日経BP総研 中堅・中小企業経営センターpresents 経営力向上ラボ OPINION 09 日経BP総研 中堅・中小企業経営センターpresents 経営力向上ラボ OPINION 09

社員の熱意を上げて職場を活性化!
イキイキと働ける
環境はこう作る

「ワーク・エンゲイジメント」という新しいアプローチが提唱されている。働くすべての人がもっとイキイキと仕事に取り組めるようにするための考え方と施策だ。働き方改革と健康経営を進めるためには、職場のメンタルヘルス対策をより拡充する必要がある。ただ、これまでのメンタルヘルス対策は不調を「治す」「支える」「防ぐ」、つまり「マイナスをゼロにする」という発想で進められてきたが、最近、この考え方が変わってきた。エンゲイジメントを高めるために個人と組織ができることを、この概念の提唱者の一人である慶應義塾大学の島津明人教授に聞いた。

  • 島津 明人のプロフィール画像
  • 島津 明人
    しまず・あきひと

    慶應義塾大学 総合政策学部教授

    早稲田大学大学院博士後期課程修了(心理学専攻)。博士(文学)。ユトレヒト大学客員研究員、広島大学大学院助教授、東京大学大学院准教授、南オーストラリア大学客員准教授、北里大学教授などを経て、現在、慶應義塾大学総合政策学部教授。臨床心理士、公認心理師の資格をもつ。著書に『ワーク・エンゲイジメント——ポジティブ・メンタルヘルスで活力ある毎日を』(労働調査会)などがある。

働くすべての人が
熱意をもってイキイキと働く
ワーカホリックとは対極の概念

  • ――ワーク・エンゲイジメントという言葉は日本でまだ新しいものですが、耳にする機会も増えています。端的に、どういう概念なのでしょうか?
  • ワーク・エンゲイジメント書籍
  •  一言でいえば、「熱意をもってイキイキと働く」ということに尽きます。どうせ働くのだったら、いやいや働かされるのではなく、自分が主体的に仕事に向かい、そこでワクワク、イキイキしながら働くことが大事だということです。
  • ――自分はワクワク、イキイキと働いていると思っていても、外から見ると、仕事に取りつかれているようにしか見えないということもありますよね。
  •  それはワーカホリックです。たしかに一生懸命働いているけれど、仕事が楽しい、面白いというより、仕事をしていないと罪悪感や後ろめたさを感じる。そのストレスを減らすために仕事をせざるを得ない状態です。ワーク・エンゲイジメントとは対極にあるものです。
  •  英語で言えばわかりやすいのですが、ワーク・エンゲイジメントは、I want to work.(働きたい)それに対してワーカホリックは I have to work.(働かねばならない)という違いがあります。
  • ――ワーク・エンゲイジメントは、これからの職場のメンタルヘルス対策を考える上で重要なキーワードということですが……。
  •  これまでのメンタルヘルス対策は、どちらかというと、心身が不調になった人をどうケアしていくか、そういう人のセーフティネットをどうするか、ということに主眼が置かれていました。それに加え、近年は予防が大事だという観点も生まれています。ただ、いずれにしても、不調になった人を治療して元の職場に戻して再発を防いだり、不調の早期発見をして不調が起きないようにする。いわばマイナスをゼロにするという発想です。
  •  これに対して、ワーク・エンゲイジメントは、働く人全体を対象にしたものです。元気のない人だけでなく、もともと元気な人をさらに元気にすることも考えようというわけです。つまり健康度の底上げや職場の活性化にも気を配っているのです。メンタルヘルス上の症状が現れている、いないに関わらず、その人の仕事への取り組み姿勢を観察しながら、それぞれの強みや持ち味を見出し、引き出すことが狙いです。
  •  労働の質の変化がこうした考え方を生んだと言っていいでしょう。かつては工場でのライン作業など、決められた作業を一定時間繰り返すことが主たる労働形態でした。しかし、イノベーションやクリエイティビティが重視される時代には、労働時間ではなく労働の質が重要になります。単調に働くのではなく、イキイキと働くこと、それが新しい付加価値を生み出す源泉になるのです。
  •  こうした産業構造の変化に加え、労働力人口の減少、つまり働き手の不足という時代背景もあります。少ない労働力で労働生産性を向上させるためには、労働の質を高める必要があります。
  • ――私たちがイキイキと働くためには、何が必要になるのでしょうか?
  •  ワーク・エンゲイジメントには「熱意」「没頭」「活力」という3つの要素があります。
  •  熱意(Dedication)は自分の仕事を意義のあるものと考え、それを誇りに思う態度ですね。没頭(Absorption)とは、熱中して仕事に取り組む状態です。没頭の度合いが高いほど丁寧で質の高い仕事が行えるようになります。その結果として生まれるのが活力(Vigor)です。就業中のエネルギーが高い水準で推移し、多少傷ついてもすぐに立ち直れる回復力も高い状態を指します。
  •  これらの3つの要素を満たすことで、ワーク・エンゲイジメントは、健康の増進、生産性の向上につなげることができるのです。
  • ワーク・エンゲイジメントの3つの要素
  • 出典:島津明人『ワーク・エンゲイジメント: ポジティブ・メンタルヘルスで活力ある毎日を』(労働調査会、2014)29ページ図8を基に作成

仕事にストレスを感じてる?
ストレス度をまずは2項目でチェック!

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仕事にストレスを感じてる?
ストレス度をまずは2項目でチェック!

  • ――ワーク・エンゲイジメントの度合いは、どうやったら測れるようになるのでしょう?
  • 島津 明人
  •  実は、質問紙によって測定することができます。
  •  世界的によく使われている質問紙は、オランダのユトレヒト大学で開発されたUWES(Utrecht Work Engagement Scale:ユトレヒトワーク・エンゲイジメント尺度)です。UWESは、質問項目数によって3つのバージョンがあります。フルバージョンは17項目、短縮版は9項目、最も簡易なものでは3項目しかありません。しかし、それでも十分に有効です。この尺度はすでに24カ国語に翻訳され、日本語にも翻訳されています(注:企業などが営利目的に使用する場合には原著者による許諾が必要。詳細はWEBサイトを参照:https://hp3.jp/tool/uwes)。
  •  日本では、日本語版ユトレヒトワーク・エンゲイジメント尺度(UWES)のほか、UWESをもとに厚生労働省の研究班が作成した新職業性ストレス簡易調査票(WEBサイト:http://mental.m.u-tokyo.ac.jp/jstress/)にも、ワーク・エンゲイジメントの測定項目が2項目含まれています。

<新職業性ストレス簡易調査票に含まれているワーク・エンゲイジメントの質問項目:「1.そうだ」~「4.ちがう」の4段階で評価>

質問 そうだ まあそうだ ややちがう ちがう
仕事をしていると、
活力がみなぎる
ように感じる
自分の仕事に
誇りを感じる
  • ――働く人個々としての考え方、経営者、管理職としての考え方を教えてください。
  •  これまでは産業保健部門が健康の増進、マネジメント層が生産性向上を第一に考えていました。本来は、健康だからこそいい仕事ができるし、いい仕事ができれば心身もイキイキとしてくるはずです。いわば健康と生産性は車の両輪なのですが、それぞれの領域の協調は十分ではありませんでした。
  •  経営者は生産性の向上には関心を持つけれど、社員の健康には十分に関心を持たなかった。一方で、産業保健は生産性の向上を図ることが心身の健康を損なうと考えていました。そのため、両者は健康増進と生産性向上とがプラスの方向で合致することに気づかず、協調することがほとんどありませんでした。
  •  しかし、ワーク・エンゲイジメントをはじめとしてポジティブなメンタルヘルスについての概念が整理され、研究が進んできたことで、車の両輪を共にバランスよく動かせることがわかってきたのです。
  •  アスリートを見ればよくわかると思います。スポーツ選手にとって健康はパフォーマンスを上げるための重要な資源です。体調やメンタルを整えていなければ、競技でいい成績を上げることができません。同時に、いい成績が出れば、メンタルも含めて好調を維持することができます。
  • ――社員にも同じことが言えるのですね。
  •  ワーク・エンゲイジメントが高い状態の時は、自分の仕事だけでなく、周囲の仕事にも目が行く余裕が生まれます。同僚や後輩にアドバイスをする、時にはサポートすることもできるようになります。そうしたチームワークやカバーリングができるようになると、職場の雰囲気も明るいものになるでしょう。野球でいえば、自分の守備範囲を少し超えてカバーし合い、いわば「三遊間のゴロを積極的に取りに行く」ことで、ポテンヒットを防ぐというようなことができるようになるんですね。
  • ――自分のエンゲイジメントは、どうすれば高めることができるのでしょうか?
  •  私たちはワーク・エンゲイジメントを高める要因として「個人の資源」と「仕事の資源」の2つを考えています。個人の資源は働く人それぞれが考えるべき点です。個人の内部にある心理的な資源のことですから、いわば自分の考え方のスタイルことです。小さな成功体験を少しずつ積み上げながら、この仕事を自分はうまく実行できているという自信=自己効力感を高めて、物事をポジティブに粘り強く考えられるようになれば、自分の中の資源が豊かになり、ワーク・エンゲイジメントも高まるはずです。
  •  あるいは、自分の少し上を行く人をロールモデルとして設定して、それを目標に仕事に励むということも大切です。これらはすべて個人の行動によって改善が可能なものです。
  •  もう一つの仕事の資源というのは、組織やチームの中に埋め込まれた資源のことですから、経営者、管理者が考えなければなりません。例えば、仕事の出来映えについて上司から適切なフィードバックがあること、上司や同僚から支援されていること、仕事に自律性があること、革新的な風土で仕事をしていること、組織からきちんと報酬や承認を受けていること、などがワーク・エンゲイジメントの高さにつながります。
  •  仕事の資源を高めるためには、作業・課題レベル、部署レベル、事業所・企業レベルの3段階にわけて考えるとよいと思います。それぞれのレベルで資源リストを洗い出し、それを高めるために誰が何をしたらいいのかを明確にしておくべきです。いずれにしても、自社の強みをそれぞれの立場の人が理解しておくことが前提になります。また、職場にワーク・エンゲイジメント施策を導入するにあたっては、導入者にあたる人、あるいは職場の上長が、一人ひとりの従業員のモチベーションの源泉がどんなものであるかを見極める必要があります。
  • 仕事の資源、個人の資源とワーク・エンゲイジメント
  • 出典:島津明人『ワーク・エンゲイジメント: ポジティブ・メンタルヘルスで活力ある毎日を』(労働調査会、2014)45ページ図13を基に作成

労働の質を高める働き方改革
ワーク・エンゲイジメントが重要な尺度に

  • ――ワーク・エンゲイジメントの考え方は、働き方改革にどのようにつながっていくのでしょうか?
  •  働き方改革は、単に残業時間を規制するだけでなく、最終的には労働の質を高め、創造性や生産性を向上させるために行われるべきです。その点では、労働力の質を高めるワーク・エンゲイジメントの考え方がきわめて重要になると思います。EU圏内の調査では、国ごとの生産性(GNP:国民総生産)を比較すると、それがワーク・エンゲイジメントの高さと有意な相関関係があることが知られています。
  •  海外の先行研究では、ファストフード店でのワーク・エンゲイジメントと売り上げとが、私たちの調査研究でも、デパートの売り場でのワーク・エンゲイジメントと売り上げとが相関関係があることが認められています。さらにこれは一般論ですが、高い業績を長い期間にわたって続けている企業、サステナブルな企業は従業員を大切にしています。あえてエンゲイジメントを意識しなくても、結果的にエンゲイジメントが高くなっているはず。私たちは、従業員を大切にするこうした老舗・優良企業に学ぶべきことはたくさんあります。
  • ――最後に、ワーク・エンゲイジメントの向上に、勤怠管理システムや在宅勤務支援システムなどICTが貢献できることはありますか?
  •  一定のオフィスに縛られるのではなく、いつでもどこでも働けるようにするなど、あらゆる働き方に対応したITインフラ環境が整備され、柔軟な働き方が広がれば働く人のストレスは低くなるはずです。一方でいつでもどこでも仕事ができる世の中だからこそ、情報とのつながり方には注意が必要になってくると思います。情報とのつながり方についてのリテラシーの向上が、これまで以上に大切になってくるでしょう。

中堅・中小企業経営センター トダ所長の眼

優れた人材確保のために
ICTで柔軟な働き方を実現

 中小企業にとって、優秀な人材の確保は大きな課題です。その解決で必要な視点が、会社の価値感と個人の価値感のすり合わせでしょう。

 企業価値創造の経営コンサルティングを手がけるバリュークリエイト(東京・中央)という会社があります。ここには山本楓さんという「声優を目指しつつ、デザインの仕事もやりたい」という社員がいます。山本さんは、ボイストレーニングやオーディションなどのたびに有給休暇を取得することがたびたびあったのです。この状況に対し、「個人の夢を会社の都合で諦めさせるのは、人の可能性や価値を潰してしまうことと一緒」と経営陣は判断し、ICT(情報通信技術)を活用して在宅勤務を認めました。

 山本さんにとっては、通勤時間がなくなると同時に、業務時間を調整することで声優業にも力を入れることができるようになり、イキイキと働けるようになりました。企業は裁量労働のみなし残業分を減額する代わりに、残業をゼロとしています。

 この仕組みを導入したことは、優秀な社員を引き留めただけではありません。声優としての仕事先が、なんと同社のクライアント先になるという、思わぬ貢献もありました。

 紹介したケースは“複業”ですが、これは育児や介護とも置き換えることができます。今後、在宅勤務のニーズは高まっていくでしょう。テレワーク環境を構築する上では、信頼できるベンダーと相談しながら進めていく必要があります。

 これからは、社員自身の希望をサポートする姿勢が経営者には求められます。中小企業だからこそ、働き方に対する柔軟な対応が可能になり、優れた人材の採用につながります。

戸田 顕司のプロフィール画像

戸田 顕司
とだ・けんじ

日経BP総研
サステナブル経営ラボ 所長
中堅・中小企業経営センター長

「日経ビジネス」「日経トップリーダー」「日経パソコン」などで取材・執筆に携わり、「日経レストラン」編集長などを経て現職。上場企業、ベンチャー企業、IT企業など幅広く、取材活動を行う。また、2005~08年に日本で独創的な活躍をする人材を表彰する「日本イノベーター大賞」を企画・運営した。食の分野では、外国人シェフによる日本料理コンテスト「和食ワールドチャレンジ2013」では審査会議長を務めたほか、アメリカやヨーロッパ、アジアでの取材活動やイベント開催も手がけた。テレビ東京の経済“予測”番組「未来世紀ジパング ~沸騰現場の経済学~」、ニュース番組「ワールドビジネスサテライト」などにコメンテーターとして出演。

中堅・中小企業経営センター概要

中堅・中小企業の成長と経営健全化を支援するために、これまで培ってきた経営・技術・生活分野での見識を生かし、情報発信や調査、教育、コンサルティングなどさまざまな形で活動しています。

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