をしている場合、先方に仕入税額控除に必要となる適格請求書を提出する必要があります。適格請求書発行事業者への登録を済ませていない事業者は、適格請求書(インボイス)を発行できません。
受注側で受領した消費税を、発注側が肩代わりして納税する必要があるため、発注側から消費税額分の値引きを要求されたり契約を打ち切られたりするケースがあります。しかし、免税事業者や適格請求書発行事業者でない場合や、簡易課税を選択する自社が発注側である場合は、みなし仕入率で消費税額を計算し納税できるため影響はありません。
3-2.経理・事務業務の負担が増える
発注側に適格請求書発行事業者に登録する課税事業者がある場合、受注側もインボイスを発行できるようにする必要があります。しかし、適格請求書発行事業者に登録すると、さまざまな経理・事務業務の負担が増加するでしょう。
インボイス制度が始まる前には、簡易課税事業者に「区分記載請求書等保存方式」が導入され、これにより仕入税額控除を受けていました。インボイス制度が始まり、適格請求書の書式で請求書を記載するようになると、これまでに加えて以下の項目の記載が必要になります。
- ・適格請求書発行事業者の登録番号
- ・税率ごとに区分・合計した金額と適用税率
- ・税率10%・8%ごとに区分した消費税額
また、仕入先が適格請求書発行事業者かそうでないかにより、請求書の処理方法が変わります。経理・事務の業務負担が増加することが予想されるため、対策が必要になるでしょう。
4.インボイス制度では一般課税と簡易課税どちらを選ぶべきか
発注側がインボイス発行事業者である場合、受注側である簡易課税事業者も適格請求書発行事業者への登録が必要になるなどの影響があります。
インボイス制度が導入されることで、一般課税か簡易課税どちらを選ぶか迷っている事業者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。企業の今後の方針や仕入金額の多さによって、どちらを選ぶべきかが変わります。この章では、選ぶ際に考慮するべき条件について解説します。
4-1.大きな投資を行う予定なら一般課税
年度内に設備投資や新しい建物の購入など大きな投資を行う予定なら、一般課税を選ぶ方がおすすめです。製造業で、年間の課税売上高が3,000万円、課税仕入額が1,200万円の企業の消費税額を例に計算してみましょう。
【一般課税】(3,000万円×10%)- (1,200万円×10%) = 180万円
【簡易課税】300万円 – (300万円×70%)= 90万円
このように特に大きな投資がなければ、簡易課税を選択した方が納税額が少なくなります。例えば、1,000万円の設備投資を行った場合は以下のとおりです。
【一般課税】(3,000万円×10%)-【(1,200万円+1,000万円)×10%】=80万円
一般課税での消費税額は80万円となり、簡易課税で計算したときの90万円を下回ります。設備投資の金額によって納税額が変わる場合があるため、早めに予算組みをして、どちらを選択するか検討しましょう。
4-2.仕入が少ないなら簡易課税
課税年度における仕入金額から計算した仕入率が、みなし仕入率を下回る場合は簡易課税がおすすめです。仕入率が低い業種の例としては、以下のような種類があげられます。
- ・コンサルティング業
- ・サービス業
- ・IT企業
コンサルティング業は、仕入が少なく専門性が高い業種です。また、計算に考慮する必要のない人件費がかさむ業種であるサービス業なども、消費税の納税額が少なくなるケースがあります。
5.インボイス制度における簡易課税のメリット2選
インボイス制度で簡易課税を選ぶメリットには、以下の2つがあります。
- ・事務負担の軽減
- ・納税額を少なくできる
この章では、それぞれのメリットについて詳しく解説します。
5-1.事務負担の軽減
簡易課税では、一般課税に比べて消費税額の計算が簡単です。一般課税では、預かり消費税と支払い消費税を算出して、国に納める消費税額を計算します。10・8%の税率ごとの消費税額を求める必要があるため、計算が複雑です。しかし、簡易課税では業種ごとに決まっているみなし仕入率を利用して計算できるため、一般課税よりも消費税の納税額の算出が簡単です。
また、みなし仕入率で計算すると期末に予想される売上高から、その年度の消費税の納税金額が推測できるため納税額を把握しやすくなります。
5-2.納税額を少なくできる
みなし仕入率で計算した方が、一般課税で計算するよりも消費税の納税額を抑えられる場合があります。例えば、みなし仕入率が高い第1種事業(90%)や第2種事業(80%)です。年間の課税売上高が2,000万円、課税仕入高が1000万円の小売業(第2種事業)における、一般課税と簡易課税の納税額を比較してみましょう。
【一般課税】2,000万円 × 10% – 1,000万円 × 10% = 100万円
【簡易課税】2,000万円 × 10% – (200万円 × 80%) = 40万円
このように簡易課税の方が一般課税よりも、納税額が60万円少なくなります。自社の事業内容によっては、一般課税よりも納税額が少なく済む場合があるため検討すると良いでしょう。
6.インボイス制度における簡易課税のデメリット2選
事務負担の軽減や納税額が抑えられるなどのメリットがある簡易課税ですが、自社の事業内容や支出状況によっては注意が必要となるケースがあります。自社にデメリットとなるケースは、以下の2点です。
- ・事業数によっては事務負担が増す
- ・経費によっては税負担が増す
この章では、それぞれのデメリットについて解説していきます。
6-1.事業数によっては事務負担が増す
複数の事業を手掛けている場合、業種ごとのみなし仕入率で消費税を区分する必要があります。区分せずに算出する際は、手掛ける事業のうち最も低いみなし仕入率で計算しなければなりません。控除額の低下を防ぐためには、業種ごとに消費税を区分・管理する必要があります。その場合は計算する手間が増えてしまうため、経理・事務の負担が増加します。
6-2.経費によっては税負担が増す
年度内に設備投資や仕入に大きな費用がかかる予定がある場合は、一般課税よりも納税額が増加するケースがあります。簡易課税制度では、課税売上高とみなし仕入率のみで消費税額を計算するため、設備投資や支出にかけた費用が考慮されません。
また、簡易課税に申請・登録すると、それから2年間は一般課税に戻すことが不可能です。近いうちに自社への設備投資を行う予定がある企業は、簡易課税を選択する際に十分検討する必要があります。
7.新規課税事業者が選択できる2割特例の概要を解説
インボイス制度開始に伴い、免税事業者から課税事業者への転向を検討している方もいらっしゃるでしょう。免税事業者から課税事業者に変わると、期間限定ではありますが税負担を軽減できる「2割特例」制度を利用できます。この章では、2割特例の詳細と簡易課税との使い分けについて解説するので、ぜひ参考にしてください。
7-1.2割特例とは
2割特例とは、インボイス制度に対応するため免税事業者から課税事業者へ変わる際、税負担を軽減できる制度です。企業の業種に関わらず、税負担は「売上税額×80%」に設定されています。この2割特例が適用されるのは、インボイス制度が開始される2023年10月1日から2026年9月30日の課税期間です。免税事業者から課税事業者に登録した際、以下の3種類からいずれか1つを選べます。
- ・簡易課税
- ・一般課税
- ・2割特例
簡易課税や一般課税は事前に届出する必要がありますが、2割特例では「インボイス制度に際して免税事業者から課税事業者に変更した事業者」であれば、特に届出をする必要はありません。
ただし、2割特例が適用されない事業者もあるので注意が必要です。2割特例が受けられない事業者の基準は、以下のとおりです。
- ・基準期間・特定期間の課税売上高1000万以上
- ・課税売上高は1000万円以下だが、課税事業者選択届出を提出し2023年10月1日以前から課税事業者になっている
- ・課税期間を短縮している事業者
免税事業者から課税事業者に変わる時期や、課税期間を確認しながら2割特例を活用するようにしましょう。
7-2.2割特例を終了後は簡易課税への申請が可能
2割特例の対象期間が終了、または期間中に対象事業者でなくなった場合は、次回の課税期間より簡易課税を選択できます。2割特例の対象期間が終わり簡易課税を選択する場合は、簡易課税制度選択届出書を必ず提出するようにしましょう。
自社の決算が赤字の場合は、一般課税よりも税負担が増えるリスクがあります。簡易課税に登録すると2年間は変更できないため、届出を出す前に確認するようにしましょう。
8.簡易課税に登録するか迷ったら「インボイス制度ガイドブック」をご覧ください
インボイス制度の導入を前に一般課税か簡易課税どちらを選ぶか迷っている方は、NTT東日本の「インボイス制度ガイドブック」で制度の詳細をご確認ください。
ガイドブックには、インボイス制度の概要だけでなく企業で対応すべきことも記載されているため、自社のインボイス制度への対策に役立てられるでしょう。また、適格請求書発行事業者に登録することで負担が増す経理業務を軽減したいとお考えの方は「おまかせ はたラクサポート」の利用をご検討ください。
「おまかせ はたラクサポート」は、請求書の電子化を行う各種クラウドサービスを一元サポートするサービスです。システムの初期設定や操作・運用支援サポートも提供しているので「インボイス制度ガイドブック」のご利用とあわせてご検討ください。
9.まとめ
簡易課税を選択した事業者で、インボイス制度開始後に影響があるのは、発注側に一般課税を選択する課税事業者がいる場合です。インボイス発行に対応していない簡易課税事業者は、発注側が仕入税控除を受けられないため、値引きや取引の見直しを検討されるかもしれません。
インボイス制度では、一般課税・簡易課税どちらを選ぶかによって納税額が変わります。自社の経営方針や適用されるみなし仕入率を確認しながら、選ぶようにしましょう。また、インボイス制度導入を機に免税事業者から課税事業者に変更した場合、税負担を軽減できる2割特例を利用できます。
対象期間が終了するまで2割特例を選択し、その後簡易課税事業者に変更することも可能です。2割特例と簡易課税での納税額を比較し、金額が抑えられる方を選びましょう。
この記事を書いた人
NTT東日本 ビジネス開発本部 北森雅雄
NTT東日本に入社後、自治体向けのシステムエンジニアとして、庁内ネットワークや公共機関向けアプリケーションなどのコンサルティングからキャリアを開始。
2018年から現職にて、プロダクト(SaaS)開発、デジタルマーケティング全般のディレクションに従事。
2022年に業務のデジタル化を分かりやすく発信するオウンドメディア(ワークデジタルラボ)のプロジェクトを立ち上げ。
NTT東日本にかかわる、地域のみなさまに向けてデジタル化に役立つ情報発信を展開。