- 災害発生直後に通信が途絶し、避難状況や安否情報の把握が困難だった
- 指定避難所以外に避難する住民が多く、具体的な指示を関係機関に出しにくかった
- スマートフォンやインターネットに馴染みがない住民も使える仕組みが求められていた
能登半島地震の経験から生まれた、珠洲市の新たな防災DX。電話と生成AIの活用で、命を守る情報を確保する

珠洲市役所
| 業種 | 地方公務 |
|---|---|
| 職員数 | 375名 |
| 所在地 | 石川県珠洲市 |
| 主な事業内容 | 行政サービス全般 |
| ホームページ | https://www.city.suzu.lg.jp/ |
| 導入サービス | 自動音声一斉配信システム「シン・オートコール」 |
| サービス導入時期 | 2025年10月 ~ |
| ご担当者さま |
石川県珠洲市総務課 危機管理室 室長 女田 良明さま 石川県珠洲市総務課 危機管理室 危機管理係 主任主事 前田 能利さま <NTT東日本 担当社員> ビジネス開発本部 クラウド&ネットワークビジネス部 クラウドサービス担当 担当課長 兼務 特殊局 局長補佐 鈴木 巧 |
- 陸前高田市での災害対応実績があり、自治体利用の具体像を描くことができた
- AIによる自動音声と音声回答というシンプルな設計で、住民側の負担が少なかった
- 1秒間に2コールという配信能力で、広域・分散した集落でも迅速な情報収集が可能だった
- 防災訓練では90%超の応答率で約1,300名分の避難情報を可視化できた
- 負傷者などの緊急情報も集約でき、救助手段の選択や物資配分の精度向上が見込まれる
- 紙や人手に頼っていた情報の収集・集計を自動化でき、職員がより重要な業務に集中できる

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2024年1月1日、石川県能登地方を最大震度7の「能登半島地震」が襲いました。石川県能登半島の先端に位置する珠洲市では特に被害が大きく、大規模な停電と共に通信網が寸断。どこに、誰が、どのような状況で避難しているのか、命を守るために重要な情報を収集するインフラが絶たれました。
こうした未曾有の事態を経験した珠洲市では、防災・減災体制の見直しに着手し、その一環としてNTT東日本の自動音声一斉配信システム「シン・オートコール」を活用した新たな情報収集・伝達の仕組みづくりを開始しました。従来から使われてきた電話と、最新のテクノロジーである生成AIを融合させ、市民の命を守る防災体制をいかに構築していくべきなのでしょうか。
シン・オートコールの導入を主導された珠洲市総務課 危機管理室の室長・女田 良明さまと主任主事・前田 能利さま、そしてシン・オートコールの開発・発明者である鈴木とともに導入の背景から2025年10月に行われた防災訓練での成果について振り返りました。
1. ご相談前の課題
通信途絶で避難情報の収集が困難に。命を守るための初動で抱えていた情報インフラの課題

震災前の珠洲市の危機管理室では、私を含めた正規職員が3名体制で一般的な危機管理業務、たとえば備蓄品の管理や避難指示の発出判断、防災訓練の企画などを行ってきました。2024年1月1日の能登半島地震後、全国からの応援職員が加わり、現在は危機管理室だけで6名、市役所全体では応援職員と合わせて約200名体制で災害対応と通常業務にあたっています。
今回の取り組みのきっかけとなった能登半島地震では、道路の寸断による集落の孤立や備蓄物資の不足、そして通信の途絶が発災直後の大きな課題でした。災害対応にはフェーズがあり、時間が経てば国や県からの支援も入りますが、最も重要なのは発災直後の「命を守る」初動です。しかし、その初動対応に必要な情報を得ること、被害・避難状況を把握すること、そして関係各所に共有することが非常に困難だったのです。
発災後は津波から逃れるため、指定避難所以外の高台や神社などに自主避難している市民が大勢いました。しかしその方々の状況が正確につかめなかったため、自衛隊や警察、消防が到着しても「この地区に、何人おり、どのような状況でいるので救助をお願いします」という具体的な指示を出すことが難しい状況だったのです。
こうした状況の背景として、地震による通信インフラの機能不全が起きていました。まず停電で固定電話が使えなくなり、基地局自体が被災したことで電波が届かず、携帯電話も使えなくなりました。なんとか電波を拾えても、基地局に備えられたバッテリーは数時間で充電が切れてしまったのです。発災が16時だったため、夜中までには多くの地域で携帯電話が使えなくなりました。
加えて2024年9月には奥能登豪雨も発生し、度重なる災害からの復旧・復興、そして将来的な災害対策の一環として、災害時の情報伝達手段を強化することになったのです(女田さま)
デジタル活用やDXの推進は、民間企業だけでなく行政にとっても重要だと認識しています。しかし、珠洲市の高齢化率や実際の生活環境を考えると、すべてを電子化することが最適解だとは言えません。新しい技術を活用しつつも、「普段の生活ではテクノロジーに馴染みがない方々も活用できる仕組みであること」、そして「便利だ」と感じてもらうことが重要です。
やみくもにデジタル化を進めるのではなく、住民の皆さんにとって本当にプラスになるのかを常に考えなければなりません。こうした観点からアナログとデジタルをうまく融合させた情報伝達手段が必要だと感じていました。(前田さま)
2. シン・オートコールを選んだ理由
きっかけは他の自治体の活用。電話と生成AIを組み合わせた、シンプルな仕組みを評価

震災後、日本全国から応援職員の方々にお力添えいただいたのですが、その応援職員のひとりに東日本大震災を経験された岩手県陸前高田市からの職員がいらっしゃいました。その方のご紹介で陸前高田市でも導入されているシン・オートコールの話を聞く機会があったのが、最初のきっかけです。
ご紹介後、市長と副市長も同席して直接説明を受け、具体的にどのような操作をするのかといったデモンストレーションを見せていただきました。最も印象的だったポイントは、ご高齢の方々にとって分かりやすい仕組みだったことです。ご高齢の方には電話の方が生活に馴染んでいます。シン・オートコールによる電話では、AIによる自動音声で要件を相手に伝え、回答を音声で受け付け、文章に書き起こしてくれるシステムです。とてもシンプルなシステムと機能であり、これなら実用的だと感じました。
もうひとつ評価した点はスピードです。平野部が少ない珠洲市は集落同士の距離が遠く、家屋が各地に点在しているため、一刻も早い安否確認と情報伝達が求められます。仮に人力で一件ずつ電話をかけて安否を確認するとなれば、それだけで時間を費やしてしまいます。その一方、シン・オートコールによる自動音声一斉配信では、1秒間に2コールというスピード感を実現することができます。
こうした点が評価され、災害時の情報伝達手段を補完・強化する目的でシン・オートコールの導入を決定し、2025年10月5日に実施した珠洲市防災訓練にて実際の災害を想定して活用することになりました。(女田さま)
3. シン・オートコールの導入と活用
市民参加型の避難訓練で初公開。一斉連絡と自動集計によって、避難状況を迅速に把握

2025年10月5日に実施した珠洲市防災訓練では、行政・関係機関・市民それぞれが、実際に災害が起きた際にどのように避難し、どのように情報を共有するかを確認することを目的として実施されました。大きな特徴として、より実践的な訓練とするために完全なブラインド方式、つまり、どのような災害がいつ起きるか、どの程度の被害がどこで発生するかといった想定情報を災害対策本部のメンバーにも一切知らせずに行ったことが挙げられます。実際には、能登半島北岸断層帯を震源とするマグニチュード8.1の地震が発生し、珠洲市で震度7を観測、さらに石川県に大津波警報が発表されるという最大規模の被害を想定しました。
複数の訓練を実施しましたが、その中でもシン・オートコールを活用したのは、津波・土砂災害からの避難訓練です。仮設住宅に入居している方々も含め、訓練に参加した市民がそれぞれの指定緊急避難場所や避難経路を実際に確認してもらうことを目的に、市内全域でシン・オートコールを活用しました。(女田さま)
まず、市民の皆さんには、指定緊急避難場所や津波避難ビルへ避難していただきました。その後、各地区の区長さん約140名に対して、シン・オートコールで一斉に電話を発信し、自動音声によって、避難場所や避難者数を聞き取りました。報告された避難場所や避難者数をシン・オートコールを使って文字起こしし、自動的に集計、一覧化するという流れです。(前田さま)
今回の訓練は、開発側にとっても大きなチャレンジでした。これまでシン・オートコールの活用ケースは、要支援者の方への安否確認といった限られた範囲の用途が多かったのですが、今回は一度に多数の方からの報告を受け、大量の情報を処理・集約する必要がありました。実運用に近い負荷がかかる中で、システムの安定性やデータの取り扱い、集計・可視化の精度など、さまざまな観点からシン・オートコールが問題なく機能するか確認しています。
また、今回は報告を集めて自動で集計・一覧化し、さらに要約まで行うという新しい挑戦があったことも特徴です。実際には「どこに何人いるか」まで把握できただけでなく、インフラが途絶していそうな場所だけをデータから抽出するといった情報を要約し、対応の優先順位をつけるブレーン的な使い方もできました。
訓練当日は私も訓練現場に同席させていただきました。ブラインド方式ならではの緊張感の中で想定外のことも起こりましたが、その場でシステムをチューニングし、珠洲市の皆さまと一体となって応答内容の集計・報告まで無事にたどり着けたことは、開発者として貴重な経験だったと感じています。(NTT東日本 鈴木)
4. シン・オートコール導入の成果
高い応答率と情報の精度を評価。作成した一覧を、今後の物資配布や指示判断に活用していく

珠洲市防災訓練では、避難訓練に参加いただいた区長の皆さまから的確な報告をいただくことができたこともあり、90%を超える応答率で約1,300名分の避難状況をほぼ期待通りに把握できました。
能登半島地震の際、私たちが最初に把握できた避難者数は、副市長が電話がつながる範囲で職員に聞き取り、手書きのメモにまとめた「約7,000人」という概数でした。今後、再び能登半島地震のような災害が発生しても、シン・オートコールがあれば「約7,000人」よりも精度高く、かつ迅速に「どの地区の、どの場所に、何人いるか」といった避難状況を把握できるかもしれません。
また、防災訓練で作成された一覧表は、今後の災害対応にも活かされていきます。今回得られた情報を参考に、備蓄物資を届けるべき場所と量、そこへ至るルートを関係機関に指示する際に役立てていく想定です。
さらに「転倒して怪我をしている人がいる」「ご高齢の方が苦しそうにしている」といった緊急性の高い情報をシン・オートコール経由で報告してもらえれば、救急車が入れない場所へドクターヘリを手配することもでき、人命救助のスピードも格段に上がるのではと感じています。(女田さま)
危機管理室の業務効率化という観点でも大きな成果が期待できます。能登半島地震では、各避難所からの物資要望は全て紙で集計していました。各避難所のリーダーが必要な物資を紙に書き出し、配送業者が物資を届けた際にその紙を回収。その後、私たちが紙に書かれた要望を県や関係期間に伝えるという流れです。
この一連の流れにシン・オートコールを使えば、たとえば「毎週月曜日と木曜日に物資要望の自動電話をかけます」と周知しておくことで、この必要物資の集計作業を自動化できます。職員が電話をかけたり、紙の内容を転記したりする手間がなくなり、より重要な業務に集中できるようになるはずです。(前田さま)
防災訓練では、文字起こしがうまくいかなかった場合に備え、録音された音声をすぐに聞き返せる機能も活用いただきました。珠洲市特有の方言や地名も、地元の職員の皆さんが聞けばすぐに分かります。この修正をリアルタイムで反映していくことで、集計の精度をさらに高めることができたと思います。(NTT東日本 鈴木)
5. シン・オートコールを導入し、今後挑戦していきたいこと
防災を軸に、あらゆる行政サービスへ。誰もが使える仕組みで持続可能な地域をめざす

今後は、シン・オートコール活用を広げていきたいと考えています。今回は避難状況の把握という用途でしたが、災害時の職員参集の可否確認や、豪雨のように段階的な避難指示の伝達などにも応用できます。特に避難指示は重要です。豪雨で防災無線が聞こえづらい状況でも、手元の電話が鳴れば多くの人は反応できます。「身の安全を確保してください」という最も重要な情報を、確実に届けられる可能性が高まることは大きな進歩です。(女田さま)
私は今回の経験を通じて、生成AIなどの新しい技術を主体的に学び、活用していく必要があると感じました。シン・オートコール導入をきっかけに、私自身もAIツールを使い始めました。単純な作業はAIに任せ、人間はより創造的な、頭を使うべき業務に集中する。そうした働き方は民間企業だけでなく、これからの自治体職員にも当たり前になってくると考えています。(前田さま)
6. これから取り組む方へのアドバイス
職員と住民の距離が近い自治体にこそすすめたい

シン・オートコールのような仕組みは、特に私たちのような小さな自治体に向いていると思います。職員と区長さんの顔と名前が一致するような、距離の近い関係性があるからこそ、新しい取り組みも説明しやすく、受け入れてもらいやすいでしょう。
大事なのは、使う側も、情報を受け取る住民側も、操作が簡単であることです。そして、特定の誰かがいないと使えない「属人化」した仕組みでは、いざという時に機能しません。その点、シン・オートコールはシンプルで使いやすく、多くの可能性を秘めていると感じています。(女田さま)
7. おわりに
電話対応に自動音声システムの導入を検討されている方は、NTT東日本へご相談ください
災害時、住民の命を守るための情報をいかに迅速、かつ正確に収集し、共有するかという課題に対し、慣れ親しみのある電話と、最先端技術である生成AIを組み合わせることで、地域の実情に合った解決策を実現することができます。
NTT東日本では、こうした緊急対応や電話応対の現場における課題に対し、業務プロセスの構築から生成AIを活用した仕組みづくりまでを含めた支援を行っています。単なるシステム導入にとどまらず、現場の運用や組織体制を踏まえた形で伴走支援させていただく点も特長です。
問い合わせ対応のスピードを高めたい、業務の属人化や負荷を減らしたいとお考えなら、ぜひ一度NTT東日本にご相談ください。
- 文中記載の組織名・所属・肩書き・取材内容などは、すべて2025年12月時点(インタビュー時点)のものです。
- 事例はあくまでも一例であり、すべてのお客さまについて同様の効果があることを保証するものではありません。
- シン・オートコールはNTT東日本株式会社の特許( 第7419472号・第7438447号・第7549170号・第7553743号)および登録商標であり、珠洲市さまへは株式会社NTT DXパートナーよりNTT東日本からの使用許諾に基づき提供を行っています。
