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【あの店のブレークスルー】カレーハウスCoCo壱番屋

数々の困難を乗り越えて日本一のカレーチェーンに
創業者・宗次德二氏が語る開業、増店、運営の鉄則

“ココイチ”の愛称で知られる「カレーハウスCoCo壱番屋」は、ライスの量やカレーの辛さを選べる豊富なメニューで知られる日本を代表するカレーハウスだ。1978年に1号店をオープンして以来、全国1481店舗(2020年5月現在)を展開するまでに成長した。飲食業界は、新型コロナウイルスの感染拡大で打撃を受けている。困難を切り抜け、生き残り、成長していくための心得を、創業者の宗次德二氏に聞いた。

「カレーハウスCoCo壱番屋」の創業者、宗次德二氏
(写真提供:宗次德二氏、以下同)

株式会社壱番屋(カレーハウスCoCo壱番屋)特別顧問
宗次 德二(むねつぐ とくじ)
1948年、石川県生まれ。愛知県立小牧高等学校卒業後、八洲開発株式会社、大和ハウス工業に入社。73年に独立し、岩倉沿線土地を開業。74年に喫茶店「バッカス」を開業し、78年には「カレーハウスCoCo壱番屋」を創業した。82年に株式会社として「壱番屋」を法人化し、代表取締役社長に就任。98年に会長、2002年に役員を退任した。03年にはNPO法人「イエロー・エンジェル」を設立し理事長に就任。07年、クラシック音楽専用の「宗次ホール」を名古屋市内にオープンする。

「カレーハウスCoCo壱番屋」のブレークスルーポイント

  • 常識に染まらない
  • 小さな失敗にめげない自信と笑顔
  • 現場と顧客にこだわる

前例、習慣よりも「自分たちならではのやり方」にこだわる

 「カレーハウスCoCo壱番屋」(以下、ココイチ)創業者の宗次德二氏は、2002年に一線を退いた後、経営のすべてを現経営陣に託し、頼もしく“ココイチ”を見守っている。新型コロナウイルスによる外出自粛の影響を大きく受けた2020年6月現在の飲食業界全体について、「かつてないほど危機的な状況」と話す。

 だが、自身もまた、これまでに多くの困難を乗り越え事業を成長させてきた。いかにして危機を乗り越えたのか、話を聞いた。

 ココイチの前身は、1974年に愛知県名古屋市に開店した、17坪の小さな喫茶店「バッカス」だ。「当時、私は25歳でした。知識も経験も信用もない。あるのは若さだけ。すべてがゼロに近い状態から、200万円の現金を元手に金融機関から500万円の融資を受け、700万円の開業資金でスタートしました」と振り返る。

 宗次氏は喫茶店開業の前に不動産仲介業の会社を起業していた。ただ、好不況の波が大きいため、兼業で現金収入を得られる商売をしようと、妻の直美氏をオーナーとした喫茶店を開くことにした。本業はあくまでも不動産業。そう考えていた宗次氏だが、開店初日に人生は180度変わる。「次から次にお客様が来てくれました。これは楽しい。これは天職だと思いました」。初日の成功は物珍しさもあっただろうが、飲食店経営者としての人生がスタートした瞬間だった。ただ、繁盛の裏には宗次氏ならではのしたたかな戦略があった。

宗次氏の人生を変えた「バッカス」の開店

 経験も知識もない飲食業のスタートだったが、宗次夫妻はこの時から決めていたことがある。それは、「他の店とは違う、自分たちならではの経営をする」ことだ。その代表例がモーニングサービスを切る勇断。名古屋周辺ではモーニングサービスでコーヒーを頼むとゆで卵やトースト、サラダなどが無料でついてくるのが一般的だったが、バッカスにはあえて検討すらせず取り入れなかった。

 「モーニングサービスをやらなければ通用しないと周りの誰もが反対しました。でも、安売りやお得さを売りにしたサービスでお客様に喜ばれてもうれしくない。それに、安売りのサービスは、最初は喜ばれても、すぐに当たり前になって飽きられてしまう。それよりも、笑顔と真心で接客し、そのことでお客様に喜んでもらったほうがずっとうれしいと考えたのです

 そこで考えたのが、お客様自身にコーヒーカップを選んでもらう「マイコーヒーカップ」のサービス。こうしたサービスなどが評判になり、バッカスは地元の人々に愛される喫茶店となっていった。

 しかし、これだけでは満足しなかった。翌75年10月には2店目となるカウンター15席だけの「珈琲専門店 浮野亭」をオープン。バッカスの借り入れもまだ返済していないタイミングで、宗次氏はさらに1000万円以上の借金を背負った。

 浮野亭は、開店当初は売り上げが伸びずに苦労した。しかし壁を打ち破ったのはオリジナルメニューの展開だった。高価な器に濃いコーヒーをいれ、その上にホイップクリームをたくさん浮かべたウインナコーヒーだ。安売りでも、他店の受け売りでもないメニューを前面に出したサービスが評判となり、やがて繁盛店となった。

壁を打ち破る鍵は顧客の声に耳を傾ける姿勢

 バッカスと浮野亭が軌道に乗り宗次氏は3店舗目を出すことも考えた。しかし、喫茶店では売り上げに限界がある。現状の喫茶店での多店舗展開は非効率に思えた。そこで思いついたのが、カレーライスの出前販売。妻の直美氏の手作りカレーの出前をバッカスで始めたところ好評だった。それをさらに発展させて、本格的にカレーハウスの開業を決意する。これがココイチ創業につながっていく大きなブレークスルーとなった。

 すぐに店舗探しに取り掛かったが、最初に紹介された店舗は幹線道路から中に入った場所。店の横と裏側は田んぼが広がっていた。ロードサイドに看板を出してお客を集めようとするにはあまり都合のよい立地とは思えない。しかし、他の物件を見ることなくすぐに契約を決めた。

 「一刻も早く始めたいという思いでした。あまりにも行き当たりばったりで無鉄砲だったとは思います。ただ、いまでも振り返って思うのは、開店は、熱意さえあれば見切り発車でもいい。そのかわり、ひとたびスタートしたら、誰にも負けない努力をしなければならないということ。これはその前の喫茶店の経験から重々心に刻んでいました」

 78年1月、ココイチの1号店がオープンした。開店初日、2日目は来客であふれかえる大盛況。しかし、3日目からピタっと客足が止まってしまう。開店から2日間、予想以上のお客様が来たことで、接客が行き届かず、それがお客様からの信頼失墜につながってしまったのだ。

 「一度失った信頼を取り戻すのは容易ではありません。ひどいときは日商7000円という日も。『あのカレー屋はそろそろつぶれるらしい』と、近所の人のうわさ話を耳にすることもありました。この時期、バッカスと浮野亭で働いていた私と妻は閉店後毎日、閑古鳥の鳴く『壱番屋』に足を運んで、わざと外から見える入り口近くのテーブル席に座ってカレーを食べるようにしていました。少しでも繁盛しているように見せて入店を誘う、見せかけだけの作戦まで取ったのです」と苦笑する。

 「答えは必ずお客様が教えてくれます」。それを経験から知っていた宗次氏は、危機を脱するために、さらにこんな努力を積み重ねた。

失敗はムダではない!
宗次氏流の仕事術とは

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 なんと当時の宗次氏に悲壮感はなかったという。「失敗は決してムダではありません。お客様にしかられて気づいたら改善していけばいい。答えは必ずお客様が教えてくれます。どんなに苦しくても、笑顔であふれる明るい店内にして、一度来ていただいた方が、次は友達や家族と来たいと思ってもらえるようなお店にしたい。その一心で、真心を込めた接客に努めました」

常に店舗運営を改善するため、顧客の声をA4版にまとめて毎月全店舗に配布した

 その後、チェーン店化に成功した宗次氏は、顧客の声をまとめた『店舗運営ヒント集』を全店に配布する。創業の原点と顧客の声を大切にすること。これが苦しいときのブレークスルーとなったのだろう。

 顧客の声を素直に受け入れて改善を重ねたココイチ1号店は、接客サービスの向上に努めているうちに、少しずつ客が増えていった。送り出したときのお客様の笑顔、食べ残しのないキレイなお皿。その一つひとつが「このまま頑張れば、きっと大丈夫だ」との自信につながった。

後に1000店を超えるチェーンになるココイチの1号店

 「誰もが夢いっぱいで開店しますが、はじめから順調にいくわけではありません。それでも、お客様を第一に考え、誠実に一生懸命商売をしていれば、少しずつ売り上げは上がっていきます。私も、営業初日からカレーハウスの事業はフランチャイズチェーン(FC)による多店舗展開が可能だと感じていましたが、最初から100店舗、1000店舗などと考えていたわけではありません。『日商6万円、月商150万円を超えたら次の店を出す』ということを最初の目標にしました」。創業時から経営者として拡大意欲を持ち続け、2店目、3店目と積み上げていったわけだ。そして、実際、1号店開店から1年後の79年2月、2号店、3月3号店の出店を果たした。

 こうしたココイチの業績から、カレーハウスで勝負すると覚悟を決めた宗次氏は喫茶店の営業をやめ、ココイチに専念する心積もりも、次の壁を破るためには必要だ。79年12月には4号店とFC本部、自宅を兼ねた3階建ての店舗ビルを建設。FCによる多店舗展開の基盤を整えた。

“映え”よりも大切な「中身」

 その後、ココイチは拡大を続け、宗次氏は2002年に経営の一線から退くまで徹底した現場主義を貫いた。毎朝4時に起きて5時前には出社し、6時から従業員と一緒に店舗周辺の掃除を欠かさず、顧客アンケートを開始してからは毎朝1000通以上に目を通し続けた。「経営者時代、私はただひたすら、現場で朝から晩まで働き続けました。それができたのは経営者としてとても幸せなことでした」と振り返る。

1号店でカレーの盛り付けを従業員(左:浜島俊哉壱番屋現会長)に指導する宗次氏(左から2人目)

 新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けている現在の飲食店の状況を、宗次氏はどのように見ているのだろうか。

 「経営者時代、いろんな経験をした私にとっても、今は非常に大変な状況だと感じます。ただ、経営者は自分の人生だけのために商売をしているわけではありませんから、まずは従業員の雇用を守る努力をしてほしいと思います。1年か2年か、もっと先か分からないけれど、この状況は必ず終わります。やがてくるそのときに力を発揮できるように、今は知恵を蓄えておくときだと思います。言うまでもなく経営は自己責任であると肝に銘じ真の努力が必要です」

 新型コロナウイルス後の飲食店経営ではIT活用の必要性も増す。「私の時代は、店舗にIT機器などはなく、手書き伝票からスタートしました。今はインターネットでの販売やSNSでのPRなど、いろいろな手段があります。うまく活用すればチャンスは広がるでしょう。しかし、一方で、そうした情報と、実際の商品や店舗に落差があれば、お客様はがっかりして、二度と訪問してくれなくなるでしょう。例えばInstagramで写真映えを狙っても実際の商品があまりにも違えば逆効果です。まずは、中身をしっかり整えることが大切なのではないでしょうか」

 誠実に真心を込めたサービスを追求し、本当にお客様に喜んでもらえる商品・店舗をつくる。ココイチの創業・拡大から学ぶこと、それは飲食業の原点を徹底することの重要性だ。

 今は来店客が少ないかもしれない。しかし、だからこそアフターコロナを見据えた戦略を立てるときだ。これまでの顧客の声に耳を傾け、喜んでもらえたものは何だったか、次に打てる手は何か、改善すべきところはないかなど、商品やサービスを見直すきっかけにしたい。そして、経営者である自分が、経営とどのように向き合うべきかという最も大切なポイントを再確認する機会として生かしてはどうだろうか。

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