| Writer:NTT東日本 北森 雅雄(Masao Kitamori)
請求書を電子化する時のポイントは?メリット・デメリットも紹介
紙の請求書でやりとりをするのは非効率と感じていても、これまでの慣習や業務フローから、なかなか電子化に踏み切れていないという企業や個人事業主の方も多いのではないでしょうか。そもそも請求書の電子化は可能なのか気になっている方も多いと思います。
今回の記事では、請求書の電子化について法律的に可能なのか、また注意点やポイント、メリット・デメリットについて紹介していきます。
1.請求書を電子化できるのか
請求書を電子化して発行することはそもそも可能なのでしょうか。結論から書くと、規程はありますが認められている方式です。
電子で発行した請求書をPDFにしてメールで添付して送信する方法や、請求書を発行できるWebシステムやクラウドサービスを利用して請求書を送信する方法などがあります。
1法律上の注意点
請求書の電子化は法律上問題ありませんが、保存には規程があります。一つが電子帳簿保存法の「電子取引」の項目です。電子取引で定められている要件では、これまでは請求書の電子データを紙で出力し保存を行うことでも問題ありませんでしたが、2024年からは紙保存が認められなくなります。
これは、自社で発行する請求書だけでなく、取引先から電子取引で請求書を受領する場合も該当します。そのため、PDFやWebシステムといった方法で請求書を受け取っている場合は、電子帳簿保存法に対応していく必要があります。
電子データとして保存するためには、満たすべき保存要件があるので、準備をしておきましょう。保存要件は大きく分けて2つ、「真実性の要件」と「可視性の要件」です。
(1)電子取引の真実性の要件
真実性の要件では、以下の4つの中から一つを満たせば問題ありません。
- ●タイムスタンプが付与された後、取引情報の授受を行う
- ●取引情報の授受後、速やかに(又はその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに)タイムスタンプを付すとともに、保存を行う者又は監督者に関する情報を確認できるようにしておく
- ●記録事項の訂正・削除を行った場合に、これらの事実及び内容を確認できるシステム又は記録事項の訂正・削除を行うことができないシステムで取引情報の授受及び保存を行う
- ●正当な理由がない訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定め、その規程に沿った運用を行う
上記にあるタイムスタンプとは、時刻認証局が認めた第三者によって請求書に付与される電子的なスタンプのことです。電子データは改ざんの可能性が紙よりも高いため、その電子データの存在や改ざんされていないことを証明するためのものです。
タイムスタンプ機能のある電子帳簿保存法に対応したシステムや、訂正履歴などを確認できるシステムの利用が上の3つの対応になります。
システムの導入が難しい場合は、1番下の「訂正・削除の防止の事務処理規程」を行うことになります。改ざんされないような運用ルールを定めるというものです。
(2)電子取引の可視性の要件
可視性の要件では、まず以下の2つを満たす必要があります。
- ●保存場所に、電子計算機(パソコン等)、プログラム、ディスプレイ、プリンタ及びこれらの操作マニュアルを 備え付け、画面・書面に整然とした形式及び明瞭な状態で速やかに出力できるようにしておくこと
- ●電子計算機処理システムの概要書を備え付けること
また、保存された電子データを検索するための要件も定められています。
●取引年月日(その他の日付)、取引金額、取引先の3つの記録項目により検索ができること
上記に加えて、以下の2つのどちらかを満たす必要があります。
- ●「日付または金額の範囲指定により検索できること」「2つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件により検索できること」を満たしている
- ● 税務職員による質問検査権に基づく電磁気記録のダウンロードの求めに応じることができるようにしていること
ただし、保存義務者が小規模な事業者(電子取引が行われた日の属する年の2年前までの期間の売上高が1000万円以下)でダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合には、検索機能は不要です。
また、例外対応としてシステムを利用しない形で取引先からの請求書を受領する場合、ファイル名を規則的にする、という方式もあります。
2押印の必要性
押印は法律上必要ありませんが、請求書などは信憑書類として証拠になるため、印鑑があるほうが好ましい場合や、自社・取引先の規定で必要になるケースも多いです。そのため、電子化した上で判子も必要になる場合は、電子印鑑を導入したり、判子の画像を保存してPDFファイルに貼り付けたりするなどの対応方法があります。
2.請求書を電子化するメリット
請求書を電子化した時のメリットについて、
1
業務効率化
紙の請求書で必要な、作成した請求書の印刷から封入・
2
コスト削減
紙の請求書では紙代・印刷代・
3
発行からのタイムラグがない
紙の請求書で郵送する場合は、発行した日から受け取るまで数日かかりますが、電子化すればメールやWebシステムなどで発行から送信・受領まですぐにやりとりが可能です。
仮に修正が必要な場合も、電子データを編集してすぐに送付し直すことが可能です。
4
テレワークにも対応できる
請求書を郵送で送る場合は出社し印刷・郵送処理などが必要ですが、電子化すればクラウドシステムなどの導入・活用も可能です。そのため、在宅勤務をはじめとしたテレワークでも請求書の発行・送信が可能になり、社内の働き方改革の推進につながります。
5
保存・管理がしやすい
発行した請求書や受け取った請求書の管理は、
6
履歴が残り、確認しやすい
請求書をPDF化しメールで送信する場合は、メールの送受信の日
7
発行日に受領できる
受領する側からすると、
8
システム入力工数の削減
受け取った請求書の情報を紙からシステムに入力し直す場合、電子化されたデータがCSVなどに対応していればそのまま読み込めることがあります。
また、利用する請求書発行・受け取りのシステムが自動入力に対応している場合や、RPAを利用すればPDFデータから必要な内容を読み取り入力されるなど、システムへの入力工数の削減が期待できます。
3.請求書を電子化するデメリット
請求書を電子化した場合のデメリットと解消方法を紹介します。
1
すべての取引先に導入できるとは限らない
請求書を電子化する場合、基本的には取引先との合意の元に行う必要があります。郵送で紙の請求書を希望する企業もあるため、すべての請求書を電子化するのは難しいというのが実状でしょう。
とはいえ、すべての請求書を電子化できなくても、工数削減や業務効率化は見込めます。仮に郵送する必要がある取引先でも、メールで先に電子データを確認してもらうことで、修正などの作業が減りトータルで見ると月初の請求書のやり取りに充てる時間や業務リソースの削減が見込めます。
2
取引先企業の負担がかかる場合も
請求書を電子化した後のしばらくの期間は、請求先企業が電子化に対応するための負担が増える可能性があります。目先の手間が増えてしまうのはあまり歓迎されないという懸念を抱え電子化が進みにくいこともあるしょう。
一方で、ペーパーレス化は国全体として進んでいる流れです。2024年からの電子取引の電子保存の義務化という内容も、あくまで猶予期間であり元の予定では2022年から施行される内容でした。
電子化したほうが、長期的に見た時の業務効率は高いため、基本的には双方にメリットがあります。電子化を進める最初の段階での負担はつきものですので、事前の連絡や合意をとり、丁寧に進めていくのが好ましいでしょう。
3
導入コスト・ハードルがある
自社で請求書を電子化する場合、請求書保存ルールの変更などのワークフローの変更や、システム導入コストが発生することがあります。なかには慣れた業務フローを変えることの反発から、ペーパーレス化を反対する現場もあるでしょう。
請求書の電子化の方法はシステムを導入せずともお手軽に行える方法もあります。例えばPDFファイルをメール添付で送信する方式の場合、郵便の手間は削減できます。
電子発行した請求書自体は、電子帳簿保存法としては発行側も要件を満たして保存する必要がありますが、電子データの事務処理規定(ルール)を定めて、検索できるようにファイル名の規則を揃えるなどの、最小限の手間で要件を満たせるケースもあります。
4.請求書を電子化する時のポイント
請求書を電子化する時にやるべきこと・注意点などのポイントを紹介します。
1
取引先への伝達・承諾を得る
これまで郵送で請求書を送っていた場合、電子化する際にはまずは
2
改ざんを防ぐ
紙の請求書であれば改ざんは基本的にできませんが、
3
セキュリティ面に注意
メールでPDFファイルを送信する場合、セキュリティ面を考慮してPDFファイルをZIP化してパスワードで保護し、別のメールで開封パスワードを送信するなどの注意を払いましょう。
また上述の方法は、PPAP問題と言われセキュリティ的に好ましくないとする企業もあります。より安全を考慮する場合は、セキュリティ性の高いクラウドサービスの利用なども検討していきましょう。
4
紙との併用のフローや仕組みを整える
電子化に対応していない取引先への郵送がある場合、従来の紙での発行・郵送も併せた業務フローにする必要があります。請求書発行システムによっては、登録している取引先の一部を郵送指定して出し分けられる機能を搭載しているものもあります。
紙や手書きの請求書を電子化する際にはAI-OCRという仕組みが便利です。AI-OCRとは、スキャンしたデータに記載されている文字情報を電子データとして自動で読み取ってくれるOCRのより高機能なものです。
人工知能が手書き文字を学習して高い識字率で読み取れ、スキャンデータの中でも必要な部分だけをピックアップして効率よく紙の書類をデータ化できるなどのメリットがあります。
5.まとめ
今回の記事では、請求書の電子化について法律的に可能であるか、またメリット・デメリット、運用上の注意点について説明していきました。
発行する請求書を電子化する方法も、取引先から送られてきた電子請求書を受領して保存する方法も、今後のビジネスの場においてはスタンダードになるでしょう。
電子帳簿保存法も要件が緩和されて導入の間口が広くなっています。ペーパーレス化を会社として進めていきたい場合は、スキャンした紙データを効率よく電子化できるAI-OCRのご活用もぜひ視野に入れてみてください。
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この記事を書いた人
NTT東日本 ビジネス開発本部 北森雅雄
NTT東日本に入社後、自治体向けのシステムエンジニアとして、庁内ネットワークや公共機関向けアプリケーションなどのコンサルティングからキャリアを開始。
2018年から現職にて、プロダクト(SaaS)開発、デジタルマーケティング全般のディレクションに従事。
2022年に業務のデジタル化を分かりやすく発信するオウンドメディア(ワークデジタルラボ)のプロジェクトを立ち上げ。
NTT東日本にかかわる、地域のみなさまに向けてデジタル化に役立つ情報発信を展開。