
小規模企業のクラウド活用は全体として見ればまだあまり進んでいない。逆の見方をすると、クラウド導入による経営改善の余地は大きい。適切なクラウドを選んで情報を共有し、上手に活用することで業務効率化、さらには顧客満足度の向上や売上増につなげることも可能だ。ビジネスの転換期を迎える今、小規模企業はどのようにクラウド活用すべきなのか。豊富なコンサルティング経験を持つにぎわい研究所代表取締役の村上知也氏に、具体的な事例とともにクラウド活用の成功ポイントを聞いた。
――新型コロナウイルスの影響を受けて、小規模の事業者はどのような対応を進めているでしょうか。
ビジネスの様々な場面で、「非対面型にシフトしたい」といった相談が多いですね。「テレワークを導入したい」「オンラインショップを始めたい」「これまで電話とFaxで行っていた受発注をデジタル化したい」といった声が目立ちます。例えば、政府が緊急事態宣言を出した4月、ある花屋さんから「すぐにオンラインショップを立ち上げたい」という相談がありました。聞けば、「5月の母の日までに開設したい」とのこと。何とか間にあって、母の日の売り上げはネット経由が2割に上ったそうです。
――新型コロナウイルスという突発的な出来事で、デジタルへの関心は高まっているようですね。
そう思います。ただし、小規模企業を全体として見ると、ITの活用度は必ずしも高くありません。中小企業庁の「小規模企業白書2018年版」によると、小規模企業において電子メールやワードなどのオフィスソフトの利用度は高い一方、インターネットバンキングやクラウドサービスはあまり利用されていません。特に経営者が高齢になるほど、利用度は低い傾向にあります。クラウドサービスを例にとると、40歳未満の経営者の14.2%が利用しているのに対し、70代以上になると2.9%しか利用していません(同白書第2部第2章P66)。クラウドをはじめ様々なITツールは使いやすく進化しているのですが、経営者の意識はなかなか追いついていないようです。
――逆に、ITによる改善余地は大きいとも言えそうですね。具体的な事例を交えて、小規模企業のIT活用のメリットについてお聞かせください。
Excel管理の見積書が見つからず、間違った料金を提示…。
クラウドでどう解決した?
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先ほど花屋の話をしましたが、オンラインショップにも乗り出すことで、売上増を目指す企業は少なくありません。BtoB向けのオンラインショップをオープンしたマリン用品の製造・卸売業(A社)の事例を紹介しましょう。
A社は全国500店のマリンショップに向け、ダイビングスーツなど様々な用品を提供しています。以前は電話とFaxで注文を受け付けていましたが、これに加えてネットでも商品の卸売りを始めました。マリンショップの店長やスタッフは、サーフィン指導などで外出している時間が長い。そうしたショップの店長からは、「店の外から、スマホでも注文できるようになった」と喜ばれたそうです。
――業界ならではの、想定外の効果をもたらしたわけですね。ほかには、どのような効果がありましたか。
電話やFaxによる注文がWeb経由にかなり移行したので、その分、事務処理の手間がなくなりました。手書きの受注書や請求書が不要になり、自動的に処理されるので効率が向上しました。こうして生み出された時間を使って、A社は顧客向けイベント企画など付加価値の高いサービスを拡充しています。今ではIT化によって蓄積されたデータを活用し、顧客のマリンショップとは競合しない形で、BtoCのオンラインショップ開設も検討しているようです。
――通常、小規模な事業者がクラウド導入を進める際には、どのような分野から手をつけるケースが多いのでしょうか。
業種や業態によって異なります。店舗の場合には、まずお金を扱う分野から仕組みづくりをするよう勧めています。POSレジや会計システムの導入、「〇〇ペイ」などキャッシュレス化、ネットバンキングの利用などです。POSレジや会計システムなどはクラウドサービスが充実しているので、わずかな初期投資でそろえることができます。売り上げなどのデータが蓄積されるので、改善点も見つけやすくなります。これらのクラウドを連携させれば、データの二重入力や入力ミスもなくなり、大きな効率化につながります。
――情報共有という観点でのメリットについて、事例をもとに教えてください。
水道工事を手掛ける、従業員5人ほどの企業(B社)の例を紹介しましょう。B社では、水道関連の工事が1日に何件もあります。「壊れたから来てくれ」といった依頼があり、従来はExcelで見積もりを提示し、受注してから職人さんが現場で修理を行うという流れで仕事を進めていました。なじみの顧客から仕事を受けるケースも多く、その際には、見積もりや工事に際しては過去の情報を参照する必要があります。
こうした情報を、B社はExcelと紙のファイルで管理していました。課題だったのは、数多くのファイルから目的のファイルを見つけるのに時間がかかることです。自分で作ったExcelファイルですら、「あったはずなのに見つからない」ということがよくありました。ましてやほかのスタッフが作ったファイルは見つけられないでしょう。
また、水道工事では、現場を見て見積額を変更することは日常茶飯事です。すると、同じ工事についてバージョンの異なるExcelファイルがいくつも存在することになります。結果として、工事の料金を間違えてしまい、顧客に対して適切な見積もりを示せなかったこともあったようです。
そこで、B社はクラウドの販売管理システムを導入しました。社内ユーザーは3人で、料金は年額数万円。見積もりなどのミスがなくなり、過去の工事の検索も簡単にできるようになりました。さらに見積もりや料金、粗利などを案件ごとに整理し、それを社内で共有することができます。関連する業務は大幅に効率化されました。
――事務処理の効率化だけでなく、売上データの活用が経営力向上にもつながりそうですね。こうしたクラウドの効用は、店舗(拠点)が多くなるほど大きいのでしょうか。
店舗が増えると、経営者の目が行き届きにくくなります。その点でも、多店舗化するほどクラウドのメリットは大きいといえるでしょう。社内SNSなどを使って、日報などの形で現場の状況を把握する経営者は少なくありません。クラウドで情報を共有すれば、店舗間で上手な売り方、ノウハウを教え合うことだってできる。同時に、店舗間の競争を促すこともできます。
――クラウドの導入では、どこに注意すればいいですか。
まずは、クラウドの導入目的を明確にすることです。現在の課題は何か、それをどのように改善したいのか。また、誰がどのように使うのか。こうした点を曖昧にしたままでは、「導入したけれど誰も使わない」と後悔することになりかねません。また、導入の時期やスケジュールにも気をつけたい。以前、繁忙期に導入した企業が、「今は忙しいから」といって何カ月も使わずに放置したケースを見たことがあります。
――では、クラウドサービスを選定する上での注意点はどのようなものでしょうか。
第1に操作しやすいこと。担当者が本当に使えるかどうかを事前に試して、確認する必要があります。
第2に、コストとパフォーマンスを吟味すること。“明朗会計”のサービスを選びたいですね。
第3に、お試し期間があるサービスをお勧めします。お試し期間内に実際に使ってみて、自社に適しているかどうかを判断できるからです。
第4にセキュリティです。できれば、ID/パスワードに加えて、別の方法で認証を行う二要素認証に対応しているサービスが望ましいと思います。
――信頼できるクラウド事業者を選ぶという観点ではいかがですか。
まず、先ほどの明朗会計、つまりWebで価格を明示している事業者を選びたいですね。また、デモ依頼にもすぐに対応してくれて、申し込みが簡単な事業者。さらに、導入後のオンラインサポートが充実しているかどうかもチェックポイントです。
「長年の付き合いだから」「知り合いの紹介だから」といった理由で安易に選ぶと、自社にとっては余計な機能が多い高価なサービスを選んでしまう可能性があります。類似サービスを比較しながら、しっかり検討していきたいものですね。
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