| Writer:NTT東日本 北森 雅雄(Masao Kitamori)
【電子帳簿保存法】タイムスタンプとスキャナ保存の要件とは?
電子帳簿保存法の改正により、2024年から電子取引の電子保存の義務化、つまりは紙で出力して保存する方式が廃止されます。多くの企業や個人事業主の方が、電子帳簿保存法について対応していく必要があります。 そんな電子帳簿保存法の中で登場するのが「タイムスタンプ」という技術です。電子帳簿保存法に対応した運用を行っていく場合、方法によってはこのタイムスタンプについて理解する必要があります。 今回の記事では、タイムスタンプとはそもそもどのような技術で、どのような役割があるのか、また利用方法や運用の流れについて説明していきます。
1.電子帳簿保存法とは何か
電子帳簿保存法とは、社会のデジタル化を目指して創設された法律です。国税関係書類などの保存に関わる「電子帳簿等の保存」、元は紙の書類をスキャンして保存する「スキャナ保存」、Web上での請求書のやり取りなどを保存する「電子取引」の3種類があります。
それぞれの保存について細かく要件が定められていますが、その中の「真実性の要件」という「保存しているデータが改ざんされていないか」を証明する要件でタイムスタンプが必要になります。
今回の記事の本題であるタイムスタンプが関係するのは「スキャナ保存」と「電子取引」の2つです。
「電子帳簿等の保存」では、同じように改ざんされていないことを証明するために「記録事項の訂正・削除の履歴を確認できるシステムの使用」を前提としているため、タイムスタンプの要件は定められていません。
2.タイムスタンプとは
ある時刻における電子データの存在の証明や、データが改ざんされていないことを示す技術です。時刻認証業務認定事業者と呼ばれる、第三者機関(TSA:Time-Stamping Authority)が時刻の管理とハッシュ化による暗号化技術で非改ざん性を担保しています。
紙の書類と違い電子データは修正・改ざんがしやすいため、このタイムスタンプを活用します。
タイムスタンプの仕組みは、「要求」「付与」「検証」の3つです。文書作成者がハッシュ値というランダムで生成されるデータを作成し、TSAがそのデータにタイムスタンプを付与します。作成した文書の電子データが改変されるとハッシュ値も変化するため、タイムスタンプに含まれるハッシュ値との違いが生まれ、改ざんを検知できるという仕組みです。
3.電子帳簿保存法のタイムスタンプに関連する要件
タイムスタンプは電子データの存在・改ざんがされていないかを判断するためのものです。前述した3種類の要件のうち、「電子帳簿等の保存」は電子帳簿保存法に対応したシステムを利用して帳簿類を作成・保存されることが前提です。システムとして訂正履歴が残るため、タイムスタンプの要件はありません。
タイムスタンプが必要になるのは、「スキャナ保存」と「電子取引」の2つです。
1スキャナ保存におけるタイムスタンプ
自社で発行した紙の書類や取引先から受け取った紙の書類をスキャンしてデータ化することを、スキャナ保存と呼びます。詳しい要件は別の記事で紹介していますが、スキャナ保存ではタイムスタンプの付与が必要です。
データを受け取ってからタイムスタンプの付与には期限が設けられていて、2022年の最新の法改正では「最長約2ヶ月と概ね7営業日以内」とされています。やむを得ない事情で多少前後しても認められるように、要件は昔より緩和されています。
また、電子帳簿等の保存と同じように、訂正や削除を確認できるクラウドシステム等を利用している場合は、スキャンしてから約2ヶ月と概ね7営業日以内に保存をすれば、タイムスタンプの付与が不要です。
2電子取引におけるタイムスタンプ
メールやWebシステムでの電子データによる請求書のやりとり、EDI取引や電子決済などを「電子取引」と呼びます。「電子取引」にもタイムスタンプの付与が必要なケースがあります。
2022年の改正内容を含んだ最新の要件では、発行者側のタイムスタンプ付与のみで問題なく、データを受領側が付与する場合はスキャナ保存同様に「約2ヶ月と概ね7営業日以内」の付与が条件となっています。昔より要件が緩和されています。
タイムスタンプを利用する場合の要件は、以下の2つのうちのどちらかを満たす必要があります。
- ●タイムスタンプが付与された後、取引情報の授受を行う。
- ●取引情報の授受後、速やかに(またはその業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに)タイムスタンプを付すとともに、保存を行う者又は監督者に関する情報を確認できるようにしておく。
スキャナ保存と同様にタイムスタンプが不要なやり方もあります。以下の2つのうちどちらかを満たせばタイムスタンプは不要です。
- ●記録事項の訂正・削除を行った場合に、これらの事実及び内容を確認できるシステム又は記録事項の訂正・削除を行うことができないシステムで取引情報の授受及び保存を行う
- ●正当な理由がない訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定め、その規程に沿った運用を行う
タイムスタンプの付与には費用が発生することもあり、タイムスタンプを付与できるシステムや電子帳簿保存法に対応しているシステムの利用には費用が発生することがほとんどですので、費用をかけずに要件を満たす場合は1番下の方法が該当します。
32022年の法改正によるタイムスタンプの変更点
タイムスタンプの要件が緩和されたことにより、電子帳簿保存法対応における運用面での負荷も低減されます。
これまでは「受領者とスキャンする人が同一である場合」「受領者とスキャンする人が異なる場合」「業務処理サイクル方式を採用する場合」の3つのパターンによって付与期限の違いがありましたが、1番期限の長い「業務処理サイクル方式を採用する場合」の約2ヶ月と7営業日以内に統一されました。
また、そもそもタイムスタンプを付与しないでも運用できるようになりました。電子帳簿保存法に対応しているシステムを利用する場合は、システムにアップロードして申請書の作成とデータの添付を行い、上長と経理の承認を得るだけというフローも可能です。
4.タイムスタンプの利用方法と費用
タイムスタンプサービスを利用するには、TSAに利用料を支払う必要がありますが、タイムスタンプ付与機能がある複合機や会計システムの利用料には、タイムスタンプ利用料も含まれていることが多く、その場合には追加費用はかかりません。
これからタイムスタンプを利用する場合は、現在利用している複合機や会計システムがタイムスタンプの付与機能があるか確認してみましょう。
1タイムスタンプ付与の環境整備
タイムスタンプの付与に必要なものは、以下の2つです。
- ●時刻認証業務認定事業者(TSA)と契約
- ●認定スタンプの付与が可能な会計システムなどの導入
TSAの一覧は以下から確認できます。
2タイムスタンプの付与フロー
タイムスタンプを付与する流れは以下です。
- ●タイムスタンプを付与する書類、または電子取引のデータの用意
- ●書類のスキャンやスマートフォンの撮影などによる電子化や画像データの作成
- ●電子ファイルや画像データを電子帳簿保存法対応のシステムへアップロード
- ●データにTSAからタイムスタンプが付与
データをスキャンして保存したタイミングや、電子取引のデータを受け取ってから最長で2ヶ月と7営業日以内に行いましょう。やむをえない事情で遅れた場合も認められるように要件は緩和されています。
3タイムスタンプ利用時の費用
タイムスタンプはデータ付与ごとに費用が発生する仕組み(約10円)です。システムを導入する企業側が負担するパターンや、システムを提供するベンダー側が負担する代わりに利用料に含んだプランを利用するパターンがあります。
発行するタイムスタンプ数に応じた重量課金制や、定額制の月額費用に含んでいて上限によってプランが変わるなどが一般的です。
4システム選びについて
タイムスタンプを付与できるシステムは、電子帳簿保存法の要件を満たし運用したい企業に向けているサービスです。そのため保存要件を満たし、スキャナ保存後の運用を楽にしてくれるような機能を内包しているサービスも多いです。
電子化が進む中、「電子帳簿等の保存」「スキャナ保存」「電子取引」のどれにどう対応していくのか悩んでいる企業が多いと想定されます。社内のフローやルールを整備していく中で、さらなるペーパーレス化による業務効率化を進められるサービスやその組み合わせを選びましょう。
5.まとめ
今回の記事では、電子帳簿保存法におけるタイムスタンプについて紹介していきました。タイムスタンプを利用するためにはシステムを導入することが一般的ですが、前述の通りペーパーレス化を進めていく一環として電子帳簿保存法に対応したシステムを導入する場合、同時に業務効率化を進めるためのシステムやソフトウェアを導入するのも効果的です。
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この記事を書いた人
NTT東日本 ビジネス開発本部 北森雅雄
NTT東日本に入社後、自治体向けのシステムエンジニアとして、庁内ネットワークや公共機関向けアプリケーションなどのコンサルティングからキャリアを開始。
2018年から現職にて、プロダクト(SaaS)開発、デジタルマーケティング全般のディレクションに従事。
2022年に業務のデジタル化を分かりやすく発信するオウンドメディア(ワークデジタルラボ)のプロジェクトを立ち上げ。
NTT東日本にかかわる、地域のみなさまに向けてデジタル化に役立つ情報発信を展開。