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話題のビジネス書 著者に聞く 『入門 起業の科学』田所雅之氏

たった3つの取り組みで新規事業のリスクは減らせる

これまで日本と米国シリコンバレーで5社を起業してきた、田所雅之氏。その経験を生かしてまとめた著書『起業の科学 スタートアップサイエンス』は、2017年の発売以来、ロングセラーとなっています。入門者用にそのエッセンスをまとめた『入門 起業の科学』(2019年)も好評です。その田所氏に、新規事業立ち上げに当たって中小企業が意識すべき点について聞きました。

痛みを理解しなければ失敗する

『起業の科学』は発売以来、Amazon経営書のベストセラーを記録し続けている。『入門 起業の科学』はそのエッセンスをまとめたコンパクト版

――『起業の科学』が新規事業を開発する人たちのバイブルになっています。

 『起業の科学 スタートアップサイエンス』は、そもそもシリコンバレーで起業に苦労した経験をもとに、当時の自分にこんな情報があれば……と思って書いたものです。1つのミスで数千万円を失ってしまう起業の失敗を、私は多数見てきました。

 今までの経験から学んだことは、起業にはフェーズがあり、その中でやるべき鉄則があるということ。それらを集めて体系的に整理したのが、『起業の科学 スタートアップサイエンス』です。起業家だけでなく、企業の新規事業担当者にもよく読まれています。

――中小企業の経営者にも役立つでしょうか?

 もちろん、起業の鉄則は中小企業の新規事業の立ち上げにも役立ちます。デジタル化など市場環境の変化が激しい今、既存事業がいつまでも収益を出せるとは限りません。企業の成長を考えた時に、イノベーション的な新規事業へのチャレンジは欠かせません。

――新規事業の失敗リスクを減らすには、具体的にどうしたらいいのでしょうか?

 新規事業の立ち上げには落とし穴が待っています。ありがちな3つの落とし穴に、「質の低い課題設定」「売れないモノづくり」「組織やミッションの混在」があります。

 まず一つめの「質の低い課題設定」ですが、これは顧客に普段接する中で出てきた一言をヒントに、課題を深掘りしていくこと。顧客は、自らが困っていることを分かりやすく語ってくれるとは限りません。しかし、安易に課題を設定することなく、現場に行き、観察して、課題(痛み)を知れば、見えてくるポイントがあります。

 それを私は、『カスタマー・ペイン・ジャーニー』と呼んでいます。造語ですが、顧客がなぜ、どのような痛みを感じているのかを現場で知り、その中からヒントを見つけるセンスが大事なのです。自ら事業を成長させてきた中小企業の経営者は、大企業の社員以上に、そうした洞察を得るセンスを十分に持っています。

株式会社ユニコーンファーム
代表取締役社長 CEO
田所 雅之 氏

――2つめの「売れないモノづくり」とは、どのような落とし穴でしょうか?

次々と現れる第2、第3の落とし穴、どう避けるのか?
アカレンジャーだけでは新規事業は成功しない!

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つくる前に売れ!?

――2つめの「売れないモノづくり」とは、どのような落とし穴でしょうか?

 簡単に言えば、最初にモノをつくってしまう失敗。多くの企業は、ドリルの穴(適切なニーズ)を見つける前に、ドリルそのものをつくってしまいがちです。先につくるのは、誰もが仕事をしているという充足感を持てるからです。つくった後で誰も使わないことを知り、チームメンバーは面白くなくモチベーションが一気に下がります。これが致命的で、3回繰り返したらプロジェクトは崩壊してしまいます。

――モノをつくらずに、どうすればいいのでしょうか?

 具体化した顧客の痛みに対して、まずはA4で1枚程度の「営業資料」を作りましょう。そして、その資料を実際に顧客に持っていきます。もし顧客が欲しいと言えば、「いくらなら買うか?」と質問してみましょう。その上で「モノづくり」に入っていくのです。

 つまり、新規事業立ち上げの鉄則は「つくる前に売る」です。営業資料であれば、それほどの手間と労力をかけずに作成できます。それを何回も繰り返し、顧客の評価レベルが高まった段階で、モノづくりに踏み出していきます。

 ポイントはお金と時間を使わずに、新規事業開発の「打席」に何回立てるかということです。先にモノをつくってしまうと、打席に立てるのは1年でせいぜい数回。それが営業資料であれば、20~30回は提案できるでしょう。そうして成功確率を高めるのです。

× モノをつくる → 提案 (何回も提案できない)
〇 営業資料を作る → 提案 (何度でも提案できる)

“3階建て”が一番うまくいく

――なるほど、“打席数”を増やせば、ヒットを打てるわけですね。そのためには、会社の体制をどうすればよいでしょうか?

 新規事業を成功させるには、事業や組織の体制にも工夫が必要です。カギは「3階建て」です。

 1階はコアビジネスで、現在の「金のなる木」。担当者は損益(PL)で考える必要があり、そこでのミッションは「もうける」ことです。

 2階は成長途上の新規事業。10年前であればスマホ、今ならキャッシュレス決済などの領域です。ここで必要なのはマーケットシェアを伸ばしていくこと。ミッションは他社に「勝つ」ことです。

 そして3階が、誰も気づいていなかったような「ドリルの穴」を見つける新規事業やイノベーション領域です。ユーザーニーズに対する理解や洞察が必要で、ミッションは「発見」することです。

3階建て組織の考え方(提供:田所雅之氏)

 この3階建ての整理ができていない企業が多い。これが3つめの落とし穴「組織やミッションの混在」です。1階の発想で新規事業を考えると、こんなものはウチでは出せないと言いがちで、打席に立つのはせいぜい年1回です。本当は何回も打席に立たなければいけないのに、1階にいる人だけではその発想にならないのです。

 そこで人材を階ごとに分けましょう。新規事業の洞察を得るためには、打席に立ち続ける人材が重要です。

――1階、2階、3階それぞれに、適切な人材を配置するのですね?

 はい。イノベーション的な新規事業の3階には、ビジョンや強力なリーダーシップを持つ人材が欠かせません。ただ難しいのは、そうしたリーダー型人材だけではうまくいかないこと。大事なのはチームです。3階には、冷静沈着に技術を見極める人や、デザインやコミュニケーションを設計する人が必要ですし、ムードメーカーも欠かせません。弱みを互いに補完しつつ仕事を進めることが大事です。

 ゴレンジャーに例えて言うならば、高いリーダーシップを持つアカレンジャーだけではイノベーションはうまく行きません。冷静沈着なアオレンジャーや、その他のメンバーもいてこそ成功できるのです。

 中小企業でも社員が100人を超えてきたら、人材を3階建てで分けて考えてはどうでしょうか? 社員のミッションはそれぞれ異なっていても、自分の能力を発揮して、会社をより大きくしてくれるでしょう。

――ポイントが見えてきたように思います。忙しい中小経営者には、やるべきことがたくさんありますね。

 今のビジネスは、いかに顧客に選ばれるような製品やサービスを作り出し、関係を継続していくかが重要になっています。中小企業の経営者は新規事業立ち上げのポイントを理解した上で、体制を整え、社員に必要な指示を出せなければなりません。

 難しいように思うかもしれませんが、「顧客の痛みを知る」「つくる前に売る」「3階建て組織にする」という3つの鉄則を押さえておけば、リスクを減らして新規事業を立ち上げられるはずです。

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