| Writer:NTT東日本 北森 雅雄(Masao Kitamori)
建設業における働き方改革の現状は?2024年問題や国土交通省のガイドラインについて解説
2024年4月から、建設業における「働き方改革」が本格的にスタートします。しかし「どのような取り組みを行えば良いのか」「開始までにどのような準備をしなければならないのか」と、お困りの担当者の方がいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで本記事では、建設業における働き方改革の概要や施策について紹介します。さらには、国が規制する内容や「2024年問題」、国が推進している取り組みなどもあわせて紹介します。建設業の担当者はぜひ最後までお読みください。
目次:
1.建設業で働き方改革が求められている3つの理由
昨今、社会全体で働き方改革が推し進められています。なかでも建設業は、特に改革が必要とされている業界です。建設業がいくつかの大きな課題に直面しているためです。この章では、建設業で働き方改革が必要とされている理由を、業界の課題から説明していきます。
1人材不足
建設業での人材不足は、年々深刻化しています。国土交通省が2016年に発表したデータによると、建設業の就業者数は平成元年より増加の一途を辿っています。1997年にはピークを迎え、685万人になりました。しかし、それ以降は減少し、2016年には492万人と、ピーク時に比べて28%も減少しました。
建設業における就業者数の減少は、高度な専門的スキルを持つ技術者が減っていることも意味しています。建設業界において、人材不足は重要な問題として扱われています。
2少子高齢化・後継者不足
国土交通省による2016年の調査から、建設業就業者のうち33.9%が55歳以上であることがわかります。若年層である29歳以下の割合は全体の11.4%です。全産業の平均値は16.4%なので、建設業は特に若年層の就労者が少なく、高齢化の傾向があります。
建設業において高齢化が進むと、後継者問題が発生します。建設業は特に専門知識やスキルが必要な業界です。このままでは若い就労者の減少により、技術継承ができずに後継者不足に陥ってしまう可能性があるでしょう。
3長時間労働
日本企業において、長時間労働は長年大きな問題として扱われています。なかでも建設業は、長時間労働による問題が顕著にあらわれている業界です。
厚生労働省が発表する「毎月勤労統計調査」によると、建設業における月間労働時間は168.2時間とされています。全産業平均の139.1時間と比較しても、建設業は毎月約30時間、年間では300時間以上多いという結果です。
また、月間出勤日数は全産業平均では18日です。建設業は20.5日と、平均よりも毎月2日多く出勤していることが明らかになっています。
2.【2024年問題】建設業の残業規制が改正
政府は、労働環境の改善に向けて「働き方改革関連法」を2019年より順次施行しています。しかし、建設業や自転車運転業、医師などは、環境改善に時間がかかると考えられ、2024年から施行開始予定です。
建設業ではこの5年間の猶予期間中に、働き方改革を進めるための対策を行う必要があり、これを「2024年問題」といいます。この章では、その具体的な内容について紹介します。
1労働時間の上限規制
働き方改革関連法のひとつである「労働関係法令」によって、法定労働時間を超えた残業時間は「月45時間かつ年360時間以内」が上限であると規定されました。
ただし、事情があり、労働者と雇用者の双方が同意した場合には、以下の条件(特別条項)の範囲で、規定された残業時間を超過できる場合があります。
- ・休日労働を含まず年720時間以内
- ・時間外労働と休日出勤の合計労働時間が月100時間未満
- ・2〜6ヶ月の各平均が月80時間以内(休日労働を含む)
- ・時間外労働が月45時間を超過できる月は年6回まで
しかしこの場合でも、1年を通して「時間外労働と休日出勤の合計労働時間が月100時間未満、かつ2~6ヶ月の各平均が月80時間以内」というルールを厳守する必要があります。
2同一労働同一賃金
「同一労働同一賃金」とは、雇用形態にかかわらず、同じ仕事内容に従事している労働者に対して同一の賃金が支払われなければならないという考え方です。2020年から大企業で、2021年から中小企業で適用され、建設業においては2024年4月から適用の対象となります。
建設業には「無事故手当」や「作業手当」など、業界ならではの手当が多数存在します。これらの手当は、正規雇用・非正規雇用に関係なく支給が必要です。そのため、建設企業は各種手当や賃金の見直しが必要になります。
3月60時間超の時間外割増賃金率引き上げ
大企業では、月60時間を超える時間外労働に対して50%の割増賃金が発生していました。中小企業でも、2023年4月から、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率を25%から50%へ引き上げることが義務付けられます。ただし、休日労働と深夜労働の割増賃金には変更はありません。
引き上げが適用されれば、今まで以上に人件費がかかると予想されます。建設企業は人件費の増加を見越した上で、経営を行う必要があります。
3.建設業の働き方に対する国土交通省のガイドライン
建設業で働き方改革を促進するため、国土交通省は「適正な工期設定等のためのガイドライン」を定めました。ガイドラインでは建設業において取り組むべき項目が示されています。この章では、その内容を紹介します。
1適正な工期設定・施工時期の平準化
建設業では休日が少ないことが指摘されているので、週休2日での工期設定に取り組んでいます。
そのため、週休2日で実施した公共工事の拡大や、労務費や現場管理費などの予算の見直しなどの取り組みが推奨されています。また、週休2日での工事を達成した企業や、積極的に働き方改革に取り組んでいる企業を評価することで、業界への働き方改革の浸透が可能です。
さらに、「人員と資材を確保する準備期間や、後片付けの期間を考慮して工事設定を行う」「悪天候による作業不可能日数を考えて工期設定する」などの案もあります。
2必要経費へのしわ寄せ防止
下請け会社が工事を請ける際には、従業員の社会保険料分を考えて工事費の見積もりを作成しなければ、採算が合わなくなります。下請け会社は「法定福利費」などの必要経費を明示し、見積書や請負代金内訳書に記載することで、従業員の賃金や会社の利益を十分に確保できるでしょう。
また、法定福利費以外にも本来必要な経費は見積もりに反映して、適切な金額で請け負う必要があります。
3生産性の向上
建設業での生産性向上のため、ICTの活用が求められています。申請手続きの電子化や、施工品質向上に役立つIoTや最新技術の導入などを積極的に行う必要があります。
また、設計段階から3次元モデル活用技術(BIM/CIM)を用いることで、効率化が可能です。3次元モデルでのシミュレーションや検証を行うことでプロセスを効率化し、無駄なコストを防げます。
4.建設業働き方改革加速化プログラム
2018年3月、国土交通省は建設業での働き方改革推進のため「建設業働き方改革加速化プログラム」を制定しました。「国交省ガイドライン」は、このプログラムの一環として改訂され、実施されています。この章ではプログラムによって定められた、3つのテーマにおける取り組むべき施策について紹介します。
1長時間労働の是正
長時間労働の是正のためには、以下の施策があげられています。
- ・公共工事における週休2日工事拡充
- ・民間工事におけるモデル工事試行
- ・週休2日工事を達成した企業への評価
- ・「工期設定支援システム」の地方公共団体への周知
「公共工事における週休2日工事拡充」や「民間工事におけるモデル工事試行」「週休2日工事を達成した企業への評価」は、どれも建設業での週休2日制導入を普及させる目的があります。まずは公共工事で週休2日を浸透させて、民間でも取り組みやすい空気を作ることを目指しています。
「工事設定支援システム」は、週休2日工事を普及するために国土交通省が公開しているツールです。標準的な作業日数や作業手順を自動で算出でき、適正な工期設定をサポートします。
2給与・社会保険
建設業において、適正な給与設定と社会保険加入の徹底が課題です。実現のためには以下のような施策があります。
- ・新しい「公共工事設計労務単価」の活用要請
- ・建設キャリアアップシステムの稼働
- ・建設業退職金共済制度の普及
- ・発注者に対して社会保険加入業者にしか施工依頼ができないよう呼びかけ
- ・社会保険未加入会社に対して建設業の許可・更新ができない仕組みを構築
「公共工事設計労務単価」とは、国が設定した公共工事の積算に用いる単価です。この労務単価を活用するよう呼びかけることで、適正な賃金の確保を実現します。
建設キャリアアップシステムは、建設現場で働く従業員の就業履歴や資格、社会保険加入状況などをデータベースに蓄積するツールです。従業員情報の見える化を図り、個人の能力評価に役立てます。また、建設業における退職金制度である「建設業退職金共済制度」の普及により、従業員が適正な待遇を受けられる環境づくりが可能です。
さらに、建設業での社会保険加入率を上げるために、工事発注者に対して、社会保険加入業者から施工会社を選ぶようにとの呼びかけや、社会保険未加入会社に対して建設業の許可や更新を認めない仕組みの構築などが進められています。
3生産性の向上
建設業における生産性向上のための施策は以下のとおりです。
- ・ICT 活用促進のための積算基準見直し
- ・「建設リカレント教育」の推進
- ・公共工事における書類の簡素化
- ・IoT や新技術の導入
- ・現場技術者の減少を見越した、人員配置の合理化
積算基準を見直した上での建設現場へのICT導入や、タブレットやスマートフォンの活用など、業務効率が上がる取り組みを推奨しています。
また、建設業就労者の一人ひとりの生産性を高めるため、建設の技術や技能を学び直す「建設リカレント教育」も有効です。
他にも、書類作成の手間を省くための公共工事における書類簡素化、負担なく施工品質を上げるためのIoTや新技術の導入も進められています。
さらには、将来的な人員不足に備えて、限られた人材や資機材で現場を効率的に回す仕組みも考えられています。
5.建設業で働き方改革を実現する3つのポイント
建設業界の企業が自社で働き方改革を進める際に、課題が多く何から手をつけて良いのかわからないかもしれません。この章では実際に働き方改革を導入する際のポイントを紹介します。
1適切な給与体系
建設業の賃金水準は、製造業と比べて1割ほど低く設定されています。また、40代前半で賃金水準のピークに達するという事実から、現場の管理や新人への指導などの仕事が評価されていない可能性があります。
建設業の将来を考えると、若年層の獲得は重要課題です。経験やスキルに適した給与体系を構築すれば、労働者がやりがいを持って働ける環境作りができます。
参照元:「(参考)建設業を取り巻く現状について」国土交通省
2女性の活躍促進
若年層を獲得し、人手不足や後継者不足を解消するためには、女性従事者の獲得が必要です。建設業において女性が活躍できる環境作りをする必要があります。
例えば、工事現場に更衣室やトイレを設置して、実際に働く場所を整備する施策があります。または、フレックスタイム制や時短勤務制を導入して、家事や育児、介護などと両立できる環境を整えるのもひとつの手です。
3労働環境の改善
長時間労働の是正だけでなく、労働環境を改善して、働きやすい魅力的な職場作りを行う必要があります。
例えば、住宅手当や通勤手当、家族手当、食事補助などの法定外福利厚生の充実化が考えられます。他にも、スキル向上のための資格取得支援や、社外のセミナーや勉強会への参加サポートなどで、従業員の満足度向上が可能です。
6.まとめ
建設業は「人材不足」「少子高齢化・後継者不足」「長時間労働」の問題から、働き方改革が推進されています。
日本企業における働き方改革は2019年よりスタートしていますが、建設業では2024年から開始予定です。この5年間の猶予期間中に、働き方改革を進めるための環境を整えておく必要があり、これを「建設業の2024年問題」といいます。
2018年3月、国土交通省が「建設業働き方改革加速化プログラム」を作成しました。プログラムをもとに、建設業が取り組むべき項目として「適正な工期設定・施工時期の平準化」や「必要経費へのしわ寄せ防止」「生産性の向上」を示しています。
実際に建設企業が働き方改革に取り組むには、まずは「適切な給与体系」「女性の活躍促進」「労働環境の改善」などから見つめ直してみましょう。
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この記事を書いた人
NTT東日本 ビジネス開発本部 北森雅雄
NTT東日本に入社後、自治体向けのシステムエンジニアとして、庁内ネットワークや公共機関向けアプリケーションなどのコンサルティングからキャリアを開始。
2018年から現職にて、プロダクト(SaaS)開発、デジタルマーケティング全般のディレクションに従事。
2022年に業務のデジタル化を分かりやすく発信するオウンドメディア(ワークデジタルラボ)のプロジェクトを立ち上げ。
NTT東日本にかかわる、地域のみなさまに向けてデジタル化に役立つ情報発信を展開。