生産性向上や業務効率化を目指すBPR(業務改革)の実施を検討しているものの「具体的な進め方や施策のイメージが浮かばない」という方は多いのではないでしょうか。BPRを成功させるためには、進め方はもちろん具体的な成功事例を知っておくことが大切です。
そこで今回の記事では、BPRの進め方やポイントや3つの成功事例などについて解説しています。「BPRを成功させたいが何から始めたら良いか分からない」という方はぜひ参考にしてみてください。
目次:
BPR(業務改善)とは何なのでしょうか?ここではBPRの意味や内容、業務改善との違いを詳しく見ていきましょう。
BPR(業務改革)は「Business Process Re-engineering」の略です。BPRはこれまでの業務プロセスや経営戦略などを根本から見直し、顧客や市場のニーズに合うように会社全体を改善する取り組みです。BPRの目的には、以下のようなものがあります。
BPRによって会社全体に変革を与えることで、無駄になっている業務や人件費などが整理され、生産性や従業員満足度を向上させる効果があります。
BPRに類似する言葉である「業務改善」は、特定の部署や従業員個人など、業務プロセスの中から一部の課題点を解決することが目的です。BPRと業務改善の違いは、以下のとおりです。
特徴 | |
BPR | 業務プロセスや経営戦略などを根本から見直し会社全体を再構築する |
業務改善 | 課題のある業務やコストなど、業務プロセスの一部を改善し業務効率化を目指す |
業務改善によって、一部の業務を効率化をすることは可能ですが、会社全体としての変化はあまりみられません。業務改善は、BPR(業務改革)の一部と言えます。
BPRの目的は、業務プロセスを根本から見直し無駄を省くことで効率化し、会社全体の生産性を向上させることです。生産性向上や業務効率化の目標を達成することで、BPRは成功と言えます。
特に、少子高齢化が進み人材不足が問題となっている昨今では、働き方改革による従業員の負担軽減が求められています。人材不足の状況下で、従業員の負担を減らしながら生産性を向上させるためには、BPRによる業務の見直しや無駄を省いた最適化が必要です。
その他に、経済産業省が発表しているDXレポートでは「2025年の崖」という日本経済における将来的な問題について言及されています。非効率的な古いITシステムは、データの管理方法が複雑です。
古いITシステムの多くは2025年頃にはサポートが終了し、使用できなくなったり管理できるエンジニアが退職したりすると言われています。維持費が高く古いITシステムの存在は、会社にとって業務効率を悪化させる要因になってしまい、会社の生産性に影響を及ぼす可能性があります。
「2025年の崖」を乗り越えるために、BPRによって会社のデジタル技術の見直しを行い、古いITシステムから新しいITシステムへの改革が必要です。
参考:DXレポート~IT システム「2025 年の崖」の克服と DX の本格的な展開~|経済産業省
ここでは、BPRの成功事例を紹介します。具体的な成功事例を知ることで、BPRを実施する際の参考にするだけでなくモチベーションを高めることができるでしょう。
北海道恵庭市の税務課では、多くの時間外労働を改善するためにRPA*1やAI-OCR*2を導入したBPRを行い、最大65%の業務削減に成功しました。多くの時間外労働の改善には、根本的な業務の改善が必要です。
担当者が半年ほどかけて現在の業務を見直し、手順をフローチャートでまとめて自動化できる工程を洗い出すことで、効率的にRPAやAI-OCRを導入できました。自動化できる工程にRPAやAI-OCRをうまく組み合わせることで、年間232時間の業務削減に成功しています。
*1:RPA(Robotic Process Automation)とは、コンピュータ上で行われる業務プロセスや作業を人に代わり自動化する技術
*2:AI-OCR(Artificial Intelligence- Optical Character Recognition/Reader)とは、手書き書類や帳票の文字読み取りを行い、データ化するAI技術を使ったOCRサービス
参考:税務課手動のRPAプロジェクトで16業務の効率化に成功 職員の”当事者意識”で自治体のDX推進は加速する!
北海道札幌市は、労働力不足への対策や生産性の向上を目的としたBPRを実施しました。業務を可視化してICT *3を活用し分析を行うことで、生産性向上を実現しています。業務量調査によって業務プロセスからタスク量と人的コストを可視化しました。
タスクの業務量を集計し、人件費を算出することで理想と現実のギャップが明確になります。そのため「委託することで大きな効果を得られる業務」「RPAで自動化すべき業務」を客観的に判断できるようになりました。
また、業務量調査の際に業務可視化ツールや民間企業のデータ分析などを活用し、時間や費用を抑えた分析・設計が実現しました。業務の可視化によって明らかになったノンコア業務を「行政事務センター」にアウトソーシングすることで、労働力不足を解決し、職員意識の向上に繋がっています。
*3:ICT(Information and Communication Technology)はデジタル化された情報通信技術のこと。インターネット上などで人と人をつなぐ役割を果たす。
佐賀県佐賀市では、困難な財政状況によって問題が起きている事業の見直しを目的としたBPRを実施し、施設建設費の大幅な節減や無駄な支出の抑制に成功しました。具体的には、以下の施策を行っています。
これらの施策によって、当初の計画より100億円を下回る金額でごみ焼却炉を建設し、水道事業の共同化で施設建設費の80億円を節減しています。
参考:民間企業等における効率化方策等(業務改革(BPR))の 国の行政組織への導入に関する調査研究 報告書概要版
BPRの具体的な進め方には5つのステップがあります。それぞれの内容やポイントを確認しておきましょう。
まず、現状の業務プロセスを見直して、部署やチームごとの目標を設定します。具体的な目標を設定するために、現状の業務フローにおける問題を把握しておく必要があります。図や表を用いて、課題を可視化するようにしましょう。
また、目標を達成するまでの期間を定めておくことで、BPRの計画を立てやすくなり成功に近づきます。
現状の業務プロセスを見直し問題点を把握したら「設定した目標を達成するために必要な課題が何か」を可視化します。課題を抽出する際に注目したいポイントには、以下のようなものがあります。
偏った視点での課題の抽出は、最終的にBPRの効果が出ない可能性があります。経営陣や従業員だけでなく、顧客を含めた視点で課題を抽出することがBPR成功のポイントです。
設定した目標を達成するまでに解決するべき課題を抽出したら、具体的な施策や戦略を考え、業務プロセスの設計をします。具体的な課題解決のための施策案には、以下のようなものがあります。
施策を一度に実施することは難しいため、優先順位をつけましょう。従業員の声や顧客のニーズを考慮しながら、生産性向上や業務効率化の効果が高い施策を優先し、設計に落とし込みます。
課題解決のための施策を落とし込んで設計した、新しい業務プロセスを実施します。BPRは改革の規模が大きいため、設計した業務プロセスを全て完了するまでには時間がかかります。また、BPRを実施することで予想と違う結果になることがあるでしょう。
設定した目標を達成するためには、定期的に効果を測定して問題点があれば修正していくことが大切です。中間目標を設定し「達成できていない部分がないか」「新しい課題が出ていないか」などを確認するようにしましょう。
最初に設定した目標達成までの期間のBPRを実施したら「うまく回っていた部分と問題があった部分」「目標と結果にずれが生じたか」を検証の上で評価します。評価するポイントには、以下のようなものがあります。
複数の視点からBPRの評価を行うことで、今後の業務プロセスの改善に役立てられるでしょう。
BPRをスムーズに実施し、成功させるための3つのポイントを解説します。
1つずつ解説していきます。
BPRは、最初に課題を明確にし目標を設定しておくことが成功のポイントです。会社全体で実施する改革のため、最初に目標を設定して従業員に共有することで士気が高まります。
また、BPRでは業務プロセスを根本から見直すため「施策の優先順位」や「不必要な既存業務の見極め」などが必要です。BPRの設計から実施期間の中で、軸がぶれて施策の内容が曖昧にならないように、軸となる課題や目標を明確にしておきましょう。
BPRを成功させるためには、経営陣だけでなく従業員全体に改革を行う必要性や方針を把握してもらうことが大切です。BPRは会社全体での改革で、新しいシステムの導入や人員の編成など、従業員全体の協力が必要です。
また、BPRの必要性や方針を従業員に共有して当事者意識を持ってもらうことで、社内全体のモチベーション向上につながります。
BPRの実施には、最適なツールを導入することが大切です。ERPなどの経営資源を一括で管理できるシステムや、進捗が一目でわかる管理ツールなど、自社の業務プロセスを簡略化するために必要なツールを選択して導入しましょう。
BPRの中で課題として発見した「時間がかかる単純作業・定型業務」などの効率化には、NTT東日本の「おまかせRPA」がおすすめです。RPA(Robotic Process Automation)は、これまで人間が行ってきたパソコン上の作業を自動で代替し、業務を遂行するツールです。
「おまかせRPA」を使用した業務例には次のようなものがあります。
「おまかせRPA」を導入することで様々な作業が自動化され、時間の短縮や人的リソースの削減が見込めます。
BPR(業務改革)は社内の業務内容やフロー、組織構造を根本的に見直す取り組みです。業務プロセスにおける無駄を省くことで、生産性向上や収益アップを目的としています。会社全体での業務プロセスの改革になるため、BPRを実施する明確な目的や指針を従業員全体に共有して協力してもらうことが大切です。
新しいツールの導入にはコストがかかります。しかし、自社の業務プロセスに合ったツールを導入し活用することで、長期的にみて全体のコスト削減や顧客・従業員の満足度向上につながります。
NTT東日本 ビジネス開発本部 北森雅雄
NTT東日本に入社後、自治体向けのシステムエンジニアとして、庁内ネットワークや公共機関向けアプリケーションなどのコンサルティングからキャリアを開始。
2018年から現職にて、プロダクト(SaaS)開発、デジタルマーケティング全般のディレクションに従事。
2022年に業務のデジタル化を分かりやすく発信するオウンドメディア(ワークデジタルラボ)のプロジェクトを立ち上げ。
NTT東日本にかかわる、地域のみなさまに向けてデジタル化に役立つ情報発信を展開。