| Writer:NTT東日本 北森 雅雄(Masao Kitamori)

インボイス制度で売り上げ1000万円以下の個人事業主はどうなる?影響や対策をわかりやすく解説

インボイス制度で売上1,000万円以下の個人事業主は不利になる?影響や対策をわかりやすく解説


インボイス制度によって、個人事業主やフリーランスにはどのような影響があるのでしょうか。インボイス制度では、年間売上高1,000万円を境に大きく異なる影響があります。特に個人事業主の方には、深刻な事態が起こることも予想されています。

そこで今回の記事では、インボイス制度で個人事業主やフリーランスがどのような影響を受けるのかを解説します。制度開始までの準備も理解できる内容になっているので、ぜひ最後までお読みください。

1.インボイス制度(適格請求書保存方式)とは?

個人事業主もインボイス制度導入に合わせて対策しておこう!概要をまとめると以下のようになります。

関連する事業者
  • ●課税事業者
  • ●免税事業者(課税事業者と取引のあるケース)
予測される影響 適格請求書(インボイス)の発行事業者となった課税事業者は、求められた場合は必ずインボイスを発行しなければならない
インボイス発行に伴う制限 適格請求書の発行事業者となった課税事業者しかインボイスは発行できない
申請方法
  • ●登録申請書を納税地区の税務署長へ提出する
  • ●郵送の場合はインボイス登録センターへ郵送する

「仕入税額控除」とは、売上で発生した消費税から、仕入れにかかった消費税を控除する制度です。現行の「区分記載請求書」では、取引先が発行した請求書さえあれば、仕入税額控除を受けられます。

しかし、インボイス制度の施行後は、適格請求書(インボイス)を受け取らないと仕入税額控除を受けられず、税金を還付してもらえません。

2.インボイス制度における売上1,000万円以下の個人事業主への影響

インボイス制度は、正確な消費税納税のために導入されました。10%と8%の2種類の消費税率が混在するなかで、品目ごとに分けて納税額を計算します。

その一方で、取引先にインボイスを発行してもらわないと仕入税額控除が受けられなくなります。大企業から個人事業主まで、非常に広い範囲の事業者に影響する制度です。

このうち、年間課税売上高1,000万円以下の小規模事業主は、免税事業者として仕入消費税の納税義務が免除されます。しかし、免税事業者である個人事業主やフリーランスには、以下のような影響があるとみられています。

  • ●今まで取引をしていた企業と取引継続が難しくなる
  • ●取引継続のため課税事業者になって消費税の納付義務が発生する

ここでは、それぞれの影響について、詳しく説明します。

1今まで取引をしていた企業と取引継続が難しくなる

免税事業者はインボイスを発行できないため、取引先だった企業から契約を打ち切られたり、契約内容の変更を求められたりするおそれがあります。

買い手側にとっては、免税事業者と取引すると消費税の納税額が増えてしまうからです。また、税額分を元の価格に上乗せして請求するような取引先も出てくるかもしれません。

公正取引委員会は、取引先のこうした行為は独占禁止法や下請法に抵触するおそれがあるとして、もし、申し入れがあった場合は受諾する前によく考え、おかしいと思ったら公取委の窓口に相談するよう注意喚起しています。

2消費税の納付義務が発生する

取引先を維持したいと考えるなら、適格請求書発行事業者に登録してインボイスを発行できるようになるという選択肢もあります。免税特権を捨てて、ビジネスの継続をとるという判断です。

ただし、課税事業者になると納税しなければなりません。実際は売上高1,000万円以下でも、法人成りから2年以内の免税期間中でも、消費税の納税義務が発生します。

また、課税事業者となった日から2年間は、免税事業者に戻れないので注意しましょう。

3.インボイス制度における売上1,000万円以上の個人事業主への影響

年間課税売上が1,000万円を超える場合、適格請求書発行事業者になります。これは個人事業主でも同じです。売上1,000万円超の個人事業主への影響としては、以下のようなものがあります。

  • ●適格請求書発行事業者に関する登録が必要
  • ●経理処理が複雑化する可能性がある
  • ●納税額が増える可能性がある

ここでは、それぞれの影響について詳しく説明します。

1適格請求書発行事業者の登録が必要

適格請求書が発行できる状態にするには、税務署に「適格請求書発行に関する事業者登録申請書」を提出します。事業者が適格請求書を発行するために必要な登録です。

適格請求書を発行するには登録申請書を提出して税務署の承認を受けてないといけません。インボイス制度の開始時から発行事業者になるには、2023年3月31日までに登録申請をする必要があります。

2経理処理が複雑化する可能性がある

適格請求書に記載された複雑な消費税額で納税額を計算するため、経理処理が煩雑になる可能性があります。

仕入れの取引先に課税事業者と免税事業者が混在していると、それぞれ異なる税率で計算します。経理に時間と労力がかかるので、業務内容やツールの見直しなども必要です。

3納税額が増加する可能性がある

免税事業者との取引のたびに、消費税の納付額が増えていく可能性があります。

免税事業者は適格請求書を発行できないので、その仕入にかかった消費税の控除ができません。取引ごとに負担が増える可能性を考えておきましょう。

4.インボイス制度導入までに売上1,000万円以下の個人事業主が準備すること

インボイス制度が始まるのは2023年10月ですが、課税売上1,000万円以下の個人事業主も、それまでに検討して、準備しなければならないことがあります。

ここでは、準備する内容について詳しく説明します。

1課税事業者に切り替える

免税事業者のままでいて、取引先が減ってしまうリスクがあるなら、あえて課税事業者に転換して、適格請求書を発行する方法があります。

消費税の計算や申告の作業、納税が必要となりますが、ビジネス継続には代えられないという場合です。税務署への適格請求書発行事業者の申請が必要なので、忘れずに行いましょう。

2免税事業者のままで事業を継続する

取引先が減るリスクを抱えながら、免税事業者のままで事業を続けるのも選択肢です。インボイス制度開始時は免税事業者でいても、あとで課税事業者に転換することは可能です。

また、インボイス制度開始後でも、経過措置があるので、しばらく様子を見るというのも手です。経過措置では、適格請求書発行事業者以外から仕入を行っても、一定の割合で控除可能です。2026年10月までは8割、2029年10月までは5割の仕入税額控除を受けられます。

そのため、既存のクライアントに、今後の取引について確認することも大事です。

5.【期間別】個人事業主などの免税事業者が課税事業者になるには?

取引先に課税事業者が多いため、ご自身も課税事業者になることを検討している免税事業者もいるでしょう。免税事業者から課税事業者になるには、以下のような手続きがあります。

  • ●「適格請求書発行事業者」の申請をする
  • ●「消費税課税事業者に関する選択届出書」を提出する

ここでは、それぞれの手順について期間別に詳しく説明します。

1「適格請求書発行事業者」の申請をする

課税事業者になるには、2023年3月31日までに「適格請求書発行事業者」に関する登録申請をします。この期間に申請することで、インボイス制度が開始される2023年10月1日に間に合います。この場合、「消費税課税事業者選択届出書」の提出は不要になります。

2「消費税課税事業者選択届出書」を提出する

2023年4月1日以降に適格請求書発行事業者の登録を申請する場合は、適格請求書発行事業者登録に加えて「消費税課税事業者選択届出書」の提出が必要です。免税事業者が課税事業者を選択する際に提出する書類です。

なお、経過措置として、 2023年10月1日から2029年9月30日までの日の属する課税期間に登録する場合は、消費税課税事業者選択届出書の提出は不要となります。

6.個人事業主もインボイス制度導入に合わせて対策しておこう!

インボイス制度は、消費税の適切な算出と正確な納税を目的として作られた制度です。大企業から個人事業主まで、あらゆる事業者に影響しますが、課税売上高1,000万円を境に扱いが違うので注意が必要です。

特に、売上1,000万円以下の個人事業主である場合、そのままでは納税義務はないものの、取引先との関係でビジネスにダメージを受ける可能性があります。場合によっては、あえて課税事業者に転換することも選択肢になります。

課税事業者への申請には期間別で提出書類が異なるため、早い時期から準備して申請するよう心がけましょう。インボイス制度導入後は、請求書の記載方法が変更になるなど、経理の煩雑化が予測されます。このため、業務の見直しが必要となります。適格請求書などのペーパーレス化には「おまかせ はたラクサポート」・「コワークストレージ」がおすすめです。

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この記事を書いた人

NTT東日本 ビジネス開発本部 北森雅雄

NTT東日本に入社後、自治体向けのシステムエンジニアとして、庁内ネットワークや公共機関向けアプリケーションなどのコンサルティングからキャリアを開始。

2018年から現職にて、プロダクト(SaaS)開発、デジタルマーケティング全般のディレクションに従事。

2022年に業務のデジタル化を分かりやすく発信するオウンドメディア(ワークデジタルラボ)のプロジェクトを立ち上げ。
NTT東日本にかかわる、地域のみなさまに向けてデジタル化に役立つ情報発信を展開。

北森雅雄 masao kitamori