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ワークマン成長の秘密

「しない経営」に隠された真実、土屋専務がいま明かす

2020年10月にオンライン取材

コロナ禍、苦戦が続くアパレル業界にあって、成長を続けるワークマン。2020年3月期のチェーン全店の売上高は1220億円と、前年同期比で31.2%増となった。かつて建築現場の職人などが主要客層だったが、カジュアル衣料品店のような「ワークマンプラス」を2018年9月からスタートさせ、成長を支える。さらに20年10月16日には脱作業服を狙った「#ワークマン女子」をオープンさせた。立役者である専務の土屋哲雄氏が標榜するのは「しない経営」。なぜ、それを目指したのか。土屋氏が語る。

土屋 哲雄(つちや てつお)氏
ワークマン専務
土屋 哲雄(つちや てつお)氏
1952年生まれ、東京大学経済学部を卒業し、75年に三井物産に入社。88年三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発して大ヒット。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、2006年から三井情報開発(現三井情報)取締役執行役員を経て、12年4月にワークマンの常勤顧問、同年6月に同社常務取締役。19年6月から現職。

 高機能、低価格を武器に快進撃を続けるワークマン。社員には頑張る人たちが多く、いつまでにどれくらいを達成するかの管理も厳しいかと思えば、すべてその逆。

 頑張らない、ノルマを課さない、厳格な期限管理をしない――。

これは私の仕事ではありません

 これがワークマン改革の陣頭指揮を執る、専務の土屋哲雄氏の「しない経営」だ。社員には頑張らないことを推奨する。ノルマもない。また、幹部が毎日本社に出社することもしない。土屋氏が言う。

 「幹部が会社に行くと、社員に余計な仕事をつくってしまいます。社員が効率的に働いて、100の力で集中できれば、50しか働けない会社の2倍の戦力になります。日本のホワイトカラーの生産性が高まらなくて給料が上がらないのは、ひとえにいろいろやり過ぎているからなんですね。『これは私の仕事ではない』と言えることが大切です」

 まだまだたくさんあるので、土屋氏が下のようにまとめてくれた。

しない経営、何を捨てるかが経営戦略 業態:アパレル、海外出店、高付加価値製品 仕組み:値引き販売、顧客管理、完璧なシステムを作る 志向:厳格な期限管理、部下が説得しにくい上司、頑張る 文化:社内行事、ノルマ・ストレス、幹部が毎日本社に出社

 これら「しない」の根幹にあるのが、たくさんの目標を設定しない、ということだ。

 「優秀な経営者ほど、たくさんの目標を設定してしまいがちです。そしてそれぞれに期限を決めていく。期限を守ろうとするから、目標がこま切れになっていって、生産性が下がっていく。こうした悪循環から抜け出すのです」

 土屋氏が決めたただ1つの目標。それが「客層拡大」で新業態へ向かうことである。

 叔父の土屋嘉雄会長(当時)に誘われ、常務取締役のCIO(最高情報責任者)、情報システム部とロジスティクス担当としてワークマンへやってきた。2012年4月のことだ。

 「ワークマンはいい会社だから、2年間は何もしなくていい」と嘉雄氏に言われ、「気楽な感じだな」と土屋氏は受け取った。

 しかし業界を知れば、作業服市場が飽和する危機感が募ってくる。このままだとまずい。つくったのが2014年の中期業態変革ビジョンである。

2014年中期業態変革ビジョン 1)社員1人当たりの時価総額を上場小売企業で No.1 に 2)新業態の開発 1「客層拡大」で新業態へ向かう 2「データ経営」で新業態を運営する 3)5年で社員年収の100万円のベースアップ

 改革ビジョンを示すというまだ何も始まっていない段階で、「5年で社員年収の100万円のベースアップ」まで明記した。

 「この変革ビジョンは企業文化そのものを変えるつもりで書きました。変革には、どうしても痛みが伴う。経営陣の本気さを示すため、100万円のベースアップを事前に宣言したのです。逆にそこまで大きく変えますよ、という姿勢を示したものでもある」と土屋氏は語る。

「商品開発」ではなく「客層拡大」

 新業態の開発では、「商品開発」ではなく「客層拡大」を明記した。商品を変えずに客層を広げる。これがまさにワークマンからワークマンプラスへの展開だ。

 「これまで言ってこなかったんですけどね、この『しない経営』って、過去の自分の失敗からきた発想なんですよ、実は」

 新卒で入った三井物産、そのグループ会社時代、部下には3分以上の電話を禁じた。30分以上の商談も禁止。ノルマも課した。

 というのも土屋氏、実は、無駄なことが大嫌いなのである。

「しない経営」に隠された、
過去の失敗
前職の定年間近でつくづく思ったこととは

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過去の自分が反面教師

 大学を出て、新卒で三井物産に入った。1988年には三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発してヒットも生んだ。三井物産の経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司の総経理などを経て、2006年から三井情報開発(現三井情報)取締役執行役員となった。

 土屋氏の無駄嫌いは徹底していた。部下に対してだけでなく、自身も地下鉄のホームで1分以上待たないよう、いつも時刻表をカバンに入れて時刻をチェック。道路を横切るときさえ、斜めに渡った。

 無駄をそぎ落とし、きちんと売り上げ貢献は果たした。けれど、自分が納得できる水準ではなかった。三井物産全体から見れば、小さな金額に思えた。

 「定年間近でつくづく思ったんです。何か自分は残せたのかな。これまでのやり方じゃまずいってことなんだ」

 ワークマンでは、過去の自分を反面教師にしていった。しない経営。絞った狙いは客層拡大。実現のため、取った手段がデータ経営だ。

徹底した「データ経営」

 新業態の開発では、これまでの経験や勘を生かせない。ならばデータ活用を徹底し、データに基づいた考察を社員全員で実施する必要があると考えた。もっとも土屋氏が入社した2012年当時は、店舗の在庫データすら整っていなかった。社員のデータ活用研修を始め、データ分析チームを立ち上げた。

 「データ活用研修は、毎月1回のペースで開催しています。私が注文したのは、テストの平均点を90点にすることだけ。社員にストレスなく、自分はデータが得意だと思ってもらいたかった」

草の根ツールが仕事を変える

 研修を受けた社員の中で、解析が得意な人は自分でテーマを見つけ、米マイクロソフトの表計算ソフト「エクセル」のマクロ機能などを使って勝手にツールを開発し始めた。

 店舗の在庫管理で一番重要なのは、売れ筋商品の品ぞろえが十分かどうか。それを、いち早く見える化するため、ある社員が「未導入商品発見ツール」を開発した。店舗番号を入れると、その店舗に売れ筋商品のうち、どれが入っておらず、どのくらいの機会ロスが発生しているかが一覧で出てくるというものだった。それを自動発注システムと連動させる。

 「本社のスーパーバイザーの仕事の半分をやってしまうようなツールをエクセルで作っちゃったんですよ。草の根的な便利なツールを社員がいろいろ作るようになってきました。全員が開発できなくてもいいんです。それを使ってデータ分析できることが重要です」と土屋氏は言う。2021年に導入予定の次期システムでは人工知能(AI)も組み込まれるという。

 そんな考えから、昨今もてはやされるDX(デジタルトランスフォーメーション)について、こんな見方をしている。

 「DXと言ってもDの部分はあまり重要視していません。それよりも大切なのはXの部分。変革していく部分です。その実現のためにDを使いこなす。模倣困難なインフラこそがわれわれの本当の強みなんです」

リアル店舗でABテスト

 データ分析をするにしても、DXのDでは相関関係までしか分からないと土屋氏は言う。

 「社員が現場で売り場をいじって、自分の思い通り売れたとします。エクセルでデータを分析すれば、ある相関関係を見つけることもできるでしょう。しかし、なぜ売れたのか、といった因果関係までは分からない。それを知るには、施策をする店としない店を作って実験するしかないのです。少しずつ実験店舗を広げ、最終的に因果関係が分かれば、マニュアルを書き換え標準化するという流れです。この因果関係を見つけることがビジネスで一番重要です」

 こうしたABテストをリアル店舗で実施しているというから驚かされる。現在稼働中の自動発注システムも約880ある店舗のうち、440店舗にしか入れていない。残り半分は意図して入れていないという。

 ABテストを3年間やったところ、自動発注システムを入れた店舗の方が入れていない店舗より5~6%売り上げが高いと分かった。これを受けて、次期システムは全店に展開する予定だという。

 データ経営は、上司への忖度も排除する。データで判断されるので、上司も自分の考えに固執せず、社員全員で現場の改善点を考えることができる。「意見を変えることができる上司がいい上司なんです。そうでなければデータ経営の上司にはなれません」。

#ワークマン女子の挑戦

 土屋氏はすでに次のチャレンジを始めている。2020年10月16日、新しい業態店舗である「#ワークマン女子」を横浜市の商業施設でオープンした。

 「現在、ワークマン、ワークマンプラスで約880の店舗があります。作業服市場の大きさを勘案すると、この2業態で1100店舗くらいが上限だと想定しています。2000店舗まで目指すとなると残り900店舗は一般顧客向けだけの店を作る必要があるのです。それが『#ワークマン女子』です。これは第二の創業と言えるもので、脱作業服に向かう布石なのです」

 もっともこれまで、男性向け作業服を祖業として40年もやってきた同社が、競争の激しい女性向けアパレルで勝算はあるのだろうか。

 「女性の一般アパレルをやってはダメです。機能性がありアーバンアウトドア風の服を家庭や街で着てもらう。そういうマーケットを作らないといけません。そのために今まで、データ経営を駆使し、準備を整えてきたのです。これまでと同様、実験と失敗を繰り返していきます。何か間違えば、データが教えてくれますよ」。土屋氏はこともなげに言う。

目標を決めてポジションを取る

 このコロナ禍、アパレルや飲食、観光などの業界は厳しい状況に置かれている。そこで頑張っている経営者が変革を起こす発想をしていくには、どうすればいいのだろうか。土屋氏に聞いた。

 「市場におけるポジション取りを考えることが大切です。社員にストレスなく働いてもらうためには、経営層がいいポジションを取ることが必要です。でもそれは1、2年ではできません。まず自社の強みがどこにあるのかを捉え、それをいかに伸ばしていくかを考えるといい。目標を1つ決めて5年、10年やり続ける。するとどこかでブレークスルーがきて、成果が出てくるのではないでしょうか」

杉山 俊幸
インタビュアー
日経BP 総合研究所 主席研究員
杉山 俊幸
日経ビジネス副編集長、日経ビッグデータラボ所長、日経クロストレンド発行人を経て、2020年1月から現職。

※本記事は2020年10月時点の情報に基づいて執筆しています。

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