
飲食店経営は厳しい世界だ。ライバル店との競争はもちろん、最近は人手不足の深刻度も増している。こうした中でも増店、多店舗展開を成功させている企業もある。その秘訣はどこにあるのだろうか。また、注意すべきポイントとは。飲食店コンサルタントとして全国各地の店舗に入り、さまざまなアドバイスを行っている大久保一彦氏に増店成功への道を聞いた。
――飲食店の経営者にとって、1店舗から多店舗への展開は難しい判断だと思います。
増店1号目で成功する確率は 、私の経験則上では1~2割だと思います。成功要因は複合的でよく分からないことが多い。周囲のライバル店の状況に助けられたかもしれませんし、偶然による部分が大きいかもしれません。最初の店舗ではオーナーが厨房に入ることも多いし、必死になって仕事を切り盛りします。その必死さで、何とか黒字になっていることも多いはずです。しかし、2店舗目、3店舗目となると、従業員に店長を任さざるを得なくなる。当然、オーナーほどの情熱はないので、行き詰まるケースが少なくありません。
――店長を誰かに任せても一定の成果を上げられるようにするためには?
できるだけ精度の高いパッケージを用意しておくことです。パッケージの代表的な例は、唐揚げやそばのような顧客が高頻度で食べる商材です。こうした商材を低価格で提供するためには、効率的なオペレーションが必要。ある程度の資金力が求められますが、セントラルキッチン(集中調理施設)は価格を抑えるために有効です。急速に多店舗展開しているチェーン店の多くは、ごく初期の段階にセントラルキッチンを立ち上げています。
一方、標準化しないことで成功しているところもあります。背景にあるのは人手不足です。従業員に気持ちよく長く働いてもらうために、標準化や効率性といったものを犠牲にしてでも、従業員のやりたいことを最大限に生かすという考え方です。
例えば、店長や料理人に、自由に得意な料理をつくってもらう。結果として、店によって別のメニューが出るので、オペレーションの効率は低下します。それでも、従業員のモチベーションは高まりますし、店の雰囲気もよくなる。オペレーションの効率と従業員のやる気、どちらを優先すべきか。一概には言えませんが、経営の大きな分かれ目であることは確かです。
人気の牛かつ屋が2号店で失敗!
その理由は自店間での客の取り合い!?
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――増店時によくある失敗パターンを教えてください。
例えば、自店間競合です。牛かつ屋を例にしてお話ししましょう。牛かつ屋は飲食店としては特殊なので、商圏が広く、クルマで10分、20分かけて訪れる顧客もいます。そんな牛かつ屋が、最初の店舗がまずまずの成功を収めたので、2号店を少し離れた場所に出店しました。2号店で顧客拡大を狙ったのですが、1号店より近くなった顧客が2号店の顧客になり、1号店には訪れなくなってしまったのです。近隣に出店したことで、顧客拡大ではなくお互いの顧客を取り合うという現象が起こってしまいました。
逆に、意識的に店舗を密集させる戦略もあります。徒歩圏内に2号店、3号店を相次いで出店するというやり方です。オーナーは巡回して指示を出しやすくなりますし、バイトを共有してシフトを組むこともできる。そばや洋食、喫茶店のような一般的な飲食店では、こうした店舗展開を行って成功しているケースがよくあります。
また、2号店まではうまくいっていたのに、3号店で失敗する例をよく見かけます。2店舗くらいまでは、安い物件を選んで安全運転で経営してきたオーナーが、3号店で自分の望み通りの店をつくろうとして大きな投資をする。自分の経営能力に対する自信を深めて勝負に出てしまうのです。しかし、それが実は過信だったというパターン。イニシャルコストをかけすぎると資金繰りに悪影響を及ぼすので、極めて慎重な判断が求められます。
――先ほどの話にあった密集させる場合だと、オーナーが各店舗を見るのはそこまで難しくないかもですが、距離が離れているといくつもの店舗を見るのは難しくなりますね。
知人の飲食店オーナーは店内に設置したクラウド型カメラの映像を、スマホで頻繁にチェックしています。スマホを見ながら、「いま、店に3人入った」などと言っています。クラウド型カメラの用途はかなり広いです。例えば、録画した動画を早回しで見れば、人の動きが手に取るように分かります。忙しいときボトルネックになっている場所が見えたり、スタッフの動きの問題点に気づいたりする。改善点がいろいろ見えてくるはずです。
クラウド型カメラは従業員を守る上でも役立ちます。特に深夜営業している店だと、酔客が乱暴をしたり、ときには犯罪者が現れたりする可能性もありますからね。また、従業員が「オーナーが見ている」と思えば、いい意味でも緊張感も増すでしょう。クラウド型カメラを設置している飲食店は少ないですが、今後は徐々に普及するのではないでしょうか。
――飲食店におけるICT活用という点では、クラウド型カメラ以外にどのような例があるでしょうか。
ICTを用いた情報共有は重要です。最近はSNSを活用して、レシピ変更やクレーム情報などを共有する店舗が増えています。その中で最も重要なのは顧客の喜びの声。「このお客さまが、A店のBさんによるこのような対応に感謝しておられました」といった情報は、従業員のやる気を引き出し、離職率を下げる効果もあるでしょう。
私が提案したいのは、潜在的なニーズを探るための情報共有です。例えば、顧客が突然「これ、できますか」とスタッフに尋ねることがあります。そのようなサービスメニューがなければ、普通は「できません」と言って終わりです。こうした顧客の声が埋もれてしまうのはもったいない。このような情報を共有すれば、新しいアイデア、新メニューなどにつながる可能性があります。
――電子マネーやQRコード決済など、最近はキャッシュレス化が進行中です。店舗への影響はどうでしょうか。
現金の扱いは気を使いますし、手間もかかります。釣銭を用意するにも時間がかかります。現金のハンドリングコストを減らす上で、飲食店にとってキャッシュレス決済は大歓迎。ただ、問題は手数料です。海外に比べて、日本ではクレジットカードの手数料が高いといわれます。QR決済の手数料が当初はゼロ円でも、ある時期から数%になるなら「高い」と感じる飲食店は少なくないと思います。
――そのほか、ICTの活用法としてはどのようなものがありますか。
最近、飲食店向けの予約管理/顧客管理のクラウドサービスを導入する店舗が増えています。多店舗の予約・空席状況をリアルタイムで把握し、一人ひとりの顧客を管理することができる。例えば、「大久保さんは〇日前にも来店した」とか「前回は、このメニューとワインを注文」といった情報をすぐに取り出すことができる。個に対して、カスタマイズしたサービスができるようになります。
考えてみれば、繁盛店の女将さんのスタイルと同じです。2号店を出して目が届きにくくなると、女将さんは「あのバイトの子は気が利かない」などと文句を言ったりします。しかし、気の利くバイトを探すのは非常に難しい。普通の人でも一定のサービスができるよう、武器を与えてあげるべきでしょう。
ツール | 利用用途 | メリット |
---|---|---|
クラウド型カメラ | マーケティング、業務効率化、防犯 |
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SNSサービス | 情報共有 |
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電子マネー/QRコード | 業務効率化 |
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顧客管理クラウドサービス | 予約管理/顧客管理 |
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大久保氏が考える、増店時に使ってほしいICTツール
――ICTツールは重要な武器になりそうですね。
1店舗だけであれば、顧客の詳細な情報を頭に入れている女将さんスタイルで十分かもしれません。しかし、店舗が増えると同じようなやり方は通用しなくなるでしょう。女将さんと同じレベルの仕事をスタッフに求めることはできません。店舗の様子を確認するためのクラウド型カメラ、情報共有のためのSNS、予約や顧客を管理するクラウドなど、活用できる武器はどんどん増えています。こうしたICTをいかに使いこなすかは、増店を成功させるための重要なポイントだと思います。
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