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Writer:北森 雅雄

インボイス制度の猶予期間で確認すべき3つのポイント!経過措置や準備する点も解説

  • インボイス制度

    取引で受領した消費税を、税率ごとに正しく把握するための制度が「インボイス制度」です。正確な納税額を把握し仕入税額控除を受けるため、適格請求書の発行・保管が必要となります。しかし、免税事業者は適格請求書が発行できません。

    そこで、免税事業者が適格請求書発行事業者になると、経理業務や消費税納税の負担が急激に増加します。この負担を和らげるため、インボイス制度には猶予期間が設けられています。

    今回の記事では、インボイス制度の猶予期間について解説と、本格的にインボイス制度が始まる前に企業が対策しておくべきことを紹介します。自社におけるインボイス制度への対策に迷っているという担当者の方は、ぜひ参考にしてください。

    この記事の目次

    1.インボイス制度とは?仕入税控除についても解説

    2023年10月の導入が決定しているインボイス制度とは、どのような制度なのでしょうか。この章では、インボイス制度の概要と適格請求書の提出によって受けられる仕入税額控除について解説します。インボイス制度への理解を深めたい方は、ぜひ参照ください。

     

    1-1.インボイス制度とは

    インボイス制度は正式名称を「適格請求書保存方式」と言い、企業が取引で受領した消費税の仕入税額控除を受けるための制度です。インボイスとは、受注先から発注先へ正確な適用税率や消費税額などを伝えるための手段です。

    2018年に消費税率10%が導入された際、生活必需品の税率を8%に据え置くことになり、2つの消費税率が混在することになりました。税率ごとの消費税額を正しく把握することを目的に、必要な項目を記載した「適格請求書」の発注先への提出・保管が必要になります。

     

    1-2.仕入税控除について

    課税事業者とは、取引で受領した消費税を国に納税する義務のある事業者です。消費税とは、商品・製品・サービスをとおして消費者が負担する税金で、受領した事業者に国への納税義務があります。

    納税する際は、課税対象となる売上額に含まれる消費税から、仕入れに必要となった消費税を差し引いた金額を納めます。これが、仕入税控除です。販売される商品と仕入れ商品の価格には、どちらも消費税が含まれているため、消費者と販売者で二重の消費税を納税する事態を防ぐことを目的としています。

    2.インボイス制度は個人事業主への影響が大きい

    インボイス制度で大きな影響を受けるのは、個人事業主や小規模事業主などの免税事業者です。免税事業者とは、消費税課税期間となる期間で売上高が1,000万円以下の事業者を指します。インボイス制度では、課税事業者はインボイスの発行や保管を行う必要があります。適格請求書発行事業者に申請・登録するには、課税事業者でなければなりません。

    しかし、免税事業者のままでは、適格請求書発行事業者になれないためインボイスの発行が不可能です。発注先が仕入税額控除を受けるには、受注先から発行されたインボイスが必要です。インボイスが発行できず仕入税額控除が受けられないと、発注先から値引き交渉や契約を見直されるリスクがあります。

    3.インボイス制度には猶予期間(経過措置)がある

    2023年秋から開始されるインボイス制度には、本格的に移行するまで6年間(2023年10月1日〜2029年9月30日まで)の経過措置が設けられています。経過措置では免税事業者が受注先であっても、取引の際に支払った仕入税額から決まった割合で控除を受けられます。

    対象となるのは、免税事業者や課税事業者と取引のある事業者です。控除を受けるためには、消費税率ごとの区分記載請求書等保存形式と同じ記載事項の請求書や帳簿が必要となります。

    4.インボイス制度の猶予期間で確認すべき3つのポイント

    個人事業主や小規模事業主など免税事業者のなかには、この猶予期間の間にインボイス制度への対応策を検討するという方がいらっしゃるでしょう。猶予期間の間に確認しておいた方が良いポイントは、以下の3つです。

    • ・控除税額は期間中一律ではない
    • ・会計上の仕分け方法や税額計算方法が変わる
    • ・取引先が課税事業者に登録しているか確認する

    インボイス制度が本格的に開始される前に、これらのポイントを確認しておきましょう。

     

    4-1.控除税額は期間中一律ではない

    インボイス制度の経過措置期間では、取引先からの適格請求書の提出がなくても、一定の割合で仕入税額控除が受けられます。しかし、経過措置の6年間の間で控除率は一律でなく、3年ごとに徐々に下がっていきます。

    2023年10月1日〜2026年9月30日

    控除率:80%

    2026年10月1日〜2029年9月30日

    控除率:50%

    2029年10月1日〜

    (控除なし)

    経過措置が開始されてから3年間は、80%の控除率を受けられますが、3年後には50%に低下します。さらに、経過措置が終了する6年後には、完全に控除が受けられなくなるため注意が必要です。

     

    4-2.会計上の仕訳方法や税額計算方法が変わる

    受注先に免税事業者を持つ課税事業者は、経過措置期間中に控除が受けられない20%・50%の損失を振り替えておく必要があります。さらに経過措置を受けていることを、課税仕入の取引先・年月日・内容・支払額などの項目と合わせて、帳簿に記載しておくことが必要です。

    経過措置期間における会計上の仕分け方法には、以下の2つがあります。

    • ・消費税額控除以外を費用に上乗せする
    • ・消費税額控除以外を雑損失に振り替える

    費用に上乗せする場合は、帳簿に記載する際に仕入れ税額控除が可能な金額を記載しておきましょう。また、雑損失で振り替える場合は、決算時に控除されない税額をまとめて雑損失として計上します。

     

    4-3.取引先が課税事業者に登録しているか確認する

    6年間の猶予期間が終ればインボイス制度が本格的に始動し、取引の発注側は税額控除が受けられなくなります。受注側に免税事業者がいる場合、課税事業者へ変更する意思があるのか確認しておきましょう。猶予期間中に取引先が課税事業者へ登録する場合は、時期によって経過措置の控除率の割合が変わる場合があるため注意が必要です。

    5.インボイス制度の問題点

    税率ごとの消費税納税額を正確に知るためのインボイス制度ですが、以下のような問題点があります。

    • ・免税事業者への負担
    • ・インボイス交付による経理・事務業務の負担増加

    消費税納税や経理・事務業務への負荷が多く免税事業者への負担増が示唆されているインボイス制度ですが、課税事業者にも多くの負担がかかります。そのため、制度導入への反対意見も多く廃止や延期を求める声があるのも現状です。

    制度が始まるまでに適格請求書発行事業者として登録するためには、2023年3月31日までに申請を済ませる必要がありました。しかし、多くの事業者が未登録のままであったため、なるべく多くの事業者に登録を促すため、2023年9月30日まで締め切りが延長されています。登録の期限は延長されましたが、インボイス制度の開始時期は2023年10月1日から変更されていません。

    6.インボイス制度の猶予期間で課税事業者が準備しておく3つのポイント

    インボイス制度が本格的に開始されるまでの猶予期間で、課税事業者が準備しておくポイントは、以下の3つです。

    • ・適格請求書発行事業者への登録
    • ・取引先に課税事業者へ登録するよう働きかける
    • ・経理・事務業務の負担を軽減するシステムの導入

    6年間の猶予期間で自社の体制を整え、インボイス制度に適応できるようにしましょう。

     

    6-1.適格請求書発行事業者への登録

    まだ登録が済んでいない事業者は、適格請求書発行事業者への申請・登録を済ませましょう。もともと定められていた申請期限は過ぎていますが、その後、インボイス制度開始の前日まで(2023年9月30日)まで期限が延長されています。申請方法には、以下の2つの方法があります。

    • ・e-Tax
    • ・書面

    e-Taxの場合、国税庁のホームページより、スマートフォンやタブレット、パソコン対応のソフトが利用可能です。書面であれば、国税庁のホームページから書式をダウンロードして必要事項を記入し、管轄地域の税務署に設置された「インボイス登録センター」宛に郵送しましょう。税務署で審査・登録されると登録番号が通知・公表されるので、取引先に通知します。

     

    6-2.取引先に課税事業者へ登録するよう働きかける

    取引の発注先が免税事業者の場合、適格請求書を発行してもらえないため仕入税額控除が受けられません。しかし取引先を変えると、それまで築いてきた発注ルートが途切れてしまうだけでなく、代替品の検討などの手間が増えます。取引を継続したい旨の意思を伝え、発注先に働きかけて課税事業者への登録を勧めましょう。

     

    6-3.経理・事務業務の負担を軽減するシステムの導入

    インボイス制度では、取引先へ適格請求書を発行するだけでなく、自社でもコピーを保管しておく必要があります。また、売上税額と仕入税額の計算方法が従来の方法から変更されるため、発注先では課税事業者と免税事業者からの課税仕入を区別して算出しなければなりません。

    このように請求書の作成や保管業務により経理・事務の負担が増加するため、会計システムや販売システムなどの導入を検討するのがおすすめです。複雑な業務をシステムで行えるため、経理や事務の負担を軽減できるでしょう。既に導入しているシステムがあるなら、インボイス制度への仕様に修正できるか、販売元への確認が必要です。

    7.猶予期間で対応策を検討するなら「インボイス制度ガイドブック」をご覧ください

    猶予期間でインボイス制度への対応策を検討するなら、NTT東日本の「インボイス制度ガイドブック」をごらんください。ガイドブックには、インボイス制度の詳細や導入される背景について知ることができるだけでなく、請求書発行側と受取側でやるべきことや企業での対応策について記載されています。

    また、適格請求書の発行や保管など、経理・事務へかかる負担を軽減したいとお考えの方は「おまかせ はたラクサポート」の導入を検討してはいかがでしょうか。「おまかせ はたラクサポート」は、経理や総務などのクラウドサービスの一元サポートシステムです。NTT東日本が厳選した業務支援クラウドサービスをご利用いただけるだけでなく、ヘルプデスクの一元化によりスムーズなサポートが可能です。

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    8.まとめ

    2023年10月1日から開始されるインボイス制度には、2029年9月30日まで6年間の猶予期間があります。猶予期間中は、免税事業者との取引でも、一定の割合で仕入税額控除を受けられます。猶予期間について課税事業者が確認しておくポイントは、以下の3点です。

    • ・控除税額は期間中一律ではない
    • ・会計上の仕分け方法や税額計算方法が変わる
    • ・取引先が課税事業者に登録しているか確認する

    控除を受けられる割合は、80%から50%と3年ごとに下がります。またその間、控除を受けられない分の税額を処理するため、会計の仕分け方法や税額計算方法が変わることに注意が必要です。課税事業者は、インボイス制度が始まるまでに準備しておくようにしましょう。

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