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時代が愛した男、隈研吾(下)

地方再興、エルメスの蹉跌、バーチャル校舎で活気

隈研吾。いまの時代を象徴する建築家の一人である。都市一極集中からの脱却、輝ける地方に目を向ける。地方との行き来で発生する子どもの教育問題ではデジタルの対応に一役かっている。仏エルメスの蹉跌から学ぶべきことは。いま、新しい時代が始まる。

建築家
隈 研吾(くま けんご)氏
1954年生まれ。東京大学大学院建築学専攻修了。1990年隈研吾建築都市設計事務所設立。東京大学教授を経て、現在、東京大学特別教授・名誉教授。1964年東京オリンピック時に見た丹下健三氏の代々木屋内総合競技場に衝撃を受け、幼少期より建築家を目指す。大学では、原広司氏、内田祥哉氏に師事し、大学院時代に、アフリカのサハラ砂漠を横断し、集落の調査を行い、集落の美と力に目覚める。コロンビア大学客員研究員を経て、1990年、隈研吾建築都市設計事務所を設立。これまで20を超える国々で建築を設計。その土地の環境、文化に溶け込む建築を目指し、ヒューマンスケールのやさしく、やわらかなデザインを提案している。

前編から読みたい方はこちらから

 地方から東京、そしてまた別の地方へ――。

 建築家、隈研吾は、そんな働き方を推奨している。気になるのは子どもの教育。それにも隈は関与し、ある解決策を提示している。

S高校でバーチャル校舎、つくる

 インターネット上で通信教育が受けられる学校がある。学校法人「角川ドワンゴ学園」(沖縄県)が運営するN高校とS高校がそれだ。校舎での学習を最小限にして、主にネットで授業や課外活動をする。

 2016年4月に開校したN高の生徒数は、2020年10月時点ですでに1万5000人を超えるほどの人気だ。ヘッドマウントディスプレーを使った入学式も話題を呼んだ。対応人数の上限である2万人に近づいてきたため、2番目の学校としてS高を新設する。2021年4月の開校予定だ。新たな教育の在り方として注目されている。

 隈は、S高の「バーチャル校舎」をデザインした。「いくらオンラインで授業を受けられるとはいっても、やはり生徒にとって校舎は存在するに越したことはないんでしょうね」と隈は語る。

 「固定した学校でいじめられたりするよりは、ネットでつながる方が性に合う子どもたちがいる。そんなことが分かってくると、これは可能性があると感じましたね」

コロンビア大学で体験したデジタル

 隈は変革を好む。それは、先端のデジタル技術を積極的に取り入れる姿勢からも垣間見える。本人によれば、世代も関係しているのだという。

 隈が建築の世界でデジタルを初めて体験したのは、1985年に客員研究員としてコロンビア大学にいたときだ。ちょうどその頃、コロンビア大学では、いっさい紙を使わずデジタル技術を使って建築を設計するペーパーレススタジオの取り組みが始まっていた。

 「僕たちの世代が運が良かったのは、そうした、まさに変化を体験できたことです。手書きでやっていた時代を知りつつ、そこからデジタルで設計する時代に『変わらなくちゃいけない』。みんな試行錯誤をして、いろんな可能性を模索しました。その意味で、あの時代にコロンビア大学に通えたのはすごく良かったですね」

デジタルファブリケーションへ

 コンピューターには、単にペーパーレスにしてデジタルで設計することにとどまらない可能性を隈は感じた。システムそのものを変えていく力だ。デジタルデータを使ってものづくりに生かす「デジタルファブリケーション」にも隈は柔軟に対応している。その姿からは、「変化することが是」と思っているようにも感じられる。

 「それは好奇心の問題でしょうか。いつも新しいものに関心があって、それに飛び込んでいこうと考えていますね。そうしないと仕事がつまらなくなっちゃうから」と隈は笑う。

コロナの変化は不可逆的

 今回のコロナでも、私たちはさまざまな変化を体験している。テレワークが広がり、移動も制限され、オンラインでの打ち合わせも当たり前になってきた。このような変化は、コロナが収まればまた以前のような状態に戻るのだろうか。

 「いや、不可逆的だと思いますね。僕は、以前は月の半分は飛行機に乗って世界中を飛び回っていました。パリでの1時間の重要な打ち合わせのために、3日間を費やすようなこともやっていたんです。ただもう、そうした状態には戻らないですよね」

 いまは海外には行けないので、一月に一回は仕事がある北海道と沖縄へ交互に行っているという。平日は東京、週末は地方というリズムができ、メリハリが効いてリフレッシュできている。

移動と固定の間にあるもの

 コロナで激変したことの一つは、「移動」という概念ではなかろうか。移動でもない、固定でもない、中間的な領域が増えていく。隈はそう見る。こうした考えは今後、多くの企業や産業に影響を与えていくのかもしれない。

 固定した土地に根付いたハコ、それを壊す行為。これを隈は、コロナ以前から実際に手がけてきた。その一つが、アウトドア用品メーカーのスノーピークとの取り組みだ。2016年につくったトレーラーハウス「住箱-JYUBAKO-」を使って、移動する建築を提案した。

 「トレーラーハウスを木で作ってみました。そうしたら、これまでのものとはまったく異なる、移動と固定の間のような特別な雰囲気をつくることができたんです」

 車でもなく、建築でもない。第3の状態のようなものだと隈は表現する。隈はでき上がった製品の第1号を自ら購入し、東京の神楽坂にある空き地に置いて、2016年9月から期間限定でレストランをオープンさせた。

 車庫証明と飲食に必要な保健所の許可で始めることができたという。その店は評判を呼び、週末はいつもいっぱいになる人気店となった。現在は北海道の大樹町にこのトレーラーハウスを移動させ、隈が設計した「MEMU EARTH HOTEL」の宿泊者向けバーとして活用している。さらに、今、岡山の真庭市への移動を検討中だ。

新たな狩猟採集型へ

 隈はふと考える。人間にとって移動とは、どんな意味を持つものだろう。

隈が考える移動の原点
そして、地方の活性化を
さえぎるもの
――エルメスの蹉跌とは

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 ホモサピエンスが何万年もやってきた狩猟採集が移動の原点だと指摘する。ある場所で獲物が取れなくなると、次のところへ移動する。そうやって太古の人間は移動を繰り返してきた。

 「狩猟型から農耕が始まり、定住することになって『土地に縛られる』ようになった。その人間を収容するため、ハコを作らざるを得なくなったわけですね。その循環がどんどん大きくなって、ハコも巨大になっていった。そして、より多くの人口を養っていくために、20世紀の超高層ビルへと行き着いたわけです。それをもう一度、狩猟採集型にゆっくり戻していく。僕はそんなビジョンを持っています」

 ルネッサンスに始まるハコの建築は、隈にしてみればニュートン的。ニュートンとルネッサンスの“共犯関係”にあるという。そして、20世紀に活躍した世界的建築家、ル・コルビュジエは、同じスイス人ということもありシンパシーを感じていたアインシュタイン的にものをつくろうと試みる。隈が強い関心を持つ物理学の量子論は、そんなアインシュタインをも超える場所に存在するとも解釈する。隈は、ハコの先にそんな世界を垣間見ている。

 もっとも、移動するといっても太古の昔とは違って、現在の世界の人口は70億に達している。その規模で、移動しながら周りの環境も傷つけない、新しい住まい方を探していく必要があるという。新たな狩猟採集型へ向かうヒントが、トレーラーハウスかもしれないし、庇かもしれないと隈は説く。

輝ける地方を邪魔するもの

 隈は言う。「固定と移動、自分の場所をもう一度見つめ直すことが大事だと思います。全然違うものが見えてきますよ。東京に大きなビルを建てることが、企業のステータスだというような時代はもはや完全に終わりました。日本の地方では、自然との良い関係を取っている面白い場所が、各地の町や村に残っています。それぞれの場所に密着した文化を持って、それを誇りとして企業活動をしていくというような方向に行ってほしい。そうなれば、一挙に日本は変わると思います」。

 ただし、それを邪魔するものがあるという。

エルメスにおける蹉跌

 2010年、上海の香港プラザ内に、仏エルメスの新しいブランドの店舗がオープンした。店舗の設計を隈が手がけたこともあり、当時話題を呼んだ。「シャンシャー(SHANG XIA:中国名『上下』)」というブランドで、エルメスと中国人デザイナーがタッグを組んだ。上海のほか北京、パリにも直営店を展開した。

 実はこのブランド、本来は日本で立ち上げる話があったという。エルメスの担当者はもともと、日本のものづくりや伝統にとても興味があり、日本の竹細工や漆塗りの職人に当たり始める。すると職人組合の関係者から、こう言われた。「職人組合全体でお受けしたい。職人の一本釣りはやめてほしい。誰か一人が目立つのは好ましくないんです」。

 エルメスは腕のいい職人と組みたかった。組合とやりたいわけじゃない。でも組合のボスみたいな人が出てきて、みんなを仕切ろうとした。

 結局、エルメスは日本を諦めて中国と組んだ。できたブランドがシャンシャーだ。世界各地にあるシャンシャーの店舗設計を手がける隈だけに、「実にもったいない話だった。日本はどの世界にも業界のボスがいて、若い人の邪魔をする」と振り返る。

 こうした古き慣習が、せっかくの日本の地方の活力を削ぐ側面があるという。ただ、デジタルの浸透によって、個性の一つひとつが、より世界とつながりやすくなってきている変化が、地方をも変えると隈は期待する。

 ハコ型の建築の限界、新しいオフィスのかたち、都市と地方の新しい関係、移動と固定の中間的な存在――。コロナ後の新常態のさらにその先、隈が描く建築像や社会像に、再び時代が追いついていくのだろうか。

(文中敬称略)

杉山 俊幸
インタビュアー
日経BP 総合研究所 主席研究員
杉山 俊幸
日経ビジネス副編集長、日経ビッグデータラボ所長、日経クロストレンド発行人を経て、2020年1月から現職。

※本記事は2020年10月時点の情報に基づいて執筆しています。

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