| Writer:NTT東日本 北森 雅雄(Masao Kitamori)

個人事業主に「電子帳簿保存法」をわかりやすく紹介!控除を受ける方法とは

個人事業主も電子帳簿保存法を知っておこう!改正後のポイントや控除を受ける方法を解説


個人事業主の方で、電子帳簿保存法について、詳しく知らないとお悩みの方は多いのではないでしょうか。2022年1月に施行された改正電子帳簿保存法には、企業だけでなく個人事業主の方も注意すべき点や対応が必要な点があります。

今回の記事では、電子帳簿保存法とはどのような法律なのか、改正によって何が変わるのか、そして個人事業主も注意すべきことは何かについて解説します。個人事業主の青色申告控除にもかかわってくるので、ぜひ参考にしてみてください。

1.電子帳簿保存法とは?

個人事業主も電子帳簿保存法を知っておこう!改正後のポイントや控除を受ける方法を解説

電子帳簿保存法(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)とは、国税関係の書類や帳簿を一定の要件を満たしたうえで、電子データや電子的に授受した取引情報を保存することを定めた法律です。

電子帳簿保存法の対象は原則として「すべての法人と個人事業主」と定められています。そのため、個人事業主の方も電子帳簿保存法にしたがってデータを保存する必要があります。

電子帳簿保存法で認められているデータの保存方法は、以下の3つに分けられます。

・電子帳簿等保存
・スキャナ保存
・電子取引

それぞれの要件に従ってデータを保存しなくてはいけません。各要件については、のちほど詳しく解説します。

2.個人事業主でも電帳法に注意すべき3つの理由

個人事業主も電子帳簿保存法を知っておこう!改正後のポイントや控除を受ける方法を解説

電子帳簿保存法は個人事業主の方にも適用されます。なぜ、個人事業主も電子帳簿保存法に注意すべきなのか、この章で理由を解説します。

1従来の方法だと青色申告控除が55万円に

個人事業主など事業所得がある方は、確定申告時に売り上げから経費を差し引いた利益に対して税金が課されます。ただし、特別控除の適用がある場合は、利益から控除額を差し引いた後の金額に税金が課されます。そのため、青色申告制度は個人事業主を始めとする事業所得者に有利な制度でした。

青色申告を行った場合、これまでは65万円の特別控除が受けられていました。しかし、2020年分の確定申告からは従来通りの方法で申告すると55万円に減額されます。従来の特別控除を受ける条件は、以下の通りです。

(1)不動産所得または事業所得を生ずべき事業を営んでいること
(2)これらの所得に係る取引を正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)により記帳していること
(3)(2)の記帳に基づいて作成した貸借対照表および損益計算書を確定申告書に添付し、この控除の適用を受ける金額を記載して、その年の確定申告期限(翌年3月15日)までに当該申告書を提出すること
(引用:国税庁「No.2072 青色申告特別控除」)

上記の条件で申告すると、55万円の特別控除に減額されます。

265万円の青色申告控除を受けるには追加の条件が必要

従来の申告方法に加え、以下のいずれかの条件を満たせば、これまでと同様に65万円の特別控除が受けられます。

イ)その年分の事業に係る仕訳帳および総勘定元帳について、電子帳簿保存を行っていること。
ロ)その年分の所得税の確定申告書、貸借対照表および損益計算書等の提出を、確定申告書の提出期限までにe-Tax(国税電子申告・納税システム)を使用して行うこと。
(引用:国税庁「No.2072 青色申告特別控除」)

つまり、電子データ化に対応することで、いままで通りの65万円の特別控除が維持できるのです。

3青色申告の承認を取り消されるリスクがある

電子帳簿保存法は、違反に対する罰則も強化されています。特に個人事業主の方は、違反によって青色申告の承認を取り消される可能性があるので注意が必要です。青色申告が利用できないと、節税の恩恵を受けられなくなります。さらに、以下のような優遇措置が適用されません。

・青色申告特別控除の活用
・青色事業専従者給与の活用
・少額減価償却資産の適用
・純損失の繰り越しや繰り戻し
・更正の制限や理由附記

また、青色申告の承認が取り消されると、取引先に対する信用も損なわれるので注意しましょう。

3.【方法別】電子帳簿保存法の要件

個人事業主も電子帳簿保存法を知っておこう!改正後のポイントや控除を受ける方法を解説

この章では、電子帳簿保存法の要件を以下の保存方法別に解説します。

・電子帳簿等保存
・スキャナ保存
・電子取引

それぞれの「真実性の確保」(改ざんされていないこと)と「可視性の確保」(誰でも確認できること)が求められます。

1電子帳簿等保存

電子帳簿等保存とは、会計ソフトなどで電子的に作成した帳簿や書類をそのままデータとして保存することです。要件は「真実性の確保」と「可視性の確保」です。

真実性の確保

訂正や削除の履歴の確保 パソコンで帳簿を作成する際は、下記の要件を満たした会計ソフトを使用する
・データの訂正・削除の履歴と内容を確認できる
・データの入力を業務遂行にかかる期間よりあとに行ったときに事実確認ができる
相互関連性の確保 帳簿のデータと関連するその他のデータの関連性について相互に確認できる
システム関連書類などの備え付け 帳簿のデータを保存する際には、下記の書類を備え付ける
・操作説明書
・事務処理マニュアル
・システムの概要書
・仕様書 など

電子帳簿等保存の真実性の確保のためには「システム関連書類などの備え付け」を最低限満たさなくてはなりません。そのほかの要件は、優良な電子帳簿として認められるために必要な要件です。

可視性の確保

見読可能性の確保 ・使用するディスプレイやプログラム、プリンタなどの操作説明書を備え付ける
・データを整理し、分かりやすい状態ですぐに出力できるようにしておく
検索機能の確保 データの検索機能が下記の要件を満たすようにしておく
・帳簿の種類によって「勘定科目」「取引年月日」「取引金額」など主要な項目を検索条件に設定できる
・「日付」と「金額」の項目は範囲指定での検索ができる
・任意の項目を複数組み合わせた検索ができる

可視性の確保のためには「見読可能性の確保」を最低限満たさなくてはなりません。検索機能の確保は、優良な電子帳簿として認められるための要件です。

2スキャナ保存

スキャナ保存とは、紙として受領・作成した書類をスキャンやスマ-トフォンなどで読み取ってデータとして保存することを指します。スキャナ保存には重要書類と一般書類の2種類があり、書類の重要性や性質によって要件が変わります。

重要書類は取引内容の正確性や他の書類の真実性を証明する書類や、所得金額に影響する書類が対象です。対して、一般書類は資金や物品の流れに直接影響しない書類が当てはまります。

・重要書類:契約書、領収書、借用証書、預金通帳、請求書など
・一般書類:検収書、見積書、注文書など

真実性の確保

スキャナ保存の真実性の確保に関する要件は、以下の通りです。

入力期間の制限 ・重要書類は受領してから7日以内に入力する。ただし、規定がある場合は業務サイクル(約2ヵ月以内)後、7日以内に行う
・一般書類は適時入力を行う
解像度および読み取り 下記の要件を満たすようにカラーで保存する
・解像度200dpi相当以上
・赤・緑・青の階調が256以上
※一般書類は白黒での保存も可能
タイムスタンプの付与 タイムスタンプを2ヵ月と7営業日以内に付与し、保存している間はデータが改ざんされていないことを確認もしくは検証できる
※一般書類はデータの入力が確認できるならばタイムスタンプは不要
※タイムスタンプは日本データ通信協会認定のものに限定される
※クラウドなどでデータを保存する場合は、期間内に保存されたことが確認可能ならばタイムスタンプは不要
読み取り情報の保存 下記項目の読み取り時のデータを確認できる
・解像度
・階調
・サイズ
※A4サイズ以下のスキャン、および一般書類に関しては大きさのデータは不要
バージョン管理 データを訂正・削除したときの履歴と内容を確認できる
入力者等情報の確認 データの入力者および直接監督する者に関する情報を確認できる

可視性の確保

スキャナ保存の可視性の確保に関する要件は、以下の通りです。

帳簿との相互関係性の確保 帳簿と関連書類において、関連性を相互に確認できる
見読可能装置の備え付けなど 下記の要件を満たした機器を備え付ける
・カラーディスプレイ
・14インチ以上の画面
・4ポイント文字が読める など
・データが整理され、拡大や縮小をしたときにも同程度明瞭に確認できる
※一般書類を白黒で保存している場合はカラープリンタでなくても良い
システム開発関係書類などの備え付け 使用した会計ソフトなどの下記の書類および保存に関する事務手続きの書類を備え付ける
・会計ソフトの概要書
・操作説明書
・開発時の書類
検索機能の確保 下記項目での検索ができる
・取引年月日
・取引金額
・取引先

3電子取引

電子取引とは、メールやWebサイトなどの電子的方法により取引情報を授受することです。オンラインショップでの受注・販売や、電子メール・クラウドサービスでのやり取りなどが該当します。保存の対象となる書類は、契約書や見積書、請求書、領収書など広範囲です。ここでは、電子取引のデータ保存要件を確認しましょう。

真実性の確保

電子取引の場合は、以下の要件のうちいずれかの要件を満たせばデータの保存が認められます。

・タイムスタンプを付与したあとにデータのやり取りをする
・データを受け取ってから2ヶ月と7営業日以内にタイムスタンプが付与され、保存者および監督者の情報が確認できる
・内容を訂正・削除した記録が確認できるシステム、もしくは訂正・削除ができないシステムで保存する
・データの改ざんや悪用など不正防止のための事務処理規程をつくり遵守する

可視性の確保

電子取引における可視性の確保に関する要件は、以下の通りです。

・データを保存する際に、パソコンやプログラムなど機器の操作マニュアルを備え付ける
・データが整っていて判読できる状態ですぐにディスプレイや紙に出力できる
・システムの概要書を備え付ける
・検索機能がある
※索引簿が作成されている場合は検索機能は不要

4.【2022年1月】改正電子帳簿保存法の5つのポイント

個人事業主も電子帳簿保存法を知っておこう!改正後のポイントや控除を受ける方法を解説

2022年1月に電子帳簿保存法の改正が施行されました。その結果、いくつかの条件が緩和され、経理にかかわる業務負担が軽減されています。この章では、具体的にどのような点が変わったかを見ていきましょう。

1​​税務署長の事前承認制度が廃止

改正前は電子データの保存やスキャナ保存をするために、管轄地域の税務署長に3ヵ月前までに申請し承認を得る必要がありました。また、申請から承認までもかなりの時間を要します。

しかし改正によって、以下の要件を満たしている場合は電子データの保存の申請・承認が不要となりました。

・電子帳簿保存法に対応しているシステムが導入されている
・社内規定の策定・周知が行われている

事前承認が不要になったことで、手続きにかかる業務負担の軽減が期待されています。

2適正事務処理要件が廃止

スキャナ保存には、改ざんのリスクが伴います。改正前は、改ざん防止のためデータを保存するときには、以下の「適正事務処理要件」を満たす必要がありました。

・相互けん制(不正を防ぐために相互にけん制する体制とする)
・定期的チェック(少なくとも1年に1回以上の定期検査を行う体制とする)
・再発防止策(問題があった場合、原因究明や対応策を講じる体制とする)

改正後はこれらの要件が廃止され、適正事務処理にかかっていた時間が削減できるので、業務効率の向上につながります。

3タイムスタンプの要件が緩和

以前は書類をデータ保存するとき、3営業日以内にタイムスタンプを付与しなくてはなりませんでした。しかし、改正後は付与期間が最長2ヵ月と7営業日に延長され、担当者が余裕をもって作業できるようになっています。

また、データの訂正・削除履歴が残る、もしくは訂正・削除ができないシステムを導入している場合は、タイムスタンプの付与が不要となります。タイムスタンプの付与かシステムの導入のどちらかで、要件に対応できるようにしましょう。

4検索要件の緩和

改正によって、検索項目が以下の3つに限定されました。

・日付
・取引金額
・取引先名

これまでは、書類によって設定する検索項目が決められていました。設定に労力と時間がかかっていましたが、検索用件が緩和されたことで業務の軽減が期待できます。

5データ保存の義務化

改正前の電子取引のデータ保存では、電子データとして保存する方法と電子データを紙に出力して保存する方法のどちらかを選択できました。

しかし、改正電子帳簿保存法では、必ず電子データのまま保存するよう義務付けられました。紙へのプリントアウトは認められません。

データ保存の義務化には、施行日から2年間の猶予期間が設けられています。そのため、2023年12月末までに準備を整えておく必要があります。まだ対応していないという個人事業主の方も、ぜひ準備を進めましょう。

5.個人事業主が電帳法に対応するためのポイント4つ

個人事業主も電子帳簿保存法を知っておこう!改正後のポイントや控除を受ける方法を解説

個人事業主の方が電子帳簿保存法に適切に対応するためのポイントを紹介します。電子帳簿保存法に対応する際の参考にしてみてください。

1電子データの保管方法を決め、準備をする

まず電子保存にはどのデータが該当するのかを把握し、それぞれのデータに合った保管方法を決めましょう。電子帳簿保存法の要件を満たすためにはどのように保管すれば良いのかを考え、準備を進める必要があります。

具体的には、下記のような準備が必要です。

・プリンタの購入
・改ざんを防ぐために規定をつくる
・データのファイル名を見直す

事前に準備をしておき、データを保存方法ごとに適切に保管できるようにしましょう。

2データを保管する場所を決める

電子データは整理して保管し、いつでもすぐに検索や印刷ができる状態にしておく必要があります。そのため、すぐにデータが取り出せるよう、データの保管場所をきちんと決めておきましょう。クラウドやPCのハードディスク、会計システムなどが保管場所になります。

また、システムの入れ替えやPCの故障などによってデータが失われる可能性もあるので、保管場所とは別にバックアップを取っておくのがおすすめです。

3電子帳簿保存法に対応した会計システムを導入する

電子データの保存に関する要件を満たすためには、電子帳簿保存法に対応している会計システムを利用するのが比較的容易です。タイムスタンプ要件を満たしているかどうかのチェックも不要になるため、担当者の業務効率化も期待できるでしょう。

電子データ保存の導入をきっかけに、普段から使用しているシステムや業務フローの見直しをしてみるのがおすすめです。

4紙での管理を避ける

電子帳簿保存法に従った運用をすると、紙での一元管理はできなくなります。また、紙と電子データの両方を管理している場合、保存形式が統一できないため管理がとても難しくなります。今後、電子データでの保存に統一できるよう、ペーパーレス化の検討をおすすめします。

6.個人事業主も電子帳簿保存法に適切に対応しよう

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電子帳簿保存法は、原則すべての法人と個人事業主が対象となります。そのため、個人事業主の方も対応する必要があります。電子データの保管場所や保存方法の取り決め、電子帳簿保存法に対応したシステムの導入に取り組まなければなりません。

また、電子帳簿保存法対応に向けたペーパーレス化には「おまかせ はたラクサポート」・「コワークストレージ」や手書き書類をCSVに変換できる「AIよみと〜る」といったサービスをセット導入することがおすすめです。NTT東日本では、これらのクラウドサービスに関する使い方やサポート対応をセットにして提供しています。また、無料で体験可能な「DX無料体験プログラム」も用意しています。興味のある方は、ぜひ以下のバナーから詳細をご覧ください。

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この記事を書いた人

NTT東日本 ビジネス開発本部 北森雅雄

NTT東日本に入社後、自治体向けのシステムエンジニアとして、庁内ネットワークや公共機関向けアプリケーションなどのコンサルティングからキャリアを開始。

2018年から現職にて、プロダクト(SaaS)開発、デジタルマーケティング全般のディレクションに従事。

2022年に業務のデジタル化を分かりやすく発信するオウンドメディア(ワークデジタルラボ)のプロジェクトを立ち上げ。
NTT東日本にかかわる、地域のみなさまに向けてデジタル化に役立つ情報発信を展開。

北森雅雄 masao kitamori