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東京都港区立青山小学校 曽根 節子 校長

vol.33
東京都港区立青山小学校

曽根 節子 校長

学校改革の一環として、行政・地域や企業との連携によるICT活用の実証研究プロジェクトに参加し、今やICT先進校として脚光を浴びるまでになった青山小学校(東京都港区)。そのリーダーシップをとってきた曽根節子校長に、取り組み内容や成功の要因などを伺いました。

学力のベースとなる「やる気」を育てたかった

まず、ICT活用に取り組むようになった経緯をお聞かせください。

曽根

私が本校に校長として赴任したのは、2007年4月。開校130年余りの伝統ある学校ですが、少子化の影響で単学級の少人数校になっていることもあってか、「子どもたちに元気がなく自尊感情が低いな」というのが着任時の印象でした。学力の支えになるのは、まず心。やる気というベースがないところに学力を載せようとしても崩れてしまいます。着任したとき、私はそうした学力の基盤を何とかしなくては、という思いに駆られました。

曽根 節子 校長 曽根 節子 校長

そんな中で出合ったのが、陰山英男先生(立命館小学校副校長、立命館大学教育開発推進機構教授)が提唱する「早寝早起き朝ごはん」の実証研究プロジェクトです。音読・漢字・計算などを毎朝行うとともに「おはよう」の声かけ運動を励行し、子どもたちに朝型の生活リズムを付けさせていきました。また、翌 2008年度からは、メディア教育開発センターとマイクロソフトが主導する実証研究「NEXTプロジェクト」にモデル校として1年間参加し、ICT活用に力を入れてきました。こうしたプロジェクトへの参加をきっかけに、子どもたちの学力の基盤を固め、学校を盛り上げていきたかったのです。

ICT活用などを通じて学校を盛り上げていく取り組みには、行政・地域などの協力も欠かせませんでした。東京都の一大区である港区には、学校の意欲的な教育計画に対する特別な支援制度や教育予算が十分にあり、また、少子化が進む青山小学校に特色を作って子どもを取り戻そうという配慮もあってか、こうしたプロジェクト参加などにも積極的な支援を惜しまない。一方、発展し変化しつつも下町的な温かい人情を残すこの地域には、「おらが学校」の歴史を絶やしたくないという学校への深い愛着もある。さらに、都心に位置する本校は、地理的に、ICTの教育利用の可能性を探る熱意を持つ企業からの協力も受けやすい。私は校長経験も初めてでICT活用スキルも未熟ながら、そうした恵まれた環境のもと、持ち前の度胸と情熱で「やるしかない!」「何とかなる!」と信じ、その思いを学校全体で共有しながら突き進んできたというわけです。

充実したICT環境を活用して、どのような実践をされたのですか。

曽根

「NEXTプロジェクト」は、最先端のICTで学校教育をどう変えられるかの実証研究プロジェクトです。大学や多くの企業と連携しながら、「学力の向上」「校務の効率化」「保護者・地域との連携」を目標に、タブレットPCなどの次世代ツールによる1人1台環境の実現を目指して行われました。本校でも、パソコン教室とは別に、誰もがいつもの教室・いつもの机で使えるタブレットPCを多数整備し、プロジェクターを各学級に配置するとともに、電子情報ボードも数台導入するなど、ICT環境の量的・質的改善が一気に進みました。

そうしたICT機器を利用して、漢字演習・計算練習などドリル学習や調査学習といった楽しい個別学習を実施したほか、一斉授業でも分かりやすい教材提示を試みたり、学級通信など保護者向け情報発信のまとめ方を工夫したりしました。さらには、遠隔地の小学校との交流学習や、ICT活用に不可欠の情報モラル教育の導入など、さまざまな新しい試みにも広く取り組みました。

具体例を挙げるなら、小学校5年生の社会科では、地元に本拠を置く自動車メーカーとの連携により未来の車を構想する授業を行いました。各自がタブレット PCで夢の車のイラストを描き、インターネットで補足資料を収集し、自分のプレゼンファイルをつくります。それぞれのファイルは手元のタブレットPCで共有できますので、それを見ながらグループごとに意見交換し、改良などします。最後に、その成果をメーカーへ持って行って、プロの感想や実際の現場の話を聞くという授業です。パソコンと1対1で向き合っていると子どもが心を閉じてしまうのではないかと、とかく問題視されますが、ICTは本来、情報を通して人と人がつながるコミュニケーションツールであるはず。今お話しした活用などは、子どもたちが友だちや社会人と交流し、高め合うためにうまく生かされた事例だと思います。

「人間力」の醸成や開かれた学級づくりに結実

ICT活用の継続・定着を図っていく中で、どのような効果があったか、子どもたちや先生方にどのような変化があったか、お聞かせください。

曽根

ICT活用については、本校はほとんどゼロからのチャレンジでしたが、結果として、ICT活用能力の向上はもちろん授業の改善にもつながりました。そのことは、子どもたちに対するアンケート調査からも明らかです。総じて課題への興味・関心・意欲が高まり、特に基礎学力が高くない子の補充学習には大変有効に働いています。

また、子どもたちが自分の考えを表現し、他者に伝えるというプレゼンテーション能力の向上には、目を見張るものがあります。今の子どもは一様に、デザイン能力が高く、発想も豊かです。それがICTによってうまく引き出されたのでしょう。紙での表現が苦手だった子も、さまざまなツールを使うことで上手にきれいにまとめることができ、自信につながっています。さらに、学力の高い子がIT機器の操作を苦手とするケースが意外に多く、逆に勉強は苦手だけれども操作を覚えるのは早い子が、そうした子に教えてあげるといった、良い雰囲気の教え合いも見られるようになりました。受身的に知識理解をしていくだけでなく、情報を自分で選んだり、ツールを使ってどう伝えようかと考えたりする——従来の「学力」とは別の、人と人とのコミュニケーションができる「人間力」が生まれてきたといえるのではないでしょうか。

曽根 節子 校長

教員の変化としては、ICT活用能力に長けた若手と、経験豊富なベテランがチームを組む「校内OJT体制」をつくることで、活用スキルの教え合いが日常化するとともに、お互いの授業を見ながらの授業研究・改善が図られるようになりました。指導案にICTを活用した効能を必ず書き添えるようにしているのですが、「なぜここでこのICTを使うのか」「ICTをどう使えば指導目標に到達するのか」を考え、よりよい授業づくりができるようになったのです。さらに、行政や企業などとの連携による実践でしたので、教員のチーム間や校内だけでなく、外部の人に授業を見られたり、外部の人の力を借りたりすることが抵抗なく自然にできるようになりました。つまり、これまでの教員が陥りがちだった“学級王国”ではなく、“開かれた学級”ができあがったのです。

子どもたちも先生方も、意欲的で活発になった。つまり、学校が元気になったということですね。

曽根

はい。教員にとっての喜びは、目の前の子どもが変わることです。何であれ新しいことを授業に盛り込んで子どもの前で発信したとき、子どもは変わります。ICT活用は、教員自らが積極的に学んで新しい授業をし、子どもを変えるきっかけになりました。子どもたちも、新しいことに取り組むことで授業が楽しく分かりやすくなったのはもちろんですが、青山小学校がマスコミに取り上げられたり、2009年12月には原口一博総務大臣をはじめとする議員団が視察に訪れたりと、周りから注目されるようになったことでも、いっそう自信や学校愛が高まったようです。

実は当初、ICT活用よりも「黒板とチョークと先生の話術」という従来の指導方法を良しとする声が、PTAや地域などにはありました。しかし、今では成果を認め、評価していただいています。私の着任から丸3年たった2009年度末の学校評議員会では、「学校が変わった」「子どもも先生もいきいきしてきた」といううれしい言葉を頂戴しました。タブレットPCについては本格的な全児童1人1台の環境整備が望まれますし、より効果の高い個に応じた学習提供の場の模索などまだまだ課題もありますが、今、ようやく学校改革の基盤づくりができたと自負しています。

曽根 節子(そね せつこ)

東京都港区立青山小学校校長。
2007年4月から現職。校長歴4年目。

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