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テレワークが組織を強くする

サイボウズ青野慶久氏が語るチームワークの極意

かねて、テレワークによる在宅勤務ができる環境を整備し、女性活用にも積極的、副業や子連れ出勤などにも柔軟に対応してきたサイボウズ。今年8月3日には、従業員の満足度調査を手がけるオープンワークが発表した「20代が選ぶ、自由主義でフラットな企業ランキング」で1位に輝いた。社長の青野慶久氏へのインタビューでは、さぞ社員への思いやりに満ちた発言が続くかと思えばそうでもない。「ここはむしろ強制してでもやってもらいたいですね」「そんな社員は要らないんです」と語気を強める場面もあった。サイボウズが内包する「開放と求心」という相矛盾する事象は、新常態の経営を見通すキーワードなのかもしれない。

※ 8/7にオンライン取材を実施しました

サイボウズ社長
青野 慶久(あおの よしひさ)氏
1971年生まれ、大阪大学工学部電気系に入学、大学時代はボランティアサークルに所属し、児童養護施設に通ったり、目の不自由な方向けのゲームソフトを開発したりした。94年に同工学部情報システム工学科を卒業し、松下電工(現パナソニック)に入社。電光掲示板などを扱う事業部で営業企画部に所属した。96年、松下電工で社内ベンチャー企業(ヴイ・インターネットオペレーションズ)の創業に参画。97年、愛媛県松山市でサイボウズを創業し、取締役副社長に就任。2000年、サイボウズが東証マザーズに上場する。01年に結婚。05年、サイボウズの社長となる。以後、社内の働き方の多様化に取り組む。11年、クラウド事業へのシフトを開始しkintoneをリリース。3児の父。自ら育児休業を取得した。

 100人いれば、100通りの働き方があっていいと思うんです――。

 そう語るサイボウズ社長の青野慶久は、まさに多様な勤務形態を積極的に認めてきた。在宅勤務もできるようにテレワークを推進する一方で、子連れ出勤など女性が働きやすい環境整備にこだわり、副業も認める。

 「ただね、次はこの案件を手がけたいとか、あの人と一緒にやってみたいとか、常に自分で考えて発信すること、それは強制してでもやってもらいたいですね」と青野は語る。

 働き方の権利も仕事上の義務もあいまいな、日本の多くの会社の対極にあるのがサイボウズという存在かもしれない。単に多様な価値観を認めるばかりではない。業績も好調だ。2020年1~3月期の連結決算は、純利益が前年同期比10%増の5億4800万円だった。企業の情報共有を支援する主力のクラウドサービスが好調だった。コロナ禍の今の状況は、青野にとってチャンスでしかないという。

思い込みを排除する

 なんとなく実践してきた自分の仕事スタイルは、果たしてそれが本当に正しいのかを考えてみるべきだという。青野が言うには「思い込みを排除してみる」ということらしい。

 営業は面会でないと先方に対して失礼にあたる。そう言う人も少なくなかった。青野は言う。

 「これ、本当かなって、思うわけですよ。この(コロナ禍の)時期、来てほしくない人だってたくさんいる。関係者が全員参加できるように時間を調整するのも手間がかかるし、アポイントの前後1時間ほど、移動に時間を要する。“死んでる”時間があまりに多い」

 密な関係を構築するにはやっぱり面会が一番。これまでそう考えていた人も少なくないだろう。「ただ、移動の1時間をオンライン打ち合わせに回せば、追加でもう1回ミーティングできますよ。その方が密になるに決まってる」。

 もっともオンライン会議という形式には、不十分さを指摘する声も多い。とりわけ、ブレストをしたり深い議論をしたりするには、リアルの会議が向いていると感じている人もいるだろう。オンライン上での微妙なニュアンスのすれ違いで、人間関係もギスギスしかねない。やはりオンラインはリアルの補完なのだろうか。「オンラインでなくちゃできないことだってあるんです。ウチの、イヤホン問題って知ってます?」。

「新人のイヤホン事件」の
意外な結末
青野語録にみる「新常態で生き残る5カ条」とは

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新人のイヤホン事件

 サイボウズには、「新人のイヤホン問題」と呼ばれる“事件”がある。研修期間中にイヤホンで音楽を聞きながら仕事をしていた新人を、先輩社員が注意した。これが、同社内のグループウエア上で“炎上”した。

 イヤホンで音楽を聞くことで集中して仕事に取り組めるのなら、別に新人だろうが中堅だろうが関係なく認められるべきではないか。ただ、それが周囲の人から声をかけづらい状況を作っていたなら、それは問題だ。

 どちらが正しい対処法なのか。グループウエア上で議論が起こった。新人はイヤホンをしてもいいのか、悪いのかという結論だけを知りたいなら、結果をテキストで社内共有すればいい。「重要なのは、オンラインで議論を見ていて、皆がそれを追体験することなんです」と青野は言う。

 多様な価値観を認めるから、社内での小競り合いは、なにもイヤホン問題だけではないはずだ。お弁当を巡る問題が起こるかもしれない。トイレかもしれないし、得意先に絡む問題かもしれない。明日は我が身だ。

チームワークあふれる社会を創る、という理念

 さて、イヤホン問題はどんな結論に落ち着いたのだろう。「別に結論はどうだっていいんです。あることに照らして、その行為は正しいかどうか、その議論の方向性は正しいかどうかを判断してほしい。大切なのは、むしろ議論の過程。自分でどう考えるかなんです」

青野語録にみる、新常態で生き残る5カ条 1.思い込みを排除してみる 2.コロナ禍こそ変わるチャンス到来だと認識すべき 3.変わるなら、ネットを使い倒す方向へ変わるべき 4.後継者の指名も育成も、ボクはやりません 5.むしろオンライン会議じゃないと実現できないこともある

 そうした判断すべての基準となるもの――。それが、「チームワークあふれる社会を創る」という会社の理念だ。これに見合うものはすべて許容され、すべて推奨される。「ただし、そこに共感できないなら、この組織に入らないでくださいということです」。

 「その一線はめちゃめちゃ厳格ですよ。世界一のグループウエアをつくる。その一点において、米グーグルにも米マイクロソフトにも絶対負けない」

 強い思いは、強い挫折の裏返しでもある。

もう、社長を辞めよう

 2006年12月16日。青野は深い絶望の淵にいた。この日、サイボウズは9月に続いて、2度目の業績下方修正を発表した。積極的なM&A(合併・買収)によるのれん代の償却が響いて連結純利益は2000万円。上場来の最高益だった2006年1月期に比べて96%減となった。

 人生終わったな――。青野はそう思った。前年に就任した社長職も、「もう辞めよう」。

 社内を見渡せば、いくら採用しても社員が次々と辞めていってしまう。離職率は実に28%にのぼった。ここまで来たら、もう覚悟を決めないとどうにもならないな。

 出てきた答えが、チームワークあふれる社会を創る、そんな会社への脱皮に命を賭けること。その実現のためなら、社員は自由に働いていい。

 週に3日だけ働きたい。残業をしたくない。定時出社でない働き方をしたい。次から次へと要望が出てきた。

 「うっ」と思いを飲み込んで、そして耐えた。それが、チームワークあふれる社会を創る、という理念の実現に資することであれば。

 その結果としてのテレワークの推進、副業や子連れ出社を認める、という働き方の多様化だ。最近では青野もほとんど出社することがなくなってきた。

 果たして会社という存在は、コロナ以降にどうなっていくのだろう。

分散し変わっていく「会社」のかたち

 「緩やかに分散していくイメージでしょうか」と青野。コロナ前は、本社がある場所を指して、これが会社だと皆が言った。これからは、社員が働いている場所を指して、それらが会社になるという。物理的に分散していく。同時に概念的には、会社という枠組みが開放され、分散していく、と青野はみる。

 社員も会社も、すべてが解き放たれる。開放されているが、無秩序ではない。それらを整然と結びつける糸、それはチームワークあふれる社会を創るという理念だ。だから、どんなに自由に飛び回っても、ある一点において収束される結束力が導き出される。その結束力こそ、チームワークかもしれない。

 そんな青野は、後継者をどう考えているのだろう。

 「後継者の指名も育成も、ボクはやりません」。こんな答えが青野から返ってきた。「ボクが会社を去ったら、今のままのサイボウズではいられない。だから解散するか、あるいは(社員の)みんなでラーメン屋さんになったっていい」と言う。

 根底には、新卒で就職した松下電工(現パナソニック)での体験があるのだろう。創業者で、経営の神様とも言われる松下幸之助。数々の教えを世に残した。しかし青野が入社したときには、既に他界していた。「経営理念について何かを尋ねても、石碑が答えてくれるわけではない」。

 重要なのは、いま会社にいる人たちがどう考えるか。そのために知恵を絞ることが肝要と青野は考える。先人の考えを追い求めても、次なる会社の像は見えてこない、という考えだ。そう突き放すことで、いまいる社員に、自分が社長になったつもりで発案し、実践していってほしい、と考えているようにも見えた。その実践者が、結果として次なるリーダーということかもしれない。

テレワークに三種の神器

 2020年8月11日、日本経済新聞は朝刊一面で、2021年3月期に上場会社の6割が減収減益の見通しだと伝えた。中小企業にとっても逆風が続く。しかし、やり方次第で業績を回復できる余地は十分ある。

 その1つが生産性の向上に資するテレワークだ。青野によれば三種の神器があるという。人事制度、ツール、風土の3つだ。

 日本の働き方はメンバーシップ型と呼ばれ、欧米のジョブ型と区別されてきた。終身雇用を前提としたメンバーシップ型雇用に対して、職務内容を明確に定義するジョブ型雇用への移行は、かねて経団連などが提唱してきた代物だ。

テレワーク推進3カ条 1.人事制度を改変する 2.ツール/高速回線をセキュリティ重視で使いこなす 3.(企業)風土を醸成させる

 このコロナ禍は、ジョブ型への転換を一気に企業へ促した。上司の指示の下で働くメンバーシップ型は一般にテレワークには適さないとされる。職務がはっきりしているジョブ型なら、会社勤務だろうが在宅勤務だろうが、場所など関係ない。

 「ジョブ型への注目が集まるのは良いことだと思う」としつつも、「ただ、メンバーシップ型に適した人もいる。一人ひとりのスキルを見極めて、制度として2つの型のミックスが適切ではなかろうか」。

 ただそれだと人事やその制度づくりに手間とコストがかかり過ぎではないだろうか。思わずそう記者が問えば、青野からはこう返ってきた。

 「そこは明らかに手間と投資を惜しまない領域です。『人の“ざい”は、財産のざいと言いまして』とか言ってる経営トップほど、これまで社員を(将棋の)駒みたいに扱ってきたから、テレワークで働き方や会社の枠組みの激変に右往左往」と青野は言う。

ツールと高速なインターネット回線

 次に、ツールと高速なインターネット回線。離れていても情報共有がしやすいグループウエアやストレスを感じない速いネット回線が必要だ。そして青野がとりわけ重視するのは、セキュリティだという。「これからセキュリティへの投資が進むと思います。在宅勤務、テレワークでは不可欠である一方で、日本の企業はセキュリティへ投資する意識がとても低かった。何も問題が起こらなければそれでいい。そんな考えが、いまだに大勢を占めています。潮目は大きく変わるはずです」。

 3つ目が企業風土。もっとテレワークしましょうよ!そんな声が社内から自発的にいくつも挙がってくる状態を青野はイメージする。「パーパスとカルチャーと言っても良いかもしれない」と青野。企業の存在意義や目的を指す「パーパス」というキーワードが、世界の経営者の中で注目されている。この会社は、何のために存在しているのか。それを定義する作業を繰り返すうち、理念などが研ぎ澄まされ、社会における会社の位置付けも明確になっていく。

その高速ネット、使い倒していますか?

 最後に青野は、中小企業にこんな注文をつけた。

 「改めて問いたいですね。インターネットを使い切れていますか、と。新常態と言われる今、世界中に張り巡らされた超高速なインターネットを使い倒すくらいで再考すべきです。コロナ禍、今が変わる大きなチャンスなんです。その変化の方向性が、ネットを駆使する方向と一致しているかを判断基準にすべきだと思いますね」 (本文敬称略)

中堅・中小企業の課題は、NTT東日本にご相談ください

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