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コロナ禍で広がる学びの新しいかたち

オンライン教育が「多様な」人と社会を生む

新型コロナウイルス感染拡大に伴い、教師と生徒の対面接触を避けるためにオンライン授業に取り組む教育機関が増えています。初めての取り組みに苦労する教師が多く、手探りも少なくありません。オンライン教育の現状やメリット、その先の社会の展望について、無料のオンライン講座「JMOOC」の理事長である白井克彦氏に話を聞きました。

※本インタビューは、2020年7月14日に行い、その時点までの状況を基にまとめたものです。

一般社団法人日本オープンオンライン教育推進協議会(JMOOC)理事長
早稲田大学 元総長 工学博士
白井克彦(しらい・かつひこ)氏
1939年生まれ。1963年早稲田大学理工学部電気工学科卒、1968年同学大学院理工学研究科博士課程を経て、1973年工学博士を取得。専門分野は知能情報学。2002年から2010年早稲田大学総長。2011年から2017年放送大学学園理事長。2013年、JMOOCの理事長に就任。2016年より早稲田大学名誉顧問となる。

この記事のポイント

  • オンライン授業で見え始めたアクティブラーニングなどのメリット
  • 無料のオンライン講座は受講者が増えた
  • 教育の自由度が上がり、「どこで学んでも関係ない」という多様な社会へ

オンラインの方がアクティブラーニングをしやすい

――大学などで急きょオンライン授業が行われました。スムーズにいったのでしょうか。

 日本オープンオンライン教育推進協議会(JMOOC)に入ってくる情報や私個人が見聞きした話から推察すると、決してスムーズではなかったようです。学校には時間割があり、教室で教師と生徒が対面で授業をするような形式をなるべく崩さずに、オンライン授業を行わなければなりません。そうなると、Web会議ツールを使ったリアルタイムの授業を行う必要があるわけです。しかしそうしたツールに慣れている学校ばかりではありません。そもそもパソコンやWi-Fi環境などが足りない学校や学生も存在します。

 教員のスキル差も大きいです。知識が少ない先生には大学側で研修を行ったり、詳しい先生が教えたりしました。なんとか約1カ月でオンライン授業ができるところまでこぎつけた――、というのが実情だと思います。

――オンライン授業は実際どのように行われているのですか。

 皆さんいろいろ工夫されていますね。例えば、50人ぐらいの学生を相手にWeb会議ツールで授業を行う場合、最初の10~20分は先生が講義を行って、次は学生のディスカッションの時間にします。同時並行でグループ討論ができる機能を持つツールを使って、5グループ程度に分けて討論し、結果をまとめて先生に提出するとか。いわゆる能動的に学習を行うアクティブラーニングの一部が実現できるのです。受動的に授業を聞くだけでなく、オンラインでもアクティブラーニングができることが分かったのは大きな収穫でした。

 教室よりオンラインのほうが授業をやりやすい面も見つかりました。ディスカッションするにも、机も椅子も作り付けの大学の教室だとグループに分かれること自体が難しい。アクティブラーニングとオンライン授業は相性がいい、と報告する教員もいました。

 また、オンライン授業なら、動画、音声、テキスト(チャット)をすべて記録として残せます。ある大学では、学生への指導にこうしたオンライン授業の記録を使う試みも始まろうとしています。これまでの授業ではできなかった、新たな取り組みです。

――オンライン授業に取り組むに当たって、教える側に必要な素養は何でしょうか。

 まず、ツールがいろいろあるから迷いますよね。どのような視点でどのツールを選択すべきか、ITの基本的な知識が必要になります。

 また、従来の対面授業とは異なって、目の前にいない学生たちに気を配り、ツールを駆使して授業を進めなければいけません。オンラインでのやりとりを授業として成立させる、“まとめる力”が必要になってきます。教室で板書して、教科書を読みあげ、生徒がノートを取るといった従来スタイルとは異なり、画面の向こうの学生に対する授業には慣れも必要ですし、学生の反応を見つつ時間内に授業を終える力も欠かせません。

 授業で使う資料は、これまでのプロジェクターからオンライン画面に変わります。スクリーンショットを撮る学生がいるでしょうから、これまで以上に正確性が問われますし、準備に手間と時間がかかるでしょう。

社会人にも便利な
オンライン教育
新入社員研修で利用
されることも

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受講者が増えている日本のオンライン教育

――海外では無料のオンライン教育が広がっています。日本はどうでしょうか。

 2012年にアメリカで、オンライン講座「MOOC(Massive Open Online Courses)」が始まりました。日本では2013年に、その日本版「JMOOC」の活動が開始されました。登録するだけで、誰でも無料で好きな講座を受講できます。これまで合計400講座以上が開講され、延べ受講者は120万人(日本語で公開している講座の受講者数)に達しています。

――どのような人が受講していますか。

 学習意欲の高い社会人が多いですね。オンデマンド形式なので、自分の好きな時間に受講できます。企業の新入社員研修で利用されることもあります。理工系や情報系の学問、統計学や会計学などのほか、デザインやプログラミング、さらには「資産形成」といった個人の生活に役立つ講座まで用意しています。

――コロナ禍でどのような変化がありましたか。

 2020年は19年より受講者が増えました。やはりテレワークをしている人が多く、時間をつくりやすいのでしょうね。それと、学生がオンライン授業になったためにネットで調べ物をしていてJMOOCにたどり着く、というパターンもあるようです。

 Twitterでのつぶやきの影響もありました。4月開講の講座が多いのですが、「面白い講座があるよ」と誰かがつぶやいたことで話題になり、一気にアクセス数が伸びたことがありました。

――そのほか、日本で流行しそうなことはありますか。

 「デジタルバッジ」でしょうか。海外では、オンライン教育で何らかのスキルや能力を習得した場合、それをオンライン上で証明する「デジタルバッジ」という仕組みがあります。世界共通のフォーマットとして日本でもこれから普及してくると思います。紙の証書などと違って偽造できないし、自分の能力を詳しくアピールできます。

オンラインで変わる教育の未来

――社会人の利用が進みつつあるとのお話ですが、オンライン教育でもたらされる未来像をお聞かせください。

 これまでならば、教育には教室や講堂など物理的に広いスペースが必要でした。オンラインならばどんな形でもできます。だから、学びたい人はいつでもどこでも勉強できるようになるわけです。

 オンライン教育が一般的になってきて、企業でもうまい使い方ができるようになってきたら、働き方改革にも結びついていくと思います。

 そうすると、人が家にいる時間も長くなり、地域社会との結びつきを深めることもできます。これまでの“会社人間”から“社会人間”になって、自分のことを考える時間、ゆとりができてくるのではないでしょうか。

 オンライン教育は、知識を得るとか単位を取るとかだけではなく、文化的なものとか、地域社会などと結びついてほしいと私は思っています。

――オンライン教育の浸透が人や社会の在り方にも影響を与えるのですね。

 はい。オンライン教育は、効率よく仕事をしたり、知識を習得したりということに大きく寄与する、これは非常に重要なことです。だけどそれだけではなくて、それぞれの人が“生きる”という部分にウエートをおいた利用法が自然に出てくる。そう期待しているんですよ。

 社会全体にオンライン教育が浸透していくと同時に、新しい社会構造に影響していく。そういうシステムとして成長することが望ましいと思うのです。そのときにしがらみのないJMOOCのような組織が母体の1つになり得るのではないでしょうか。

 学歴の自由度も高くなると思います。今は「○○大学を卒業した」ということが大きなステータスとされていますが、「どこで学んでも関係ない」という未来になっていく。○○大学というくくりじゃなく、学びたいものがあればどの大学でも(あるいは大学じゃなくても)、どの講座でも自由に学べる、早晩そうなると思いますね。

 一言で言うと「多様化」なんです。場所や時間や内容だけじゃない、教師も学ぶ仲間も、全部自由に選べる、そしてそこから人とは違った自分だけの強みや好きなことを見つける。多様化する個人、そしてそれが生かされる社会――。個人も社会も豊かになっていくのではないでしょうか。

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