体験型実証フィールドでのワークショップでミライへの「問いづくり」を実施
NTT東日本が運用する体験型実証フィールド「NTTe-City Labo」にて、スマートストアを題材にワークショップを実施した成城大学様。ワークショップを通して得られた成果について、お話を伺います。地域の課題解決に向けてNTT東日本が取り組むソリューションを体感できる施設、NTTe-City Labo(NTT中央研修センタ)。同施設では「日本のより良いミライをつくりたい」という想いのもとに実現したスマート農業・ドローン・eスポーツ・デジタルアートといったさまざまな最先端技術を、実際に見て、触れながら学べます。
そんなNTTe-City Laboにて校外学習を行った、成城大学のデータサイエンス教育研究センター様。見学ツアーならびに「スマートストア」を題材にしたディスカッション形式のワークショップを実施いただきました。同センター長の小宮路雅博教授、そして参加された学生16名のうち、法学部法律学科4年生の島村さんと経済学部経営学科2年生の土屋さんにお話を伺います。
学生たちが新しい扉を開くきっかけとしてのNTTe-City Labo
今回NTTe-City Laboで実施したのは、施設内にあるスマートストアで未来の購買体験や社会課題解決の実現アプローチを考えるワークショップです。このワークショップをNTT東日本と共同発案した小宮路教授は、成城大学の学生が置かれている状況に対してある種の想いを抱いていました。
「成城大学は文系4学部で構成される大学であるため、理系的な事象に馴染みが深い学生はあまり多くありません。普段、文系中心の学びをしている学生に対して、理系に寄った体験をする機会をあれこれ提供していくべき
と考えていました」(小宮路教授)

そのような想いの中で、小宮路教授は、NTTe-City Laboが有する体験型施設のひとつであるスマートストアを活用してみるという考えに至りました。
「ワークショップの実施前にNTTe-City Laboへお邪魔して、バイオガスプラントからスマート農業まで、多様な施設を見せてもらいました。その中でも一番いい題材が、スマートストアだと感じたわけです。『お店で買い物をする』という体験は、人生の中でも頻度が高く、学生にとっても非常に身近ですから」(小宮路教授)
こうした実施背景のもと、今回のワークショップは、NTTe-City Laboの見学ツアー、スマートストアについてのミニ講義を経て、班に分かれてディスカッションや発表を行う流れで行われました。ワークショップ全体を通してのテーマは「「現在のスマートストアから未来を考えてみよう」という、テクノロジーから派生した人々の生活や購買活動における「問いづくり」
です。
スマートストアが社会課題を解決に導く可能性
日本の小売業が抱える課題として、店舗維持が困難な状況下であることと、労働生産性の低さが挙げられます。小売業の倒産・廃業件数は増加傾向にあり、労働生産性は自動化や省人化が進む製造業の半分以下に留まっている状況です。
また、過疎化による店舗の減少や公共交通機関の廃止といった事情で、必要なものを必要なときに調達できない「買い物弱者」が増えている地域課題も見逃せません。スマートストアは、これらの課題を解決に導く手段のひとつと考えられています。
スマートストアとは、IoTやAIなどのICT技術を取り入れることで経営の効率化・最適化を図る店舗のことです。AIを搭載したカメラや重量センサー付きの商品棚などは、大手小売店を筆頭に、すでに導入が進んでいます。
「スマートストア化が進むことで、まずは、人を介さないことによる人手不足解消や生産性向上の効果は期待できるでしょう。また、顧客の購買行動……たとえばこんな商品を手に取ったけど棚に戻した、この商品の棚に立ち止まったといった行動を店舗側が把握することで、より詳細なデータ分析が可能となり、分析結果に基づく改善施策を行うことで店舗の売上アップなどにつながりやすくなると考えています」(小宮路教授)
しかし、小宮路教授は、近い未来においてスマートストアがどこまで浸透するのかわからないとも話します。
「今回は『未来』を2050年と定義しましたが、2050年の購買体験がどうなっているかなんて、まったくわからないですよね(笑)。大きく変わるかもしれない反面、慣性力が強すぎて、現在の購買スタイルから抜けられないままかもしれません」(小宮路教授)
ワークショップの裏テーマは「問いづくり」
未来のスマートストアのあり方が定かではないとした上で、小宮路教授は「その答えについては、今回は重要ではない」としています。
「参加学生が、NTT東日本の方々と、引率の教員も交えて共通のテーマ下で話し合うという、その機会自体が貴重
ですから。学生に提供する経験としてNTTe-City Laboを活用させていただいた形です。あえて広義の題材で自由に考えてみる場を設け、なかなか収束しない話をすることで、学生の皆さんは自身の発想のくせや他の人の考え方について気づきを得たのではないでしょうか」(小宮路教授)
スマートストアを切り口として理系領域へ興味を持たせるとともに、新たな問いを抱かせたかったと話す小宮路教授。実際に、班に分かれて行ったディスカッションでは、さまざまな意見が飛び交ったようです。

「2050年の購買体験を想像してみよう! なんて言われてもわからないよね、というのが正直な感想ではありました(笑)。その上で、SFチックな意見も含め、こうなったら面白いよねといったゼロベースでアイデア出しができた時間は、とても有意義だった
ように感じます」(土屋さん)
「未来のことを考えるとき、技術的な進歩については多くの人が考慮すると思います。けれど、今回のディスカッションを通して、私たちがどうなっているのかといった側面については十分に考えられていないことに気づきました。
たとえば私たちのグループでは『お年寄りばかりの過疎地域にどのようなスマートストアがあればよいか』という話ばかりしていましたけれども、そもそも2050年に現在のような過疎地域がどのような状態になっているかの前提条件が考慮されていませんでした」(島村さん)
スマートストアに関するワークショップを通して「未来の過疎地域の在り様」という本質的な課題への問いに学生が自らたどり着いた点は、狙い以上の成果だったと言えるでしょう。
ワークショップを通して気づいた、自身の学びとのつながり
また、NTTe-City Laboの見学ツアーでも、実際に見て、触れたことによる気づきがあったと、島村さんと土屋さんは話します。
「NTTe-City Laboでは、さまざまな施設やプロダクトを見学させていただきました。文化財を高精細にデジタル化したというデジタルアートは、モニターの映像にもかかわらず、本当に至近距離で見なければわからないほどの精巧さで驚きました。表面を触って初めてこれが本物の絵ではないと気づいたほどです」(島村さん)
「さまざまな技術の形を目の当たりにして、こんな技術があるんだ、もうこんなことができる世界になっているんだとワクワク
しました。とくに、今回の題材となったスマートストアは、すでに実際に商品を買えるお店として機能しているのが興味深かったです」(土屋さん)
NTTe-City Laboでの体験を通して、デジタル領域にも興味を抱いた学生たち。さらには、法律学科の島村さん、経営学科の土屋さんならではの視点から今回の体験を捉え、自身の学びとして昇華させていることが感じ取れる様子も見られました。
「スマートストアについては、こんなに簡単に買い物ができるんだという事実に驚きを禁じ得ませんでしたね。同時に、これだけサクッと買い物ができるとなると、盗難やデータリテラシーなどをはじめとするモラル的な側面が、いっそう問われる世の中になるだろうとも感じます」(島村さん)
「実際に触れるというのが面白いですし、このような技術が社会にどう使われるのか、どのように実装されていくのか、経営学を学んでいる身としては、そのあたりをより深く知りたい
と思いました」(土屋さん)

文系の学生たちがICTやデジタル技術を体感し、社会人を交えてのディスカッションを行った今回のワークショップ。小宮路教授はこのようなワークショップを、学生の興味関心を広げ、楽しみながら学べる、非常に良い機会として捉えているようです。
「学生の皆さんには『自分は文系学生だから、理系っぽいのはちょっと敬遠』というマインドセットをまずはやめてもらって、少しでも“こっち側”に来てほしいんですね。そのためにも、理系的な事柄に対して触れてみてざっくりでも概要を知ることは重要だと捉えています。この点でNTTe-City Laboは体験施設として大変良いですね。学生が見て、触れて、さまざまな分野に興味を抱く“問いづくり”の場として、これからも積極的に活用していきたい
と考えています」(小宮路教授)