| Writer:NTT東日本 北森 雅雄(Masao Kitamori)

年末調整の還付金はいつ返ってくる?計算方法や関連する9つの所得控除について解説

年末調整の還付金はいつ返ってくる?計算方法や関連する9つの所得控除について解説



年末調整における還付金の計算や振り込みは、会社の経理部や労務部、総務部の方々にとって、かなりの業務負担になっているのではないでしょうか。なかには、なぜ年末調整が必要であり、従業員に渡す還付金を会社がすべて計算しなければならないのか、疑問に思っている方もいるかもしれません。

そこで、今回の記事では、年末調整や還付金制度の意義について解説し、還付金が発生する可能性がある9つの所得控除についても紹介します。年末調整業務に携わる担当者や提出書類がわからない従業員の方はぜひ参考にしてください。

1.年末調整の還付金とは?発生する時期はいつ?

年末調整の還付金はいつ返ってくる?計算方法や関連する9つの所得控除について解説

年末調整にかかわる書類の提出は、11〜12月に行う企業が多数です。また、書類を提出した結果、還付金が発生する場合があります。では、いつ還付されるのでしょうか。この章では、年末調整における還付金の概要と還付される時期について解説します。

年末調整における還付金とは

年末調整において発生する還付金とは、年末調整で過不足税額を精算した際に過払いしていた場合に返還されるお金のことです。従業員が受け取った給与や賞与からは、所得税・復興特別所得税の前払いとして源泉徴収が行われています。ただし、源泉所得税はあくまでも、前年度の「扶養控除等(異動)申告書」に基づいた、その年度に課される納税額の概算にすぎません。そこで、毎年1月1日から12月31日までの正確な所得税額を算出することにより、徴収済みの源泉所得税との過不足を精算すします。そして、源泉所得税が多すぎると判明した場合に、従業員へ払い戻されるのが還付金です。

還付金が発生する時期

年末調整の還付金は、12月か翌1月の給与支給日に振り込む会社がほとんどです。1年間のうちに支給した給与や賞与を精算することを目的に実施する年末調整は、年内に終わらせる会社が多いためです。加えて、還付金を給与と別に支給した場合、追加の振込手数料がかかるため、従業員数が多い会社ほど費用がかかってしまいます。

2.年末調整の還付金が発生する9つの所得控除

年末調整の還付金はいつ返ってくる?計算方法や関連する9つの所得控除について解説

年末調整の還付金は、前年末に提出した申告書の内容変更により、納付済みの所得税と払うべき所得税に差額が生まれることで発生します。所得から控除を差し引いた所得金額

扶養控除

扶養控除とは、自身と同じ生計にある、​​配偶者以外の16歳以上の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族)を経済的に養っている場合、年末調整によって納めるべき所得税が軽減される制度です。扶養控除の具体的な額は、​扶養親族の人数や年齢、​所得などによって異なりますが、​年間63万円が上限とされています。

年末調整にあたっては従業員が提出した「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に基づいて手続きを進めます。従業員は、その扶養している子どもに収入があった場合、給与所得控除額、公的年金等控除額を差し引いた所得金額を記入しなければなりません。扶養親族の年間の合計所得額が48万円(給与収入のみは103万円)を超える場合、扶養控除は適用されないためです。

また、申告書の提出後に、出産や親との同居などの理由で扶養人数が増えた場合も扶養控除の対象となります。年末調整の時期までに、従業員は必ず会社に届け出を行わなければなりませんし、会社は申告書の修正を忘れないようにしましょう。

なお「扶養控除等(異動)申告書」は、次年度の源泉徴収税額の計算に必要なため、扶養家族がいない従業員も含めて全員に提出してもらわなければなりません。

配偶者控除・配偶者特別控除

配偶者控除は、従業員に​当年の合計所得額が48万円(給与収入のみは103万円)以下の配偶者がいる場合に、一定の条件を満たすことで税負担の軽減を受けられる控除を指します。また、配偶者特別控除は、その年の合計所得額が48万円を超えていたとしても、配偶者が一定の条件を満たしていることで受けられます。

この配偶者特別控除は、従業員本人の合計所得額が1,000万円以下で、かつ配偶者が下記の5つすべてに当てはまる場合に適用されます。

  • ・婚姻届を提出している配偶者であること(内縁関係は該当しません)
  • ・納税者と同一の生計を営んでいること
  • ・その年に青色申告者の事業専従者としての給与の支払を一度も受けていないことまたは白色申告者の事業専従者ではないこと
  • ・ほかの人の扶養親族でないこと
  • ・年間の合計所得金額が48万円超133万円以下であること

保険料等控除

​保険料等控除は、従業員が一連の社会保険や医療保険、​生命保険、​地震保険などの保険料を支払った場合に、​そのうちの一定額がその年の課税所得から差し引かれる制度です。子や親など、自分以外の生計を一にする親族の社会保険料を支払った場合も控除対象になります。ただし、一部で控除の対象外となる保険料もあるので、注意が必要です。

従業員が提出した「給与所得者の保険料控除申告書兼給与所得者の配偶者特別控除申告書」や、その添付資料である保険会社発行の控除証明書などに、保険料等控除の情報が記載されています。経理担当者は記載漏れや添付漏れがないかチェックしなければなりません。

なお、一般生命保険料や介護医療保険、個人年金保険料などは、従業員個人が確定申告することによって還付金を受け取れますので、年末調整の対象から外れます。

給与所得控除

給与所得控除は、給与や賞与などの収入から、その水準に応じて無条件で一定額の課税対象額を差し引くことにより、従業員の所得税などを軽減させる制度です。給与所得控除の制度には、会社経営者でいう事業所得の経費に相当する額を概算して、会社の従業員にも同様に適用する狙いがあります。

給与収入の金額に応じて、6段階の給与所得控除額が設定されており、最低55万円(年収162万5000円以下の場合)、最高で195万円(年収850万円超の場合)の控除が認められています。

住宅借入金等特別控除

住宅借入金等特別控除とは、従業員が住宅ローンを利用して、自身や家族が住むための家を新築または増改築工事をしたときに受けられる控除です。はじめて控除を受ける場合には、従業員本人が確定申告をしなければなりませんが、2年目以降は会社が年末調整で処理します。

従業員は、税務署から発行された「年末調整のための(特定増改築等)住宅借入金等特別控除証明書兼給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」と、金融機関等から発行された借入金の「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」を添付して会社に提出すると、年末調整で控除が受けられます。

小規模企業共済等掛金控除

小規模企業共済等掛金控除とは、小規模企業共済法に定められた​小規模企業共済、労働者災害補償保険、​雇用保険などの保険料掛金のうち、一定の金額を課税所得から控除する制度です。​この小規模企業共済等掛金控除が適用される上限額は、​所得税で最高5万円、​住民税で最高3万円とされています。

なお、個人型年金加入者掛金(iDeCo)や心身障害者扶養共済制度の掛金に関して控除を受けたい場合は、従業員自身で確定申告をしなければなりません。

障害者控除

障害者控除とは、従業員本人やその配偶者、扶養親族に心身の障害がある場合に受けられる控除です。この障害者控除には「障害者」「特別障害者」「同居特別障害者」の3種類があり、障害の状態によっても控除額が変わります。

ひとり親控除

ひとり親控除とは、子どもを持つひとり親を対象にした控除で、2020年に新設されました。未婚、あるいは配偶者の生死が不明の状態で、本人の所得が500万円以下であり、生計を一にする所得48万円以下の子どものいる場合など、一定の条件に該当した場合に受けられます。

寡婦控除

ひとり親控除の対象にはならないものの、夫との死別や離婚後に婚姻していない、扶養親族のいる従業員が一定の条件に該当した場合には、寡婦控除を受けられます。

3.年末調整の還付金を計算する方法【3ステップ】

年末調整の還付金はいつ返ってくる?計算方法や関連する9つの所得控除について解説

実際の年末調整業務において、還付金の額をどのように計算できるのでしょうか。この章では、具体的な方法について解説します。

給与と源泉徴収額を集計する

まず、年間を通じて給与や賞与、社会保険料、源泉徴収額をそれぞれ集計します。もし、従業員がその年の途中に転職した場合、前職から退職までの給与額などを集計した源泉徴収票が発行されるため、その金額も合計しましょう。過去の給与明細の「総支給額」や「控除合計」などを照会すれば、比較的容易に算出できます。

なお、従業員が副業など業務委託報酬で得た収入は、年末調整で申告できません。従業員自身の確定申告によって必要な控除を行うようにします。

給与所得控除後の課税対象所得額を計算する

次に「給与所得控除後の給与の計算」を進めましょう。社会保険料(健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、雇用保険料)は、集計した金額をそのまま控除できます。その他、以上に挙げた諸控除の制度のうち、それぞれの従業員に適用できるものを差し引くことで、課税対象所得額を算出します。所得水準に応じた税率を乗じたものが、年間の所得税額です。

日本では、所得水準が上がるほど税率も上がる累進課税制度が採用されています。経済的に余裕がある人ほど所得税などを多く負担することで、社会全体の公平を図ろうとする狙いです。

算出年税額から住宅借入金等特別控除額を差し引く

年間の所得税額から住宅借入金等特別控除額を差し引いたものが「年調年税額」となります。年調年税額と実際に源泉徴収された税額を比べ、源泉徴収税額が多い場合に従業員へ払い戻すのが還付金です。基本的に、毎月の計算では控除対象にしていない生命保険料控除などの申告があるため、還付金が発生するケースが多いでしょう。

しかし、還付金が発生せず、むしろ源泉徴収税額が年調年税額に足りないこともあります。たとえば、毎月の給与額に大幅な変動があった場合や扶養家族の人数が減った場合、賞与が大幅に増額された場合などです。その際は従業員に追徴金を課して、足りない税金を追加で納めてもらわなければなりません。

通常は、年末調整を行った月以降の給与から天引きして追徴金を確保します。もちろん、従業員に無断で行ってはいけません。丁寧に説明して理解を求めるようにしましょう。

4.年末調整の還付金を「freee人事労務 for おまかせ はたラクサポート」

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年末調整では、書類の整理や入力作業、控除などの金額調整で膨大な業務量を必要とします。そのため、年末年始の経理部は年末調整を処理するのに精一杯で、経費精算などの通常業務がおろそかになりかねません。

NTT東日本では、煩雑化する労務業務を効率化できる「freee人事労務 for おまかせ はたラクサポート」を提供しています。給与計算や年末調整業務をはじめとした、点在している労務業務を一括でまとめることで、ミスの低減や作業効率化につながります。詳細を知りたい方は、以下のリンクを参考にしてください。

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5.まとめ

年末調整の還付金とは、徴収された源泉所得税が納めるべき金額よりも多かった場合に返還されるお金です。給与所得控除などのさまざまな控除制度が適用され、課税所得が少なくなり、最終的な税額が当初の概算よりも低く抑えられれば、還付金も増えます。年末調整の時期や還付金の計算方法について理解し、関係する手続きを正確におこなえるようにしましょう。

ただし、年末調整を正確かつ迅速に行うのは労力のかかる業務であり、担当者にかかる負担も大きいです。NTT東日本では、煩雑化する労務業務を効率化できる「freee人事労務 for おまかせ はたラクサポート」を提供しています。給与計算や年末調整業務をはじめとした労務業務をまとめることで、ミスの低減や作業効率化につながります。労務管理の効率化を検討している方は、以下のリンクを参考にしてください。

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この記事を書いた人

NTT東日本 ビジネス開発本部 北森雅雄

NTT東日本に入社後、自治体向けのシステムエンジニアとして、庁内ネットワークや公共機関向けアプリケーションなどのコンサルティングからキャリアを開始。

2018年から現職にて、プロダクト(SaaS)開発、デジタルマーケティング全般のディレクションに従事。

2022年に業務のデジタル化を分かりやすく発信するオウンドメディア(ワークデジタルラボ)のプロジェクトを立ち上げ。
NTT東日本にかかわる、地域のみなさまに向けてデジタル化に役立つ情報発信を展開。

北森雅雄 masao kitamori

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