来る職員減少に備え、RAG構築による課題解決を検証。「藤沢DX」における生成AIソリューションのユースケースに迫る
日本全体として、今後本格化することが予想される自治体職員数の減少や業務の複雑化、多様化に伴い、自治体の現場では業務の効率化がますます求められています。そうしたなか、官民問わず注目を集める新しい技術が、コンテンツ生成機能を持つ生成AIです。
NTT東日本では、この生成AIによるソリューションを自治体さまのDX推進にお役立ていただくため、「自治体向け 生成AIソリューション」の提供を開始しました。今回は「自治体向け 生成AIソリューション」を検証いただいた藤沢市役所のご担当者に、取り組みの背景にあった課題やPoCの流れ、そこで得られた知見について、お話を伺いました。
- RAG(※1)による要約・回答コンシェルジュの構築は、庁内に横展開しやすい有益な取り組みだった
- 職員のサポート目的であれば、十分に業務活用できるレベルの法規運用支援AIを構築できた
- イメージしきれていなかった活用シーンの創出で、さまざまな気づきが得られた
1 RAGとは、Retrieval-Augmented Generation の略であり、大規模言語モデルによるテキスト生成と外部情報の検索を組み合わせ、ユーザーからの入力に対する回答精度を向上させる技術です。
- さまざまな事業セグメントに展開するマルチチャネルな企業であること
- 単純なソリューション提案型のアプローチではなく、伴走型のサポートであること
- 日本全国に展開し、さまざまな地域課題を理解し、取り組んできた実績
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藤沢市が取り組む「藤沢市DX」とデジタル推進室のミッション
藤沢市が考える、行政デジタルの目指すべき姿を教えてください。
大町氏:深刻な働き手不足に陥るとされている2040年問題をはじめ、今や人口減少問題は日本全体の共通課題です。神奈川県で4番目に多い人口である神奈川県藤沢市でも、将来的な人口減少に対応すべく、さまざまな取り組みを進めています。
そうした取り組みの一環として策定されたのが「藤沢市DX推進計画」と「藤沢市スマートシティ基本方針」(以下、藤沢DX)です。今後予想されている藤沢市全体の人口減少をはじめ、行政サービスの担い手である職員の減少を受けつつも、行政サービスを必要とする市民へ確実に届けるためには、既存業務の在り方を見直しつつ省力化を図りながら、サービスレベルを維持、向上していくために継続的なDXの取り組みが必要不可欠だと考えています。単にシステムやデジタルツールを導入するのではなく、職員の仕事の在り方をデジタルの力で最適化していくこと、そして庁内のDXに対する理解を深めていただくことが、藤沢DXにおける行政目線のミッションです。
デジタル推進室の業務とミッションを教えてください。
大町氏:私が所属するデジタル推進室は、行政のデジタル化に取り組むべく2021年4月に設立されました。デジタル活用に関する経験を有する職員がそれぞれの知見を活かし、藤沢市役所の各部局に対してアイデアの創出から事業の実施に至る過程で伴走支援を行い、デジタルを活用して効率的な行政サービスを市民の皆さまへ提供できるよう、積極的に取り組んでいます。
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行政が求めるテクノロジーの役割。生成AIの活用を検討され始めた背景やきっかけとは
「藤沢DX」の最重点取組項目に「AI・RPA等先進技術の利用推進」が記載された背景を教えてください。
大町氏:生成AIやRPAなどに代表されるテクノロジーなどの活用は、行政におけるデジタル活用として多くの自治体が積極的に進めています。藤沢市役所においても深刻化する人口減少に伴う担い手の不足を回避しつつ、行政サービスのレベルを維持するため、高い効果が見込まれるソリューションとして強い必要性を認識し、最重点取組項目として位置づけています。
ただ、よく誤解されがちなのですが、ロボットで業務を完全自動化することが目的ではありません。人が担うべき「計画・試行・検証・実行・判断」という業務領域と、ロボットが得意とする情報収集や論理構成などの業務領域を明確に区分し、人的資源を有効活用することが目的です。つまり、ロボットが人の仕事を奪うのではなく、例えるならば“とても便利なメモ帳”のような役割をロボットには期待しています。
これは生成AIに対しても同様です。データをインプットすれば、より正確な計画や施策がアウトプットされるようになれば確かに便利ですが、それは私たちが求める役割ではありません。職員が生成AIの役割を定義し、主体的に活用していくことが大事です。
藤沢市役所における生成AIの活用は、2023年中に他社が提供するソリューションを活用してPoC(概念実証)を行い、一定の有効性を認めました。ただ、行政ならではの業務課題を解決する手法としては、もう一段階高いレベルでの活用を検討しなければならないとの結論に至ったのです。その中で、RAGと呼ばれるような機能を踏まえた生成AIの活用を試してみたい、ということになりました。
生成AIの活用としてRAG構築を検討された背景には、どのような課題があるのでしょうか。
大町氏:RAG活用を検討すべきとした結論の背景には、一般的に、総合職として採用された自治体職員が抱える慢性的な課題が存在します。通常、多くの自治体ではジョブローテーション方式が採用されており、人事異動によってまったく未経験の部署に配属されることは珍しくありません。さまざまな業務を経験するなかで、自らの適性にあった業務を発見でき、ゼネラリストとして汎用的な活躍が見込まれる人材の育成が図られるなどの利点がある一方で、蓄積された専門的なノウハウが継承されにくいというデメリットがあります。もちろん業務記述書と呼ばれる引継ぎ資料もありますが、やはり勤続年数しかり、その業務に従事した経験に基づく知識の継承などまではカバーしきれないのです。
そこで職員がプロンプトを作成し、それぞれの職員が持つ業務知識など、業務に必要なさまざまな情報をRAGとして庁内に展開できる形にできないかとの意見がでたことで、次の段階のPoCの実施を検討しはじめることになりました。
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生成AIを活用するパートナーとして。マルチチャネルな事業展開、伴走支援、地域課題に取り組む姿勢を評価
NTT東日本との取り組みがスタートした経緯を教えてください。
大町氏:NTT東日本さまとは、2024年1月に締結した「藤沢DX」推進とDX人材の育成を目的とした連携協定に基づき、さまざまな議論を進めていくなかでRAG機能を備えた生成AIソリューションのPoCのご提案をいただきました。このご提案は、藤沢市だけではなく、多くの自治体が等しく抱える課題に紐付け、直接的な活用メリットを庁内に明示できるユースケースを創出すること、そして行政の現場におけるさまざまな課題の解決方法として、RAG機能を備えた生成AI活用がどこまで貢献できるか検証することを実現できる、大変有用な機会になるなと感じたことを覚えています。
また、官民共創という観点でも、協定に基づく交流で新たなアウトプットが創出されることを期待しました。
生成AIソリューションのパートナーとして、なぜNTT東日本を選定いただいたのでしょうか。
大町氏:NTT東日本さまとの連携を進めた要因として、NTT東日本さまがさまざまな事業セグメントに展開するマルチチャネルな企業であることが挙げられます。これは自治体も同様で、インフラから福祉までさまざまなセグメントの地域課題に取り組んでいることから、NTT東日本さまであれば多面的なパートナーシップを結べるのではと考えたのです。
2つ目の要因に、単純なソリューション提案型のアプローチではないことが挙げられます。すでに用意されたソリューションを導入するため、ゴールが決まっている企画をご提案いただくのではなく、私たちと同じ目線、同じビジョンを掲げ、同じ課題に頭を悩ませながら進めた先でソリューションをご提案いただける姿勢は、まさに同じ船に乗っている感覚で頼りになります。
最後の要因として、日本全国に展開し、さまざまな地域課題を理解し、取り組んできた実績です。自治体が抱える課題に対する解像度が高いのは、全国の自治体との取り組みで得られた実体験によるものだと考えています。
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市民や業者の方々からの問い合わせを自動仕訳。道路河川部 道路管理課における生成AI活用のユースケース
道路河川部 道路管理課における、生成AI活用の概要を教えてください。
島崎氏:道路管理課では市民や業者の皆さまから寄せられる、道路、水路に関する各種お問い合わせに対して電話で対応しています。内容は多岐にわたり、たとえば、道路の幅員を調べたい、道路に物が置かれているとの連絡などです。道路管理課は5つの担当に分かれているのですが、その問い合わせがどの担当で対応しているのか分かりにくいという問題がありました。また、そもそも電話対応件数が多いこと、回答には専門的な知識が必要なケースがあることに課題を感じていました。
そこで生成AIを用いた取り組みとして、初めて道路部門に配属された職員を対象に、電話応対を要約し、さらに所管課を回答する要約・回答コンシェルジュを構築、検証することになりました。
NTT東日本からは、どのようなサポートがありましたか。
島崎氏:NTT東日本さまからは、座学のみならずグループワークなど研修を通じて生成AIの知識を深めていただき、また活用イメージの具現化にもご協力いただきました。また、RAG構築のコツをまとめた資料のご提供やプロンプト作成の個別支援など、手厚いサポートも印象に残っています。結果として、コンシェルジュの回答精度が向上し、ある程度の使用に耐えるレベルになりました。ただ、経験豊富な職員にしか対応できないような問い合わせ対応までは課題が残る結果で、回答の正答率は、数字にするのは難しいですが、8割前後であったと感じています。
道路河川部 道路管理課のユースケースについて、どのように評価されていますか。
大町氏:私たちのような、自治体で働く職員の仕事の多くは、市民や業者の皆さまから寄せられる、さまざまなお問い合わせを受け、ご対応することです。そのため、要約・回答コンシェルジュの構築、検証は、庁内に横展開しやすい有益な取り組みだったと考えています。回答精度の向上に苦労する場面もありましたが、NTT東日本さまには根気強く伴走いただいたので、安心してお任せできました。
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専門性の高い業務を深くサポートする建設DX。計画建築部 建設指導課における生成AI活用のユースケース
計画建築部 建設指導課における、生成AI活用の背景と概要を教えてください。
吉野谷氏:計画建築部は、都市全体の計画から個別の建築物の安全基準まで、幅広く所管する部署になります。業務の専門性が高く、おおむね技術職員で構成されていることも特徴です。建築指導課では、建築基準法や関連法令に則って個別の建築物の設計図書を審査することで、都市の安全を確保する業務をおこなっています。
近年では、すでに技術職員の採用難が続いており、今後さらなる深刻化が懸念されています。また、業務を行っていく上では、建築基準法や関連法令のみならず、これまで蓄積してきたノウハウの習得が必要になります。一方で、多くの資料は大量の紙やExcelにまとめられているだけの状態で、しかも難解な専門用語や表記揺れが独特なため、習得・技術力の向上には非常に時間がかかり、将来的に業務がひっ迫することは明らかでした。
こうした課題と向き合うには、業務サポートにAIを活用する必要があると考えました。そこで今回、RAG機能を用いてAIに建築基準法などを学習させ、法規運用支援AIを構築、業務利用の可否の検証をすることになりました。
専門知識を学習させていないAIではハルシネーションが多く発生し、とても業務には利用できないと感じたのですが、データ整備やロールとプロンプトの調整を繰り返すことで回答の精度が向上していきました。一定程度の精度の回答が得られた瞬間、業務利用の可能性を感じたことが印象に深く残っています。
NTT東日本からは、どのようなサポートがありましたか。
吉野谷氏:NTT東日本さまからは、RAGに学習させるためのデータ整備手法を専門的な観点からサポートいただきました。おかげさまで安心して最初の一歩を踏み出せたと思います。また、ロールとプロンプトの調整では、同じ画面を見て一緒に悩みながら構築できたことは大変心強かったです。
100点満点の回答が得られる業務支援AIまでは至らなかったものの、職員のサポート目的であれば十分に業務活用できるレベルまで構築できました。将来的には他の業務にも展開できそうな手ごたえを感じたこと、そして多くの職員に興味を持っていただけたことが何より大きな成果です。
計画建築部 建設指導課のユースケースについて、どのように評価されていますか。
大町氏:横に広げやすい道路管理課におけるユースケースとは対照的な取り組みで、縦に深く構築していくRAGだったと思います。2軸のユースケースによって、まったく別の観点からRAG活用の得意、不得意な領域を検証できました。
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イメージできなかった生成AIの活用シーンを創出。自治体向け生成AIソリューションによる検証の成果と、藤沢DXの今後
検証結果と得られた成果や知見について教えてください。
大町氏:NTT東日本さまからご提案いただく形でスタートしたAIソリューションのPoCでしたが、行政における生成AI活用のもやもやした部分、つまりこれまでイメージしきれていなかった活用シーンを創出することができ、さまざまな観点から多くの気づきが得られました。藤沢市が掲げる藤沢DXのアプローチに大変フィットしたスキームをご提供いただけたものと感謝しています。
今回のRAG構築による生成AIソリューションのPoCによって、私たち行政職が生成AIに期待する役割、得られるメリットをより鮮明にイメージできるようになりました。具体的には、一問一答型と文書生成(要約)型の活用イメージです。ただ、現段階ではRAGを用いたプロンプトの精度については不十分で、技術ベースのフィードバックが必要な分野です。将来に向けた期待感は高いものの、継続的な検証を要すると感じています。
これに対して、AI技術の進展とともに使用者側のスキルセットのアップデートも欠かせないことを実感しました。いかに活用の度合いを引き上げつつ、AI活用人材の育成も進めていくかといった、生成AIの活用を取り巻く課題についても明確になっています。
また、今回のPoCに参加した他の職員からは「生成AIは難しいというイメージを払しょくできた」「生成AIは活用していかないともったいない」などの意見が寄せられました。今回のPoCは庁内向けにも公表済みですので、今後庁内のAIに対する意識に変化が訪れればと思います。
「藤沢DX」の展望について教えてください。
大町氏:庁内だけでなく、今後の藤沢市全体の在り方を考えていくうえで、「藤沢DX」は極めて重要な取り組みであると考えています。今回の取り組みでフィーチャーした生成AIをはじめ、常に新しいテーマ、新しい技術にはアンテナを張り巡らせ、「藤沢DX」の戦略に合致するものかどうか吟味しながら最適な形で組み込んでいくという、チャレンジアンドアジャイルの精神で意欲的に取り組んでいきたいですね。
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無数の解決策のなかから最適な方策を見つけ出すため、生成AIを活用していきたい
生成AI活用の展望について教えてください。
大町氏:自治体におけるDXは、まだまだ始まったばかりです。自治体の数だけ課題が存在し、その課題一つひとつに対して無数の解決策があるはずです。そうした無数の解決策のなかから一緒に最適な方策を見つけ出すため、生成AIと手を携えて協力していかなければならない未来がもはや現実となっています。自治体同士でも協力しながら、よりよい活用方法を積極的に模索していきたいですね。
最後に生成AIソリューションに興味をお持ちの方へメッセージをお願いします。
大町氏:NTT東日本さまは、さまざまな地方自治体で、さまざまな立場から取り組んできた実績とノウハウを活かし、行政職と近しい距離感と目線で地域の課題を共有できる存在だと考えています。今回の取り組みにおける藤沢市のように「生成AIに興味はあるが、どのように業務に組み込むべきか」と悩んでいる自治体の担当者は、まずは一歩踏み出してPoCから始めてみてはいかがでしょうか。
生成AIの活用イメージの解像度をより高めることができるだけでなく、実運用にあたっての課題感も掴むことができるはずです。
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NTT東日本は生成AIを活用するお客さまを支援いたします
今回はNTT東日本における「自治体向け 生成AIソリューション」のPoC事例をご紹介しました。「生成AIのユースケースを知りたい、活用したい」「生成AIシステムを入れてみたものの職員の活用が進まない」といった悩みを抱える自治体職員の皆さまにとって、参考になれば幸いです。
NTT東日本は単にサービスを納めるだけでなく、お客さまにご活用いただき、取り組みの成果を感じていただくために二人三脚の伴走支援を重視しています。まだ新しい技術である生成AIソリューションについても、実際の取り組みで得られた知識やノウハウを活かし、社内の提案力、技術力、そしてサポート力を高めています。生成AIに関するご相談、お問い合わせは随時受け付けておりますので、お気軽にご相談ください。
- 上記ソリューション導入時期は2024年1月です。
- 文中に記載の組織名・所属・肩書き・取材内容などは、全て2024年6月時点(インタビュー時点)のものです。
- 上記事例はあくまでも一例であり、すべてのお客さまについて同様の効果があることを保証するものではありません。
- 組織名
- 神奈川県 藤沢市
- 概要
- 藤沢市は、東京からほぼ50キロメートル、神奈川県の中央南部に位置し、周囲は6市1町(横浜市、鎌倉市、茅ヶ崎市、大和市、綾瀬市、海老名市、寒川町)に囲まれ、南は相模湾に面し、おおむね平坦な地形をしています。JR東海道線で東京まで約50分、横浜まで約20分の位置にあります。